第29話 先生を脅してみた
翌日も俺は学園に行きたくなくて布団にくるまるイベントが発生し、またユリアに無理やり布団を引きはがされる。
その後、死にそうな顔で起きて、ユリアの作った朝食を食べ、学園に向かい、レッドと合流して3人で登校する。
午前は日常知識の座学を受け、昼休みは屋上に3人で集まって昼食を食べ、午後は魔法、剣技の授業を受ける。基本はずっとその繰り返しだった。
あの時のユリアの冷たい態度から、正直不安だったが、多分、いつも通り接してくれている。でも、話しかけてくることや、笑顔は少し減ったような。まあいずれ機嫌は直すだろう。
話は戻るが、もちろん、授業のレベルも多少は上がってきている。だが、まだまだ俺にとっては余裕だ。
前世の記憶を持ち、脳が柔軟な幼少期から大魔法師から魔法を学び、剣聖から剣を学んだのだ。なので目立たないように、加減をするのに必死な毎日だ。
とはいえ、魔法の緻密な出力操作の練習にはなるので、加減の練習で損はしていないはずだ。
剣に関しては正直加減しても何の身にもならない。舐めプの練習か?って感じだわ。筋力もつかんし。なので寮に帰ってから一人で父さんから教わった練習メニューを、誰にも見られない校舎裏でやっていた。
だって恥ずかしいし、せっかく父さんから習った剣の腕がなまるのだけは避けたいからな。生き残るためにな。
ちなみに、剣の練習中にブルーを見かけたことがある。素振りに精神統一をしていたな。あいつも真面目過ぎるよなあ……夜に1人で特訓とは。あ、俺は別に真面目ではない。何度でも言うが、ただの暇つぶしと自己防衛だ。
そんな生活を何か月か続けていたある日、試験の知らせがあった。一つは一般常識の座学テスト、もう一つは水・火・土・風・光の各属性の指定の初級魔法の発動試験と魔法の知識試験、さらにもう一つ剣技は素振りと、一部教えてもらった型の実技、そして剣技の知識試験。つまり、一般常識、魔法、剣技、この3つが行われる。
う~ん、2年からの魔剣士科の試験を受けるには成績優秀じゃないといけないんだっけか。なら試験は真面目にやろう。
あれ、この学園って内申点みたいなのあるんだっけ。試験だけ頑張っても意味ないとかある?俺、落書きとか居眠りしてるから内申点やばそうだが?まあいいや、適当だよ適当。
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時は過ぎ、試験前の剣技の授業中のことだ。俺にとって最悪なことが起きた。
「今日は試験前最後の日だからな。実践訓練を行おうと思う。優秀な奴の1対1を見て、参考にするといい」
担任のリーファが突如、いつもの腕組み仁王立ちで、そんなことを言い放つ。え、実践?なんでいきなり。
「まあ、一度くらいは実践をしてみたいだろうさ。自分の実力も分かるいい機会だ。それに、気になる奴がいてな、そいつらの動きに興味があるんだ。ぜひ最初に見てもらいたい。ブルー、チー、こっちへ来い」
は?俺は一瞬で察した。今までのリーファの視線は気のせいなんかじゃなかった。
俺は見破られていた。本当は剣や魔法ができる事。ブルーのことも見ていたのはやはり剣の腕が高いことを見破っていたから。
それにあのリーファの性格なら、俺とブルーを戦わせてみたいだけのただの興味なのは本当のことだろう。
そんな個人の余興なんかに付き合ってられるか!俺にとっては公開処刑だ!クラスの視線に耐えられるわけない!こうなったらバレないように逃げるしかない!
もう魔剣士とかどうでもいい、内申点とかどうでもいい。視線の公開処刑だけは避けなければ!!!
俺は「チー、こっちへ来い」と言われた瞬間、反射的に猛ダッシュで土煙を巻いて逃げていた。判断にかかった時間、0.5秒。
「はや!?」
ユリアが思わずツッコみを入れる。ほかの生徒たちは俺の速さを目で追えていない。見えていたのはユリアとブルー、リーファのみ。
「あ、あのクソガキ……」
リーファは顔に青筋を浮かべて顔を引きつらせていた。
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俺はグラウンドの小屋に猛ダッシュして、その裏に隠れる。俺の心臓はバクバクして鳴りやまない。なんせ、授業放棄して逃げたんだから。うっひょ、俺不良じゃん……嬉しさと恐怖が入り混じって複雑だわ。
でも、逃げたからには、おとなしく捕まるわけにもいかない。今は小屋の裏にいるから、クラスメイトに見られずに済む。だから実力を隠す必要もない。問題は、ガキの俺が大の大人の先生にどれだけ対抗できるかは分からんが。
それでも俺は、必死に抵抗するぞ。こういう時のためのプランは考えている。
俺は杖を隠し持ちつつ、片手で木剣をすぐに振れるように構えておく。そして、すぐにリーファの気配を感じた。深呼吸をして一旦落ち着く。勝てるか?クソ、緊張するといつも手が震えてしまう。でも、俺の公開処刑がかかってるんだ。ヨシ。
俺は決意した瞬間、俺は小屋の裏から飛び出し、木剣をリーファの肩目掛けて振った。しかし、リーファもさすがの反応速度だ。すぐに俺の木剣を剣で受け止める。まあ、受け止められる前提で振ったのだが。ここまでは想定済み……それでも緊張してしまう。
リーファは顔色を一切変えず、クールに言い放つ。
「やはり、お前は実力を隠していたようだな」
「え、あ、いや、その……どうしてもバレてはいけない事情があるので……」
別に無いが。ただ恥ずかしいだけだが。
「そうか。だが、教師に反抗するのは良くないな。私がプロでなければ、受け止められずにやられていた所だ。さて、どうする。戻ってブルーと模擬戦をするのなら、生徒に手荒な真似はしなくて済むのだが」
……どうやら、気づいていないようだ。リーファはのんきにしゃべっている。俺は皮肉っぽくリーファに言ってやった。
「え、でも、先生の足、大丈夫っすか?」
「なに?どういうこと……な!?」
リーファは自分の右足を見て、驚愕していた。なぜなら、俺は左手で杖を持って事前に詠唱し、リーファの気配を感じた時点ですでに右足を氷漬けにしていた。足元がガラ空きだぜってか?
俺はそのまま木剣でリーファの右手を叩き、リーファの持っていた剣を飛ばす。そしてあらかじめ生成しておいた氷の短剣を持ってリーファの首筋にスレスレで突き付ける。あ、ギリギリで刃先が当たらないくらいでね。
俺の妄想力りょ……イメージトレーニングが勝った~~~!作戦勝ちや、俺は嬉しさで口元が緩まりそうになるが、必死にこらえる。まあ、俺が生徒だからリーファは手加減してただけだろうけどな。
リーファは俺を横目でギロっと睨みつけながら、嫉妬の言葉を吐いた。
「はん、羨ましいな、その恐ろしいほどの剣と魔法の才能。私にも欲しいところだ」
……まあ、普通は謙遜するところだが、俺は事実を口にする。
「え、いや、そりゃ当たり前じゃないすか。遺伝子や環境なんて人それぞれ違うんですから。えっと、俺の親は剣聖と大魔法師ですよ?その二人に鍛えられれば強くて当然です。人それぞれ、才能や環境の違いが無ければ、人はみんな最強になってますよ」
「……はん、いつもおどおどしてるくせに、堂々と才能を肯定するとはな。お前がよくわからん」
リーファはそれを聞いて、目を見開いた後、眉をひそめ、呆れているようにも見えた。気持ちいいな、今世は才能と環境、強運のおかげで、強者の気分を味わえる。
成功ってのはこんなに気持ちの良いものなんだな。前世では絶対味わえない感覚だ。
だからこそ、そこら辺の人のように、努力だけで勝ち取ったなどと勘違いだけは絶対しない。
何の成果も得られなかった前世だったのに、今世は恵まれただけで、教師を圧倒できるほどになった。これが才能や環境じゃなくて何だというんだ。努力など碌にしないで、強さを手に入れられる。かっこいいじゃないか。
まあ今はそれは良い。とりあえずそのまま氷の短剣を突き立てながら頼んでみる。てかなんなんだよ生徒が先生の首に短剣突き立ててるこの状況。
「お願いします。まじで模擬戦は勘弁してください」
「は?……分かった。だが、なぜか聞こうか。理由くらいは教えろ」
「え、そりゃ、恥ずかしいからです」
「そうか。……は?」
「公開処刑ですよ、クラスメイトの前で模擬戦をガン見されるとか。恥ずかしすぎます。みんなの前で恥かけって言うんですか?生徒を公開処刑するような授業のやり方はどうかと思います。教育委員会に訴えますよ?俺は目立たないように普通でいたいだけなのに。先生は陰キャの気持ちがわかりますか?」
「急に早口になってなんだお前」
リーファは本気でしょんぼりしている。……戦いは怖くて好きじゃないけど、誰もいないところでなら、やってもいいか。俺は提案をしてみる。
「はあ、そんなにブルーとの模擬戦が興味あるなら、クラスメイトのいない放課後になら、別にやってもいいですが……」
すると、つまらなそうな表情をしていたリーファの目がぱあっと光り輝いたように見えた。分かりやす。
「おお、そうか!それならぜひ見せてもらいたいものだ。頼むぞ」
「え、あ、はい」
俺はとりあえずリーファの拘束を解く。
はあ、どうなるかと思った。爆速で鼓動を刻んでいた心臓は、事が終わった瞬間すぐに落ち着きを取り戻していく。はあ、疲れた。とりあえずクラスメイトの前で公開処刑になるのは回避できた。
「戻るぞ。放課後、忘れるなよ?」
「あ、はい」
なんかリーファの機嫌が良くなった気が……。とりあえず俺はリーファに付いていった。




