アリシア帝国-19
僕はココとルルに話をする。
「この先で犬人族とランドルフ辺境伯軍が対峙しているのは聞いての通り。だけどね、この森に猿人族が隠れていた。それって、どういうこと?」
「まさか」
と言って、ココは目を見開く。
「もともと我々犬王国と猿王国は仲が悪いのです。しかしながら領土が隣り合っております。もしかしたら、今回の誘拐からこの戦闘まで猿人族に仕組まれたものだとしたら」
「仕組まれたものだとしたら?」
「犬人族の兵五千というのは、全体から見たら少ないかもしれません。しかしながら、我々の住んでいた領から出したのだとしたら、今は街を守るべき戦力はなく、そのすきに、猿人族が街を襲う計画なのかもしれません。ここにいた猿人族たちはここでの戦闘が始まったのを見届けて領地に戻り、我が街に戦闘を仕掛けるつもりだったということになります。こんなところで戦っていてはいけません。早く、街に戻さないと」
まあ、猿人族を嫌っていることからの憶測かもしれないが、可能性がないわけではないか。
「よし、ココとルル、子供達をつれて、犬人族の軍のもとへ走れ。そして、猿人族が見ていたことを指揮官に伝えろ。そのうえで、兵を引かせろ。子供達も無事だった。それでとりあえずはいいだろう。僕達は、ランドルフ軍の方へ行く。それでな、ココとルル。これまでご苦労様。このまま子供達をつれて、犬王国に帰れ。奴隷はクビだ。いいな。それと、ローレル伯爵との約束忘れるなよ。じゃあ、元気で」
と言って、僕たちは、ランドルフ軍の方へ向かうこととする。ココとルルは何かを言いたそうにしていたが、気にせず馬車をださせた。
「ランドルフ辺境伯、辺境伯はいらっしゃいますか?」
僕らは声を上げながら馬車を近づける。はじめはケルベロスに慌てた兵士たちも、帝国の旗をみて落ち着きを戻す。軍隊のわきに馬車を止めて、僕らは歩き出す。しばらくすると、騎士が現れ、
「こちらへ」
と天幕へ誘導してくれる。
「これはこれはライラ様。もしかして、援軍ですかな? 嘆願書を出してまだ間もないのに早いですな」
と辺境伯はいう。
「いえ、私達しかいません」
とライラ。辺境伯は怪訝な顔をする。
「ではなにゆえ、このような戦場まで?」
「ここから先は僕から説明します」
と言って、先ほどのココの予想を伝える。
「しかしながら、相手が引いてくれない限りはこちらも引くわけにはいくまい」
それはそのとおりだ。しばらく待つことにする。
すると、犬人族の兵が引き始めた。というか、走っていくように見える。かなり危機感を募らせているようだった。ということは、あの予想は結構現実味があったということか。
最後に、ココとルルの馬車が取り残される。が、その馬車も兵を追って母国へ帰っていった。
僕たちもとりあえず辺境伯たちと一緒に辺境伯領へ戻ることとした。
辺境伯邸に戻るとエライゼ夫人が出迎えてくれた。
「おかえりなさい、あなた」
それからこっちをみて
「戦争を止めてくださったのですね。ありがとうございます」
と、頭を下げる。
「頭をあげてください。たまたまタイミングが良かっただけです」
と返しておく。
会議室に移動して、情報共有をする。
まずはこちらからココとルルに会ったところから返したところまで話した。
「なるほどな。そんなことがあったとは。我が領の奴隷商にも違法な取引はしないようさらに通達しておこう。特に獣人については注意しろとな」
「獣王共和国についてはどの程度情報が入ってくるのですか?」
「ほとんどやり取りがないからな。入ってくる情報は西方諸国連合からの方が多い」
西方諸国連合とは、このアリシア帝国の西にある小国の集まりだ。
その西方諸国連合の北側の山脈にはドワーフの国があるらしい。
西方諸国連合の最南端の国セデベリアとランドルフ辺境伯の領土が獣王共和国のある大陸とつながっている。
「セデベリアからの商人の情報になるが、獣王共和国は比較的好戦的な国が多く、いつも争いを続けているということだ。中でも犬王国は穏やかな方らしく、セデベリアは犬王国と交易がある。我が国はないがな。その犬王国の西にある猿王国とその南の山脈にある鳥王国がおとなしい犬王国によくちょっかいをかけているらしい。犬王国が人との交易をもっている、というのを妬んでかもかもしれない。ちなみに犬王国の南には猫王国があるのだが、我関せずらしい。性格なのかの。しかも犬王国と猫王国は非常に多様でな、犬王国は大きな体を持つものはおとなしく、猫王国は大きな体を持つ方が勇ましい傾向にあるようだ」
「ということは、猿、鳥、犬の対立、特に今回の場合は猿王国と犬王国の対立によるもの、もしかしたら、ココ達が言うように、誘拐から猿王国のたくらみかもしれませんね」
「考えておくべきだろうな。まあ、基本的にはあの大陸内の問題だから、こちらにはあまり飛び火はしてこないのだが、これからも今回のように、自分たちの手を汚すことのない、我々を使った策略を練ってくるかもしれないな」
それはめんどくさい。ぜひとも、身内だけでやってほしい。
僕達は、一晩のお世話になって帰ることにする。
翌日、キザクラ商会で食料を買い込み、ランドルフ辺境伯領都を出る。
そのまま東に進むと、元ハミルト男爵領に入る。
現在は、皇帝の直轄領となっている。正直言って、この街は、東西からの流通が集まって北のシャスター公爵領と帝都につながっているから、商売をするには魅力的すぎる土地でもある。それをうまくできなかったのは元男爵の才のなさか。
皇帝は、ここを直轄領にして、流通の拠点にすることで、おそらく大きな収益を得るのだろうな。キザクラ商会の支店も大きくしておくよう指示しようかな。
今回は素通りする。ベラにも会いたかったが、我慢した。
で、リコラシュタインまで戻ってくる。
ここまで七日。
リコラシュタイン領主のカインズとビクトリア夫人に一応現状報告をする。
行きと帰りで人数が違うことを指摘され、ドライアを紹介した。もちろん高位精霊であることは内緒にした。
ついでなので、僕はいくつか質問をした。しかし、オキサリスもオキサリシュタインも知らないとのこと。一応怪しい皇后様のことも聞く。
「皇后様のことですが、元はどちらのお方なのですか?」
「私もよくは知らないが、西の方から訪問された一団にいた姫様だったと記憶している。どこの国かまでは知らないが」
と言って考えてしまう。この大陸の一番東に山脈があり、その西にマイリスブルグだ。その西にアリシア、さらに西には西方諸国連合やドワーフ。ドワーフではあるまい。
その夜、ぼーっとそんなことを考えていると、京子ちゃんがやってきて、
「陵くん、なんか今世の目的が謎解きになっちゃっているね」
と。僕は気づかされる。正直そんなことはどうでもいいかと思いなおす。
たしかに、神様とかあの銀髪天使とか気になるけど、出てきたら気にすればいい。とりあえず僕は、人の役に立つ、喜ばれて、使われる技術開発をするのだ。
それに、みんなで楽しく暮らそう。争いなんてもってのほか。関わらないに越したことはない。そうと決まったら、帰ろう。
「そうだね。京子ちゃん、ありがとう。明日、ローゼンシュタインに帰ろう。で、しばらくのんびりしようか。ちょっと研究室にも籠りたいしさ」
「うん。でも籠るのもほどほどにしなよー」
「卒業して勉強の必要もないし、スローライフと決め込もう!」
「うちのパパが早く継げっていうかもしれないけどね、それまではね」
「ははは」
と苦笑いをしておく。継ぐということは京子ちゃんと結婚するってことで、うれしいことではあるんだけれど、さすがに十六歳で結婚って気が引ける。もうちょっとこのままでもいいじゃないか。
ローゼンシュタインほどの研究室が他にはないのだから、もう少しやりたいことに没頭しよう。
そう、京子ちゃんと話をして、寝ることにした。スローライフの基本と言えば猫だろう。シロタエ達を呼んでもふもふしてから一緒に眠りについた。




