第23話 俺は人の心が読めない
しばらくして、グラウンドのような広い場所に着いた。足元は固く踏み固められた土の地面で、冷たい冬の風がほんの少し頬を撫でていく。恐らく学園の裏側だろうか。今は一応冬だけど、雪は降らないから、年中景色はほぼ変わらないかもしれないな。
ある程度クラスごとに整列していく。辺りはずっとざわざわしていたが、壇上にある男が登壇した途端、急に空気がピリついたように静かになる。
「あ、あれが、学園長?」
「うっわ、こええ⋯⋯」
「めっちゃ強そうじゃね?」
「貫禄すげえ」
登壇したのは学園長のようだ。再び周りがざわざわとし始める。
背中には自分と同じくらいの大きさはあるだろう大剣を背負っており、大男と呼べるほどの体格で、オールバックの白髪を持つ。顔は多少老けているが、片眼には斬られたような傷跡が刻まれていてなんというか、貫禄がある。鍛え上げられた筋肉のおかげか若々しく見える。
あれが、学園の頂点?学園長が話し始める。
「新入生諸君、入学おめでとう。まずは心からの祝福を。私はシン。私の話は退屈だろうから、多くは語らん。ここで学ぶ基礎、剣術、魔法は人生の役に立つだろう。最近は神声教団とかいう集団も活発になり、物騒だ。ここでお前たちは学び、そして強くなれ。自分の身を守るのはいつだって自分だ。以上」
あれ?終わった。学園長って話長くなるのが鉄板じゃなかったのか?強くなれってのはまあ異世界らしい言葉だよな。
その後はまあ各教師の話があって、結構早めに終わった。むしろ学園長よりほかの教師の話のほうが長かった。
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入学式が終了後、再び全員教室に戻った。席は自由なので、また適当な廊下側の隅っこに座る。もちろん後ろの方だ。ユリアも隣に座ってくる。
リーファは教卓の椅子に足を組んで座り、背もたれに寄りかかり腕も組みながら楽そうな姿勢で話し始めた。ちょっと態度悪くて好き。
「さて。明日から本格的に授業に入っていく。1年のうちは基礎的な座学知識、基礎的な剣術や初級魔法の習得を必須で取得していく。
まだ先の話だが、2年からは剣技科、魔法科にクラス分けされる。この1年でどちらに進むべきかは決めておけ。
あとなんだっけ、そのだな。思い出した。シン学園長も言っていたが、最近神声教団の話題で持ちきりだ。自分の身を守るためにも、この学園で強くなる術をよく学んでおけ。
明日からは私が授業を1年担当することになる。あとは、えっと……特に提出物もないし、以上。解散だ。帰れ。私も帰る」
リーファは立ち上がり、そのまま速足ですぐに教室を出ていった。はっや……。
今聞いたリーファの話を整理すると、1年はこの世界の基本知識、剣術、魔法をすべて学ぶため、クラスで行動することが多いようだ。
2年から大学のように学びたい専門分野で自由に授業を受けられるっぽいな。ちなみに、剣技科では剣のほかにも短剣、大剣、弓、槍などの細かい分野まで分かれるようだ。
まあ俺は無難に剣を学ぼうか。
地獄の学園初日も何とか終わったことだし、バッグを背負って帰る準備をしていると、ユリアがにこにこしながら話しかけてきた。
「明日から、楽しみだね」
「んなわけないじゃないですか。公開処刑っすよ」
「公開処刑?なんで?」
「俺の恥がクラスに晒される」
「え、それ本気で言ってるの?ネタで言ってるの?なんでチー君はこんなにすごいのに自信が無いのかな……」
「それってあなたの感想ですよね?」
「え?そりゃ、そうだけど」
「ほかの人から見たらさ、俺なんて顔が良いだけで、声小さくて、根暗陰キャで何も話せなくて、詰まんない奴で、誰の役にも立たない社会のゴミ同然の脳みそミジンコ以下の――」
「ストーーーップ!これ以上は言わない!なんでそんなに自分の悪口がでてくるの!?あと全然そんなことないから!」
「ユリア声大きくて目立つんで静かにしてほしいです」
「ねえ辛辣すぎない?」
はあ。ユリアはそうやってお世辞を言ってくれるけど、不安で仕方ない。
前世でいじめられれば今世もいじめられるものだ。知らんけど。だって、根はチー牛のままの根暗陰キャなんだから。
「こいつつまんな」「こえちっさ」「顔だけかよ」と言われるのは目に見えている。
人間は本音と建て前を使い分ける。口では褒めても、心の中ではどう思っているかは本人にしか分からない。当たり前だ、悪口を言えば関係が壊れる可能性もあるし、本音を言うというのは嫌われる勇気も必要。
さらに思ったことをそのまま口にするのは、自分が悪く見えてしまうため、自分の保身のためにも、人間ってのは本音は言わない。前世で、笑顔の裏で俺を馬鹿にしてたやつら、いっぱいいたからな……。
だからこそ、俺は人を信じられない。まだ直接いじめてきた不良どものほうがマシ……いや訂正。そいつらもクズだ。
はあ……しんど。ユリアは俯いてる俺を一瞬見て、「むぐ~」と唸りながら先に教室を出ていく。俺は二人分くらいの距離を開けて、とぼとぼとユリアに付いていき、寮へと戻っていった。
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初日の学園の一日が終わり、ユリアと寮の部屋に戻る。
ユリアは今日も俺の部屋で楽しそうに鼻歌を歌いながら夕食を作っている。ユリアは気楽でいいよな。俺は明日からの学園が不安でしかたなくて、ベッドに横になる。
今日もユリアにネガティブなことばかり言った。正直自分のこういう性格は気にしてはいる。自分でもうざいとは思ってる。
でも、どうしても治したいとは思っても、行動には移せない。ユリアに心の中では嫌われているんじゃないかって言う不安にも駆られる。
女子に限らずこういうネガティブで行動もせず、努力もしない奴は嫌われやすいんじゃないか?
ユリアは初めての、こちらの世界での友達だ。他人に嫌われるのは良いけど、さすがに友達に嫌われるのは嫌だ。
こうやって考えるたびに、不安に駆られて息がつまりそうになる。俺は無意識に前髪を手でぐしゃぐしゃかきあげて悩んでいた。そもそも本当に俺を友達と思っているのかすら怪しく感じてきた。あくまで俺はユリアの騎士でしかない。
「どうしたの?まだ学園が不安?」
ユリアが料理を終えて、テーブルに皿や料理などを置きながら横目で聞いてくる。俺はちらっと横目でユリアを見るが、未だに、ユリアと目を合わせられない。
前世からそうだが、目を合わせることができない。
理由は二つ。あくまできっかけに過ぎないが、一度だけ、ガラの悪そうなやつと目が合っただけで絡まれたこともあった。ほんと疑問なんだけど、なんで目が合っただけで絡んでくるん?ただ俺が弱そうだから絡みたいだけだろクソが。
それ以降、街中歩く時でも目を合わせないようにしてたな。ただまっすぐ、虚無を見つめて歩いていたわ。
もちろん、だれかと話す時も目は合わせない。視線そのものが怖いし、自分の容姿がコンプレックスなのもあってみるのも見られるのも嫌になる。
まあ、ユリアと目を合わせられない理由はもう一つあって、それは女子だからだ。女子と話す時、どこを見ろってんだよ。
人と話す時って直接目を見なくてもいい、顔の下あたり、胸のあたりでもいい、って聞いたことあるが、女子の胸見ろってのか?こいつ下心丸出しだって思われるだろ。
当たり前だが、もしチー牛が目を合わせれば確実に不審者扱いだ。難しい問題だよ、ほんと。
「あのさ、何かあったら教えてよ?」
ユリアがかがんで、俺の顔を覗き込んできた。俺は咄嗟に目を逸らした。こいつ顔可愛いのもうざいんだよな。直視できねえって。
それにしても、なんで俺を友達に選んだのだろう。
初めて出会った時、俺のほかにも、村に子供はいたはず。ユリアと同じ女子も複数いた。そのなかでも、なぜ、俺を選んだのか。顔か。ああそうだった、今の俺はイケメンだったな。
……どうしても気になる。なぜこんな性格の俺とわざわざ関わってきたのか。そもそも、俺の性格についてどう思っているか。
どうせ聞いたところで嘘をつかれるかもしれないが、聞くだけ聞いてみるか。
「ユリア」
「なに?」
「えっと……その、俺の事、どう思ってます?」




