ローゼンシュタインー2
翌日の午前中は、屋敷の南側にある庭園の一角に足湯を作った。とはいっても、木材で浅くて細長い湯船を作り、そこにお湯の出る魔法陣を設置しただけだ。排水は家の排水溝へ。風呂のへりに座りやすく台を作って完成。
これでいいかな? と思っていたら、こはるが、半分でいいから屋根を作ってくれと。ドライアは日に当たりたい。仕方ないので、半分に柱を立て、屋根を作った。庭師さんにも手伝ってもらったおかげで、何とか午前中で終わった。庭師さんにも足湯でくつろいでもらった。
昼食のため屋敷に戻ると、みんな集まっていた。そしてこはるの隣には赤髪の女性。こはるのお母さんがいた。
「こはるのお母様、僕のお願いを聞いてくださり、ありがとうございます」
「さつきだ。そう呼んでほしい。お母様はやめろ」
というので、さつきさんになった。ちなみに、すでにワインの空き瓶が並んでいる。
「それじゃ、昼飯を食べたら早速やるか」
というので、僕は昼食を少なめにした。
昼食後、みんなで黒薔薇の訓練場へ行く。京子ちゃんたちは黒薔薇の方へ。僕はさつきさんと別行動。もちろんかなでもとぼとぼとついてくる。こはるはというと、ドライアと一緒に「それじゃわらわは」と言って立ち去ろうとする。それを見逃すさつきさんではない。
「こはる? どこへ行く?」
「いえ、邪魔しちゃ悪いかと、わらわはドライアとあっちで……」
「おまえ、ちょっと太ったんじゃないか?」
ぎょっとするこはる。
「いいからおまえも来い」
と、こはるは引きずられる。
「母上様、進言したきことがあります。グレイスはわらわの婚約者様ですが、この前、猿人族の前で……」
僕はあわててこはるの口をふさぐ。そんなこと言ったら厳しくなるじゃないか。
「何、婿殿が猿人族に苦戦したと?」
念話かよ。
「それは鍛えないといけないな」
と、さつきさんはニヤリとする。
「苦戦していませんから。二対一で簡単でしたからー」
と言い訳しても聞いてはもらえなかった。
さつきさんの特訓は想像を絶する厳しさだった。僕とかなでとこはるが交互にさつきさんと対戦したのだが、全く相手にならなかった。
一分間に何十もの手足を繰り出しても一分も持たずに倒される。倒されたらヒールで回復しろと言う。そのため、一時間に二十回近くも対戦する羽目になる。
それをびっちり五時間も。というか、さつきさんも化け物のようなスピードとスタミナだった。五時間戦い続けても息を切らすことすらない。こはるですらヒールをかけてもらっているのに。
そのあとは風呂に入って夕食を食べて、みんなで話をしたりゲームをしたりして過ごし、各部屋に戻る、というスケジュールだった。ちなみに、今日もリリィが突撃してきたが、察した京子ちゃんに連れ戻されていった。
翌日の午前中はキザクラ商会本部にある研究室に行く。昨日は足湯づくりでいけなかったから。
研究室に行くと、ラナとルナが出迎えてくれる。二人に近況を聞くが、特に問題もなく、商品が生産されているとのこと。
一番大事な、ホーンラビットの養育場について聞くと、現状の生産量であれば問題ないとのことだった。ということは、これ以上に生産量を上げたり、新商品を作ったりすれば足りなくなるのか。
「今後はこのままの生産を続けていきますか?」
とラナが聞いてくる。
「そうだねー。火魔法の魔法陣を使ったコンロを作ってもう十年近くたつよね。で、ランタンとか温水が出る装置とかも作ってでしょ。しばらく何も作ってきてなかったから、新しいものを作ろうかな」
と言ったところで、僕は思い出した。
「その前にさ、バッタ退治を目的とした広範囲爆発魔法の魔法陣を作らないといけなかったんだ」
そう言って、ラナとルナを連れて地下にある実験場にやってくる。僕は、広範囲爆発魔法の小さいやつを発動させる。もちろんにおいなしの方。
「このまえバッタが大量発生した時に、この魔法で退治したんだよね。バッタがまた大量発生した時に、誰でもこれを使えるようにして、バッタを退治できるようにしたいんだ」
「しかし、これは危険ですよね」
「その辺は、バッタにしか使わないってことを条件にして配置することになっているよ」
「ところで、バッタですよね。爆発で吹き飛ばすより、広範囲に炎をまき散らした方がいいのではないでしょうか」
なるほど。と考え込む。
「爆発させると熱でバッタが死んで吹っ飛ぶよね。炎だとその場で焼かれるか。その方が効率がいいかな。でも、地面も焼けるね。それは一緒かなあ」
などとラナとルナと相談をしていく。
「そうしたらこういうのはどうでしょう」
と言ってルナがファイアボールを唱えて実験場の真ん中に撃ちこむ。それと同時にラナが風魔法を発動させる。すると、実験場の真ん中に炎の竜巻ができた。
「これだと、風で周りのバッタを吸い込んだうえで燃やしてくれます」
お、おう。すごいな。
「なるほど、熱を広げるのではなく、バッタを引き寄せるのか。その方が被害が少なそうかな。どれくらいの範囲のバッタを吸い寄せられるのか、それを知りたいよね」
「それとですね。これは二つの魔法を使っています。これを一つの魔法陣に落とし込めるかどうか、難しいでしょうか」
「別々の魔法陣にしてしまえば簡単だろうけど、これはラナとルナの息が合っているからできることで、誰でもっていうのは難しいかもね。そしたら一つの魔法陣にまとめるか、それか、同時発動にするか、か」
「発動させる距離はいかがします?」
「それも大事だよね。遠くに発動させないと、発動した方にも被害がでそうだし」
ちょっと考えるが、
「どれがいいのかちょっとわからないよね。三つとも作ってみようか。爆発魔法は燃焼させるガスの発生と熱でいいし、燃焼魔法の方は、ちょっと考えないといけないけど、たぶん燃焼させる液体とかの元を作った方がいい。それと、名前を付けちゃうけど、ファイアーサイクロンは、さっき話したみたいに、課題が山積み。それぞれ魔法陣にどう落とし込んでいくかだね」
まあ、僕は魔法陣が見えるというチート能力があるから、イメージをもって魔法を発動し、それをなんとか書き写せばいいんだけど。できれば、ラナとルナが発動させてくれると、覚えやすい。イメージさせるところから始めようかな。
「そうだ、そういうことだから、兄上に実験場の拡大をお願いしておくよ」
「お願いします」
とラナ。
「ところで、新しいものを、と、言いかけていたように思うのですが」
とルナ。
「うん。温水魔法を作ったでしょ? 温められれば冷やすこともできると思うんだよね。ということで、冷媒を水にするか空気にするか悩むところだけど、箱に冷却機能を備えたもの、冷蔵庫を作りたいな、と思って」
「その中に食べ物を入れておけば冷やされて冬に外に置いておくように腐らないということですか?」
とラナ。理解が早い。
「うん。そうなると思う。なによりさ、これから夏になるんだから、冷えたエールをのみたいでしょ?」
と言うと
「「開発しましょう! バッタはしばらく出てきません!」」
と二人で声を合わせた。仲いいな。
「じゃあ、冷蔵庫から始めようか」
開発にモチベーションは必要不可欠だ。
「どれくらいの大きさにして、その時の保温性とどれくらいの魔法陣で維持できるかという関係性と、どのくらい電池を消費するか、とか、いろいろ考えることはあるよね」
「はい! 大きさはエールの樽が入らないと意味がありません」
「え? 樽? 各家庭で樽なんて買わないよね?」
「え、ええ、ですが……」
買うんだな!?
「まあいいや、最終的な目的はそこにして、小さいもので実験していこう」
と言っているうちに午前中が終わるので、宿題を出しておく。
「保温性の高そうな素材を集めておいてほしい。うーん、コルク? みたいに、軽くて、細かい穴がたくさん開いているようなものを」
さすがに発泡スチロールとか言えないよね。魔法で発泡スチロールを作り出すのは無理だろうな。僕はこの世界にありそうな素材がわからないし、発泡スチロールの材料があったところで、どうやって作っていいかわからない。それに、保冷によく使われる真空は今は無理だろうな。
「あ、ごめん、もう一個。僕らの制服さ、この旅で傷ついちゃったんだよね。作り直してもらえるよう、キザクラ商会にお願いしておいてくれる?」
とお願いをして、僕は研究室を出た。




