第19話 共同生活が始まりそうなんだが
「多分これ、護衛専用の部屋だね。護衛がすぐに駆け付けられるように壁に扉が設置されてるタイプだよ」
「はあ」
まあこの世界らしい構造だが。ユリアは着替えて俺の部屋のベッドにダイブしている。さっき俺はユリアの下着姿を見てしまったことは気にしていないのだろうか。……白だったな。
「ね、こうしよっか。丁度部屋も隣ですぐなんだし、私がチー君の部屋で料理とかしてあげるね。多分チー君はお寝坊さんだから、朝も起こしに行くよ。も、もちろん寝る時はそれぞれの部屋だからね?どう?」
「え、嫌です」
「もう、チー君。人の厚意は素直に受け取るものだよ?」
「いや、その……」
俺が気にしているのは厚意とかそう言うものじゃない。ユリアが、部屋に常にいるのは、理性的にも、てか普通に考えておかしいだろ。冤罪リスクも異常に高い。でも、前世ならまだしも、この世界の料理など作ったことはないし、朝は今世も苦手だしな……。
「料理だけ運んできてくれれば……」
ユリアはそれを聞いて、頬を膨らませてじ~っと見てきた。
「なにそれ。私が一緒の部屋にいるの嫌なの?」
「俺の部屋なんですから。あとなんでわざわざ俺の部屋にくるんすか」
「心配だからだよ。チー君って一人じゃなんもできないし。ねえ、どうしても嫌なの?」
「……分かりました。俺を襲ったら叫びますから」
「ふつう逆だよね!?ていうか、チー君って叫べるの?いつも声小さいのに」
「……」
結局ユリアの押しに負けた。どんだけ世話焼きなんだよこの子は。ユリアが俺のベッドで足をゆらゆらさせて、楽しそうに話しかけてくる。なんか子供っぽさもあって可愛いな。
「これから楽しみだね。チー君!」
「そうですねー(棒読み)」
「むぐ~、なんなのそのぎこちない返事は……」
俺にとっては、ユリアを襲ってしまわないか常にビクビクだよ。こんな可愛い元王族の姫だぞ?今まで女子と関わってこなかった童貞チー牛陰キャが耐えられるとでも?
「よし。寮の部屋も確認したし、今日からこの寮に住んでいいっぽいから、さっきの宿のキャンセルと食材買いに行こ?」
「あ、え、はい」
そしてユリアが俺の手を掴んでいく。俺は本能的にすぐ手を振りほどいてしまう。
「触るな」
「え?」
「あ、いや、なんでもないです」
「う、うん」
ユリアはさっきまでの笑顔ではなく、ショックを受けたように視線も肩も落としていた。女子に触れられると、怖いんだよ。俺も気にしすぎなんだけどさ。ほんとこの先大丈夫なんかな。
気まずい雰囲気のまま、俺とユリアはお互いに少し微妙な、人ひとり分くらいの距離感を空けたまま、一緒に寮を出た。
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その後、2人で宿屋のキャンセルの手続きと、夕食の食材を買いに行った。とりあえず、ユリアに道は任せられないので、道中は俺が先頭に歩いていた。
買い物や手続きに関してはすべてユリアに任せた。そうそう、できないこと、できることをそれぞれで分担する、これがいい関係なんよ。
にしても、食材買いに行くってことは、ユリアは料理ができるのだろうか。俺は簡単なもの以外は無理だ。前世ではカップ麺やレトルト食品ばかり食っていた。たまに親の料理も出ることはあったけどな。
だから、親は当てにならんので、自分で米炊いて炒飯とかオムライス作ったり、簡単なものは自分でやっていたな。
ユリアは楽しそうに買い物をしていた。女子ってやっぱこういう買い物みたいなものが好きなんだろうか。
俺はいまだに周りの視線が気になってそれどころではなく、ずっと被害妄想を膨らませながら人を避けて歩いていた。
買い物を終え、再び寮に戻る。
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部屋に戻ると、さっそく俺の部屋のキッチンで料理をするユリア。
なんか、気まずい。いや、俺も自分から絶対に話しかけないわけだし、会話がないのは当たり前なんだけど。さっきユリアの手を振りほどいてから、ちょっとだけ雰囲気が悪くなった気がして、俺も地味に引きずってる。でも、ユリアはもうすでに気にしてなさそうではある。
でもこのままなのは少し気が引けるので、怖いけどユリアの手伝いを申し出てみる。
「あの、すいません」
「え?あ、チー君。珍しいね、じゃなくてなんで名前で呼ばないのさ」
恥ずかしいから。ふう、緊張するな。
「えっと、その、手伝いますか、ね……料理」
「……え?ち、チー君が、自分から……?あ、ありがと。でも今日は私が作ったものを食べてほしいから。いやあ、びっくりしたよ、チー君が自分から手伝いたいなんて言うから」
なるほど。自分で作った手料理を振る舞いたいというわけだ。可愛いなあ。
そういえば気になる。ユリアはちょっと天然なところがあるが、料理は上手いのか、下手なのか。
振る舞いたがる子って、意外と料理は苦手なイメージあるよな(偏見)。それはそれで個性で可愛い。
少し楽しみにしながら、とりあえず魔法教本でも読みながら待つことにした。
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「できたよ!」
数十分すると、ユリアはテーブルに料理をポンと置く。楕円ドーム型の黄色いフワトロ卵、こ、これは……?
「お、オムライス?」
「知ってるの?作ってみたかったんだよねえ、こういうの」
ふわとろの黄色い卵の塊にはケチャップがジグザグに描かれている。ハートじゃないのは残念。何を期待してんだこのチー牛が。
「あの」
「なに?」
「先に一口食べてください」
「え?な、なんで?おいしくなさそう?」
「毒見です」
「入ってないからね!?いやそもそも自分で作ったものを毒見って何!?ほんとにこの人怖いんだけど……」
……まあ大丈夫か。卵の中身をスプーンで崩すと、中には赤いホカホカのチキンライスが姿を現す。一応、細かく野菜とか肉もゴロゴロと一緒に炒めているようだ。
栄養的にもいい感じ。見た目は明らかに美味そうなのだが、味はどうなのか。
俺はオムライスをスプーンですくい、口に運び入れる。
……美味い、美味すぎる。あ、俺にどんな味なのか言うのは期待すんなよ?食レポなんざしたことない。とにかく美味いとしか言えん。貧乏舌だし。
ああ、やはり手料理は感動だ。父さんもユリアもみんな料理上手いの何なんだ。この世界の人はみんな器用なのか?にしても、ちゃんと料理上手いんだな、ユリアさん。俺は黙々と食べ続ける。
と、何も言わずに黙々と食べている俺をぼーっと見ていたユリアは、ハッと何かを思い出したように、感想を聞いてくる。
「あ、あの、味はどう?」
「え、あ、その、美味いっす」
「ほ、本当?」
「本当ですから。あの、食ってるところガン見するの、その、やめて欲しいんすけど」
「え?あ、ごめんね!?でも良かった……」
俺は料理は一人で食いたい派なんだよな、自分のペースでゆっくり、後、単純に食べるところ見られるの恥ずかしすぎない?
ユリアは安心したようにほっと胸をなでおろす。
さっきの食堂の料理よりも何十倍も上手い。あらやだ。惚れちゃいそう。
普通に美味いので、その後も何も言わずに食べ進む。あっという間に食べ切ってしまった。
きっと、ユリアは良いお嫁さんになるんだろうな。
昨日から今日まで見てて、しっかりしてるし、料理もできるし、世話焼きもしてくれる。
方向音痴なドジなところもあるが、それ抜きにしてもこんな完璧な女の子存在したのかっていう驚き。
さすがは異世界は何でもありの理想郷って感じだな。
ユリアは食べ終わった俺を見て、にこにこしながら言う。
「それにしても、よかった。チー君最初はあんなにおどおどしてたのに、やっと私とも普通にしゃべってくれるようになったよね。今日だって手伝いたいなんて言うし」
「調子に乗ってすみません」
「なんで謝るの!?調子に乗ってるとか思ってないからね!?と、とにかく、一歩前進だね!」
一歩前進、か。
確かに、この世界で父親以外と話せるのはユリアだけなのだが、ユリアとちょっとでも話せるようになっただけでも前進か。
ユリアがいなければ、俺はずっと孤独だったかもしれないな。いや、絶対孤独な学園生活を歩んでいた。
ユリアには感謝を言いたいところだが、なんか、恥ずかしくて言えない。綺麗ごとみたいなのって、なんか、臭いし。お礼くらい言えよ。まだまだだな、俺も。
「それじゃ、明日から早いんだし、もう寝よっか、おやすみ!」
「え、あ、はい」
ユリアは自分の部屋に戻って行き、俺も自分のベッドに横になる。……今日ユリアが俺のベッドにダイブして横になっていたな。そのせいか、ほのかに甘い香りが漂っている気がする。
まあユリアにとっちゃ、友達の部屋に来たぜって感覚でやっていたのかもしれんが。今世は運も良いな。こんな可愛い幼馴染ができるなんて。
まあ、あくまで騎士と姫という関係だ。それ以上の関係にはならない。俺みたいなやつを誰が好きになるというのか。俺は、前世でクソみたいな現実を見てきたからこそ、慎重に生きていくだけだ。
そして、明日はついに学園だ。不安で胸がざわついて仕方ない。まあ、最悪の場合はユリアを頼ろう。
そのまま、俺は目を閉じて夢の世界に入った。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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