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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第3章 学園2年編

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第124話 俺の人生の転換点




 屋上からの景色を眺めた後、俺はそこらへんの地面に適当に座った。ユリアも隣に腰を下ろす。


 屋上には電気の魔道具もないので、かなり薄暗く、ユリアの表情はよく見えない。そもそも、こんな薄暗くて誰もいないところに男と二人きりなんて、普通は嫌じゃないのか?


 今更ながら、これってガチのデートみたいじゃん。こんなシチュエーション、デート以外あり得ねえだろ。よく理性保てているものだ。


 ちなみに、俺は特に話すことなんかないし。日常会話って何話せばいいのか分からないからな。以前ユリアと会話の練習はしたものの、未だに自分からというのは慣れない。


 イケメン学生はみんなこんなドキドキする体験してるのかと思うと本当に羨ましいよ。幸せだろうな。これもイケメンの特権。俺はイケメンに転生して運がいいだけよ。


 会話も無く時は過ぎ、気づけば、空にドカンという音が響いて、魔導花火は始まっていた。


 花火を見るなんて、前世以来か。やはり、前世ほどの繊細な色合いや粒というわけでもなく、まばらに散っているものの、まあまあ綺麗なんじゃねえかな。


 それと、隣のユリアを意識しすぎて、あまり集中してみることができないんだよなあ。


「見て、チー君!綺麗!」


 ユリアはまるで子供のように花火が上がる夜空を指さしてはしゃいでいる。


 まあ、確かに花火も綺麗だけど……その光で一瞬浮かび上がったユリアの横顔も、改めて綺麗だと思った。


 ほんと、美少女だよなあ……この子。そんな子と、この世界での約7年間も、一緒に過ごしてきたんだな。ほんと何度も思うが、信じられないわ。


 最初は俺のこの性格にドン引きして嫌われ気味だったけど、彼女は優しくて、何か出来たら褒めてくれて、いつも世話を焼いてきて、1回喧嘩もして、俺の過去も真面目に聞いてくれて、なぜかスキンシップも増えてきて……


 色々な記憶が蘇ってくる。なんだ、俺死ぬんか?


 すると、花火を眺めていたユリアは、こちらを向く。その表情は、なぜか、真剣な眼差しで俺をまっすぐと捉えている。


「ねえ、チー君」


「え、はい」


「鈍感すぎ」


「はい?なにがですか」


 いきなり何を言うのか。鈍感なのは認めるが。


「私がどんなにチー君に意識させようと頑張って、料理振る舞ったり、手つないだり、メイド服見せたり、色々してたけどさ。……全然、気づいてくれないんだもん」


「はい?」


 何に気づいてないって?ユリアの言ってることが、全然わからない。ほんとに今日のユリア、様子おかしくね?


「それにさ、チー君、シオリーちゃんに告白されてたでしょ」


 ……まさか、見られていたとは思わなかった、だから、あの日ユリアも様子がおかしかったのか。


 あの時、誰かが一人歩いている気配を感じたが、あれはユリアの気配だったのか。


「シオリーちゃんがチー君に告白したのを見て……チー君が先に取られるんじゃないかって、怖くって……。だから、今日……勇気出して、チー君を祭りに誘ったの」


 取られるって、俺は誰のものでもないが。一体何の話なんだ?


 ……でも、気づかない振りして、心のどこかでは、なんとなく気づいてた。いや、期待してた……って言う方が正しいのかもしれない。


 ユリアがほんの少しだけ深呼吸をして、拳をぎゅっと握りしめた後、もう一度俺を見た。俺の心臓の鼓動は法定速度を無視してガンガン加速していく。


「一度しか言わないから……」


「……」


「チー君のことが、好きです」


 俺は初恋の相手に、片思いだと思っていた相手に、告白された。信じられなくて、息を呑む。そのまま、ユリアは続けた。


「私は、友達でもなく、騎士と姫の関係でもない、男女の……恋人同士の関係になりたい。あなたは、私にとって……大切な人だから」


「……」


「だから……私と付き合ってください」


 ――思考が止まる。理解が追いつかない。わけが分からない。俺は、どう答えればいい?


 ユリアは、こんな誰も好かないような、ひねくれた性格の俺を、一生友達ができなかったかもしれない俺を、ずっと支えてくれていた。


 もしユリアがいなければ、今世でも誰とも関わらず、前世と同じように孤独で悲しい人生だっただろう。


 少しでも、自信を持てるようになったのは、間違いなくユリアのおかげだ。それに、ぶっちゃけ、容姿もドストライクだったし。


 でも、なぜそこまでしてくれるのか……ただ俺がダメ人間だから、見てられなくて世話を焼いてるだけ。行動のすべては“優しさ”であって、“好意”じゃない。……そう言い聞かせた。


 俺は前世で人間不信になって、誰も信じられなかった。


 でも、ユリアと暮らしてるうちに――性別関係なく、“ユリア”という人間を信じられるようになった。


 ユリアだけは、きっと裏切らないって思えた。


 だからこそ、本当は断る理由なんて、どこにもないはずなんだ。


 ……でも、怖い。


 疑いの気持ちは、どうしても消せない。


 この告白だって、もしかしたら冗談かもしれない。前世では、告白されたと思って浮かれて、地獄を見た陰キャがいた。


 ユリアも、本当は俺じゃなくて、この“顔”に惹かれてるだけかもしれない。


 中身はクソで、金もない。そんな俺に惹かれるなんて、あるわけがない。


 それに、付き合ったからといって、裏切られない保証なんてどこにもない。


 男女の関係って、結局、何かあれば男が責任を負わされる。理不尽な世の中だ。

 ――なのに。


 心臓がうるさい。息が詰まる。答えなきゃ。でも、怖い。


 逃げたくて、でも逃げたら、もう二度とチャンスなんて来ない気がした。こういう時すら、行動にできない、俺は”チー牛”だ。


 ユリアは、何も言わない俺を訝しげに見つめてくる。


「もしかして、何か裏があるとか、疑ってる?」


「あ、いや、その……」


「もう……。あのね、チー君、これが私の気持ちだから!」


 そして花火の音が鳴り響く中、ユリアは俺の腕を引き寄せ、強引に俺の唇を奪った。俺の――前世を含めた、人生初のキスを。


 俺は、一瞬で寒気に襲われた。やばいと思った。必死で引きはがそうとした。もしかしたらこいつは俺を陥れようとしているんじゃないか。


 俺は嬉しいのに、嫌じゃないのに、身体が勝手にユリアを引きはがそうと動く。だけどユリアは俺の腕をがっしり掴んで離さない。それほどに、ユリアは本気なのだろう。


 それでも俺は必死にユリアの拘束を振りほどいて距離を取った。ユリアはそんな俺を見て、一瞬ショックで目に涙を浮かべるも、諦めずに俺に詰め寄る。俺はやはり恐怖が勝って、何とか逃げようと後ずさりしてしまう。俺は必死で口を開く。


「やめてください!ほんとに、怖くて……やめ、て……」


「じゃあ、なんですぐに振りほどかなかったの」


「え?」


「嫌なら、本気で振りほどいてよ……。それと、最後に。私ほど、チー君のことが好きで、チー君のことを知っていて、支えてあげたくて、もっと知りたいって思う女の子は、きっとこの先現れないと思うの」


「それ自分で言いますか……」


「あはは……でもそれくらい私は本気ってこと。お願い、チー君の本当の気持ちを教えて欲しい。本当に嫌なら……全力で拒んでいいよ」


 俺は動けず、ユリアは歩みを止めない。そのまま、もう一度俺の腕を引きよせ、キスをした。


 俺の本当の気持ちなんて、決まってる。ユリアと一緒にいたい。支え合っていきたい。こんな素直で可愛い子、何度転生しても出会えない。


 俺は欲しかったんだ。自分を認めてくれる人を、支え合っていける人を。俺の脳に完全にこびりついていた恐怖や障害が、崩れ落ちたような気がした。


 全力で拒んでいいよ。そんな事言われたら、もう拒めない。嘘なんて付けない。


 結局俺は、力が抜けてユリアにされるがままに唇を奪われた。俺も自然と、ユリアを求めていた。数秒が永遠にも感じられるほどに、幸せで満たされていた。


 気がつけば、二人とも、自然と互いの唇を離していた。ユリアは少しだけ、照れくさそうに目を伏せた。


「ねえ、ま、まださっきの答え、聞いてないんだけど……」


……そりゃ、俺の答えは、もう決まっている。


「あ、えっと、はい。俺も、ユリアのことが、好きです……お願いします……」


「……うん!嬉しいっ!私も大好き!」


 花火の光で映し出されたユリアの顔は、涙を流して、それでいて今までのどんな笑顔より、可愛く笑うのだった。





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