君の好きな人
「おはよ!千夏、一蘭」
私・前田一蘭の隣で千夏はふわっとほほえんで言った。
「おはよう!蓮」
つられて私も挨拶をする。
「あー、おはよ。蓮」
「何だよ。あーって」
蓮は苦笑しながら千夏の隣に並んだ。
「そう言えばさ、今日に体育のテスト変わったって!」
「千夏は笑顔で怖いこと言うよな。冗談だろ?」
蓮は笑いながら、そう言った。
「え、本当らしいよ。三宅先生言ってたし」
私がとどめの一言を言うと、蓮はものすごく嫌そうな顔をした。
「勉強してないから、そう言うことになるんだよ。がんばろ!」
千夏は笑顔でそう言い、先に教室に入っていった。
「何だよ、あの笑顔。かわいすぎ」
蓮はさっきとは大違いで顔を真っ赤にしてぼそっと言った。
「まあ、千夏が可愛いのは元からでしょ。そんなんじゃとられちゃうぞ!」
私は心を無視して、精一杯の笑顔で言ってやった。
「うう。わかってるよ」
綺麗な蝶々は捕まってはくれない。
必死で追いかけても、追いつかない。
早く追いつかなきゃ間に合わなくなっちゃうよ。
あの時、私は入学したばっかりで緊張してた。
みんなからいい風に見られたくてがんばってた。
そんなところが良かったのかな。
もうわかんないけどね。
入学してすぐ千夏と仲良くなった。
かわいくて頭が良くて本当に天使だと思った。
しばらくして、蓮とも仲良くった。
明るくて天然で犬系で、すぐ寂しいとか言えちゃうやつ。
そんな第一印象で友達として仲良くしていきたいなって考えてた。
仲良くなって2カ月くらいたった時、蓮は私に好きだって言ってくれた。
本当にかわいい千夏じゃなく、私をお世辞でもかわいいって言ってくれた。
本当に嬉しかったけど、まだわからなかった。
この気持ちが友達として好きなのか恋愛的に好きなのかわからなかった。
その時の私にはまだ気づけなかったんだ。
蓮には申し訳ないけど、わからないって正直に答えれた。
ごめんなさいとも。
その時はベストな答えだと思ってたんだよ。
でも、君はいつのまにか私から離れていったよね。
私が蓮を意識するようになってから、私たちは、友達に戻ってて、君は千夏を好きになってた。
私の気持ちなんか知らないで。
「ね、どうしたらいいんだろう」
最近、秋寧とはずっとこの話をしてる。
秋寧は隣のクラスだけど性格が合ってるのかずっと仲がいい。
秋寧には気になっている人がいてその人も千夏を好きらしい。
「まさか、蓮くんも、とはね。千夏ちゃんはモテるなぁ」
「だよね。でも、千夏は可愛いし、性格いいし。モテるのは当然だよなぁ」
いつもこんな感じでおしゃべりしてる。
秋寧はさっぱりしてるし、口も硬いから恋バナもいっぱいできる。
「さ、帰ろっか」
秋寧と一緒に教室に荷物を取りに行こうとすると、教室では千夏と蓮が楽しそうに話していた。
「もうちょっと話す?」
秋寧に、提案されて私たちは教室を離れた。
「1学期は空も千夏にデレデレしてたよねー」
秋寧は昔のことのように話し始めた。
「うん。でも空はすぐ人を好きになるじゃん」
「今はゆいちゃんだっけ?」
そう。空は女たらしで最低なやつ。
「うん。ゆいちゃんがかわいそう」
私たちはしばらくおしゃべりしてから教室に戻った。
「じゃ、ばいばい」
「うん。ばいばい!また明日」
私は、図書室に寄ってから帰ろうかなと思い、立ち上がった。
「あ、一蘭」
「蓮。どうだった?千夏と話せてるの?」
蓮は顔を真っ赤にしていった。
「まあうん。でも空に嫉妬しまくってる」
「あーね。空は女子の誰にでもベタベタするからなぁ」
「うん。まじでさ。俺が千夏と話そうとしたら来るんだよ。」
「まあ明日がんばりな」
心の奥底で何かが動いたけれど、無視して応援の言葉をかける。
「うん。がんばる!千夏には笑顔でいてほしいから。」
私は笑顔にしたくなかったの?
そんな疑問が頭の中を駆け巡る。
大好きって言ってくれたのはうそ?
私をからかいたかっただけ?
だめだ。ネガティブは良くない。
「じゃあな。また明日」
蓮はそう言って駆け出していった。
「うん。また明日…」
家に帰ったら少しだけ、泣こうと思った。