第109話 次から次と悩みが舞い込んでくるなあ
後日。モヤモヤしたまま学園へ登校する。あいにく今日は俺の心の中のように空は曇っている。テンション下がるなあ!
そんな俺を、ユリアは昨日からずっと不思議そうにじ~っと見ていたが、何か聞いてくることはなかった。まあ、その方が助かる。というか目を合わせたら目を逸らされるし。
午前の魔法の授業もあんまり耳に入らなかった、まあ、すでに複数の上級魔法は独学で習得しているから、聞かなくても別にいいのだが。
そしていつの間にか昼休みになっていた。
ユリアは「ちょっとお手洗いに行ってきます」と言い、ササッと席を立って教室を出ていく。
とりあえず俺とネクラは弁当の用意だけして、戻ってくるまで廊下の扉前の席で待つことにする。ちなみに、ネクラも、俺の様子を疑問に思っていたらしい。ネクラは俺に小声で話しかける。
「師匠、その、何かあったんすか」
「え、いや、別に」
いやいや恋の悩みなんて恥ずかしくて言えるかよ。後輩女子に告白されました~なんて言えるか!
「なんか、今日、ユリアも様子がおかしいんすよね。喧嘩でもしたんすか」
「え?してないですけど」
「ユリア、ずっと師匠をちらちら見たりしてましたよ。好きなんじゃないすか?」
その言葉に一瞬びくっとする。そんなことはあり得ない、軽くそんなこと言うな。でも、もしそうだったら?まあ俺は現実が見えるから、勘違いは絶対にないが。
「それは無いです。あったとしても、友人としてでしょう。いや、それすらありません。内心ではきしょいと思ってますよ」
「あのー師匠、正直、誰が見ても脈ありっすよ、あれ」
「ずっと一緒にいるからそう見えるのでは?あくまで姫と騎士、ですから」
あんまり俺は認めたくない。ユリアも俺に好意があるんじゃないか?っていう行動は確かに多い。デート誘ってきたり、平気で俺の部屋に上がって来たり。
でも、俺の心は傷ついたままで、いくらユリアでも、どうしても、人間や女を信用できない。
そもそも、俺なんかに好かれるユリアがかわいそうですらある。ネクラは苦笑いしながら話す。
「ユリア、師匠のいないところでは、かなりの頻度で嬉しそうに師匠の事ばかり話してますよ」
「え」
「正直うざいっすけど」
あ、うざかった。なんかすまん……いや別に俺は悪くないよね。
「いつも師匠の話してるユリアが、師匠を好きじゃないってのもおかしくないすか。あんな元王族で警戒心の強いユリアが、好きでもない異性と一緒にいるなんて考えられないっすけど」
「……それは、ユリアの騎士なんだから当たり前じゃないすか」
「師匠だって、実際、ユリアの事好きなんじゃないすか」
「ちが……わなくもないが、まあ、人としては」
「それ好きって言ってるのと同じじゃないすか」
「お前さっきからからかってんの?」
「え!?急にどうしたんすか師匠!?マジで怖いんすけど!ていうか図星だからって胸倉掴まないでくださいよ!図星なんすか!?」
俺はネクラの胸ぐらをつかんでいた。あ、つい冷静さを欠いてしまった。くそ、絶対認めねえからな。
ネクラはすぐに落ち着きを取り戻し、真顔で話し始める。
「俺は師匠とユリアはお似合いだと思いますけどね」
「は?んなわけあるか……ありませんよ」
「そうやってすぐに自分を卑下しますけど、実際、いつもやるときはやる男なんすよね……師匠は。俺だって、師匠に助けられたし、俺が女だったら惚れてますよ、顔もうざいほどかっこいいし」
うざいほどって……。イケメンってだけで、嫉妬で恨まれることもある。でも、チー牛の悩みに比べりゃ断然マシだ。イケメンは罪だ。
でも、とにかくあり得ない。こういうお世辞みたいなのは、信じない。人は嫌われないために、保身のために平気で嘘をつく。ネクラもその可能性が無いわけじゃない。
「あ、戻ってきましたね」
「え」
そうしてユリアはお手洗いから戻ってきた。ユリアは俺を見ると、少し照れたように目をそらし、横髪をいじる。俺がユリアを見ようとすると、明らかに視線を逸らした。
ユリアが横髪をいじるときは、たいてい照れてるとか手持無沙汰とかそんな感じの時だ。昨日からずっと変な感じなんだよな、ユリアは。
そんな気まずい雰囲気の中、いつものように屋上へ移動しようと、ユリアが教室を出ようとしたその時だった。
「みつけたぞ、ユイ・ローレンティア」
ユリアの目の前に、明らかに只者ではない雰囲気の青髪オールバックのひげ面のおっさんが立っていた。身長は180以上はあるだろうか。
ユイ・ローレンティア……これはユリアの本名だ。それを知ってるのは王族の関係者だけのはずだ。おっさんの視線はユリアだけを鋭く捉えていた。ユリアはプルプルと震えながら、顔を青ざめていた。
「なんで、その名前を……?」
そうつぶやきながら。
ユリアは誰が見ても明らかに動揺していた。てか、俺もこの状況の意味もわからず固まっていた。その瞬間、「捕らえろ」とおっさんの口から聞こえた。
俺は本能でまずいと感じて、すぐにユリアを掴もうと手を伸ばすも、一足遅かった。間に合わず、おっさんが一歩引いて道を開けた瞬間に、後ろから別の男が一瞬でユリアを連れ去っていった。なんだ今の、速すぎる。
急いで追いかけようと教室を出ようとするが、おっさんに教室の入り口を咄嗟にふさがれる。
「行かせんぞ。ユイ・ローレンティアは神復活のための生贄……絶対に成功させなければならない」
今のセリフ的にも、こいつらは神声教団だってのは何となくわかる。マジでだるいな。
にしても、ユリアは偽名で、髪色や目の色まで変えているはずだ。なのに、なんでユリアの正体がバレている?だけど同じ神声教団のスキンヘッドはユリアに気づかなかったし。もしかして、こいつは幹部なのか?
周りを見渡せば、教室の中で昼飯中だったクラスメイト達は、いきなり見知らぬおっさんが現れ、ユリアが連れ去られたことで、逃げ出そうとしたり、パニックになっている。比較的冷静なのは俺とネクラだけ。
はやくユリアを追いかけないと……護衛に失敗したなんてメイドにバレたら……。
すると、おっさんはいつの間にか剣を抜いていて、俺の目の前で迷いなく薙ぎ払ってきた。俺はずっと警戒していたから、とっさに躱したが、気づけなかったら首が吹っ飛んでいただろう。
「今のを躱すとは、褒めてやりたいところだが、わしらの邪魔をするなら、本当に殺すぞ」
おっさんは明らかに殺意を放っている。教室の中は、突然剣を振りかざしたおっさんに、さらにざわついた。
速くこいつを倒して、ユリアを助けなければならない。俺は仕方なく剣を抜く。ただ、最近、スキンヘッドと戦ったばかりで、まだ恐怖が残っていた。
俺は手が震えながらも剣を持つ。しかし、肩をトントンと叩かれて、後ろのネクラに気付く。
「師匠、こいつは俺がやりますから、師匠はユリアを追ってください」
「え、でも」
「大丈夫っす。俺だって暗殺家業で修行を積んでますから。時間稼ぎくらいはいけるっすよ。早く行かないと、ユリアにもう二度と会えなくなるかもしれないっすよ」
一生会えなくなるかも。その言葉を聞いて、少し怖くなる。でも、ネクラを一人で任せてしまうのも、怖い。
……でも、悩んでいる暇はなかった。ネクラは多分俺より強いだろうし。俺も早くユリアを取り返して、ネクラの元に戻ってくればいいだけ。
「その、お願いします。絶対に、死なないでください」
「もちろんっす。あ、師匠、できるだけ、速く戻ってきてくれると、助かります」
俺はうんと頷く。ネクラはひょいと一瞬でふりむき、おっさんに短剣を振るった。おっさんもネクラの攻撃を瞬時に見切り、鉄のぶつかり合う音が響く。
俺はその隙にユリアを探すために教室から出ていった。おっさんは俺を逃がして、眉間にしわを寄せ、怒りをたぎらせながらネクラを睨んだ。
「チッ。貴様、わしらの邪魔をした対価、死で払ってもらうぞ」
「……」
おっさんは剣を振り上げ、ネクラは距離を取る。俺はネクラが無事に生きてくれることを祈りながら、ユリアを連れ去った奴を追った。




