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拗らせ陰キャの異世界自己防衛ライフ 〜イケメンに転生してもガチ陰キャ〜  作者: 玉盛 特温
第3章 学園2年編

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第110話 陰キャの時間稼ぎ




 ネクラ視点↓





 おっさんはチー師匠が学園を出ていったのを横目で眺めていた。そして残念そうにため息をつき、まるで虫を見るような目で俺を見下ろし、だるそうに言葉を発した。


「貴様のせいでガキを逃してしまった……まあ、あのガキが追いついたところで、青龍には勝てまい。まあいいだろう。さて、自己紹介がまだだったな。わしはルー・ディザスタだ」


「……!?」


 ルー・ディザスタ。聞き覚えがある。ブルーの父であり、水流型を極めた剣聖だ。そしてディザスタ領の水流型の道場主でもある。こいつは戦いのプロだ。何百ものB、Aランクの魔獣を相手に無傷で討伐したことがある、という噂があるらしい。


 なぜ、そんな人が人さらいなんかをしているのか……こいつも、神声教団の一員ってことだろう。


 さすがに、そんな大物とタイマン張って勝てるなんて思えない。俺は周りの生徒よりは強い自信はあるが、戦いのプロには敵わないだろう。まあ、師匠ならワンチャン勝てるかもしれないが。


 だからこそ、師匠が戻ってくるまで、時間を稼がなければならない。


「貴様の名前はなんだ。剣士として、貴様も名乗れ」


「……ネクラ・ヒキコーモリ」


「……ほう。ヒキコーモリ家の人間か。どおりであの速さか。……さて。さっそく殺し合いと行こうじゃないか。わしも時間がない。速く終わらせてやろう。その方が貴様も苦しまずに済む」


「……」


 ルーは動き始める。だが、剣を構えるだけ。まあ、ルーは水流型だ。受けを極めているのだから、当然だ。こちらが攻めるのを待っているのだろう。


 ならば、こちらはルーが反応できないほどの超スピードで攻めるのみ。俺は一瞬でルーの間合いに近づく。


 ルーの首を目掛けて短剣を振るが、直前で受け流された。だが、こちらは短剣二本持ちだ。一回では終わらない。


 間を置かずに、もう一方の短剣を振る。しかし、それはひょいと首を横にずらして躱される。どんなに高速で振っても、受け流され、躱される。すべて最小限の動きで、まるで水が流れるような流麗な動きで……。


 さすがは水流型を極めた男だ。敵ながら見とれてしまうほどだ。ルーは余裕の表情でゆっくりと一歩前に出る。


「なるほど。さすがの速さだ。だが、足元がガラ空きだな」


 俺は一旦後退しすぐに攻撃に入るが、ルーは再び攻撃を躱しつつ、俺の足元を蹴り払った。俺はバランスを崩し、空中で回転する。ルーはそのまま剣を俺に突いてきたが、咄嗟に短剣で薙ぎ払い、カキンという音が響く。危なかった。


「ほう。終わったと思ったのだが……久々に楽しい戦いができる」


 俺はちっとも楽しくない。俺は暗殺者とはいえ、殺し合いは本来好まない。そもそも、暗殺者は無意識のターゲットに気づかれずに殺すことに特化している。真正面の一騎打ちは明らかに不利だ。


 とは言え、訓練は積んでいたのである程度は戦える。勝てなくてもいい。とにかく、時間を稼ぐんだ。


 その後も、ひたすら手数とスピードで攻め続けた。だが、どんなに速く立ち回っても、すべて躱され、受け流される。ルーも飽きてきたのか、退屈そうに欠伸をする。


「ふわあ……貴様、どんどん動きが速くなっていくのは素晴らしいが、速いだけではわしは殺せぬぞ。だんだん飽きてきた。もう手はないのなら、終わらせたいところだが」


 確かに、そのだるそうながらも余裕な表情からは、俺をいつでも殺せるというのは何となくわかる。


 俺はこの戦いがもう30分にも感じるが、実際には、まだ数分しか経っていないはずだ。なんで嫌なことは時間が経つのが長く感じるんだろう。


 ただ、ルーの言う通り、俺にはまだ手がないわけじゃない。しかし、こんなに早く出しては、この後がどんどんきつくなるだけ。でも、死んでしまえば、時間稼ぎも意味がなくなる。なら、出し惜しみしている暇はない。


 俺は一旦距離を取る。ルーは再び剣を構える。そして俺は先ほどと同じく、思いっきり足を踏み込んで地面を蹴り、一瞬で奴に接近する。


 奴はやはり俺の動きを捉え、剣で薙ぎ払った。しかし、ルーの薙ぎ払った剣は……スッと俺をすり抜ける。


「!?」


 奴は何が起きたのか分からないように目を大きく見開く。そのまま俺は奴をすり抜け、背後に回る。そして、首を目掛けて短剣を振った。ルーはギリギリで反応したが、避けきれずに頬を切られ、その飛び散った血が、宙を舞う。


 奴は頬を指ですうっとなぞった後、俺を睨んでくる。


 俺は、ヒキコーモリ家の血筋のみが扱える暗殺技術を使ったのだ。自分と身につけている物体そのものの存在を一瞬だけ消す、もっと細かく言えば、一瞬だけ裏の別次元に、自分の存在を飛ばしていたのだ。


 だから奴の攻撃は俺をすり抜けた。実質、無敵状態。ただし、こちらももちろん攻撃は与えられない。攻撃を与える際は解除する必要がある。


 あと、魔素はそれ相応に消費するので、乱発はできない。あくまで、回避手段だ。


 ちなみに以前、ヤンキからのユリアの暗殺依頼の時、ユリアの部屋に窓から忍び込んだ時も、この技術を使って部屋に侵入した。


 にしても、このスキルを使って奇襲をしたのに、ギリギリでも躱されたのは初めてだった。さすがに水流型の剣聖という名は伊達じゃない。


 ふと、ルーを見ると、睨んでいたさっきまでとは違い、ルーは指に付いた血を見て笑っていた。


「ふは、ははは、久しぶりの痛みだ……わしの顔に傷をつけられたのは、何年ぶりだろうか……。貴様、もっとわしを楽しませろ!わしも貴様がガキだからと油断していた!」


 目は狂気に染まっている。まるで狂人だ。


 奴は完全に楽しんでいるが、こちらは逆にかなり絶望を感じている。このまま奴が手加減してくれていればよかったものの、奴は本気を出してしまえば、もう数分も持たないかもしれない。やばいぞ、こりゃ。


「ふう、わしも少し本気を出してやろう」


 そう言って目をカッと開く。ルーの視線は……動いていない。目はカッと開かれているのに、焦点が俺を捉えていない。ただ虚空を見つめているようだ。ルーは静かに剣を構え直した。


「さあ、来い」


 ルーは手をくいくいと動かし、挑発するように手招きする。


 ……どういうことだろうか。特に雰囲気が変わったとかそういうものは感じないのだが。ならばと、こちらも全速力で駆けて瞬時に距離を詰める。ルーの視線は……動いていない。なぜだ……まるでこちらを見ていない


 俺はそのまま背後に回り、首を目掛けて短剣を振りかざし奴の首を飛ばした――はずだった。俺の短剣は見えぬ一撃で弾かれていた。すかさずもう片方の短剣で……と振りかざした瞬間、またしてもガキンと音を立てて吹き飛ばされた。


 これで、俺は両方の短剣を失った。


「終わりだ」


 奴はそのまま剣を振りかざした。俺は身体を無理な体勢でなんとか体をそらして間一髪躱すが、奴はそのまま追撃の蹴りを横っ腹に食らい、教室の壁に吹き飛ばされた。壁にひびが入るほどに背中から激突する。


「が!?」


 猛烈な背中の痛み。肺をやられ、息ができなくなる。喉に何かが上がってくるような感覚。体が思うように動かない。


 ルーは俺を見下ろしながら、ゆっくりと語り始めた。


「わしは水流型を極めた結果、この空間の音、動き、距離、すべてを、己の感覚だけで察知する能力を手に入れたのだ。貴様がどこにいようと、どこから現れようと、この空間にいる限り、わしにはすべてお見通しというわけだ。さらにわしの極めた反射神経さえあればどんな攻撃も受け流せる」


 つまり、この男が把握する“間合い”の中にいる限り、どんな攻撃もどんな動きをしてもすべて視えている、というわけだ。考えることもなく、感覚だけで分かるから、見る必要すらなかったというわけだ。空間そのものから、俺の動きを“視ていた”のだ。


 剣は直接奴の間合いに入らなければならないし、遠距離からの魔法も使えるが、剣に比べて発動の速さが劣る。近づくにも、遠距離でも、必ず奴の間合いに入る必要があるのだ。


 これはきついどころの話ではない。ああ、師匠……俺、死ぬっすわ。





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