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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第1章 転生編

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第3話 初めての人との出会いは最悪だった

 俺は8歳になった。


 学園に行きたくない俺は、魔法だけでなく「剣」も覚えることにした。 理由はかっこよさそうだからという好奇心。悪いか。


 魔法だけだと詠唱の隙をつかれて死ぬやろ。俺の危機管理能力は完璧だ。


 5歳の頃に、バカみたいに緊張しながら、父さんに頼み込んで始まった剣の稽古は地獄だった。


 走り込み、筋トレ、素振り。前世の俺なら、だるすぎて3日で逃げ出していたメニューだ。だが、スパルタっぽい見た目のくせに父さんは意外にも優しくて、3年間もメンタルを保てたのだ。


 その結果――俺の身体能力はバグった。日課の筋トレはもうすでに慣れたし、最初は恐怖で足がすくんでいたけど、 軽く地面を蹴っただけで2回転もバク転ができた。


 前世はクソだったのに、こんなに上手く行くと嬉しくて胸が高鳴るわ。言葉にできないような、今までにないような感覚だ。教え方も上手いしな。


 さすが剣聖と大魔法師のハイブリッド遺伝子。SSRボディ、万歳だ。……まあ、中身はビビリのチー牛のままだけどな。


 ある日、今日も稽古を終えて休んでいると、俺の平穏を破る来客が現れた。



 ------



 俺は家の前の段差で楽にして座っていた。疲れた汗の流れる体に心地よい風が吹く。稽古の後のそよ風が気持ちいいのだ。風でなびく髪、整った顔── 自分でも思うけど、まだガキなのにイケメンすぎる。


 ……俺が女だったら惚れちまうぜ。


 でもやはり、前世のあの気持ち悪い顔を度々思い出してフラッシュバックする。


 イケメンになったのに、俺の心は何も変わってない。休み中、遠くで人が通るたびに俺はうつむいて目を反らしてしまう。


 俺はどう思われてるんだろう。何だこの陰キャ、なんて思われてるんだろう。


 イケメンに生まれ変わりたいと願い、実際イケメンになれば自信が持てるなんて思っていた。だが、これは記憶がないままイケメンに生まれ変わればの話だ。


 前世の散々な記憶やトラウマを持ったままだから、イケメン陰キャが完成する。自信が無さそうなイケメンは、チー牛ほどではないが関わりにくい。第一印象で友人ができても話は弾まない。


 はあ……こんなんじゃ彼女はおろか、友達すらできないだろうなあ。


 と、俯いて悲しみに浸っていると、隣で休んでいた父さんが何かを感じ取ったのか立ち上がる。


 俺は父さんの視線の方向を見る。そこには、メイド姿の女性と、俺と同じくらいの歳の、白いワンピースを着た金髪少女が立っていた。


 か、可愛い。髪の長さは丸いショートで、片方サイドは三つ編みにまとめている。風でふわっと揺れる金色。目は外人のような碧眼だ。不安そうな表情で指先で髪をいじっている。多分、人見知りなのだろうか。


 あ、目が合った。


 って、なんで逸らすんだよ俺。いや、あっちも逸らしてたけど!全体的に清楚というか貴族っぽいというか……そんな感じだ。


 メイド服の女性の印象は、眼鏡の無表情で、何を考えているか分からないような感じだ(俺が言うな)。少し青みがかった長い髪を後ろで縛っている。まっすぐとした姿勢でなんだか真面目そうな雰囲気だ。俺たちに軽く会釈をすると、静かに口を開いた。


 その声音は、礼儀正しくも、どこか芯のある響きだった。


「あなたが、剣聖様ですね」


 父さんは村では初めての顔なのか、少し警戒しながら一歩前に出る。


「ああ。そうだが……あなた方は?」


 メイドは頭を下げながら、自己紹介を始める。


「ご挨拶が遅れ申し訳ありません。1ヶ月ほど前からこちらの村に越してきました。メイドと申します。そしてこちら、ユリア・メイネルスです」


 ユリアと言われた少女は、軽く頭を下げる。


 ユリア、か。一瞬見た感じの印象では、俺と同じ人見知りっぽい気がする。


「そうですか。でも別に挨拶などいいのですが」


「いえ。この村の代表はあなただとお聞きしたので。今後ともよろしくお願いします」


「そうですか。よろしく、ようこそオンターマ領へ」


「ご歓迎ありがとうございます。それと、是非、その子とユリア様と仲良くしてくれると嬉しいのですが」


「だとよ、チー」


 父さんは俺を見て背中をポンと叩く。


 クソ、このままこいつらと関わらずに空気として存在感消すはずだったのに……。しかも女子だぞ。関わり方次第でこちらが地獄に落ちる。


 ああ、ユリアは可愛いさ。でも、その裏で何を考えているのか分からない。俺をどう思っているのか分からない。


 俺は気づかれない程度にそっと、後退していく。さすがに父さんにはバレて、頭をわしづかみにされた。そして無理やりユリアの目の前に出された。んだてめえ!?息子いじめて楽しいか!?


 俺は速攻ユリアから目を逸らす。「何見てんだゴラアチー牛の分際で調子に乗るなよ?」ってユリアに言われたら怖いやん。


 すると、ユリアが俺の目の前まで歩いてくる。俺は不安で心臓がバクバクする。頭が真っ白になりそうだ。両親以外の他人としゃべるなんて何十年ぶりになるだろう。


 ユリアは俺を見て、不安げに口を開く。


「あの……あなたの名前、聞いてもいい?」


 俺は目を合わせることもできず、顔がだんだん熱くなる。畜生、声も可愛い。美少女耐性皆無かよ。俺は頑張って答えようとするが……


「え?あ、その……な、名前……?」


 どもりまくる俺……。困っている俺の代わりに父さんが「仕方ねえな」とつぶやきながら答える。


「わりいな、ユリアちゃん、だったっけ?こいつ極度の人見知りでさ。できれば仲良くしてやって欲しい。チー、名前くらいは言えるだろ?」


「え、あ、はい。チー、です。チー・オンターマ……す……」


 ユリアは聞き取れたのか、にこっとはにかむ。


「そしたら”チー君”って呼ぶね!」


 は?……君付け!?前世で一度も君付けなんてされたことないのに!?なんかすげえ変な気分。逆に怖えよ。


 ユリアはそのまま笑顔で続ける。


「えっとね、いつも見てたよ?稽古受けてるところ。その、頑張り屋さんなんだね」


 稽古しているところを見られていたのか。お前プライバシーの侵害だぞ。


 てか、別に頑張ってるわけじゃない。ただの生存戦略であり暇つぶしだ。勘違いしないで欲しいところだ。俺はちょっとユリアを睨みつける。


 すると、ユリアは急に不安そうな表情に変わる。そしてメイドに何か囁く。


「ねえ、この人、全然しゃべらないんだけど、私変なこと言ってるのかな」


「いえ、ユリア様は正常です。チー様は極度の人見知りの様なので、仕方ありません。根気よく接してあげてください」


「わ、わかった……この人、ちょっと変な人だね……」


「ユリア様、シッ!剣聖様の息子に失礼です!」


 無駄に耳が良くて、普通に聞こえている。うん。変な人でごめん。




 ------




 メイドとユリアは、俺たちに軽く会釈して、帰っていく。


 ……可愛い子だったな。幼馴染、ってやつか。


 まあ自分でも分かってる。第一印象、完全に終わってた。


 名前すらまともに言えなかったし、目も合わせられなかった。


 なんて答えればよかった?いや応えるも何も名前言うだけだしもっと声くらい出せただろ。でも、俺の声、まだガキ臭くて嫌なんだよ。


 もういいや。……はあ。脳内反省会終了。


 父さんはため息をつく俺を見て、聞いてくる。


「おいチー、ユリアが可愛すぎて言葉出なくなったんだろ?」


 ちげえよ。ただの脳内反省会だわ。


「違います。まあ、可愛いのは否定しませんが」


「正直者だなおい。まあ、お前の人見知りもあの子と接して治ればいいんだが」


 嫌だよ、あの子と話したりしたらいつか社会的に終わるかもしれん。


 あ、いや、でも今世は俺イケメンだから問題ないのか?どの世界も男は慎重に行動しないと社会的に死ぬ世の中だぞ?


 まあどうせ二度と会うつもりもないし、と盛大なフラグを立てて、首をポリポリかきながら家の中に戻っていった。


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