第211話 パーティの崩壊
翌日も無名パーティはチー抜きで依頼をこなしていた。
今日は依頼は、Aランク、レベル5のウッドトレントの討伐だ。
最近、北の森ではあたりの木々の生命力が非常に弱っていた。原因はウッドトレントだ。ミドルトレントの上位種で、辺りの木々から魔素と生命力を奪い、成長していく。そのため、体長約8mにも及ぶ巨体だ。
ミドルトレントと同じ、火が弱点のため、サンの上位火魔法をとどめに立ち回る。
「いくぞ!」
クラウドの号令で、ユイは全員にバフを付与し、レッドが速攻トレントに飛び込んでいく。伸縮可能な長く鋭い木の幹を、次々とレッドに向かって飛ばしていく。レッドはすべて見切り、幹の攻撃を足場にしながらトレントに近づいていき、次々と斬っていく。
クラウドはチーがいない分、後衛を特に注意しながら水流型で受け流して戦う。
途中、トレントはリンゴを振り落としてくる。そのリンゴは衝撃が加わると起爆する。そうなる前に、シオリーは風魔法ですべてトレントに跳ね返す。トレントはもろに爆発を受け、ダメージを負っていく。
サンは火魔法の詠唱を続ける。
ここまで順調に見えるが、これまでチーが平然とこなしていた死角からの攻撃への対応を、今は誰もできていない。
クラウドの足元に、地面を潜らせたトレントの幹が迫る。クラウドは、未だ本調子ではないが、何となく地面の違和感に気づいていた。クラウドは地面に意識を向けたその瞬間。どこからか飛んできた弓矢がクラウドの足元の地面に突き刺さる。
「ぐっ!?クソ、誰だ!?」
その矢に気を取られたクラウドは、そのまま地面から飛び出してきた幹の攻撃を食らう。幹の先端は鋭く、槍のようにクラウドの腹に深く刺さった。血が噴き出し、クラウドの視界は一気に赤に染まる。
「お、おい!?クラウド!?クラウドオオオオ!!!」
それに気づいたレッドがすぐにその幹をぶった切り、クラウドを背負って遠くに避難する。
「撤退だ!クラウドが重傷だ!サン!詠唱をやめろ!ユイ!治癒魔法の準備はしておけ!」
「わ、分かった!」
「今行くよ!」
レッドがすぐにその場で判断をし、指示を出す。レッドはクラウドを背負いながら森を駆けていく。ユイとシオリー、サンもそれを追いかけていった。
無名パーティは、初めて依頼に失敗した。
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無名パーティは俺の家に来ていた。ユイはクラウドの治癒をしている。
「ふう、何とか応急処置はできた。一応、今は大丈夫。ただ、クラウド君はしばらく安静にしなきゃダメ」
「すまない、俺の、不注意で……」
クラウドは申し訳なさそうに謝る。
クラウドの負傷――それは、このパーティの柱が折れたに等しい。最近のクラウドは全く本調子じゃなかったし、もしかしたらと思っていたが。
今、非常に空気が重い。誰もあれからしゃべらない。まさかここまで、虚無の宴が俺たちを潰しに来るとはな。
このパーティももう崩壊寸前だ。自称リーダーの俺、そして柱だったクラウドの負傷、そして評価の大幅な下落。こんな状況で、立ち直るなんて無理だ。
しばらくして、ユイが俺に手招きをする。俺はベッドから出てきて、ユイについていく。2人きりになれる庭へと移動する。空は透き通るほど綺麗なのに、心は晴れない。
「チー君。相談があるの」
「はい」
「もう、このパーティ、解散しようと思う」
「あ、え……?」
まさか、ユイからそんな言葉が出るとは思わなかった。いや、ユイも考えた結果だろう。俺もそうなるかもしれないと覚悟はしていた。仕方ない。
「……そうですね。奇跡でも起きなければ、このパーティは再起不能です」
「……うん。解散の手続きに行くから、付いてきてくれないかな。手続きにはリーダーがいないとだめだし」
「分かりました。……ヘルメット付けていいっすか」
「もう……受付の時は脱いでよ?」
「え、まあ、はい」
怖いからさすがにね。ユイは覚悟を決め、みんなのところに報告に行く。
「みんな聞いて。……このパーティは、今日で解散する」
「は!?おまえ、何言ってんだ!」
いち早く反応したのはレッドだった。ユイは反論する。
「リーダーのチー君も同意見。私もそんなことしたくないけど。これ以上やれば、みんな精神擦り切れちゃって、みんな壊れちゃうから……」
それでもレッドは負けじと反論しようとするが……。
「待て、俺はまだ!……やれるか……どうか……」
レッドは急に勢いを衰える。レッドも、限界だったのかもしれない。みんな、俯いている。
「これから、チー君と一緒に解散手続きに行く。……みんな、ありがとう。これからも、よろしく……ね?」
ユイは泣きそうになりながらも、そのまま振り返り、家を出ていく。俺は、ただ、ユイに付いていく。
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ギルドに着いたユイと俺はさっそく受付へと歩く。
俺たちが入った瞬間、場が沈黙に包まれる。恐ろしいほどの敵意を帯びた視線。ユイも震えている。俺はヘルメットで顔を隠していても、やっぱり怖い。早く帰りたい。
やばい、怖い。手が震える。足が震える。鼓動が速くなる。吐き気がする。息が苦しくなる。こいつらは俺を見て笑ってる。バカにしてる。幻聴が聞こえる。もう何も見たくない――
「チー君、大丈夫……」
ユイは俺の手をぎゅっと握る。俺は少しだけ、落ち着いた。それでもまだ息遣いは荒い。何とか冷静さを保つ。
ユイは解散手続きの書類を持って受付に出す。今日の受付クールな方の受付嬢だ。受付嬢は一瞬だけ、にっと薄く口角を上げた。でも淡々と手続きをこなす。
「解散手続きですね。了解しました。リーダーはどちらに」
「あ、えと、俺です……」
「……あの、ヘルメットは脱いでください」
「え、あ、はい」
俺はヘルメットを脱ぐ。その瞬間、俺に集まる視線。もう耐えられない。
「それではここに、指にインクを付け、この部分に指紋を押してください。手続きはこれで完了になります」
俺は言われたまま、インクに指を付け、紙に押し付けようとした、まさにその時だった。
急に後ろからドゴーン!という音とともに俺の後頭部に鈍器がぶつかる。マジで痛い。
「いってえええええ!何だてめえ!!!」
やべ、我慢できずに素が出て叫んでしまった……。ん?俺の足元には、ギルドの玄関扉の破片が転がっていた。これが俺の後頭部に当たったん?なんで生きてんの俺。
俺は玄関の方を見てみると、黒髪の人物が、足を蹴り上げたままたたずんでいた。あれ?この人って、チハル……?
チハルはそのまま、俺の方にズカズカと歩いてくる。
「何だてめえ!!!って言った?」
「あ、いや、そのまじですんませんほんとにチハルさんとは思わなくて……」
「冗談だよお、ごめんな?まさかそこにチーがいるとは思わなくて……」
いやそもそもドアを破壊して入ってくんな!まあそんなダイナミックな登場だからか、いつの間にか周囲はざわついていた。
「あの人ってSSランクパーティのリーダー?」「チハル様?」「すげえ、本当にいたのか!?」と口々にざわめく。
チハルは有名だったようだ。ただ、SSランクパーティの存在は噂でしかなく、実際に見たのは初めてという者が多かったようだ。
そしてチハルは、言い放った。
「おい受付、その解散手続き、一旦やめろ」
「え?」




