アリシア帝国-18
帝都を出発して、およそ三日でシャスター公爵領に戻る。これで何度目かなというほど来ているような気がする。相も変わらずお願いをして裏口から入れてもらう。
公爵邸へと行くと、シャスター公爵とレイチェル夫人、バイオレットが迎え入れてくれた。そこで、帝都で増えた子供達やココとルルを公爵家の面々に紹介する。紹介するのはココとルルだが。
「シャシャ様とシュシュ様は、獣王共和国の犬王国、国王のチャチャ様とリュリュ様の子、つまりは王子と王女となります。ロロは私どもの子供です」
と、ココが紹介すると、シャシャが代表して
「この度は私達を助けてくださいまして、ありがとうございました」
「いえ、私どもは何もしておりません、すべてはグレイス君達がしたこと。私どもも娘を助けてもらった側です」
「それでも、ココとルルの開放にもご尽力くださったと。感謝いたします」
「いえ、本当に、グッドイール商会の代表を紹介したくらいですよ」
とまあ終わりそうにない。それはそうか。公爵からしたら、相手は子供とはいえ、一王国の王子と王女なのだ。オリビアとライラの対応するようなものだ。
「それでは、お話を聞かせてくださいますか?」
と、バイオレットが話を遮って、
「こちらへどうぞ」
と、子供達をテーブルにつかせた。そういえば、バイオレットもだいぶ元気になったな。
獣人の子供達は三人は帝都での伯爵との暮らしについて楽しかったことなど話している。
「素敵なおじいさまとおばあさまですね」
と、バイオレットは頷きながら聞く。公爵は、
「伯爵は、若いころは騎士団で活躍をされていたのだが、ある時から帝都の屋敷にこもられたと聞いていた。また元気になったのだな。昔世話になったことだし、たまには会いに行ってみるかな」
などと話していた。バイオレットが、
「犬王国ってどんなところ?」
って聞く。僕も気になっていたけど。
「こっちの国とあんまり変わらないよ。食べ物は肉が多いかな。川も海もあるけど、僕達はみんな肉が好きなんだ」
「南にあるからこっちより暑いよ。冬なんてないし。ずっと半袖と短パンでいけるよ」
と。また、お菓子を出されると、
「こっちのお菓子はおいしいよな」
「王国はフルーツはたくさんあるんだけどね」
と、こっちと犬王国の比較をしていく三人。ふむふむと聞いている公爵家の三人。僕は、あんまり暑いところは苦手だなーなんて思っていた。行く気もないけどね。でも、果物を仕入れて売るのもありか。
人と獣人との間で話は続き、こういう話を聞いていると、信頼関係も築けるということがわかってよかった。
翌日、シャスター公爵領を後にする。
「ねえ、グレイス君。ハミルト領を通るの?」
と、京子ちゃん。
「あんまりいいことなさそうだし、ショートカットしようかなと。一番獣王共和国に近いのはランドルフ辺境伯領だよね。南西方向へショートカットしよう」
そう言って、南西方向へ馬車を向ける。道なんてないけど、草原を通っていけばいいだろう。
僕たちは十日をかけてランドルフ辺境伯領の領都につく。
ケルベロス馬車でだが、アリシアの旗を立てて門をくぐる。この旗を立てていればスルーパスだ。
もちろん、ライラの笑顔を添えてだ。ライラのおかげでケルベロス馬車は街中を通っても怖がられることなく、辺境伯邸へと向かっていく。
辺境伯邸についたが、なにやら様子がおかしい。静かだった。
出迎えてくれたのはエライゼ夫人だった。
だが、連れているココとルル、獣人の子供たち目を細める。
ライラがいなかったらおそらく剣を向けたであろう剣幕だ。
仕方がないので、ココとルルたちを馬車に下げさせる。ライラからの手を出すなという命令がなければ牢屋に入れられてもおかしくはない雰囲気だった。
「エライゼ夫人、何があったのですか? なぜ辺境伯はいらっしゃらないのですか?」
「夫は、前線に出ております。獣王共和国のある大陸との境目に、犬王国の部隊が展開しており、警戒のため、出立なさいました。なお、犬王国軍はおよそ五千。こちらは一万です。今はまだにらみ合っている状況のようです。先ほど獣人を連れておいででしたが、この件と関係がおありでしょうか」
「……」
ライラはうつむいてしまう。
「代わりにお答えします。グレイス・ローゼンシュタインと申します。先ほどのお答えとして、関係があります、と言ってよいと考えます。実は、何者かが、獣王共和国犬王国の子供、しかも王子と王女を攫い、アリシア帝国に連れ込みました。私どもはそれを連れ戻したところです」
「犯人は捕まったのですか?」
「犯人はすでに処罰されております」
「では、早く、早くこの戦いを止めないと。犬人族の方が少ないとはいえ、獣人の身体能力は高いと聞きます。五千に対して一万では危険だと、そう夫は言って出立なさいました」
と、涙を浮かべる。
「はい。それでは私達は、戦いを止めるため、すぐに戦場へ向かいます」
そういって、ココ、ルル達と一緒にランドルフ領都を出た。国境の戦場まで三日もかかる。
三日目、遠くにランドルフ軍が見えてきた。
「よし、北から回ろう」
と言って、馬車を大きく右側へ迂回させる。ランドルフ辺境伯の背後から近づくのではなく、両軍の間に出ることを狙っての移動だ。でないと、またココとルルを連れていることをいぶかしがられてしまう。
ケルベロス馬車を急がせて、戦場に出ると、その先には犬王国の軍が遠くに見えてくる。辺境伯軍との間、一キロくらい。戦場の右側は森、左側は海だ。僕らはいったん北に回り、森沿いに南下する。
すると、探査魔法に怪しげな気配が引っ掛かった。森の中だ。戦場を見渡すように何者かが配置している。僕は馬車を止める。
「フラン、こはる、行くよ」
そう二人に呼びかけて僕は馬車を降りる。
僕達三人は森を駆ける。
「多分、十人くらい。木の上かも」
速度を落として近づくと、ナイフが飛んでくる。
接近がばれた。
かなでが木の上へ飛んでいく。
戦闘音が聞こえる。かなでも僕もナイフを持って応対する。森の中の戦闘では剣や鎌は使いづらい。
僕に向かってもナイフが飛んでくる。僕とこはるも別れて別の相手に向かう。
突然、木の陰から金属でできた爪が伸びてくる。ナイフでそれを受ける。が、後ろからナイフが飛んでくる。よける。
三人のみで来るべきじゃなかった。
ついでに言うと、ばらけたのはダメだった。囲まれる。
とりあえず目の前の敵を何とかしようと敵の姿を視界に入れる。人サイズの猿人族だった。胸に金属の防具を付け、手に爪を付けた猿人族。
爪をナイフではじくが、そのリーチが長い。それに素早い。木を使った立体的な攻撃が飛んでくる。
背後から別の敵が牽制してくる。仕方ない。左手を魔法銃に持ち替える。アイスバレットの方。目の前の敵の爪を魔法銃で受けてナイフを突き出す。魔法銃を引いて、後ろから飛んでくるナイフの射線に合わせて三発。で、目の前の猿人族にも三発。
目の前の方は動かなくなった。ナイフが飛んできた方を見に行くと、こちらの猿人族も死んでいた。
僕はかなでの応援に向かう。
単独行動をしたことを強く反省する。かなでは三体の猿人族に囲まれていたので、アイスバレットを撃ちこみつつ、飛び込んでいく。
魔法銃で二体倒したところで、かなでが残り一体に魔法銃を撃ちこんだ。
次いで、こはるの戦っている方へ向かう。
しかし、こはるは最後の一体の腹にこぶしを叩き込んでいた。周りには、動かない猿人族が四体。最後の一体がいま、崩れ落ちた。こはるは問題なしか。さすがだ。
「これでおしまいなのじゃ」
と、こはる。
「やっぱりこはるは強いね。僕なんて二体に挟まれただけでもいっぱいいっぱいだった」
「うむ。猿人族じゃな。なんでこんなところにいるかわからんが。聞くか?」
そう言って、こはるは最後の猿人族の頭の毛をつかんでこっちに向ける。
しかし、その猿人族は何かを飲み込んで息絶える。
「死んでしまったか。まあ仕方ないの。集めてきて燃やしておくか?」
「いや、埋めておこう。煙を立てるのもどうかと思うしね」
僕らは猿人族を埋めて馬車にもどった。




