第113話 話の通じそうなやばい奴
チー視点に戻る
ネクラがあの青髪のおっさんと対峙している間に、俺はユリアの行方を追っていた。
ユリアを誘拐したあいつは、まるで手馴れているかのように窓から光のごとく速く出ていったために、見失ってしまった。でも、あの時スキンヘッドを拷問したときについでに言っていた、「ここは神声教団のアジトだ」という言葉を思い出す。
だから、あの時スキンヘッドと戦ったあの場所にに向かう気がして、俺は王都の建物の屋上を次々に飛び移ってそこへと向かう。
よくアニメで見るような移動方法だが、まあ現実なら無理でも、この世界の魔素込みの身体能力なら風魔法も使わずに身軽に飛んでいけるから地味に楽しいものだ。前世でそんなことしたら、俺の低身長運動音痴ならそもそも届かないうえに足踏み外して落下しする自信しかねえ。
そして場所は覚えていたため、すぐに着いた。かなり急いだので、ここまでで1分も経っていない。相変わらず古びた施設といった感じだ。俺は建物のドアを開け、一歩踏み出す。以前と同じで暗くて見えにくかった。
時間がない。見つかってもいいから光魔法で辺りを照らす。そして、見つけた。ユリアを担いで佇む、黄色い瞳の、青い服を着た長髪の男。ユリアは気絶しているのか、担がれたまま眠っている。そして、男のその眼光は俺睨むでもなくただただ俺を見つめ、にまりと口角を上げてお出迎えしてきた。少し気味が悪い。
「君は……さっき学園にいたよね。なるほど、もう追ってきたんだ。すごいスピードだね」
なんていうか、印象は優しいお兄さん的な感じ。だけど明らかに隙がないというか、多分、あのスキンヘッドよりも相当強いと思う。あと、さっきの青髪のおっさんよりも多分強い。
面倒だけど、騎士としてユリアを取り戻さなきゃならない。このロン毛男と会話する必要もない、時間がないんだ。ネクラも今は教室で戦っている。
俺は地面を蹴り、風魔法を駆使してスピードを上げ、ロン毛のもとへ一気に距離を詰める。だがその瞬間、奴は空高く跳躍して避けた。なんて瞬発力だ、飛び上がった瞬間が目で追えなかった。
そして驚きなのが、奴はそのまま宙に浮いているのだ。風魔法?それとも何かしらの特殊能力か?
ロン毛は頭をかきながら、少し呆れながら続ける。
「待て待て。そう急ぐな。まずは自己紹介くらいしようぜ?それが神声教団のルール……らしいな。僕は神声教団の四天王が一人、青龍。君は?」
四天王、前にスキンヘッドが言っていた一人か。たしか、大魔法師……。あの身体能力で大魔法師?おいおい冗談じゃないぜ……。
青龍は俺がしゃべるのをずっと待っている。悠長に自己紹介なんかしてられないが、言わないといけない雰囲気っぽいのでめんどくさいがすぐに名乗る。
「チー・オンターマ、です」
「チーか。で、ここに来たのは――この姫を取り返しに来た、というわけか」
「あ、はい」
「そうだろうなあ。う~ん、そうだなあ。君、すっごく面白そうだし、僕と一戦交えてくれたら、返してくれてもいいよ?」
「え?いや、え?あ、えっと……」
マジで?返してくれるって言った?戦うだけで?なんだか、他の神声教団とは違う雰囲気を持っている気がする。
こいつはもしかすると、話が通じるタイプか?でも、スキンヘッドによれば、神声教団は声に従って動いてる、言わば洗脳状態みたいなイメージだよな?まさか、返してもいいなんて声を聞いてるわけあるまいし……。
なんとなく、こいつの優しそうな雰囲気と、話の通じそうな雰囲気に賭けて、俺はいくつか質問をしてみる。
「えっと、返してくれるんですか?」
「うん。もちろん。僕は嘘はつかないよ。ただし、さっきも言ったけど、僕と戦ってくれたらね」
改めて言質取った。返してくれると。これは楽できるぞ?それともう一つ。
「えっと、その、青龍さん?は、声に従ってないんですか」
「うん。まあ声は聞こえるけど、洗脳された振りしてるんだ」
「あ、はい……え?」
「だって、神声教団って強そうな人、多そうじゃない?でも、ちょっと、玄武以外はあんまり美味しそうじゃないんだよなあ。
ひとまず面白そうなやつに出会えるまで、神声教団の活動は続けようと思っていた矢先……君を見て、すっごいゾクゾク来ちゃってさあっ!ここで君と出会えたのも、神声教団に従う振りをしていた甲斐があったもんだよなあ、うんうん」
こ、こいつ……よくいる戦闘狂ってやつか?洗脳が通じないってのは、それだけ強い奴と戦いたいっていう強すぎる意思があるからなのか、こいつが強すぎる故に声が効かないのか……。なんかあんまりこいつと戦いたくなくなってきたんだけど。なんかボコされそうな気がするから、俺は交渉する。
「あの、痛いのは嫌なので、戦うなら、手加減してほしいんですけど」
「いいよ」
「え?」
「僕、基本的に手加減してるし。まあでも、君の強さ次第で本気出しちゃうかもしれないけど」
「やめてください」
「冗談だよ」
「嘘つくのやめてもらってもいいですか」
「怒んないでよ~。いいよ、僕は寸止めしてあげるから。君は本気でかかってきてよ。あ、この子は一旦降ろさないとね」
青龍はそのまま地上にゆっくりと地上に降りてくる。そのままそこらへんにあった長椅子にユリアを寝かせる。すると、青龍はユリアに、バリアのような透明に近い紫色の光で包み込んだ。これは何の魔法だ?
「よし、これでこの子の安全は保障された。さあ、チー、ありったけの君の力を僕に見せてくれ!」
「え、あ、まあ」
俺は剣を取り出し、戦闘態勢に入るのだが……青龍は長い髪を縛るだけで、武器も何も出さない。剣も杖も出さない武闘派スタイル?
まあ、それならそれでいいが、スキンヘッドみたいにナイフとか恐ろしいものを持っていなくて、かなり気持ち的にゆとりができている。それに俺には寸止めにしてくれるらしいからな。なぜか、こいつは信頼できる。
今の自分の実力も試してみたい。ゲーム感覚で俺は青龍に挑んだ。




