アリシア帝国-15
伯爵達は、帝城に着くとライラのもとに通された。
「ライラ様、この子達のことをどうかよろしくお願いいたします」
と、伯爵は言って、子供達を前へ押し出す。夫人は声を出したら泣いてしまいそうであった。
「伯爵。よろしいのですか? この子達は、あなたたちが奴隷商から購入したのではないのですか?」
「確かに、奴隷商にお金を払いました。ですが、それは、この子達に会わせてくれた報酬であって、この子達の対価ではありません。孫に値を付ける祖父祖母がどこにおりましょうか」
「私には何が正しいのかはわかりません。どのような答えを出されても皆さんの意思を尊重するつもりでいました。この決断は大変つらいものだったと思います。ご決断に敬意を表します」
子供達は、伯爵に抱きつき、
「ありがとう、おじいちゃん」
と、言った。そして、夫人にも同じように抱きつく。
「ありがとう、おばあちゃん。僕達、おじいちゃんもおばあちゃんも大好きだよ。おじいちゃんとおばあちゃんがもう一人ずつできたみたいでうれしい。必ず会いに来るからね。元気で待っていてね。約束だよ」
ついにこらえていた涙があふれだし、夫人はしゃがんで子供たちを抱きしめ泣いた。
「わたしも、わたしもありがとう。待っているから、必ず会いに来ておくれ。そして元気で」
と、夫人は腕に力をいれる。子供達も負けずに抱きしめ返した。夫人は手を離すと立ち上がり、子供達の背をココとルルの方へ押した。
「行きなさい」
と。子供達は、ココとルルのもとへ歩いて行った。
「ココ、ルル、あとはお願いします」
と、ライラが言うと、ココとルルは子供達を連れて退室していった。伯爵も夫人もその背中をドアが閉まるまで追っていた。
「さて、伯爵、それとイザベラ様。少しお付き合いいただけますでしょうか」
と、ライラは二人を誘う。そして二人を連れて外に出て馬車に乗り込む。
馬車は帝城を出て街中を郊外にむけて走っていく。
「ちょっと途中で寄り道させていただきます」
とライラは言って、とある商店の前に馬車を止める。
「ちょっと待っていてください」
と言って馬車をおり、しばらくして、大きな袋をもって帰ってきた。
「それでは行きましょうか」
ライラが馬車に乗り込むと、再び馬車が動き出す。
しばらくすると、郊外にあるちょっと古ぼけた教会の前に馬車が止まる。
「それでは降りましょうか。伯爵様はこっちの袋を。イザベラ様はこっちの袋を持ってください。足元に気を付けてくださいね」
と言って、二人を促す。
三人が教会に入っていくと、それを見つめるたくさんの目があった。一人の女の子が大きな声を上げる。
「ライラ様、いらしゃい。今日も来てくれたのね」
皇女に対する言葉づかいではないが、ライラは気にしない。
「今日はね、ローレル伯爵様と奥様のイザベラ様が一緒に遊びに来てくれましたー」
とライラが言うと、子供たちが一斉に集まってくる。
「伯爵様、遊びに来てくれたの」
「なにその袋、何が入っているの?」
と、子供たちに囲まれ、
「えっと、えっと」
と焦って袋の中を確認する伯爵。
「イザベラ様、ようこそ孤児院へ」
「一緒にあそんで」
「ぬいぐるみもあるよ」
「絵本は?」
と、こっちも女の子に囲まれてどうしていいかわからないような感じで、取り敢えず、手渡された袋の中を確認する。
「あーボールだ! 伯爵様ボールを持ってきてくれたの? ボールで遊ぶ?」
「こっちこっち」
と、子供達は、庭に向かって伯爵の袖を引っ張る。
「イザベラ様、絵本を持ってきてくれたの?」
「読んで読んで」
と、夫人は小さな女の子に袖を引っ張られて椅子の方へ連れていかれる。二人とも、困ったようで、それでも笑顔が浮かんでいた。
伯爵が庭に連れていかれると、そこでは剣の練習をしている比較的大きい子供達と、それを教えている二人の男がいた。
「伯爵様ですね。私はグレイスと言います。こっちはミハエルです。旅の途中だったのですが、こちらで剣を教えていました。伯爵様はこれから子供達とボール遊びですか? 後でご一緒させてください」
「ははは、私は、ボールでどうやって遊んでいいか」
「ボールを手で打ちあげて落とさないようにみんなで回すだけでも楽しいですよ」
と、グレイスはバレーを勧めた。子供達の順応性は高く、伯爵と一緒にバレーをして楽しんでいた。
一方、
「こんにちは、イザベラ様でいらっしゃいますか? 私はソフィリアと申します。こっちはフランとリリィです。子供達が多いので助かります。小さい子達に絵本を読んであげてくださいますか?」
夫人は戸惑いながらも絵本を広げて子供に読み聞かせた。
「えー、おひめさまどうなっちゃうの?」
「どうなっちゃうのかな? 悪いおおかみさんにたべられちゃうかなー」
「きゃー」
「すると、遠くから声が聞こえました。「ひめさまー」と白馬に乗った王子様がやってきたのです」
「わーすごいー」
「かっこいいー」
などと歓声が上がっていた。夫人は子供の反応がたのしいのか、役に応じて声を変えたり場面場面で抑揚をつけたりして子供達に読んでいた。
おやつの時間になる。
「今日は伯爵さまとイザベラ様がおやつを持ってきてくれました」
と、ライラが言うと、子供達は大盛り上がりで食堂に走っていった。夫人は子供達が連れて行ってしまった。夫人は、子供達がおやつを食べているのを横で楽しそうに眺めていた。
「わしらは何も買っておらんのだが」
と伯爵が困惑していると、
「先ほどは簡単な挨拶しかできず申し訳ありませんでした。私は、グレイス・ローゼンシュタインと申します。キザクラ商会の会長をしています」
「あの、最近魔法具を売って大きくなった商会か」
「はい、そうです。私どもはその傍ら、こういった孤児院に対して支援も行っているんです。今日はたまたまこの帝都に滞在していたのでこの孤児院におりますが、普段はほかの街を旅して転々としております」
グレイスは続ける。
「こういった孤児院では十二歳までの子供がいます。たいてい十二歳になると子供達は商店に働きに出たり冒険者になったりします。ですが、なかなか算数を学んだり剣を学んだりといった機会がないというのが現状です」
「そうなのか。だが、こんなにたくさんの孤児がいるとは知らなかった。孤児院の経営は普段どうなっているんだ」
「国から補助が出ていることはご存じかと思います。それで経営することはできています。また、教会のシスター達が子供の面倒をみています」
「みたところ、そんなにシスターがたくさんいるとは思えないが」
「そうなんです。だから時々来ては、商店に勤めることを希望する子に算数を、冒険者になりたい子に剣を教えているのです。私どもの商会からも時々従業員を来させているのですが、人手は足りていないですね」
さらにグレイスは続ける。
「それでも子供達には元気に育ってほしいと思っていますし、彼らには未来があります。僕は彼らを応援してあげたいんです」
「見たところ、君もまだ子供、成人したばかりくらいか? 若いではないか。そういったことを考えるのは年寄りの仕事ではないかね」
と伯爵がいうと、グレイスは苦笑いをしている。
そうこうしているとおやつを食べ終わった男の子達が再び集まってきた。
「よし、私が剣を教えてあげよう。これでも昔は騎士団にいたこともあるんだ」
「えー、伯爵様すごい!」
「でもね、僕は冒険者になりたいから、騎士の剣じゃなくて魔獣を倒す剣を覚えたいんだ」
「対人戦も魔物も基本は同じだ。これから教えてやるから、ついてこい!」
と伯爵は意気揚々と出て行った。子供達は特に大きい子を中心に伯爵について行った。
夫人の方はというと、
「イザベラ様、おやつおいしかったです。ありがとうございました」
「おやつ好きなの?」
「甘いの大好き!」
「今度は、買ったものじゃなくて、一緒に作ってみる?」
「えー? 作れるの?」
「作ってみたい!」
「やってみたい!」
「いっぱい作るー」
と、女の子達は盛り上がっている。
「じゃあ、今度の時は、材料を買ってこなきゃね」
このように、次の約束までする夫人。さっきまで泣いていたのに、今ではそんなことを忘れるほど元気に子供達と話している。




