第10話 父親の狩りがすごくて驚いたよね
ある日、オンターマ村に魔獣が襲ってきた。
魔獣というのは、この世界の動物が、魔素を帯びて狂暴化した生物、と言ったほうが良いのだろうか。俺もよくわからん。
知能を持つ魔獣も多くいて、そういうのはペットにしたり、パーティのお供になったりとかはあるらしい。そんなに多くは無いっぽいけど。
今回襲ってきたのは、そういうのではない、人を襲うような魔獣だ。狼のような見た目で、薄めの黒い毛並みだ。オルフという名前で、ブラックオルフ、ハイオルフという上位種も存在する。今回は普通のオルフだ。
作物などを荒らしまわったり、人を襲うこともあるようだ。身体能力は地球の動物とは比にならない。
ちなみに、基本は魔獣の被害が起きれば、ギルドに要請し、すぐさまパーティが派遣されるのだが、この村には剣聖がいる。
そう、俺の父さんだ。この村の治安が保たれているのは剣聖の父さんがいるからである。
朝、魔獣が出たという連絡が入った。父さんはよほど自信があるのか、特に戦闘服に着替えるでもなく、いつも通りの服装だった。俺と父さんは村の近くの森で、草むらにしゃがんで身を潜めつつ、遠くにいるオルフの群れの様子を窺っていた。
「よーく見てろよ?」
父さんは立ち上がり、親指を立てつつ、二っと歯を見せて俺に笑いかけて、狼の魔獣に向かって飛び込んでいく。普通にちょっとうざいからこっち見んな。
だが、オルフの群れはまあまあ離れていたのに、父さんは一瞬でそこにたどり着いた。
「はっや」
思わずそうつぶやいてしまう。この世界の人間はおかしい。まるで父さんが消えたみたいだった。
なにか、身体強化とか、そういうバフの効果でもあるのか?それとも無意識にそういう能力を使っているのか?前に父さんに聞いてみたがそういう能力はないらしい。
これが、この世界の人間の元のスペックなのだ。
たしかに、俺は剣の稽古を始めた時に父さんは「腕立て50回な」とガキの俺に平然と言った。やばいこいつスパルタかと思ったが、なぜか、余裕だったのだ。
謎に体が軽く、地球なら10回もきつかったのに、だいたい50回までは余裕だった。まるで自分の身体じゃないような気がして気味悪かった。
この世界は重力が薄いのか?色々と考察はできるが、この世界ではとにかく、元の人間のスペックが高いのだろう。
この世界の動物が魔獣なら、この世界の人間も地球人からすれば魔人や宇宙人のようなものなのかもしれない。
要するに、地球人とスペックが1段階違う。常識で測ろうとするだけムダってやつだ。魔獣の群れに飛び込んでいった父さんは目にもとまらぬ速さで一掃した。
父さんはまるで光の速さで、剣で円を描くように美しい戦いを見せていた。なんというか、剣と体が一体化しているような美しさだ。気づけばオルフの首が次々と飛んでいる。これは、戦いというより、一方的な虐殺のようだ。
週に一回、父さんと剣の稽古中に模擬戦を行うが、どれだけ手加減してくれているのかが分かる。やはり俺はちょっと剣を触れるくらいで自惚れてはいけないな。
残り1匹になった魔獣が逃げていく。
「よし、後はこいつを追ってけば奴らの巣があるはずだ」
1匹を残したのはわざとだ。なぜなら、逃げたオルフの先に巣がある。その巣ごと魔獣たちを殲滅するためだ。
俺と父さんもすぐに逃げたオルフを追いかける。しばらく走ると、案の定、洞窟のような場所に魔獣の群れがいた。先ほどよりも数が多い。風に乗って何とも言えない獣臭が漂ってきた。
さて、大技でも使って仕留めるのか?そう思ったが、父さんは普通に群れに突っ込んでいった。俺は岩陰に隠れて様子を見る。
先ほどよりも速い剣さばきで、シュンと風を切る音とともに遅れて、次々とオルフの首を飛ばしていった。これを見てると、一流の剣士に数など関係ないってのがよくわかる。
俺はいつの間にか戦いに見入って、無意識に拳に力を入れてぎゅっと握りしめていた。父さんは余裕という表情で、なんだか、少し楽しんでいるようにも見えた。
そして群れのボスのような一回り体の大きいオルフも、同じように剣をひょいっと振るった。オルフのボスの首は吹き飛び、決着はあっという間に着いた。
「す、すげえ」
俺は素直に拍手した。俺もこんな動きができるのかな。いや、無理だろう。
剣聖なんてこの世界でも一握りのバケモンだ。……俺は人並みでいい。夢は剣聖、目標は人並み。これが現実、うん、それが俺らしい。
父さんは額を腕で拭いながら、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「どうだ?すごかっただろ」
「はい、全然見えませんでした」
「だろ?」
「さすがです。すごいです」
「言いすぎだ、へへ」
その後も父を褒め倒すとまんざらでもない様子で髪をポリポリしながら照れていた。ちょろすぎて逆に好き。
その後、魔獣の死体の処理を手伝う。ツンと血なまぐさい臭いが何度も鼻をついて、思わず鼻を覆う。うう、前世でペットを飼っていただけあって、こういうのを見ると少し心が痛むな。
ちなみに俺はインコを飼っていた。動物は良いぞ。人間のように嘘はつかないし、表情は豊かだし、ただただ飼い主に忠実だ。嫌なら嫌と言うし、嬉しいなら嬉しそうな表情をする。
人間と違って、何も疑うことなく接することができる。この世界でもペットを飼えるのなら飼いたいものだが……。
あと、普通に死体処理グロいし臭いきついし無理だわ。教えてもらいながら進めたが、俺は数匹でギブアップした。あとは父さんに全部任せた。
オルフの死体は、素材用と村の食料用に分けられた。
この村は金こそないが、畑の野菜と魔獣の肉でなんとかやってる。裕福じゃないけど、案外悪くない。
俺と父さんは二人で大量のオルフを袋に背負いながら帰る。俺は父さんに聞いてみた。
「俺もあんなに動けるようになるんですかね」
「おう、なれるさ。努力すれば誰でもなれる!」
うっわうっざ。父さんはドヤ顔に。俺は顔を引きつらせて嫌な顔をしてしまう。自分から聞いておいてあれだけど、父さんも努力信者なのか?
バカなのか?誰でもなれるわけねえだろマジで。俺がなれるかは置いといて、全員の環境も才能も体格も何もかもが違うというのに。
例えば父さんのような強いものの指導や、稽古を耐え抜けるメンタルと肉体、剣聖の息子みたいな強い遺伝子を持つもの、他にもいろんな要因がすべて合わさって結果が出るんだ。誰でもなんて簡単に言うな。
まあ、父さんも悪い奴ではないとは思うが……。父さんは苦笑しながらつぶやいた。
「チーはすぐに俺のことを追い抜かしそうで怖いぜマジで」
いやいや、俺は父さんを超えられる気がしないのだが。でも、正直気になるよなあ、あんな自由に動けたら、楽しそうだとは思う。
この世界で自分の身を守るためにも、父さんほどじゃなくても、人並み以上に動けないとすぐに死んでしまいそうだ。冒険者同士の争いもあるみたいだしな。
こうして、少しモヤモヤしながらも、村に帰り、今日は肉や素材を村に献上した後、いつも通り稽古をして、夕飯は焼肉を食べて、今日も一日が終わった。魔獣も普通の肉みたいに美味かった。あ、俺は食レポなんてできねえからな。




