第118話 話がおかしい方向に進んでいて怖いです
昼休み。快晴の屋上にて。
今日はサンを含めたいつものメンバーで集まり、レッドが疑問を口にする。
「で、お前ら魔法科クラスはなにするかもう決めたん?」
「いや、明日決めることになってるからまだ。私もまだ何も考えてないんだよねえ」
ユリアはバッグから弁当を取り出しながら答える。基本はレッド、ユリア、サンの会話で、俺とネクラは聞いてるだけ。俺達って存在意義あるのかなあ。
「へー。ちなみにだ。俺達2年剣技科はな……まだ決めてないんだよなあ」
「決めてないんだ……。まあそう簡単には決まらないよね。チー君は何か案とかない?」
ユリアが存在を消していたはずの俺へ急に話を振ってくる。それ俺に聞く?
「え、いや、ないです」
レッドがさらに俺を問い詰める。
「いやいや、なんでも言っていいんだぞ?とりあえず考えてみろって。お前ってたまに面白いこと言うしな」
「言った覚えないんですけど」
俺を何だと思っているんだ。俺は今まで愚痴をこぼす以外の会話は「あ、はい」とか「え」とかしか言った覚えないぞ?
とりあえずは考えてみるが、う~ん、学園祭と言えばなんだろうか。
確か前世では俺のクラスお化け屋敷、とかしてなかったっけ?俺はお化け役も受付も制作もやることなく、本番当日は段ボールの積まれた後ろに隠れてソシャゲをやっていたが。
他のクラスもお化け屋敷は多かったし……。他は、屋台っぽいやつとか、展示会みたいなのとか?ああ、なんか珍しいことしてたところもあったっけ、たしか……。
「あとは……メイド喫茶だったっけ」
『……』
「……」
あれ、俺ずっと無意識に呟いてた?もしかしてずっと聞こえてた?すげえ空気が凍り付いたような気がするんですけど。え、いつも声小さいし聞こえてないよな……?うん、ダメだ視線が痛いね聞こえてたね。
ああ、終わった。俺の社会的死を迎えることになった。ちゃんちゃん。心臓が徐々に大暴走して加速している。他人の目が俺を敵視しているように見えてくる。胸が締め付けられるように息が苦しくなる。
よし、このまま死のう。次生まれ変わるなら……いや十分今世はチート並みにイージーモードだし、今のチー・オンターマのまま2週目させてくれ。
……だが、予想外の反応だった。
「それっすよ師匠!さすがっす!」
「はい?」
ネクラが急に賛成し始める。いやお前が第一声かよ。
「メイドと喫茶店を合わせるなんて面白そう!」
「はい?」
サンも賛成する。こいつはバカか?バカだけど。
「チー君がそう言うのが好きなら、私も賛成だよ?」
「はい?」
ユリアまで肯定したらこの世の終わりだろ……。魔法科クラス、頭狂ってんじゃねえのか?
てか、それを明日クラスの前で発表するとして、場が凍り付くに決まってんだろぉ!てか、絶対俺は言わんからな!
「へえ。じゃあお前らのクラスはメイド喫茶で決まりか」
「はい?」
え、冗談だよね?ね?俺はびくびくしながら昼休みを過ごした。
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翌日。今日は最初のホームルームが延長されて、出し物決めの時間に当てられるようだ。リーファは壇上の椅子に足を組んで優雅に座る。いつものリーファだ。
で、俺は別の意味でビクビクしていた。
「で。お前らは何を出すか相談して決めたのか?案があればどんどん言え」
「はいはーい!」
「ほう、サンだな。何かいい案を思いついたか?」
「はい!メイド喫茶がいいと思いまーす!」
はいさっそくフラグ回収お疲れ様でーす。まあでも、これならサンが思いついたことになるから、俺には関係ないってことで許そう。それに周りもきっと反対するだろうし。だが。
「なにそれ可愛いかも!」
「メイド服着るってこと?いいかもー」
「喫茶店かあ」
「すごい組み合わせだな」
「楽しみかも、それでよくない?めんどくさいし」
周りの反応はこんな感じだった。うん。なんでみんな乗り気なの?まあ確かに、この世界ってオタク文化なんて無いから、興味本位でやってみたい……ということかもしれん。
それに魔法科クラスは比較的女子率が多い。この世界では剣士は男、魔法師は女が比較的数が多い。だから女子の多い魔法科クラスではメイド衣装はぴったりということなんだろう。知らんけど。
学園祭でこんなことあったなあ……って、ぽつんとつぶやいただけなのに、実現しようとしていることに恐怖を感じて身震いするわ。
1人の女子生徒がサンに質問する。
「ねえそれってサンが考えたの?」
「いや?あそこにいるちぶふぉお」
「え?ちょ、だいじょうぶ!?」
あぶないあぶない。俺の名前を出されそうになったから手が滑って緻密な風魔法をサンの頭目掛けてぶっ放してしまった。サンは後頭部から風を食らって、自分から机に顔面を叩きつけて気絶した。
「チー君ってサンちゃんの扱いひどいよね」
「なんのことですか?」
これは俺の名誉のための正当防衛だ。丁度サンが前の席で良かったわー、当てやすくて。
リーファはすぐに全員に確認を取った。
「では、このクラスではメイド喫茶をやる。異論がある奴は?」
みんな顔を見合わせる。特に何もなさそうだった。うん、なんで?俺めちゃくちゃ異論あるけど。
「よし。決まりだな。長引いてめんどくさいことにならずに済んで助かった。よくやった」
先生がそんなこと言っていいんですかね。話し合いとかって確かにめんどくさいけどさ。これだからこの先生は好きなんだよ。楽だから。
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1週間後、皆それぞれ学園祭の準備期間が始まる。それまでにクラスでなんとなくの計画は立てていた。
女子の立候補でメイド役を任されたり、料理係を決めたりなどって感じだ。俺は……ニート役で……。
「チー君は受付と料理どっちがいい?」
「ニート」
「そんな役割ないから!サボらないの!めっ!」
はは、慌ててるところも可愛い……あれ?ニートの意味は通じるのか?確かこの世界では、チー牛は通じないし、陰キャは通じる。ニートも通じる。そもそも俺はこの世界に生まれた時から日本語でしゃべっているし日本語に聞こえる。
これは転生時の翻訳ギフト的なものだと思っているのだけれど、チー牛と陰キャ、どちらもネットスラングなのに、なんの違いがあるんだ?
そこで俺は考えた。恐らく、当たり前のことだが、この世界に存在しない概念は自動翻訳機能も通じないのだろう。チーズ牛丼なんてものはこの世界には無いからな。でも、陰キャという存在は人間界ならどこにでもいるから通じる。
ニートも、ネットスラングだけど、この世界にも働かない人間は存在するからニートはそういう人の事だと通じるわけだ。なるほどな。理解した。
「何考えてるの?チー君」
「改めて、チー牛って意味わかります?」
「え?わかんないけど、チー君前に確か、底辺とか弱者みたいな意味って言ってなかった?そんな言葉初めて聞いたし」
「えっと、じゃあニートは?」
「え?そのまんまの意味でしょ?働かずにさぼってる人のことだよね?」
おっけ。これでようやく翻訳のルールが分かった。まあわかったところで意味もないけど。チー牛って言っても、ユリアやレッドは、はてな浮かべてたしなあ。シオリーもそうだった……あれ?シオリーって、通じてたっけ?
「チー君!考え事してないで早く決めようよ」
ユリアは俺の目の前に顔を出してくる。今、俺重要なこと考えてなかったか?忘れちまったけどまあいいや。
どうしても働きたくないんだよなあ。まあ理由言えばサボるのは簡単よ。
「ああ、えっと、その日なんすけど、予定があって出れないと言うか」
「サボりたいだけだよね!?」
「チッ」
「今舌打ちしなかった!?」
思わず舌打ちが出た。まあ料理くらいしか俺にできることは無いだろうな。
「はあ……じゃあ料理でお願いします。てか、俺が受付できると思ってるんですか?人と目もあわせられないのに」
「まあでも、最初の頃よりはチー君も話せるようになったと思うよ?チー君が思っているより、日々一歩前進しているんだから」
「え?いや、どうですかね」
ユリアは褒めてばかりで本当に動揺して困る。すると、サンが振り向いてきて俺に声をかけてくる。
「ねえねえチー」
「あ、はい」
「チーもメイド役やったらどほおお」
なんか不吉な単語が聞こえたので緻密な見えない風魔法でサンの顔めがけてぶっ放した。




