第12話 この少女は使える……でもやっぱ怖い
「あ、えっと、ユユ、ちが、ユ……リア、にしてほしいことなんですけど、えー、俺の魔素を取り除くことはできますか?」
ユリアはそれを聞いて、不思議そうに首を傾げ、きょとんとしていた。なんでそんなことを?という顔だ。
「で、できるとは思うけど、大丈夫なの?」
「できるだけ、その、俺の魔素を減らして行って、欲しいです」
「う、うん」
ユリアは腰から杖を取り出し、ひょいひょいと動かし始めた。俺の魔素を操り、どんどん逃がしているのだと思う。よく見れば、ユリアの目が微妙に緑色に光っている?これが魔眼か。
ユリアは手を動かしながら聞いてくる。
「そ、それで?逃がしてどうなるの?」
「教えません……あ、魔素をある程度逃がしたら、一旦出てってもらえますか」
「理不尽!?ちょっと、何するかくらい教えてよ!」
「マジでお願いします恥ずかしいんで一旦出てってもらえませんか」
「わ、わかったよ、もう……」
ユリアが部屋を出ていった後、メイドもユリアに付いて行った。部屋を出ていったのを確認したら、俺は適当に歩いたり腕を動かしたりしてみる。う~ん、ちょっと体は重く感じるけど、そこまでの変化はない。
俺は腕立てを始める。本命はこれからだ。ユリアたちに筋トレしてるところとか見られたくないからな。
今は日々のトレーニングのおかげで100回以上は余裕でこなしている。だが、いざやってみると、30回くらいからすでに疲れ始める。やばい、重い、腕が、動かねえ。
俺は床にバタンと倒れこんだ。無理しすぎたか?ちょっと吐き気というか、気持ち悪い……。ここまで疲れたことは今までなかったんだが……。
俺は床をはいずりながら、リビングの扉をコンコンとノックする。すると、待機していたユリアが入ってくる。もちろん、メイドも一緒だ。
「終わった?……え、チー君、大丈夫!?」
「あの、そのまま、俺に魔素を……戻すことは、でき、ます……か……」
「わ、わかった!すぐやる!」
ユリアはすぐに魔素を俺に取込んだ。
しばらくすると、ほんの少しだけだけど、気持ち悪さは癒えた気がする。疲れは取れないものの、体はすごく軽くなった。
俺はすぐにひょいっと立ちあがる。なんかいつも以上に腕立てが出来そうだ。俺はそこにあった自作の剣を持った。いつも以上に軽くて、「軽!」と思わず叫んでしまうほどだ。
ようやく理解した。
「実験は成功です……」
「えっと、それはすごいね!……で、どんな実験をしてたの?」
俺は頭の上に?マークをいくつも浮かべているようなユリアに説明する。
魔素が俺達の身体能力を上げているのではないかという仮説を証明するために、俺はユリアに俺の魔素を操作してもらったこと。
その結果、身体におびている魔素を抜かれると以上に体が重くなったこと。いつもは余裕だった筋トレが辛かったこと。魔素を今戻してもらったら、いつものように体が軽くなったこと。
つまり、魔素はこの世界にとって非常に重要なものなのだ。⋯⋯ということをどもりながら、頑張って伝えた。
「な、なるほど!何となく魔素がすごいってことが分かったよ!とにかく魔素が重要ってことだよね!?」
「ま、まあ、はい」
ほんとに分かってんのか?とりあえずこの原理はきっといずれ役に立つ。
で、つまりだ。魔素を操作できるユリアは優秀な治癒魔法使い、かつバッファーということになる。魔素を纏わせると身体能力を上げられるということは、バフだよな?バフってのは思っているよりも重要だ。
それに、相手の魔素を奪えばデバフ要因としても役に立つってことだよな?ユリアは実はめちゃくちゃ強いのかもしれない。
将来、ギルドに加入して、パーティを組むときにユリアは絶対に役に立つはずだ。
ユリアをパーティに誘ってみたい。でも、怖い。断られたらどうしよう。俺はずっと、間違いや自分の意見が否定されるのが怖いんだ。
もし誘って迷惑だったら、断られたら?やる前からどうしてもそういう不安ばかり頭をよぎる。前世にいた数少ない友人ですら、自分から遊びに誘うことはほぼなかったしな。
でも、俺もユリアもガキの内の今がチャンスかもしれない。大人になってからじゃ難癖を付けられそうだし⋯⋯。
俺は勇気を振り絞って、誘ってみる。でもこれ、セクハラにならんよな?断られたら……まあ仕方ない。
「その、ユユリア」
「……」
「ユリア」
「はい」
俺は一旦深呼吸をして、落ち着いてから、口を開く。
「その、将来パーティを組むことになったら、えー、俺と、パーティを、組みません……か?」
俺は途中から恥ずかしくなって、やっぱり訂正をした。
「あ、やっぱいいで――」
「え!?ほんと?約束だよ?私、冒険者に憧れてたんだよね!」
ユリアはぱあっと目を輝かせ俺の手を取った。
「ひ!?触るな!」
ユリアはいきなりこういうスキンシップをしてくるから心臓に悪い。俺は反射的に手をブンっと振り払った。
「え?あ、まだやっぱり触れられるのは怖いんだね……」
「あ、いや、すいません……」
ユリアは肩を落として少し寂しそうな顔をする。
もしこの瞬間、メイドが「不純異性交遊で通報します」とか言い出したらどうする?俺の脳内シミュレーションじゃ、手が触れた瞬間に警報が鳴って牢屋行きなんだよ!
……それに、正直、柔らかすぎて心臓止まるかと思ったわ。俺の純情を舐めるな。
ユリアはすぐに気を取り直して、メイドに確認する。
「ねえ、チー君と将来パーティ組んでいいでしょ?メイド?」
「はい。むしろユリア様にもいい刺激になるでしょう」
「良かった。それにしても、チー君から誘ってもらえるなんて思わなかったよ」
俺もまさか誘いに乗ってくれるとは思わなかったよ。
椅子に姿勢よく座っていたメイドは、いつも通りの無表情で俺のことをじ~っと見てくる。怖い。
「にしても、チー様は普通は学園の後半で習うようなことを自分で発見するとは、流石です」
あ、そうだったんだ。魔素に関しては本来学園で習うのか。メイドはフフっと笑う。余計に怪しまれたか?




