第126話 本当に俺を認めてくれた少女
寮に着いて、一旦分かれて、それぞれの部屋に戻る。俺はソファに腰を下ろしたと同時に、ユイの部屋からノックが聞こえ、ユイが入ってくる。ユイはそのまま俺の隣に腰をかける。
この部屋ってこんな静かだったっけ、互いの鼓動が何となく聞こえるくらいには物音ひとつない。うん。それは盛った。ユイの鼓動はさすがに聞こえん。互いに無言の時間が流れる。
う~ん、よ~く考えたらさ、なんか今までとあまり変わらない気がするけど気のせい?
今までがおかしいんだけど、付き合ってもいないのに、俺の部屋にユイが話しに来たり、料理しに来たり、起こしに来たりと、実質一緒に住んでいるようなものだった。まあ騎士と姫の関係だし当たり前なのかもしれんが。
とはいえ、周りからも「こいつらなんで付き合ってないの?」みたいな目で見られてた気はする。
ユイは雰囲気に慣れてきたのか、足を伸ばしながら、ぽつりとつぶやく。
「なんか、付き合うとは言っても、あんまり変わらない気がするよね。ずっと一緒に住んでたみたいなものだし……」
「まあ、無駄に緊張するくらいですかね」
「それはちょっとあるかも。正式に恋人同士って思うとね。でも、きっとこれから互いにあった壁も崩れて、気は楽になるんじゃないかな?
遠慮してた部分もあったと思うし……今は恋人同士なんだから、私くらいにはなんでも遠慮せず言ってもいいんだからね?」
さすがに何でもはまだハードルが高い。俺は、他人に自分を出したことはマジで無い。俺はずっと本当の自分を、自分の中に閉じ込めていたからな。
もし、俺の心の中で思っていることを口に出してみろ。社会的に死ぬし、嫌われるし、大変なことになる。チー牛らしく、真面目ぶって、ずっと生きてきた。保身と秩序のためみたいなもんだな。
この世界でも同じように、誰にも俺の素は見せていない。たぶん、これからも……ないだろう。
ユイは俺の肩に身を寄せてきて、俺は一瞬ビビるも、何とか受け入れる。ユイは俺に害すことは無いと言い聞かせる。ユイはそのまま口を開く。
「とはいっても、いつも通りでいいよね。無理に恋人同士だからって何かしなくても。どんどん慣れていくと思うし」
「すでにいつも通りじゃない状況なんですが……」
「えへへ、嫌?」
「くっ……嫌では、無いです」
クソ、可愛いが過ぎる。なんなんだよマジで。ああもう語彙力が消滅していくぜ……。「か」と「わ」と「い」しかしゃべれなくなりそう……。
俺はとりあえず、深呼吸をして整える。落ち着け。美人は三日で慣れるだ?嘘つけこんにゃろう!慣れるわけねえだろ!逆に慣れるやつはモテすぎだ!クソが!
にしても、だ。俺は肩に寄りかかるユイを横目に見つつ、1つ疑問が浮かぶ。ユイは一体、俺の何に惚れたんだ?いくら何でもおかしいだろ。
まず、恋愛を就職活動に例えれば、イケメンというだけでまずは履歴書選考は通ったも当然。しかもスペックも大魔法師と剣聖の息子という最強履歴付き。
その後の面接という名のデートでは、今までの俺の拗らせすぎた性格を見れば、まず好きになる可能性は低いはず。
一応言っておくと、基本的に容姿に恵まれて育った人は、周りからの反応も良くて自然と寄ってくるから、人を嫌いになることも少ないし、優しい性格に自然となりやすい。イケメンはそれだけ罪なんだわ。もちろん環境で左右はするが。
逆に容姿に恵まれない人はあまり他人と関わる機会も自然と少なくなり、バカにされることも多くなり、性格もゆがむ。もちろんメンタルや環境要因もあるが。
俺みたいな拗らせたイケメンは希少種と思ってもらいたい。うん。
で、話は戻るが、そんな俺をユイが好きになる理由が分からん。もしかしたら、顔だけに惚れたという可能性もある。まあ、だとしても、気持ち悪がられ続けた前世に比べれば、惚れられるだけましだけどな。
俺は遠慮なくユイに質問してみる。
「ユイ」
「なあに?」
「その、なんで俺のことを、その……好きになったんですか?頭おかしいんですか?」
「なんで何気にディスられてるの私」
ユイは一瞬ぷくっとなるも、理由を語り始める。
「それはね?その、別に好きになるのに理由は無いでしょ?って言いたいところだけど、それはチー君に失礼かもしれないから、ちゃんと言葉にするとね?
チー君がかっこいいところとか、前世でひどい目に遭ってもそれでも自分なりに頑張ろうとするところとか、いつも何事にも興味なさそうにしてるくせに、私のために慰めたり助けてくれたりするところ。決して私の頭がおかしい訳じゃないよ~」
根に持ってんのかこいつ。確かに一言余計だったけど。
「あと、チー君は否定するかもしれないけど、すっごく努力してるところとか」
俺は努力という言葉にぴくっと反応する。ユイはそれを感じ取って、すぐに言い直す。
「あのね?チー君が努力って言葉が嫌いなのは分かってる。それでも、チー君は努力した結果だと思ってるの。本当はさ、認めてほしいんだよね?」
「いや、別に……そんなんじゃないですけど」
認めてほしい……前世で何一つ認めてもらえなかったから。確かに、そうかもしれないけど。努力という都合のいい言葉で妨げられてきた俺が、努力をしてるなんて認めたくないのもある。実際、努力をしたとは思ってない。才能だけでのし上がったと思ってる。
人は今まで得られなかったことに執着する生き物だ。俺も、本当は、認められたい……のかもしれない。でも、言いたくない。
すると、ユイは俺の頭に手を乗せて、優しい目で撫でて来た。俺は思わず、見とれてしまう。
「チー君は、よく頑張ったと思うよ。私だけが、チー君の頑張りを知ってるんだから。私を守ってくれてありがとう。辛い目に遭っても、よく頑張ったね」
俺は一瞬頭が真っ白になるような感覚に陥る。心臓が跳ね上がりそうなほどに、感情が高ぶりそうになる。素直に、嬉しかった。本当に俺を、認めてくれているような気がした。
俺は、涙が出そうになるも、素直になれずユイの手をどかして顔を背けた。男女関係なく、泣くのって恥ずかしいだろ?クソ……なんなんだよこいつは。本当に、何度も何度も俺を動揺させやがって。
「チー君?泣いてる?」
「いえ、泣いてません」
「そっか。あ、それよりも。チー君も私に理由聞いてきたんだから、チー君も教えてよ。私のどこに惚れたの?」
そう言って少しニヤつきながら俺に顔を近づけてくる。はあ、まあ別に、ユイも言ってくれたし、別にユイ以外に誰もいないし。そこまで恥ずかしがることもないだろう。
「えっと、まあその、可愛いところ……でしょうか」
「え~?それだけ?」
「いや、その……こんなクズで拗らせてつまんなくてキモイ俺なんかを、二次元のヒロインみたいに、何度も支えてくれた……ところ。本当に、感謝はしてます」
「良かった。支えた甲斐があったかも。ところで、にじげん?別世界の人ってこと?」
「あ、まあそんなところです。ユイみたいなここまで付きっきりで優しい人間は9割存在しません。存在してはいけないんです。ユイは二次元の人間です」
「褒められてるのかバカにされてるのか分からないんだけど……」
ユイは苦笑いを浮かべ動揺している。動揺したいのはこっちだよ。いやすでに何度もしてるけど。お前は存在や行動すべてが二次元なんだよ。まあメタいけど俺も二次元の人間なんだけ……おっとこれ以上は言わないでおこう。
ああ、ただ一緒にいるだけなのに幸せを感じる。いつか本当に、嘘偽りなく、色々と分かり合い、支え合えるような関係になれるんだろうか。まあ、それは俺次第って感じだけど。
ユイも嬉しそうに笑みを浮かべて俺に寄りかかっている。一生守ってあげたいとすら思ってしまう――信じている内はな。
しばらくして、ユイはソファから立ち上がって、なぜか俺に手を広げて楽しそうに話す。
「今日は楽しかった。すごい幸せな気分。明日からもよろしくね?チー君」
「あ、はい。……で、なんで手を広げてるんすか?」
「おやすみのハグ」
俺の脳天にライフル銃が直撃するくらいの衝撃が走る。アホか。付き合ったばかりだぞ?積極的にもほどがある……。こいつ俺より性欲ありふれてるのか?
とは言え、俺の身体は正直に、恐る恐るユイに近づいていく。……でも、やっぱり(社会的に)怖くて、俺は立ち止まった。これ以上近づけば俺は……
だが、止まった俺を見て、ユイは自分から俺に「えい」と抱き着いてきた。俺は一瞬体を強張らせるが、徐々に温もりに慣れてきて、なんとかユイの背中に手を回す。
ああ……密着しているから、ユイの柔らかい果実が染みわたる……ほのかに香る女子のいいにおいが鼻を突く。幸せになるわ……。幸せホルモンが大量分泌される~。知らんけど。
しばらくして、互いにゆっくりと離れる。俺はそのままユイを見ると……めっちゃ顔を赤らめていた。お前から誘ったくせに恥ずかしいんじゃねえか!俺もだけど!
「お、おおおやすみっ!チー君!」
「あ、はい」
ユイは逃げるように自分の部屋へと戻っていく。
今でも信じられない気持ちだが、今日、初めての恋人ができた。そして、いまだドキドキも鳴りやまぬまま、幸せな気持ちでベッドに潜ったのだった。
眠れるかな……今日……。




