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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第5章 ギルド編

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第213話 憂さ晴らし

 



 ついに受付嬢はマーケンとグルだったことを白状した。


 何となく察してはいたが。にしても強引なやり方だなあ、チハルさん。


 マーケンの表情はだんだん険しくなっていく。マーケンたち虚無の宴メンバーへの視線も冷たくなっていく。勝利は目前か。


 しかし、それでもマーケンは諦めない。


「じゃあ、俺たちがその連れてきたやつらの妨害をしたとしても、無名メンバーへの妨害をした証拠はあるんすかね?」


「まあまあそう焦るなって。ほら、来たぞ」


 チハルはそのまま玄関のほうを見る。するといち早く反応したのはユイだった。


「え、お母様???」


 ユイの母がギルドへ入ってくる……すまん、あんま顔覚えてねえわ。ユイの元々の姿と同じ、金髪で碧眼だ。


 ギルドは一気に静まり返る。そりゃ、女王が来たのだから無理もない。


 チハルはユイの母に気やすく話しかける。


「で、どうだった」


「はい。チハル様。昨日、無名パーティが行った森の魔素の痕跡を見ましたが、虚無の宴パーティのマーケンとアーチの者と一致しました。それに、これが落ちていました」


 女王がチハルに渡したのは、1本の矢だった。珍しい形状で、先端が刺さると抜けづらくなるように、複数の棘が反り返っている。


 これが地面に刺さっていたようだが。


「へえ。これ、アーチの矢じゃねえの?」


 この矢を持ってチハルはアーチのところへと歩いていく。アーチは後ずさったが、いつの間にか彼の矢筒はチハルの手元にあった。


 アーチはもう言い逃れができないと、諦めた様子だった。チハルはマーケンとアーチの目の前で、真顔で聞く。


「これ、どうやって説明すんの」


『……』


 完全に虚無の宴パーティは黙り込んでしまった。


 沈黙。つまり、何も言えないということだろう。負けを認めるに等しい。


 チハルはそのまま、ギルドにいるみんなに語り掛ける。


「これで分かっただろう。お前らの見ていた虚無の宴パーティはすべて、見せかけの演技だということを。お前らの信じてきたSランクパーティは、ゴミ屑みたいなやつらだったんだよ。


 お前ら、見せかけで人を判断すんじゃねえぞ。ちゃんと真実を確かめろ。自分の目で見ろ。ただの噂で、ただの功績だけで、ブランドだけで判断することは、どれだけの人に迷惑をかけ、傷つけるか。


 虚無の宴パーティはクズだが、こいつらを信じ、勝手に無名パーティを悪と決めつけたのはお前たちだ。無名パーティを崩壊まで追い込んだのはお前たちのせいでもある。それを肝に銘じておけ。お前らも同罪だ。信じてほしいのに、信じてもらえないことが、どれだけつらいか……」


 チハルは説教臭かったのに、途端に思いつめるように声を小さくしていった。チハルはなにか、信じるということでトラウマでもあったかのように。


「いいな?わかったな?さて……」


 チハルはマーケンの方へ振り向き、言い放った。


「お前らのパーティは、今日を持って永久追放だ。そしてグルだった受付嬢、てめえも解雇処分だ」


「……」


「みんな、それでいいよなあ?」


 静かだったギルド内は、チハルの呼びかけで一斉に騒がしくなる。


「そうだそうだ」「こいつらは追放だ」「人の心をもてあそぶなんて最低」「今まで普通に活動していたAランクパーティが可愛そうだ」と次々に文句が出てきた。


 ほんと、都合のいい生き物だよ。人間ってのは。すーぐそうやって意見ころころ変えるんだから。楽しんでみていた奴もいただろうに。


 しかし、その中で、怒りと恥ずかしさ、嫉妬と恨みに燃える者が一人いた。それはマーケンだった。


 マーケンはのろのろと立ち上がり、俺のところへゆっくりと近づいていく。やべ、絡まれる。逃げたいが、あまりの迫力に、固まってしまう。


「……全部てめえのせいだ。てめえはたいして強くもねえ、おどおどしててうざってえ、そのくせ一部ではファンまでできて、お前の才能も地位も全部ぶち壊してやりたかっただけなのに、てめえみたいな奴がSランクなんて認めねえ。ぶっ殺してやる!」


 そのまま、ギルド施設の中だというのに、俺の首を掴み、そのまま壁にガンッ!と押し付けられた。苦しいなあ。まさか急に暴力行使してくるとはな。


 てか、先に手を出すってのは負けと同じだぞ。正当防衛だよな?


「チー君!」


「大丈夫。チー、今までの鬱憤、そいつにぶつけてやれ」


 ユイの心配そうな叫び声、そしてそれを隣で一言添えるチハル。


 ……まあ、俺も今世で初めて人権を侵害されたんだ。黙ってはいられない。イライラするし、合法的な正当防衛だろう。俺だってお前をぶっ殺したいと思っていた。


 ユイを傷つけて、パーティを崩壊寸前まで陥れたお前を、俺の普通の生活を脅かしたお前を、許さない。


 首を掴まれていた俺はそのまま奴の腹に思いっきり膝をめり込ませた。


「がは!?」


 マーケンはその瞬間、俺を掴んでいた手の力を一気に緩め、その間に俺は拘束から逃れる。そのまま、マーケンの襟をひっつかんで引きずって外に出た。


「あ、あはは、チー君、なんか大丈夫そうだね……」


「だろ?」


 ユイの心配そうな表情は、安堵に変わっていた。さあて、マーケンをどうやって痛めつけてやろうか。俺は外まで出ると、マーケンはハッと正気を取り戻し、俺から距離を取る。


「て、てめえ!調子に乗ってんじゃねえぞ!ぜってえぶっ殺す!」


 マーケンの叫びを合図に、タイマンが始まった。


 ------


 ギルド内では、皆が窓からその戦いの様子を見ようとしていた。


「あーあ、マーケンブチギレちゃった。あいつ、キレたら相手が人だろうが容赦ないからな。チーってやつ、死んだな」


 マジークがポツリとつぶやく。しかし、チハルも軽く笑いながら、すぐに言い返した。


「あっは、お前もまだまだだな。チーの実力も見抜けないんじゃ」


「俺はマーケンの本気を見たことがあるが、恐ろしかった。あんな覇気のない奴が勝てるとは思えません」


「それもチーの強みだ」


「……どういうことですか」


「マーケンはチーを舐めてかかってるだろ?本人は無自覚だが、その油断を誘うってのも強さの内かもな」


 ------


 マーケンは怒りに任せてこちらに接近してくる。


 マーケンは剣を抜きながら、俺に向かって薙ぎ払う。俺はそのまま、向こうの建物まで飛び跳ねて躱した。そして建物の壁を足場にしながら走って距離を取る。


「チッ!逃げんな!」


 マーケンは片手で杖を取り出し、速攻詠唱して岩の尖った塊を複数召喚した。それを俺にめがけて撃ってくる。


 それはあかんやろ。俺は高速で壁を走りつつ躱していく。マーケンの撃ってくる岩石は、次々と建物を壊していく。土煙が舞い、瓦礫が下に落ちていく。これ建物に人いたらヤバくね?


 とりあえず俺は隣の建物へと飛び移ったが、マーケンはその軌道を読んで俺の目の前に現れた。


「貰った!死ね!」


 マーケンは目にもとまらぬ速さで剣を薙ぎ払った。俺は身体を後ろに反らし、それを躱す。こいつガチで殺しにきてやがる。


 その薙ぎ払った剣の風圧で、後ろにあった建物はほぼ半壊していた。さすがにSランクパーティのリーダー、実力は本物。


 てか、こいつ、王都に住んでる人のことは何も考えていない。どんどん街中を破壊していく。速めに終わらせる方がいいか?


 俺は身体を逸らしつつ、そのまま奴の顎を狙い、思いっきり蹴り上げる。クリーンヒットして、奴はそのまま真上の上空へ吹き飛ばされる。


 そのまま、魔法銃を取り出し、飛ばされている奴を狙って追撃した。奴に次々と魔法銃が被弾する。


「クソが!」


 マーケンは攻撃を受けつつ、そのまま空中で立て直し、風魔法を詠唱し、そのまま器用に街中を颯爽と飛んでいった。


 魔法の操作が上手いねえ、じゃないと、武空術のように空を自由に飛ぶことなど不可能だ。まあ、俺はそれを無詠唱でできる。


 俺も奴を追いかけた。移動速度では俺の方が上だな。余裕でマーケンに追いつき、首根っこを掴んでそのまま地面へと思いきり叩きつけた。


「おつかれ」


「!?」


 そして、ドーン!と地響きが鳴り響いた。王都の道のど真ん中にクレーターが出来上がる。終わったな。


 周りに住んでいた人たちが異変に気付いていて、ゾロゾロと外に出てきていた。俺はやばいと思い、そのまま首根っこを掴みながら、気絶したマーケンを引きずって急いでギルドへ戻った。





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