第107話 弱者男子は救われたい
ブサをいじめていた3人を追い出し、静かになった教室の中、ブサと二人きりになる。あまり人と関わろうとしない二人だからか、普通にきまずい。しかし、ブサが口を開く。
「えっと、まあその……助かった」
「あ、いえ、あ、はい」
「努力してこれですって言われた時はちょっとムカついたけど、まあ事実だし」
「あ、いや、あのマジであれはすいません」
よく考えたらあれはひどい言い方だったな。でもブサはなんだかんだその言葉を事実と受け止めていたようだ。なんか言ってやらんと、嫌われるよな?
「えっと、俺はブサが俺の教えを聞いて頑張ってるのは知ってますから。俺は魔法に限れば、学年でも人並みには扱えていると思います。嘘はついてません」
「え、いや、あんま褒められたこともないから恥ずいんだが……やめてほしいんだけど」
ブサは首をかきながら目を逸らす。
「ていうか、チーが元底辺の転生者だったってこと、半分疑ってたけど、何となく本当に感じた」
「え、いや、まあ」
「チーも俺を努力不足なんて言って来ると思ってたから……」
「俺もまあ、その、ブサみたいに馬鹿にされてきましたからね。立てますか?」
「まあ、殴られただけだし」
ブサは俺の手を借りず自分で立ち上がる。ブサの頬には軽いあざができていた。弱者男性は、どこの世界でも苦労するものだな。だが、ブサは立ち上がると悔しそうに、机に拳を押し付けながらつぶやいた。
「俺も分かってる、この世界は才能がすべてだって。いや、すべてとは言わないけど、だから少しでもと思って、勉強も頑張った。
でも俺には、剣も、魔法も才能がなくて、顔もきもくてモテなくて。悪いけど、チーを見てると嫉妬で気が狂いそうになるよ。俺の気持ちを分かってくれるだけ、俺はチーを良い奴とは思ってる。ほんと、辛すぎるよ……」
……俺はなんて言ってやればいいのかわからない。だったらがんばれ、なんてことは絶対に言えない。俺がそれを言われたらブチギレる。
前世もこの世界も、弱者はどう頑張っても救われることはない。前世だって、国はすでに標準以上の人たちのための政策ばかりで、本当の弱者のための政策なんてしてこなかった。
成功したものばかりが目立ち、底辺は誰も見向きもしなかった。どの世界も、運だ。自分でどうにかできるという範囲は限られている。自分だけで這い上がったやつもそれだけの執念を持つ才能があったわけだ。普通なら挫折する。
さらに周りの理解もなく、弱者は努力不足、自己責任とされ、誰にも頼ることもできず、完全に心を折られ、〇ぬか、無敵の人と化す。
俺には、ブサの気持ちは分かっても、救うことはできない。いや、ブサの気持ちが分かるだけでも、多少の救いにはなると思っていたい。
とにかく、何か言わないとと思って、俺は自然と口を開いた。
「その、現実は、弱者が救われるなんてことはないです。這い上がった奴も数%だけです。それは仕方ないです。でも、俺も同じ弱者だったから、その、気持ちくらいは共有できると思います」
「そっすか。まあ、助かる」
ブサの拳の握る力はいつの間にか、緩んでいた。そして、少しだけ表情も安心していたようにも見えた。でもすぐに顔を背けていた。これなら、確証はないけど、多分大丈夫そうかな。
「えっと、俺も用事あるんで、とりあえずもう行きます。あ、あと、えっと、アドバイスです。歩きながらでも走りながらでもいいので、魔法を練習してください。多分、それがブサの武器になります」
「え?いや、どういうことだよ」
「お疲れさまでした」
ブサは俺を引き留めようとしたが、俺はちょっと気まずくて、逃げるように教室を後にした。そもそも俺は図書館に行こうとしてたんだぞ?まあでも、努力信者の心も折ったし、ちょっといいことをしたような気がして、少しだけ気分がよかった。
ブサと別れた後、少し早歩きで図書館へ向かう。まあ本返すだけなんだけどな。ネクラもユリアの護衛にパシらせてるから早く解放させてやんないとな。
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図書館に着いていつものように受付に行くと、今日の受付はシオリーではなく、シオリーの先輩のメガネの図書委員だった。
またシオリーが攫われたのかと、一瞬不安になる。受付女子は俺に気づく。
「あ、シオリーの彼氏さん」
「チッ……彼氏じゃないです」
思わず舌打ちしてしまったが、この人からはもう俺はシオリーの彼氏認定されているようだ。断じて違うからな。
一瞬、俺の殺気に図書委員がビクッとしたが、まあからかってきたお前が悪いということで。
俺はシオリーが今日いるか、念のため聞いてみる
「あ、えっと、今日はシオリーは……」
「ああ、シオリーちゃんは今日はお休みだよ」
なるほど、図書委員の休みの日だったか。また神声教団にさらわれたわけじゃないようで良かった。俺は返却する本を彼女に差し出し、彼女もそれを受け取り、返却処理を進めながら話す。
「シオリーちゃん、あなたに助けられてから、少しまた明るくなった気がするの」
「そう……っすか」
「私からもお礼を言うね。シオリーちゃんを助けてくれてありがとう」
「あ、い、いえ……」
「君っていつもどもってるよねえ」
仕方ねえだろ、コミュ障なんだから。付き合いの長いユリアやレッドですらまだどもってんだぞこっちは。ん?レッドはそれほど長いか?まあいいや。
にしても、俺はこの世界に来てから、本当に人に感謝されることが多くなった。前世じゃありえないことだ。前世では何も期待されず、何も必要とされなかったのに。彼女は、本を棚にしまうと、まるで悪いことを考えているように、少しだけにやけながら口を開く。
「でさ、シオリーちゃんから伝言だよ」
「え、なんすか」
「放課後……って今だけど、体育館裏に来てほしいって」
「え?……あ、はい」
「じゃあ、頑張ってね、シオリーちゃんの、か・れ・し・さん」
俺はさすがに二度目はイラっとして、その受付女子をキッとにらみつけながら杖に手をかけたが、「じょ、冗談だってえ……」とビビっていた。
しつこいとさすがにうざい。てか、何が頑張ってね、だ。何を頑張るんだボケ。
とりあえず、言われた通り、面倒だけど俺は体育館裏に向かって行った。
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その時、受付の女子は「ま、冗談じゃなくなると思うけどね」とひとり、聞こえない声で呟いていた。




