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秋津島  作者: たま
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5章

新幹線に乗るのなんて中学の時以来だ。

春はちょっと観光気分で新幹線の座席に座った。

ホームでスーツの二人連れの男性に会い、莉夏は

会釈していた。

「あの人達は?誰?」

「ああ〜祖母の弁護士と税理士さん。

同じ新幹線になったんだね。」

「東京の人に頼んでるんだ、関西人なのに?」

「遠い親戚だと聞いたよ。」

「へ〜」

やはり資産家には、そういう人達がついているんだ。

「奈良のどこって場所だっけ?」

「…秋津」

「それは名前でしょ?」

「いや、地名がまんま名前なんだ。

ずっと昔からそこに住んでるから」

莉夏が居心地悪そうに答える。

「えっ、それってまさか…地主みたいな感じ?」

「うん、地主」

「ひえ〜っ、やっぱり!そうなんだ!」

「正式には秋津島って地名で…」

「待って!何か歴史かなんかで、そんな古語を聞いたような…」

春は受験勉強で仕入れた知識をフル稼働する。

「そうだ!日本書紀かなんかで初代天皇が大和朝廷興す時に

秋津島って、日本を名付けたんだよね?」

まだ受験の知識残ってた♪

「うん、それ!多分、その場所じやないか?

と推測されてる場所らしいよ。」

「スゴイね!日本史の始まったとこじゃん!」

「でも、今は辺鄙な田舎だよ。畑と田んぼしかないし」

駅弁を食べながら、学校の話や寮生活の感想などを

話していたら、あっという間に京都に着いた。

東京と神奈川しかほぼ知らない春には、中学の修学旅行以来の

関西だ!

風景や人々の言葉だけでも新鮮であわあわしてしまう。

莉夏の後ろ姿を見失わないように観光客でごったがえす駅の中を必死でついて行く。

ここから私鉄の近鉄線に乗り換えて奈良に入るのだ。

丹波山地へ帰る時乗るロマンスカーと似た特急列車に

乗り換える。

京都もゆっくり見たいが、今はそれどころじゃない!

「また帰りでも京都観光しょうね?」

莉夏が春の気持ちを察して微笑んだ。

だが、なんだろ?

だんだん莉夏の顔が東京に居た時より硬く強ばって

いってるような…

微笑みがどこかぎこちなくなってるような…

気がする。

また何度か乗り換えて、最後は1両だけの電車に乗った。

「すごい田舎でしょ?ビックリした?」

「でもウチの田舎はバスしかないから、まだまだ

都会だよ!

まだ獣が道に飛び出したりしてないし〜」

「まあ、確かに里山だね。さすがに野生動物は

見たこと無いな。あっ、着いた。」

小さな無人駅。切符は車内で車掌さんに回収された。

改札もない看板には「秋津島」と書かれていた。

周りは、鬱蒼とした竹藪が覆いかぶさり今にも

駅を飲み込んでしまいそう。

駅前だと言うのに道も人家もない。

竹林の中に砂利道があり、莉夏はその道を突き進んて行った。

しばらく進むと開けた水田地帯へ。

左右に田畑が広がり川の橋を渡る。

「この川は?」

「竜田川だよ。」

「えっ、それも古典で聞いたことある!

誰の歌だっけ?」

千早ちはやぶる 神代かみよもきかず 龍田川たつたがは

からくれなゐに 水くくるとは』

「在原業平だよ。忘れるの早くない?」

軽口は叩いているが、もう顔は笑っていない。

莉夏の目が虚ろに淀んでいるように感じる。

駅からの砂利道はずっとまっすぐで緩やかにまた

山を登り始めた。

鬱蒼とした森が前に見えてきた。

そして、その前に巨大な屋敷が、森の神々のお社のようにその姿を現した。

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