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貴様との婚約を破棄する!

「この場で貴様との婚約を破棄する!」

 ローラン王国王立学院の卒業を祝うこの席に大きな声が響き渡った。王立学院は基本的に国内の13歳から18歳までの全ての貴族の子息及び、入学試験を突破出来た平民の通う学び舎である。

 そして、本日は3月の初めの日、王立学園の卒業式であった。毎年、午前中には卒業式が執り行われ、恐れ多くも国王陛下からお言葉をいただき、夕方からは卒業を祝うパーティーを開催するのだ。この晴れの日を祝うために、卒業生の親族や婚約者が集まってくる。そんなパーティーの始まる直前、王太子殿下のお言葉をいただくその前に、冒頭の無作法な声が響いたのだ。


 この場に全くふさわしくない発言をした金髪の男の隣には、これまた金髪の、しかしさらりとした長髪を首の後ろで結んだ男とは異なってふわふわとした髪の毛を編み込み、ハーフアップにした女がしなだれかかっている。卒業を祝い、学友との別れを惜しむ会話もピタリと静まり、誰もが眉をひそめて男の方を見ている。

 衆目が集まったことに気づいた男は、何を勘違いしたのか満足げに、更に朗々と話し出した。

「貴様は、ここにいるメアリーに学院や屋敷で暴行を加えたらしいな。メアリーには新しいドレスも買ってやらず、貴様だけがドレスを仕立て、宝飾類を買い漁っているとの情報もある。更には、領地の運営が忙しいなどと抜かしておったが実際にはメアリーの父、ハワード侯爵が行っておったようではないか。」

男が言葉を切ったここで、初めて対面する女が口を開いた。美しい銀髪に整った顔立ち(しかしどこか顔色は白いを通り越して青白く、目はうっすら充血している)女性にしては長身で、やや細身だが、品の良い青いドレス着こなした彼女は、エレノア・レイノール。ハワード侯爵家の2人姉妹の長女である。

「ダニエル・ハミルトン様、念のための確認ですが、あなたのお話の相手は、わたくしでございましょうか。」

エレノアの言葉に周りを囲む女性たちは扇の下から嘲笑した。

「お前以外に誰がいるのだ!察しの悪い女だ!」

金髪の男、ペレス侯爵家の3男坊、ダニエルはこれまた大きな声で偉そうな返答をよこした。その答えに一つ頷いたエレノアは、とっさに彼女を守るようにたった学友たちに一礼し、一歩歩み出て、周囲に深く頭を下げた。

「皆様、この良き日に私事でお騒がせいたしましたこと、深くお詫び申し上げます。」

そして顔を上げ

「ダニエル様、貴方様とわたくしエレノア・レイノールの婚約破棄については異論ございません。しかしながら、その理由については全く見当違いであることを、この場で申し上げておきます。これ以上この場をー」

「俺が伝えたことが嘘だというのか!お前はいつもそうだ!逃げてばかりだろう!!」

ダニエルが吠えるのを見て、エレノアはため息をつきたくなるのをぐっと我慢して、扇を広げて顔の前まで持っていき、発言しようとしたその時、突然頭に膨大な情報が流れ込んできた。その衝撃に思わず膝をつきそうになるもなんとか踏みとどまったその様子を見たダニエルは意地の悪い顔をしながら畳み掛けてきた。

「ほら、何も言えないではないか。偉そうにしているだけで、貴様の中には何もない。ただの人形であることの証ではないか!!」

「ダニエル様、そのようなことを言われては、エレノアが可哀想です。」

メアリーがか弱そうな顔をして、ダニエルの腕にいっそう身を寄せながら、続けた。

「それに、エレノアに言わなければならないことがありますわ。」

「そうだったな。」

と、メアリーに笑みを見せたダニエルは、

「エレノア、貴様が守っているというハワード領は、現ハワード侯爵の後、俺とメアリーが、そしてその子供が継いでいくのでお前は安心して、家を出て良い!」

 会場がシンとした。エレノアの学友たちは、怒りと今後の愚かな2人の先を想像しなんとも言えない表情になるのを扇の後ろにしっかりと隠した。

 一方のエレノアはそれどころではない。普段は一語一句覚え込むようにしている相手の文言も、脳の上を上滑りしている。目の前の景色か、脳裏にとめどなく再生される情景か、自分が見ているものが一体なんなのか判断もつかぬほど混乱しているのだ。しかし、自身の矜持と日頃のたゆまぬ訓練の成果でなんとか、

「先ほども申し上げましたように、婚約破棄については承知いたしました。次にお目にかかる場所は裁判院になりそうですけれども。皆様、本日は大変申し訳ございませんでした。」

と少しばかり、いつもより大きな声で伝えた彼女は、とても美しいカテーシーをして、その場を去ったのだった。

 


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