第11話 何で異世界の人間は皆バケモンなんだ?
今日も朝から、父さんと剣の稽古をしている中のことだ。俺は自由に体を動かしながら、ふと思った。
なんで、この世界の人間はこんなに身体能力がアホなんだろうか。
俺自身、地球では運動神経が良くなかったのに、この世界では思い通りに体を動かせる。もちろん、優秀な遺伝子とか、父さんの稽古あってのものだとは思うけどさ。でも不思議なんだよ。
この前のオルフという魔獣の群れを父さんが無双したのを見てて、ふと感じた疑問だ。それに魔獣だっておかしい。
元となる動物は地球と何ら変わらないが、魔獣も身体能力が高く、もし地球の人間が魔獣と対峙すれば武器でもなければすぐに殺されるだろう。
今日もどうせ暇だから魔素について知っていることを整理してみるか。
まず、魔素は目に見えないが、火にも水にもなんにでもなれる万能なよくわからない力。
もうひとつは、あくまで仮定でしかないが、生物の身体能力を上げる能力が魔素を帯びた動物を魔獣というが、かなり強い。人間もまた、体内に魔素を蓄えている。人間も魔人みたいなものだな。
さっきから何度も魔素と言っているが、そもそも、魔素ってなんなんだ?魔素はなぜこんなに万能なんだ?
さっきの仮定のように、魔素が生物を化け物にしているのか、それとも、この世界の重力が薄いのか。魔素とか関係なく、この世界の人間自体のスペックが高いのか。
そんなことを考えながら、いつもの剣の稽古が終わると、見学していたユリアはいつものようにこちらにやってくる。ていうか、いつもいつも見学してくるのマジでやめてくれない?俺がお前のことじろじろ見てやろうか?あ?……捕まるからしないけど。
ちなみに、魔素は基本は目に見えない。しかし、一部の人間は魔素が視認でき、他人の魔素を操作できる。”魔眼”と呼ばれる目を持っているためだ。
その一部の人間のみが治癒魔法を使えるのだ。治癒師はその人の魔素を操り、けがを修復し、病気を取り除くのだとか。
それができるのは他でもない、ユリアなのだ。
丁度いいので、今日は治癒魔法を扱えるユリアに協力してもらいたいことがある。ユリアは俺に水筒を手渡し、声をかけてくる。
「今日もお疲れ様」
「あ、はい」
このシチュ、まるで部活のマネージャーやな。俺も前世はこんな青春がしたかった……。
ちなみに、ユリアといつも何してるかっていえば、基本、ユリアの話を聞いて頷いてあげたり、質問されたり……。なんでこんな俺に執着してくるの?あ、イケメンだからか。
え?なんで常に受け身かって……話すことがないからに決まってんだろ。俺は前世でも自分から話しかけるとかほぼなかったからな?
どうせ勇気出して「今日もいい天気だね」とか言っても、「そうだね」で会話終わる未来しか見えん。なぜみんな話のネタが無限に湧いてくるんだ?
まあ愚痴が出てしまったが、ユリアには俺の実験に付き合ってもらいたい。頼むの嫌だなあ、ていうか、俺から話しかけるのも怖いんだけど……。
「えっと、ユリアさん」
「え?えっ、珍しい……チー君から話しかけてくれるなんて……!」
「すみませんなんでもないです」
「なんで!?……じゃなくて、教えてよチー君!」
ユリアは目を丸くして物珍しそうに俺を見てくる。これだから嫌なんだよ。早く終わらせよ。
「えっと、少し、付き合ってほしくて、ですね」
少しの沈黙。俺なんか変なこと言った?すると、ポッとユリアの顔が赤くなり、手をブンブン振って慌て始めた。
「え?ななに言ってるの!?勘違いしないでほしいけど、まだ私たちはそういう関係じゃ――」
「あの、勘違いしてると思いますけど、実験に”付き合ってほしい”ってだけです」
「え?……あ、そうだったんだね、別に、ただ確認しただけだからね?最初からわかってたから……うう……」
まあ俺の伝え方も悪かったが……ユリアはさらに顔を赤く染める。まあ、絶対勘違いしてたよね。可愛いなおい。ていうか、この子って意外と天然?ひとまず、俺はユリアとメイドを家に招き入れた。
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そのまま俺の部屋へと案内する。何回か自分の部屋にユリアとメイドを招いているので慣れたものである。
最初はドキドキしたものだ。自分の部屋に女子を入れるなんて、イケメンフツメンしか体験できねえイベントだ。
ああ、ブサイクの頃はイケメン嫌いだったけど、いざ自分がイケメンになるとイケメン最高!ってなるわ。人間、都合が良くなったり悪くなったりするとすぐに考えをころころと変える、そういう生き物だ。
「早速ですけど、えっと、君は、えー、その、治癒魔法が使えるんですよね?」
「そうだけど、その……」
「けど?」
ユリアがうつむいて少し手をもじもじし始める。何か言いたげだが。う~ん、こういう何でもないしぐさや動きすら可愛いなんて反則だ。童貞チー牛にはダメージがでかすぎる。とりあえずさっさと言え。
ユリアは上目遣いで俺を見つめて答えた。
「その、ユリアって呼び捨てにしてもいいんだよ?」
「え?いや……俺なんかが呼び捨てになんて」
「む~、またそうやって卑下する。友達なのにさんづけもおかしいと思うんだけど。そもそも、君ってなんなのさ。私にはユイ……ユリアって言う名前があるんだから。なんか、少し距離を感じるし。どうしても呼び捨てが嫌なら仕方ないけど――」
「じゃあさん付けで」
「なんでそうなるの!?撤回!仕方なくない!呼び捨てにしないと実験に付き合わない!」
ユリアはプイっとむくれてそっぽを向く。なんて理不尽な……。な、なんでそこまで呼び方にこだわるんだ?
俺なんか前世で名前呼びとか小学校以来したことねえし、女子に仕方なく話しかける時も「あの」とか「すいません」って話かけるからね?
まあこれ以上話が進まなくなるのもあれなので。呼び捨てすることにする。ただし、
「はあ、分かりましたよ、ゆ、ゆゆゆゆゆりりりあ……」
「どもりすぎ!?そんなに私の名前呼ぶの嫌なの!?」
そうじゃないが、女子の名前を呼び捨てするなんて、俺にはハードルが高すぎるのよ。こうなっても仕方ねえだろ……。これだから俺はチー牛なんだ……。俺は一旦落ち着いてから、再び話す。
「と、とりあえずユユリアにしてほしいことは」
「ユリアだよ!」
だめだ、どもるせいで某宇宙の帝王の手下みたいな発音になってしまう。
「あ、えっと、ユユ、ちが、ユ……リア、にしてほしいことなんすけど、えー、俺の魔素を取り除くことはできますか?」




