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ローゼンシュタインー1

 翌日、川を渡って昼過ぎにはローゼンシュタインに入った。

 僕はテイラー兄上とこれまでの経緯を同じように話し、情報共有を行った。それと、しばらく滞在させて欲しいことをお願いした。

 兄上は一人増えたドライアを見つけ、視線を送っている。ちょっとまずい視線だったので、年上だと伝え、諫めておいた。


 夕食を食べた後、僕たちは会議室を借りて今後の予定を話し合う。基本はスローライフ。でもやることもないときは研鑽をつむと。ということで、


「午前中は自由時間にする? のんびりしたり研究したり遊んだりと」


 うんうんと皆がうなずく。


「午後だけど、リリィとライラは黒薔薇に鍛えてもらう?」


 と提案する。


「グレイスはどうするのよ」


 と、リリィが聞いてくるので、


「こはる?」


 と、こはるの予定を聞く。


「わらわは午後ものんびりするぞ?」


 と、こはるは言うので、


「こはるのお母さんに来てもらえないかなぁ。報酬はお酒で。僕たちの特訓をして欲しいなと思うんだけど。この前の猿人族の時にさ、こはるは圧倒していたけど、僕はちょっと苦戦したんだよね。近接戦闘をもうちょっと鍛えたいんだ」

「わらわが参加しなくてもいいなら聞くぞ」

「じゃあよろしく。ということで、リリィはどっちにする? 黒薔薇? ドラゴン?」

「黒薔薇でお願いします」


 とリリィ。ジェシカたちもいるからいいだろう。


「ライラもそれでいい?」

「私も黒薔薇騎士団に鍛えてもらいたいです。特に魔法をと思うのですが」

「魔法は……」


 実のところ、黒薔薇でも教えてもらえるが、魔法がイメージ力や魔力操作力であると知っている僕達が教えた方が効率がいい。京子ちゃんをチラ見すると、


「私も黒薔薇に行くから、一緒に魔法の練習しよう!」


 と言った。あれ?


「私はソフィリア様とともに」


 とミカエル。あれ?


「フラン?」

「私はグレイス様と一緒にいますよ。ドラゴンはちょっと……ですけど」


 と最後は小声になる。もしかして、こはるのお母さんに鍛えてもらうのって、僕とかなでだけ? ちらっとドライアを見る。


「私は一日中日向ぼっこしているぞ。できれば、足を水につけたい」


 とあっさり断り、鍛錬する必要もないのだろうが、逆に水場の要求をしてきた。まあ、ドライアはついて来てはいるが、僕たちの仲間になったとは言われていない。確かに。


「わかった。日当たりのいいところに足湯を用意するよ。魔力は自分で供給してね」


 あれ、魔力? 精霊が? ドライアは、自分で電池の入れ替えをすることを覚えた。 

 さてと、まあ、あれだ。ニーズの薄いこはるのお母さんは断ればいいか。と、こはるに伝えようとすると、


「おかあちゃん、もう来るってさ」


 なに? 念話か? ドラゴン恐るべし。仕方ない。覚悟を決めるか。


「それと夜だけど」


 と言うと、リリィがきゅっと自分の体を抱きしめて警戒する。なにをやっているんだ?

僕は無視して話を続ける。


「特にリリィとライラだけど」


 ライラが同じ格好で顔を赤らめる。いや違う。


「探査魔法を覚えてほしいんだよね。それと、これ」


 といって、テーブルの上に二つの装置を置く。


「これは電池の充電装置。寝る前には、探査魔法と充電装置で魔力を空っぽにしてから寝てね。そうすると、ぐっすり眠れるからさ。探査魔法は魔力を放出するから魔力をなくすには効率がいいよ。誰がどこにいるかもわかるようになるし」


 と伝える。


「もしかして、ソフィ達はやっているの?」

「私達は子供のころからやっているよ。それも本当に小さいときからね」


 と、遠い目をする。


「魔力を空っぽにすると、回復するときに若干魔力量が増えるからね。若干だけど。でもちりも積もればなんとかだからさ。これからの習慣にしてほしいな。で、これが空っぽの電池」


 といってミカン箱ほどの箱を渡す。リリィもライラも固まっているけど、


「一日で全部って言っているわけじゃないよ。少しずつでいいから。それと、部屋の明かりの電池もこれで充電してね」


 と言っておく。


「こんなもんかな」


 というと、どこからか現れたアラシが「にゃーん」と鳴く。

 ん? と思っていると、器用に会議室のドアを開けた。すると、アサヒをはじめとして猫が十六匹入ってくる。しかも、口に子猫を加えて。あー、そんな季節だったか。


「やーん、かわいいー」


 と言うのはリリィ。


「かわいいですー。こっちに来てほしいです」


 というのはライラ。猫たちはこの二人を素通りして、僕たち四人の前に四匹ずつ子猫を置く。アラシに聞く。


「これは僕たち四人に四匹ずつあれをしろと?」

「にゃーん」


 と返事をする。そうか。二か月間、これだな。京子ちゃんたちをみると、しかたないか、という顔をしていた。


「ねえねえ、あれってなんなの? なんで私たちのところには子猫がこないの?」


 とリリィが聞いてくる。


「リリィとライラって、魔力操作の訓練したことがある?」


 と聞くと、二人は頭にクエスチョンマークを飛ばした。ライラに至っては京子ちゃん直伝の唇の端に人差し指をあてて首をかしげる、までやっている。ツインテ縦ロールの破壊力恐るべし。


「魔力操作なんだけど」


 というと、こはるが、


「わらわはもう寝てもいいかー」


 と言うので、いいよ、とい言うと、こはるは部屋を出ていく。


「わたしもー」


 といってドライアも。二人とも猫には興味ないのかな?


 それからしばらく魔力操作のレクチャーをした。


「おー、この暖かいのが魔力なんだね。ほんとに体中を動くよ」


 とリリィ。


「小さくしたり大きくしたりもできるのですね」


 とライラ。


「よし、そこまでできたら、右手の指から左手の指に移してみて」


 と体内ではなく、皮膚を通して移動させるよういう。


「あ、できました」


 というのはライラ。


「うまく通らないよ?」


 というのはリリィ。


「リリィ、もうちょっと魔力を凝縮させて小さくしてみたら?」


 と助言すると、


「あ、通った!」


 と嬉しそうにする。


「そこまでできたらオッケーだよ」


 といって訓練を終える。


「アラシ、どうかな?」


 というと、


「にゃーん」


 と鳴く。


「オッケーぽいね。じゃあ、僕の……」


 と言ったところで、猫がまた八匹入ってきた。子猫を咥えて。


「やったー、子猫きたー」


 とリリィ。


「かわいいですー」


 とライラ。いや、猫に喜ぶ二人もかわいい。

 それぞれ、目の前に四匹の子猫がおかれた。リリィの前には耳も手足も短い猫が四匹。マンチカンか。ライラの前にはグレーで目の青い猫が四匹。シャムだな。


「じゃあ、とりあえず、一匹持ってみて?」


 と言うと、二人とも一匹を抱え上げる。でね、ここからがお願いなんだけど、さっきの魔力を右手から左手に移したやつ、あれを子猫にやってほしいんだよね。で、慣れてきたら右手と左手で一匹ずつ、これを二回やって四匹。ちょっと見ていて」


 と言って僕もとりあえず一匹をもって猫をなでなでしたり肉球をもみもみしたりしつつ、魔力を流し込む。


「この時に絶対忘れないでほしいのが、頭よくなれー、とか、運動神経よくなれーとか、かっこよくなれーとか、自分の理想の猫像になるようにって念じること。そうやって魔力を送ると、猫はそういう方向に成長するから。これができるのは大体二か月くらい。それ以降は効かない。だから、二か月間はお願いね。それと、あんまり一気に魔力を流し込んじゃだめだよ。少しずつゆっくりね」


 そう説明すると、


「もしかして、いつも連れている猫たちの能力が高いのはそのせい? やたらと言うことを聞くのも?」


 と聞いてくるので、


「そうだと思うよ」


 と答えておく。二人はなでなでしながら魔力を送り始める。


「そうそう、そんな感じ。後はイメージだからね。特にリリィ、変なこと考えながら魔力送っちゃだめだよ」


 と忠告をしておく。


「なにいってんのよ」


 と怒るリリィだが、猫のなでなでがかわいいのか。夢中になっている。ところで、マンチカンはかっこよくなるのか? 運動神経とは真逆な体型だけど。


「じゃあ、今日は解散して、それぞれやることやってから寝てね。まずは猫。次に魔力の全消費。充電装置は、握っていれば勝手に抜かれるから、最後でいいよ。がんばってね」


 といって解散した。


 探査魔法については、リリィもライラも京子ちゃんに教わり、イメージすることで簡単に習得できたらしい。なぜわかったかというと、リリィもライラも僕の部屋に突入してきたからだ。


「どうしてグレイスの部屋にこはるとドライアがいるの?」


 と、いうことだ。

 部屋に戻ったところ、僕のベッドで二人はすでに寝ていた。しかも、真ん中に僕の寝るスペースを確保したうえで。

 仕方ないので、僕はその真ん中で寝ていたというわけだ。

 リリィ達は、猫の魔力ぐるぐるをして、探査魔法を最大限広げて、最後に充電装置を握って寝ようとしたところでの突入だった。二人とも魔力をかなり消費していたのでふらふらだった。

 婚約者だからゆるせ、と言って部屋に戻した。リリィにいたってはフラフラなくせに放さないので、逆にぎゅっと抱きしめてあげたら、素直に放してくれた。「お休み」といって部屋に戻り、僕も寝た。


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