第31話 俺は自己肯定感が1ミリ上がった
「この勝負、同時に両者の木剣が当たったことにより、引き分けとする!」
リーファの審判で、俺とブルーは木剣を同時に引っ込める。
ブルーも俺もあの一瞬で息を切らしていた。へっ、引き分けたけどあいつのお得意のポーカーフェイスははがしてやったぜ。それだけでも収穫だ……とはいえ、ここまで緊迫した状況は初めてで、どっと疲れが襲ってきた。そのまま地面にへたり込む。その瞬間、緊張からの安心からなのか、木剣で肩を叩かれた痛みが、急に襲ってきた。
痛いが、まあ前世でヒョロガリの身体をいじめられていた時よりはマシに感じる。この体は前世より明らかに丈夫だからな。
リーファは満足したのか、1人でうなずきながら、笑顔でこちらへやってきた。ご満悦のようで。
「お前たち、本当に13歳なのか?私も目で追うのがやっとだったぞ。羨ましいな、全く」
そう言った後、リーファは俺たちに小さな声で耳打ちしてきた。
「面白いものを見せてもらったから、お前たちの試験に加点しといてやるぞ。内密にな」
おっとそれはまずい。俺は速攻で拒否する。
「やめてください」
「は?なぜだ」
「あ、いや、平凡を装うために点数調整したいんです。余計なことはしないでください」
「は?なんなんだお前は。人の目など気にせずもっと気楽に生きればいいのにな」
うるせえ。お前には分からねえだろ。俺の前世の苦痛を、この気持ちを、人の目がどれだけ怖いかを知らない。だからそんなことが言える。俺だって気楽に生きたいさ。逆にリーファは本当に自由って感じで羨ましい。
ふと、隣でうつむいていたブルーが視界に入った。ブルーは強かったな。結局、俺はブルーに攻撃を当てることはできなかった。最後はただの相打ちだったしな。
ただ、分かったこともある。やはり水流型にはフェイントが有効なようで、ブルーの意表を突くことができた。まあ人間だし、予想外のことには対応できないのは誰でも同じってことだ。
父さんの言う通り、水流型の剣士は本当に厄介だ。反射神経の特訓も欠かさないようだし。
にしてもこいつ、ずっとうつむいて、小さくぶつぶつと何かをつぶやいている。お経でも唱えてんの?ただ、何を言っていたかはわからないが、最後に「まだまだだな」という言葉は何となく聞きとれた。なんて向上心だよこいつは。真面目君め。
まあ、その向上心やモチベは俺にはないものだから、少し羨ましい。こういう才能あるやつの努力に関しては否定しない。才能もないのにただひたすら努力するやつを見るのはやはり理解に苦しむけどな。
でも、なぜこいつはそんなに頑張るのだろうか。
なんて疑問に思ってると、ブルーは顔を見上げた後、スッと立ち上がった。そして俺を見下ろし、一瞬だけキッと睨まれた気がした。そのまま何も言わず、歩いて校舎のほうへ向かっていった。
……え、俺、なんかした?嫌われちゃった?やばいやばい、また俺は嫌われたんだ。これは数週間はもやり続けるやつだ。コミュ障はどうしても人の反応に敏感になってしまうからな……。まあ別に、ブルーは関わりたくないリストに入れていたしからいいけど。
俺はズボンのケツについた土埃をパンパンと払いながら、立ち上がる。俺が立ち上がったのを見計らって、ユリアが俺のもとに駆け寄ってきた。
「やっぱり、チー君はすごいよ……。本当に私と同じ13歳なの?そもそも、そのチー君と渡り合ったブルー君もおかしいけど」
「別に」
「う、なんで褒めたのに不機嫌そうになるのさ」
「いや、その、ユリアのお世辞も聞き飽きたし」
「お世辞なんかじゃない。もうすでにAランクくらいの強さだと思う」
Aランク。俺もまだ詳しく知らないが、冒険者のランクの事だ。Aランクはほぼ上級者のレベルだ。
ユリアが言うには、俺はすでにその域に達しているという。そんなわけあるか。適当に言っているだろうから、すぐにボロを出すだろうと思い、俺は質問をした。
「じゃあ、えと、実際にAランクの冒険者を見たことあるんすか?」
さあ、お世辞いうために適当に言ったんなら、いつもの顎に手を当てる癖が出るはず。だが、ユリアは即答した。
「メイドはAランクだよ?」
「え、まじすか」
あのメイドって実は強かったのか。いや、まあ何となくあのメイドに逆らってはいけないという謎の威圧感は感じていたが……。
「俺はそのメイドと、同等だと?」
「うん。だから嘘はついてないしお世辞なんかじゃない。私思ったんだ。あんな強さ、才能だけでたどり着かない。チー君は、努力を否定する割に、夜も一人で剣のトレーニングしたりとかしてるんでしょ?」
ぐっ!?なんでそれを知ってる……なんかどこへ行ってもユリアに監視されているような気がして怖い。おい、ストーカーじゃないよな?
でも、別に知られたところで焦ることは無い。俺はユリアに淡々と言い返した。
「あれは、前も言ったが趣味でやってるし、単純に体を訛らせたくないだけです。この世界は死が身近だから、少しでもサボれば、死に近づきます」
しかし、ユリアはニタァと笑みを浮かべた
「ふ~ん、趣味であんなに強くなるんだ……?」
こいつ……そんなに俺が努力していると認めさせたいのか?まあいい、勝手にしろ。ユリアにはどう思われてもどうでもいい。
本当の成功者ってのは、努力を努力と思っていないと言うしな。ただ楽しいから続けてた、みたいな。俺もそれに近いものだ。成功体験を積めば、誰だって何事も楽しいからな。
すると、からかい半分のユリアは急に思い出したように、俺に疑問を呟く。
「そういえば、さっきチー君”この世界”って言ったけど、ほかの世界は平和ってこと?」
まずい、失言だった。俺があたかも前世を生きていたかのような発言だったか?
「あ、いや、この国の間違いです。ほら、神声教団とか多いですし」
「そういうことね」
ユリアは納得してくれた?
ここで話が終わったと思って、俺はそのまま寮へ帰ろうとしたら、ユリアは「待って!」と叫んで、俺を呼びとめる。ユリアはそのままサイドの三つ編みをいじりながら、少し視線を逸らして言った。
「その……チー君、かっこよかった……よ?」
そのままユリアは俺を上目遣いで見つめて来た。
ぐはあ!可愛すぎる!な、なんだろう、美少女からのかっこよかったよ、は冗談だとしても心にグサグサ刺さってくる!可愛い!ユリアと目を合わせられない!元から合わせたことほとんどないけど!
しかしユリアはすぐに笑顔に戻して、俺の目の前にひょこっと出てくる。
「で、どう?これで少しは自信が持てた?」
「いいえ」
「まんざらでもないくせに~。あ、かっこよかったのは本当だから。もっと自信もって!チー君の自己肯定感を上げないとね!」
俺の自己肯定感上げても何も出ねえぞ。
「あ、そういえば、ブルー君って剣聖の息子らしいよ?そんな人と互角の戦いをしたんだから、チー君ほんとすごいよ」
まじか。ブルーって剣聖の息子だったのか。どおりであの異常な強さだったわけだ。
確かに自信はついた。それでも俺より強い人なんて何万といるはずだ。俺はまだ学生だし、プロの世界を直接は見たことないし。でも、ユリアにはひとまず「自信がついた」って言っておこう。
「まあ、多少は自信つきました。1ミリくらいは」
「その最後の一言が無ければ綺麗に終わったんだけどな……でもよかった。一歩前進だね?」
そうは言っても、どうしても、前世の癖で自分がどう思われているとか考えて内気になってしまったり、どうせ何やっても無駄だとか思ったり、自分の顔がいまだにチー牛のままだと思い込んでいる節がある。
まだポジティブ思考には程遠いよな。まあ、でも前世より、この世界の方が楽しいし自信もついた、とは思う。
父さんやユリアのおかげ、いや、どちらかというとイケメンのおかげか?
前世の様ないじめもないし性格悪い奴も見かけない。このままどんどん自信ついていけばいいんだ。
あれ?そういえば、最近ちょっと距離を感じていたユリアは、いつも通りの笑顔に戻っている気がした。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
ユリアのイメージキャラデザインと設定について、活動報告で公開してますので、もし興味あれば、活動報告覗いてみてください。(※イラストがありますので、イメージを固定したくない方はご注意ください)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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