アリシア帝国-14
与えられた部屋に戻る。
「グレイス様、街を見てきてもいいですか?」
とココ。
「なぜ?」
と聞くと、
「私たちは鼻が利きます。子供たちがいるかはにおいでわかると思います」
「うーん。一日待ってもらえる?」
と答えて、
「シロタエ」
というと、白猫がやってくる。
「ちょっと頼むよ」
と言うと、シロタエは部屋を出て行った。
「まあ、待ってみようよ」
とココとルルを落ちつける。
シロタエが戻ってきたのは翌日の夕方だった。
「ちょっと出かけてみようか」
そう言って、ココとルルをつれて出かける。先を歩いているシロタエについて行く。
三十分も貴族の邸宅区を歩くとシロタエがある邸宅の前に止まる。
「こちらはどちらのお屋敷でしょうか」
と門番に聞く。
「ここはローレル伯爵邸だ」
「立派なお屋敷ですね。それでは失礼します」
と帝城に帰ることにした。
「さて、ライラ、お願いしてもいいかな。明日、ローレル伯爵邸に行ってほしいんだ。こはるとドライアを連れて行ってくれる? こはる、ドライア、子供っぽくね」
それと、と。
「ココとルル、ライラについて行ってくれる」
「「「わかりました」」」
とライラ、ココとルル。
「でね……」
翌日、ライラたちはローレル伯爵邸を訪れる。ライラは門番に尋ねる。
「突然訪問して申し訳ありません。第四皇女のライラと申します。ローレル伯爵にお会いできますでしょうか」
と。さすがの門番も皇女を無下にもできず、とはいえ、すぐに通すわけにもいかない。
「少々お待ちください。主人に確認を取ってまいりますので」
と言って走り出す。しばらくすると、伯爵が夫人と一緒に迎えに来た。
「このような年寄り二人暮らしの邸宅にお越しいただけるとは、まずは、屋敷内に席を用意しますのでどうぞこちらへ」
と伯爵。
「あら、かわいいお嬢様たちね。こんにちは。お菓子でも用意しますね」
とは伯爵夫人。
「ありがとうございます」
と、ドライア。こはるは子供っぽいまねなんてできない。伯爵と夫人は、ライラたちの後ろに立つ獣人の執事とメイドを見てぎょっとする。が、何もなかったかのようにふるまう。「さあ、こちらへどうぞ」と。
応接室に通されると、伯爵家のメイドたちがお茶やお菓子を用意していく。こはるとドライアは遠慮なく食べていく。
「ところで、どういった御用で私どものような年寄りの二人暮らしをたずねてこられたのですか? こんなかわいいお子さん達も連れて、年寄りを慰めにきてくださったのでしょうか」
「そんなところですわ。お二人にはお子さんがいらっしゃらなかったはず。どうされているかと心配になりまして」
とライラが答える。
「それはありがとうございます。しかし突然ですね。前もって言ってくだされば、もっといろいろと用意いたしましたのに」
「それにしては、子供の好きそうなお菓子が用意されているのですね」
「ええ、私どもも甘いものが好きでして、よく食べております」
と、たわいのない話をしていると、廊下を走る音が近づいてきた。伯爵と夫人はちょっと表情が硬くなる。そして、部屋を開けて入ってくる子供が三人。
「じいちゃん。誰か来たの? 僕達と同じくらいの子供が来たみたいだけど。一緒に遊べるの? もしかして、友達?」
とはしゃいで言う。が、ライラたちの後ろに立つ獣人二人をみて、
「ココ、それとルル!」
「あ、お父様? お母様? なんでここに?」
と、獣人の子供達は驚いている。
それを見て、伯爵たちは、落胆した顔をしてうつむいてしまった。
「申し訳ありません、シャシャ様、シュシュ様、それにロロ。今は、こちらの方々に仕えているので、こっちのことは気にしないでください」
とココ。
「え、なんで?」
と、ロロと呼ばれた子供。ココとルルは執事とメイドに戻る。
「伯爵様、私達は、この獣人の子供達がここにいることを知っていて来ました。それに、私達が獣人の従者を連れていることを気にされていましたよね? なぜ、子供達を部屋から出ないようにしておかなかったのですか?」
「私達は、子供達がかわいいのであって、閉じ込めたいとは思っていない。好きにさせたいと思っている」
と伯爵。
「ええ、子供はのびのびと育つべきです」
と夫人。
「それではなぜ、この屋敷に?」
「子供達がかわいいとはいえ、この屋敷に閉じ込めてしまったのは、外に知られると騒がれるかと思ったからだ」
「おじいちゃん。僕達、この屋敷の中で遊んだりおいしいものを食べさせてもらったりして楽しいよ」
と言って、伯爵に寄りそるシャシャとシュシュ。
「ありがとうな。だがな、私達のわがままでこの屋敷に閉じ込めてしまっているのも事実なのだよ」
と伯爵。
「ご存じの通り、私達には子供がいません。寂しさを紛らわせるために、犬を飼ったりしました。とてもかわいがったのですが、寿命の問題で、私達より先に死んでしまいました。何度も犬を飼ったのですが、結局、泣くことになりました。そんな時に、奴隷商が、この三人を連れてきたのです。奴隷商がどういったつもりでこの子達を連れてきたのかは私には全くわかりませんでした。しかし、見た瞬間に私達は引き取ることを決めたのです。しかし、奴隷商から獣人を買った、という事実は消えず、後ろめたい気持ちもあり、子供達をこの屋敷に閉じ込めてしまいました」
伯爵は説明をつづけるが、夫人は何かを覚悟したかのように、顔を手で隠して泣き始めてしまった。
「この屋敷から出すことはできませんでしたが、せめて屋敷内では自由にさせたいと、不自由をさせないようにさせたいと、してきた次第です。私達は、この子達の嫌がることをしたいとは思っていません。そちらのお二人がこの子達の両親、もしくは保護者であるのであれば、この子達をお返ししたいと思っています」
「お父様、お母様、おじいちゃ……いえ伯爵様と奥様は僕達にとてもやさしくしてくれたよ。ご飯もおやつもたくさんくれたし、庭でも遊ばせてくれた。騎士たちと剣の訓練もさせてくれたよ。奥様は絵本も読んでくれたし、勉強も教えてくれたんだ。街から連れ出されちゃったときは怖かったし不安だったけど、ここでは楽しく暮らしていたよ」
だからおじいちゃんとおばあちゃんをせめないで、と、ロロは訴える。シャシャとシュシュもうなずいている。
「私達は、君のお父さんとお母さんが君達を探すのを手伝っただけ。伯爵を罰するとかそういう気はありませんよ。これからのことも、私は口を出すつもりはありません。君達と、伯爵様、伯爵夫人と話し合って決めなさい」
と、ライラは立ち上がる。ライラが部屋を出ていこうとすると、当然従者のココとルルも部屋を出ていくことになる。
「お父様、お母様……」
とロロ。
「私達は今はライラ様の従者だ」
とココはロロに告げて部屋を出ていく。ルルも無言で部屋を出て行った。
「おばあちゃん、泣かないで」
とシュシュ。
「私達、おじいちゃんもおばあちゃんも大好きだよ。一緒に遊んでくれるし、勉強も教えてくれる。いつも一緒にいてくれたし。お菓子もごはんもすごくおいしかったよ」
「僕もここでの生活は楽しいよ。おじいちゃんとおばあちゃんのおかげだよ」
と、シャシャも続ける。
「そうだよ。さらわれちゃったときはすごく不安だったけど。こんなに素敵なところに来られてよかったと思うよ」
と、ロロ。でも、夫人は泣き止まない。なにかを覚悟しているように。そこで伯爵が口を開く。
「お前達。ありがとう。お前達が来てくれて私達も幸せだった。私達には子供がいなかった。正しくは、小さいときに死んでしまった。だからな、おじいちゃん、おばあちゃんなんて呼ばれることはないと思っていたんだ。そう呼んでもらえてうれしかった。本当にありがとう。こんな短い間だったが、お前達がくれたこの幸せを私達はわすれない。だから、お父さん達のところへ帰りなさい」
夫人は声を出して泣き出してしまう。
「おばあちゃん泣かないで」
と、三人は夫人に寄り添う。
「僕達、おばあちゃんが大好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思うくらい」
夫人は顔から手を放し、腕を大きく広げて三人を抱きかかえる。しかし、何も言えないまま、子供達を抱きながら、泣き続けた。
伯爵は夫人の肩に手を置いて、
「この子達を返してあげないといけない。あの人達は、この子達を探してこんな遠くまでやってきたんだ。それに、故郷にはこの子達が帰ってくるのを待っている人達がたくさんいるだろう。この子達の友達もいるだろう。私達がこの子達を閉じ込めてはいけないんだ。この子達の未来を奪ってはいけないんだ」
そういうと、夫人はようやく落ち着きはじめ、ただ無言でうなずいた。
「ライラ様はどうした?」
と伯爵はメイドに聞く。
「帝城にもどられました」
「そうか。馬車の手配を頼む」
伯爵は、夫人の手を取って
「さあ行こうか」
と言って立ち上がる。夫人もよろよろと立ち上がった。
「お前達、家に帰るのだから、荷物を用意しておいで」
と、伯爵は子供達に声をかける。子供達は戸惑ってなかなか動けないでいたが、
「さあ、早く」
と、伯爵に強く言われて自分達の部屋へ戻っていった。




