第20話 学園の初めての出会いは陽キャだった
翌日。ついに、入学式だ。
「ちょっとチー君!?早く起きないと遅れるよ!?不安だと思うけど私が付いてるから!早く布団を、ってなんでそんなに力強いの!?」
俺は布団にくるまってベッドと一心同体かのようにベッドの隅に籠っていた。
ユリアが布団を俺から引き離そうとしているが、俺も必死に布団に引きこもり抵抗する。やだ。やだやだやだ、学校怖いいいい!人が怖いいいいい!
「もおおお起きてよおおおって、きゃ!」
ユリアが本気で思いっきり俺の布団を引っ張り、その勢いでユリアはしりもちをつき、俺はユリアに布団ごと引っ張られて床に放り出される。
そしてユリアに覆いかぶさるような体勢になってしまう。ユリアの顔がどんどん赤くなり、見つめ合いながら沈黙。
俺は1秒で正気を取り戻して一瞬でユリアから離れ、反射的に謝ってしまう。
「ご、ごめんなさい!許して!訴えるのだけはやめて!」
「だから私を何だと思ってるのかな!?訴えないから!き、気にしてないって、ほら、事故!事故だから!というかむしろチー君が気にし過ぎなの!」
ユリアも早口でだいぶ気にしているように見えるが。はあ、マジで行きたくない。人の顔を見たくない。
ユリアは数秒後に落ち着きを取り戻したのか、胸に手を当て深呼吸をして、そのまま立ち上がる。
「よし!起きたんなら、早く準備して行こっか」
「それは嫌です」
「ひどい!?」
冗談はさておき、俺も立ち上がり、それぞれ学園に行く準備をする。
制服は事前に用意されていたのでそれを着る。
ユリアは自分の部屋に戻り、学園の準備を始める。
当たり前だが、昨日、壁越しの扉を利用するときはお互い必ずノックをするというルールを決めている。
制服は男女共通で青と白を基調とした色合いだ。胸には剣と杖が交差している校章が付いている。ついでに、動きやすいように伸縮しやすい素材が使われている。
俺は着替えた後、荷物も整える。まあ、別に入学式だけだし何もいらないとは思うけど。ユリアも着替え終わったようで、ノックが聞こえた後、俺の部屋に再び戻ってきた。
「ど、どう?」
制服姿のユリアがこちらを見つめてくる。うわあ、だめだ、可愛すぎて直視できない!まさか異世界でもスカート姿での制服美少女を見られるなんて!まあ制服は異世界感が否めないとはいえ。
おしとやかな美少女!グッド!でも表情にも言葉にも出さないよう覇気のない無表情を貫き通す。
「なんか変なこと考えてない?」
ユリアが眉をひそめてこちらを見る。なぜバレた?俺は身の危険を感じてすぐに謝った。
「考えてないから殺さないで!」
「殺さないよ!?……そういうのはいいから、どうなの?」
う~ん、こういう場合は、なんて言えば。可愛い、という感想しか浮かばない。どこがいい?とか詰められたら終わる。
あと、可愛いとか、そういうことを言うとセクハラになる可能性はある。ここは、あえて”良い”という言葉でぼかすんだ。
「えっと、良いと思います……」
「え?本当?よかった」
「ごめんなさい調子に乗りました」
「なんで?」
そりゃ、こんな顔面偏差値の高いユリアが制服なんか着たら似合うに決まってるし可愛くて卒倒するわ。
……けど、口には絶対出さない。出せるわけがない。
「……目の前に立たないでもらえると、助かります」
「ひどくないそれ!?もう、チー君ってば、なんだか最近からかってくるんだから……。でも、普通に接してくれて嬉しいけどね。じゃ、冗談は置いといて、早く行くよ!」
冗談ではないんだけどな。
ちょっとユリアといることが楽しいと感じてしまう自分がいる。こんなに人と一緒にいるということが今までなかったしな。
調子に乗ってるのは事実かもしれん。ユリアの反応も面白いのもあるが。
しかし、俺は考えないようにしていたのに、再び頭の中に学園という文字が浮かぶ。うう。無理。学園怖い、まあ、でもそんなこと言ってても(物語が)進まない。
ユリアだっているし、今はイケメンの顔によるアドバンテージを手に入れた。心はチー牛のままでも、きっと、多分、メイビー上手くいくだろう。
俺はユリアについていき、玄関を通り抜ける。俺は一旦立ち止まり、拳をぐっと握りしめ、息を整えた後、学園へと向かった。
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「だ、大丈夫?」
「大丈夫に見えます?」
朝のまぶしい光が照らす中、俺とユリアは通学路をゆっくりと歩いている。俺の死んだ魚のような目を見て、ユリアは不思議そうに顎に指先を当てながら、俺の顔を覗き込んでくるが、全然大丈夫じゃない。
心臓の鼓動は暴走して止まらないし、歩いてるときの周りの視線も棘のようにぐさりと刺さってくるような気がするし、正直息切れしそうなほどつらい。
よく俺は前世で毎日めげずに登校していたものだ。
「チー君、堂々とすればいいんだよ!」
簡単に言うなあ、おい。
「それが出来たら苦労しません……」
「う~ん。そんなに気にしなくてもいいと思いますけど……。チー君、見た目は悪くないし」
「いくら見た目がイケメンでもこんな根暗オーラ出してたら舐められますよ」
「かっこいいのは否定しないのね……。はあ、私にまで負のオーラが移っちゃいそうだよ……」
なぜかユリアの方が肩をすくめる。俺の口からはどんどんネガティブな言葉が出てくる。さすがにユリアもお手上げのようだ。
俺だって堂々としてえよ。でも、したいと思っても、脳が勝手に拒絶して、体が動いてくれないんだよ。
それで次こそは、明日こそはって、どんどん後回しになっていって……。
まずい、前世の人生と一緒じゃないか。せっかく容姿はパーフェクトなんだ。か、変わらなければ……。
とりあえずちょっと胸を張って歩いてみる。気持ち悪くないか?
「そうそう、その調子だよ、チー君。……あとは覇気のない顔だよねえ。ほら、笑顔笑顔」
「あの……何もないのに笑顔な人って正直不審者な気が……」
「いや、そうだけど、ちがうの!えっと、口角上げるだけでも雰囲気違うよ?」
「きもいですって」
「むぐ~、だめだこりゃ」
ユリアは頭を抱えて、何を言っても無駄だと悟ったように言葉を失う。
てか、そうやって自信ありげに歩いたとして、変じゃないのか……?「なんだあいつ」「自信ありげに歩いて気持ちわりい」って、思われそうだろ……。
俺はとりあえず姿勢だけは意識しながら歩いていたのだが……
「よ」
「ひ!?」
俺は突然後ろから肩をトンと叩かれながら声をかけられ、ビビって軽く悲鳴を上げてしまった。
後ろを振り返ると、真っ赤な短髪を逆立てた、快活そうな顔つきの青年が立っていた。体格は引き締まっていて、いかにも陽キャオーラを漂わせている。片手をポケットに突っ込みながら、ニヤけた表情で俺を見ていた。
俺は反射的に飛び退いて距離を取っていた。ユリアが嬉しそうに俺に声をかける。
「ほら!堂々としてたら人も寄ってくるでしょ……ってチー君?」
「ふ、不良……ヤンキー……また殴られるんだ……」
俺は道の端で頭を抱えてうずくまり、ぶるぶる怯えてぼそぼそと呟いていた。それを聞いていた赤髪の青年が目を吊り上げて怒鳴った。
「不良じゃねえし殴らねえよ!なんなんだこいつ!?」
ユリアはこの状況を見てクスクスと笑っている。
俺は青年に怒られたと思ってさらに体を縮めこませていた。
青年はそのまま意味が分からないというような顔でボーっと眉をひそめたまま、「声かける相手間違えたか……?」とつぶやく。
そんな青年にユリアは声をかける。
「あ、あの、この人、超が付くほどの重度の人見知りなので……。この反応は通常なので……理解いただけると助かります」
「あ、そうだったのか。人は見かけによらないな……。で、君は彼女さん?」
「ち、違います。友達です!」
「お、おう、そんな大声出さなくても……」
青年は気を取り直して俺に声をかける。
「そんな人見知りとは思わなかった。その、雰囲気的にかっこいいし、可愛い女子も連れてるから、何となく直感で、友達になったら楽しそうだと思って声をかけたんだが……。すまん、嫌なら、無理しなくていい。またな」
俺は青年にそう言われて、我に返る。
初めての男友達を逃してしまう気がした。普通にいい奴そうじゃないか。俺は思わず、その青年を呼び止める。
「い、いい、いやじゃないです、その、不良とか言ってすみません」
青年は歩き続ける、声が小さすぎたのか、青年には届いていなかったらしい。
そこにユリアは俺に気を遣って代わりに青年を呼び止めた。
「あの、チー君が何か言ってますよ?」
「チー君?あ、さっきの人か?」
青年は立ち止まり、俺に向き直る。ユリア、助かる。俺は青年に声が聞こえる位置までゆっくり近づいて、声を絞り出した。
「すんません、不良とか言って……。その、嫌じゃないっすから……その、だから……」
青年はそれを聞いて、目を丸くして意外そうな顔をしていたが、すぐに二っと白い歯を見せた。
「そっか。そりゃよかった。俺はレッドだ!将来は剣聖になる男だ!お前は?」
顔の前でガッツポーズを見せてくる。暑苦しいなお前。多分、こいつのこと苦手かもしれん。声かける相手間違えたかな。
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