2 『占いが当たる時もある』
き、昨日の女の子だ!……えっ、今日も僕のとなりに??
「…………」
少し動揺したけど、昨日と同じくうなずきだけで返事をした。
「失礼します」
こ、こんな事があるなんて、そんなに他の席が埋まって…………いや、空いてる席もあるな。
じゃあ、わざと僕のとなりに??いやいや、考えすぎだろ……いくらなんでも。
ふと、となりを見ると女の子はまた本を読んでいた。あいかわらず、本を読んでる姿は絵になるな……僕も、とりあえず読むか。
やっぱり降りる駅は同じみたいだ。
終着駅に着いて電車を降りる。また女の子が前で僕がうしろを歩いた。
もしかして、声をかけるチャンスだったんじゃ……いや、声をかけて何を話すというんだ?……なんだか、せっかくのチャンスを無駄にしたような気分。
まぁ、さすがに明日はとなりに来ないよな……今日のことは忘れよう。
〜〜〜〜〜〜
「となり、いいですか?」
えっ!?うそッ!三日連続ッ!?
〜〜〜〜〜〜
「となり、いいですか?」
マジですかーーー!?
〜〜〜〜〜〜
「となり、いいですか?」
こ、これは意図的に僕のとなりを選んでるな……さすがに五回連続となるとそう思うしかない。
でも、どうしてだ??僕たちに面識なんて無かったはずだ……たぶん。
そして、あいかわらず声をかける事ができない僕ときたら……ほんとへタレだ。
〜〜〜〜〜〜
「となり、いいですか?」
かれこれ二週間近く一緒に座ってるな。
最近は慣れてしまって、となりにいてくれるのが当たり前な気がしてくるよ……それに、一緒に本を読むのもなんだか落ち着くし。
……あいかわらず声をかけられないのは、ほんとカッコ悪いと思うけど。
〜〜〜〜〜〜
朝食を食べながらテレビの天気予報を見る。今日は雨らしい。嫌だなー、洗濯物いつも部屋干しだから雨に濡れる心配はないけど、湿気で乾きにくいんだよな。
食べ終わった食器を片付けて、洗濯物を干す。
あっ、星座占いやってる。
『ごめんなさーい!最下位はさそり座のあなた!』
げっ!最下位じゃん!……まぁ、占いとか信じてないから、いいんだけどさ。
『今日は、凄くビックリする事が起こるでしょうッ!!』
はいはい、そうですかー。それは、ビックリですねー。
『そんな、さそり座のあなたにアドバイスッ!』
はいはい、それはどうも。
『気をしっかり持って、強く生きてくださいッ!!』
えっ、今のどこがアドバイス!?
……もうテレビ消そう。
占いなんて、当てにならないな。
〜〜〜〜〜〜
……今日は、あの女の子来ないな。ちょっと残念なような、寂しいような。
もしや、これが占いの結果なのか!?いやいや、まさかそんな。今日はたまたまだよ、たまたま。……とりあえず本を読むか。
この時間に一人で読むのは、久々だな。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく〜〜〜』
降りるか…………はぁ、なんだか落ち着かなくて、全然集中できなかった。前は一人で読むときにこんなことなかったのに。
やっぱりあの女の子に声をかけて、連絡先くらい聞いとけばよかった。いや、ヘタレな僕には無理だな……。
「あっ……」
あの女の子がいる!改札口の方に向かってる!
でも、どうしてこんなところに?電車には乗ってなかったのに。
無意識に目で追いかける…………ダメだダメだ!いい歳した大人が女の子を見続けるなんて、立派な犯罪だ!いつから僕はそんな情けない大人に……あれ??
「いない……」
見失ってしまった……なんだか言葉にできない虚しさを感じる。
……おとなしく職場に向かいますか。
「どうかしましたか?」
「えっ」
声をかけられ振り返ると、あの女の子が目の前にいた。
「なんだか元気がなさそうですけど……気分でも悪いんですか?」
「えっ!?あっ、いや……その、えっと……」
ど、動揺するなッ!僕ッ!冷静に!冷静に、だ!と、とりあえず、ちゃんと受け答えを……。
「もし辛いようでしたら、少し座りましょう」
「あ……い、いや。き、気分が悪いわけではないんです。……ちょっと、考え事をしてて」
よしッ!ちゃんと受け答えできた!それに、初めて話をした!
「なら、いいんですけど……」
心配そうな顔で僕を見てくる。優しい子だな。
「心配させてしまってすみません。でも、本当に大丈夫ですよ」
「わかりました。急に声をかけてしまってごめんなさい。……ちょっと気になっちゃって」
「ぼ、僕の方こそ、若い女の子に心配されるほど元気の無い顔をしてたなんて……ちょっと恥ずかしいですよ」
うん!本当に恥ずかしいよ!いったいどんな顔してたの?僕は??
「あっ、いや、その……わたしが、心配性なだけなんです!……ごめんなさい」
お願い!謝らないでー!そして、そんな申し訳なさそうな顔もやめてー!泣きたくなっちゃうからー!
「そ、そんな謝らないでください。僕は全然気にしてませんから」
「本当……ですか?」
「はい」
「なら良かったです」
あっ、笑ってくれた。……笑顔可愛いな、この子。
それにしても……この駅人通りが少なくて助かったよ。
若い女の子に心配されてる姿なんて、絶対に見られたくないし。
「今からお仕事ですか?」
「はい、今から向かおうと思ってて」
「そうですか。呼び止めてしまって、すみません。……もし良ければ、途中までご一緒してもいいですか?」
「えっ?」
なんですと???
〜〜〜〜〜〜
僕たちは改札口を抜けて職場へ向かう。どうやら女の子も途中までは道が同じらしい。
「お兄さんのこと、よくこの辺で見かけてました」
若い女の子にお兄さんって呼ばれるの……凄く良い!
「そ、そうなんですね」
「はい。あと電車で本を読んでるのも」
「ハハッ、それは僕も覚えてますよ」
「ふふ、最近ずっととなりで読んでますもんね」
「ですね。でも、正直驚きました。最近の若い子ってあまり本を読まないイメージだったから」
「んー、確かに読む人ほとんどいないですね。わたしは本が好きだからずっと読んでいられますけど」
「普段はどんな本を読んでるんですか?」
以前しようと思っていた質問をしてみる。
「ジャンル問わず読んでるつもりなんですけど、ついつい小説ばっかり読んじゃってますね。小説の中の世界に入り込んだような、あの感覚が大好きで」
あー!その気持ち、凄く分かる!この子とはかなり気が合いそう!
「その気持ち分かります!小説の世界を追体験しているようなあの高揚感はたまらないですよね」
「そう!そうなんです!……ふふ、お兄さんとは気が合いますね」
女の子がニコリと微笑む。ほんと笑った顔可愛いな!この子!
「そ、そうですね」
動揺するな!動揺するな!……僕、今変な顔とかしてないよね??
「お兄さん……」
「ど、どうかしましたか?」
何か言いにくいことでもあるのか、女の子が急にもじもじとし始める。
「あの……また会ってお話、とか、できますか?」
えっ?そんなこと?そんなの……
「もちろん大丈夫ですよ。僕も本の話ができて楽しいですし、ぜひ」
「あ、ありがとうございます!じゃあ、またゆっくりお話ししましょう!」
「はい、こちらこそ」
「ふふ。……あっ、わたしこの辺で。では」
女の子が嬉しそうな顔で手を振ってくる。どうやらここからは別々の道らしい。
「はい、また」
僕も手を振りかえす。そして、女の子が角を曲がって見えなくなるまで、うしろ姿を眺めていた。
電車に乗って来なかったから少し憂鬱だったけど、会って話もできて今はかなり晴れやかな気分。ほんと単純だな、僕は。
それにしても何が最下位だよ。ちょー良い日じゃんか。占いってやっぱり当てになんないね。
〜〜〜〜〜〜
「おっ、どうしたどうした?今日めっちゃ機嫌良さそうじゃん?」
「えっ?」
同僚で友人の梅原拓也が話しかけてくる。
「なんか良い事あった?」
「ど、どうして?」
「いやいや、今の雄介の顔見たら誰でも気付くだろ?彼女でもできたのか?」
そ、そんなに顔にでてたか?
「まぁ、ちょっと良い事は……あったかな。彼女ではないけど」
「へぇ、気になるなー」
「お、教えないぞ」
「へいへい。まっ、気が向いたら教えてくれや」
「まぁ気が向いたらな」
意外とあっさり引き下がるな。てっきりもう少し聞いてくるのかと……。僕はホッと胸をなでおろした。
僕の職場は、家電量販店だ。いろんな家電商品を来店したお客様に提案、販売している。もちろん、個人ノルマなどもある。
ちなみに、拓也は持ち前の明るさと誰とでもフランクに話せる人柄で、売り上げはいつも上位だ。そして、ショートカット爽やかイケメンで、リピーターのお客様も多い。正直かなり羨ましい。
僕はというと、その逆であまり人と話すのが得意ではない性格もあって、売り上げはそこそこ。
最初の頃は、売り上げの良い拓也を妬む感情が少なからずあった。ただ、お互いに仕事を助け合ったり、プライベートで意外にもアニメやゲームの趣味が合ったりで、今では下の名前で呼び合う仲になっている。
彼女ができたわけではないけれど、今日は朝からついてる。きっとこの後も良い事が起こりそうな予感。もしかしたら、売り上げの自己ベストを叩き出せるかもしれない!
「なぁ、やっぱ教えてくれよ、雄介」
「いやだね」
「マジかー」
〜〜〜〜〜〜
にやけ顔が収まらない。
今日は予想通り、売り上げ自己ベストを叩き出した!運が良すぎてちょっと怖い!
いかんいかん、ニヤニヤしながら歩いてるとただの変質者だ。引き締めろ、顔!
「予想通りの雨か……」
帰りの電車を降りて改札口を出ると雨が降っていた。天気予報は占いよりもはるかに信用できる。
駅から家に向かう道は、この時間ほとんど人が通らない。個人的には静かで落ち着く良い場所だと思う。そんな帰り道をウキウキ気分で歩いていた。
「えっ?」
途中にある公園のそばを通るとき、白い何かが目の端をよぎる。振り返ると公園の屋根付きベンチに人影が……あれはッ!?今朝話をした女の子じゃないか!!
あたりはもう真っ暗、いったいこんな場所で何を?雨宿り?心配だし声をかけてみよう。……決して下心ではない!
女の子の近くまで歩いていき声をかけた。
「どうかしましたか?」
「あっ、こんばんは。お兄さん」
「こんばんは。何かあったんですか?」
「……ちょっと行くところがなくて」
「行くところ、ですか?えっと……もしかして、家出とか?」
「んー、それにちょっと近いかも、です。……帰れなくって」
言いにくそうに答える女の子を見て不安になってくる。
「帰れない?……何か問題でもあったんですか?」
「えっと……その……」
見るからに答えづらそう。家に帰れないなんて、よっぽどの事があったのだろう……ますます心配になってくる。
「どこかお店に入って話を聞きましょうか。雨が降ってて冷えますし……ファミレスとか?」
今は十月後半。昼間はまだ暖かいとはいえ夜は冷え込む。特に今日みたいな雨の日は。
慎重にお店選びを考える。いくら心配とはいえ、未成年かもしれない相手を二十代後半目前の男が誘うのは、悪いことをしているような気分になってくる。
「すみません……あの、あまり人がいるところには……その、行きたく、なくて」
「…………」
いったい何があったというんだ?もしかして、とんでもないことに首を突っ込んでるんじゃ。後悔しないうちにここから離れた方がいいのでは?いや、さすがにここまで困ってそうな相手をほっとくわけには。
優柔不断なのは自覚してる。でも、どうするべきか早く決めないと……。
「あの……」
「すいません!……お兄さん、今日泊めてもらうことって……で、できます、か?」
僕の目を覗き込むように聞いてくる。
「へっ??…………えっ!?」
「ご、ご迷惑で、なければ……」
えっ!?泊めるって……僕の家にッ!?ウソッ!!えっ!?…………ど、どうしようどうしよう!いや、待て!と、とりあえず、落ち着いて、な、何か返事を……。
「ご、ご両親とかは、大丈夫なんですか?」
よし!とりあえず冷静な返事ができた、はずだ。女の子の反応は?……う、俯いてる??
「ちょっと、連絡が難しくて……」
マジかー。どうしよう……ここに残しとくわけにもいかないし、これはもう覚悟を決めるしか……いや、特に下心はないんだから!覚悟なんていらないでしょッ!!
僕は呼吸を整えて、女の子に伝える。
「……ひ、一晩だけですよ?明日には家に帰ること。いいですね?」
「は、はい!ありがとうございます!」
俯いてた顔をあげて笑顔で返事をする。可愛い……いやいや、下心なんてない!下心なんてない!
「い、行きましょうか」
「よろしくお願いします!」
二人で僕の家に向かう。こんなことなら普段から掃除をちゃんとしとけば良かった……いちおう、今はそこまで散らかってないとは思うのだけど。
そういえば、まだお互いの名前も知らない。まぁ、家に着いてからでいいか。
ていうか、名前も知らない人の……しかも男の家に行くなんてちょっと無防備すぎないだろうか?それとも、最近の若い子ってこんな感じなのだろうか?
〜〜〜〜〜〜
「掃除が苦手なので、ちょっと散らかってるかもしれませんけど……許してくださいね?」
「ふふ、心配しなくても気にしませんよ。それに、無理を言ってるのはわたしの方ですし。なんなら、掃除お手伝いしましょうか?」
「いや……さすがに、それは……」
僕たちはマンションに到着した。掃除をしてくれるって言われたけど、女の子に見せられない物もある。それだけは絶対に見つからないようにしなくては……出しっぱにしてないよね??
「ここの五階なんです」
僕の家は、十階建てのマンションの五階でエレベーターから一番遠い部屋だ。最寄駅から歩いて五分、コンビニ徒歩二分、スーパー徒歩五分。そして、場所の割に家賃も安い……築は古くて、ユニットバスだが。
隣の人や上の階の人の騒音トラブルなどもなく、問題なく住める。人によっては築年数やユニットバスなどに抵抗がある人もいるが……あまり家にこだわらない僕にとっては、この立地で安く住めるこの家はお気に入りだ。
そういえば、前に拓也に『この家……なんか出そう』って笑われた時はムッとしたな。ほんと余計なお世話だよ。あと……怖い話はやめてくれ!
心の中で拓也に悪態をついていると五階に到着した。
「あの、すいません。ここでちょっと待っててくれますか?えっと……五分くらい」
「えっ、いいですけど……本当に気にしませんよ?ちょっとくらい散らかってても」
「いえ、そういうことでは、なくて……」
つい目をそらしてしまった!苦しい!それに言い訳にすらなってない!
「えっと、でも、お兄さん……」
何か言いかけた女の子を玄関の外で待ってもらって、先に僕だけ中に入る。
脱ぎ散らかしたパンツやシャツなどを速やかに片付ける。
そして、やらしい本などの女の子に見せられない物が、出しっぱになってないかどうかを確認……よし!クリア!
「お兄さん、やっぱり気にしなくていいですよ」
うしろから声をかけられる。玄関の中でこちらを見ている女の子と目が合った。
「待たせちゃってすいません。どうぞ上がってください。すぐに来客用のスリッパを出すので」
拓也がたまに遊びに来たとき用に、来客用のスリッパを準備している。それを出すために女の子がいる玄関に向かう。
……あれ??そういえば、ドアが開く音、しなかったような……まぁ気のせいか……。
カンッ!
「あっ!?」
考え事をしながら歩いていると、足下に置いてあったビールの空き缶を蹴飛ばしてしまう。その空き缶が女の子に当たって、僕はすぐに謝る。
「すみませ…………」
はずだった……その空き缶が、女の子の体をすり抜けなければ……。
「えっ……今、あたって……?へっ??」
カン、コッ、コロ……。
ドアにあたった空き缶が間抜けな音を出す。まるで、僕を嘲笑うかのように。
「…………バレちゃいましたね」
女の子は申し訳なさそうに笑って、こちらを見る。そして……。
「ごめんなさい、お兄さん。できることなら言いたくなかったんですが……」
「えっ……へっ??……あっ、え」
言葉がでなかった。
「……お、驚かないで下さいね?」
何を言われるんだ、僕は?
「実は、わたし……」
意を決したような目で僕を見てくる。心が全力で警鐘を鳴らす。聞いてはいけないと本能が叫ぶ。
嫌だッ!聞きたくない!聞きたくない!聞いてはダメだ!ダメなんだ!これを聞いたら僕はッ!!
「わたし、ユウレイなの!」
あっ………………………………。
「ぁ……………」
「………………」
「………………」
「……あ、あの〜??」
女の子が僕の顔を心配そうに見下ろしてくる。
「………………??」
おかしいな……僕よりも背が低いはずなのに……。
「……だ、大丈夫……ですか?お兄さん?」
あー、やっぱりこの子……
「…………………………」
浮いてるわ。
「い、イ……いいい」
ハハッ、なるほどなるほどー。ユウレイって、そういうことかー。これは確かに、凄くビックリするよ。
「い??……お、お兄さん??」
「イヤァァァぁぁぁーーー〜〜〜ッッッ!!?」
あー、男も女の子みたいに悲鳴をあげることってあるんだねー。
ごめんなさい!
他の作品を書いたりなど、よそ見ばっかりしていたらすっかりこの話の更新が止まってました。
続きは書きたい! でも、他の作品も書きたい!
そして、ひとつの作品に絞れない浮気者の自分が情けない!
そんな思いを日々抱えています。あー、情けない。
こんな時、皆さんはどうしているのでしょうか?
自分一人では決められません!と、そんな弱音が出そうになる時もあります。
でも、せっかく作り始めた話なので、必ず続きは書きます。
それまで、しばしの休憩ということで……。
ほんっとーに、すいません!




