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アリシア帝国-10

 帝都へ向かっているのだが、シャスター公爵からの伝令が帝都に向かって出ているはずで、この伝令より早く着かない方がいいだろうと考えた。しかしながら、ケルベロスにひかせた馬車が遅いわけもなく、伝令を追い越してしまう可能性があった。なので、


「どうしようか。どこかで一日くらい遊んでいく? 途中の町でのんびりする?」


 と皆に提案してみる。

 その結果、どこかへ寄り道することに決定。


「こはるー、どこか遊べそうなところ、ある?」

「ちょっとまっとれ、空からみてくる」


 といってこはるは空に飛び立った。しばらく旋回してから戻ってくるこはる。


「西の森の中に大きな湖があるけど」


 と報告を受ける。


「ちょっと行ってみようか」


 と声をかけると、皆も賛成してくれた。

 こはるはケルビーに乗り、先頭を走って案内をしてくれるようだ。

 森に着いて、その小道を入っていく。馬車は何とか通れる幅だ。森の中の小道を西へ行き、さらに南に行ったところで、大きな湖に出た。

 そこで反応したのがドライア。


「ん? ここは?」


 といってにおいを嗅ぐ。におい? と思ってドライアを見ていると、ドライアは湖に向かって、


「おーい、ウンちゃーん」


 と。呼びかける。においを嗅いで、ウンちゃんはないだろうに、と僕らは水際に並んで、いやな顔をして見ていると、突然水面が盛り上がり、津波のような水が僕らにかぶさった。僕らはびしょびしょになっただけで済んだのだが、納得はいかない。ケルベロスたちはぶるぶると水を飛ばして二次被害を出している。


「その呼び方をするなといっておろうが」


 と水色の髪の女性。水面に立ってドライアをにらんでいる。


「ひさしぶりー。だけど、なんで怒っているのかな?」

「だから、その呼び方をするなと」

「なんて呼んだらいいんだっけ」

「ディーネと呼べと何度言ったらわかる」

「そうだっけ、じゃあ、ディーネちゃん」

「ところで、そこでびしょびしょになっている子らは何者なのだ?」


 えっと、あなたが水をかけたんですよね。


「旅の仲間だよ。この北の帝都へ行く途中、どこか遊ぶところがないかと思っていたら、ここに来たみたい。私はそういえばここって、って感じ?」


 といったところで話を遮る。


「ということで、ちょっとこの湖で遊ばせてほしいんだけど、いいかな。ちなみに僕はグレイス。よろしくディーネ」


 びしゃっ。と水をかけられる。


「なれなれしく呼ぶな。私は高位の精霊でお前たちよりずっとずっと長く生きておる。もし、ここで遊びたかったら貢物をよこせ」


 なんとも、高飛車な。


「ちょっと待っていて、相談するから」


 といって、全員集合。びしゃびしゃだけど。小声で相談する。


「貢物ってなに? 精霊って何が好きなの?」


 と僕が聞くと、


「なんでもいいんじゃない? 私なら光にあててくれるとか肥料をくれるとか?」


 と適当なドライア。精霊にそんなもの必要ないよね。湖におしっこしたらきっと怒るよね。


「やっぱり食べ物かな。お酒はないけど、クッキーはあるよ?」


 と京子ちゃん。


「それが精霊に受けるかどうかわからないから……」


 京子ちゃんから一枚もらって


「はい、ドライア、あーん」


 とすると、ドライアはぱくっと食いついた。ドライアは目を輝かせて両手をほほにあて、「もう一枚くれ」


 という。ドライアのおでこを手で押さえてクッキーに近づけないようにして、


「おーい、ディーネさま」


 一応敬っておく。


「これをどうぞ」


 と京子ちゃんがクッキーを皿に並べてさしだす。ドライアは


「そんなにたくさん」


 と口惜しそうにしている。


「なんだこれは」


 と言ってディーネ様は一枚を手に取って口に運ぶ。京子ちゃん特性クッキーだぞ。

 するとディーネ様はドライアと同じ反応をする。気に入ってもらえたようだ。ディーネ様の視線がクッキーにくぎ付けになっているので、京子ちゃんが皿を前にさしだすと。皿ごと奪い取って、口に放り込んだ。皿ごと。


「ねえ、遊んでいい?」


 と聞くと、


「いいぞ」


 との返事。僕はホッとするが、納得できない美少女が一人。


「ねえ、お皿を返してほしいんだけど」


 と京子ちゃんが聞く。するとディーネは


「それは金の皿か? 銀の皿か?」


 とくだらないことを言ってくる。僕は、ちょっとめんどくさくなって、


「いや、どっちも使いづらいから、食ったやつ返してくれ」


 と返事をする。金も銀もいざとなったら魔法陣で生み出せる。


「つまらんの」


 といって口の中から皿をとりだした。いや、きたないな。


 許可をもらったところで、こはるがケルビーに乗ったまま湖に飛び込んだ。ほかのケルベロスもドライアも一緒にだ。

 ちょっと待て、いろんなことが起こって忘れていたが、今は春。まだ春。寒いわ。

 お湯の出る魔道具を使ってずぶ濡れの服のままシャワーを浴びる。前世でみたサーファーってこんな感じだったのかな。

 女性陣は風呂につかりに馬車へ戻った。きっと順番だろう。僕とミカエルは別の馬車に入り、体をふいて着替える。

 着替えをして馬車を出ると、まだ、こはるとドライアとケルベロスたちは水に入って遊んでいた。人ではないものたちは寒さに強いらしい。僕らはお昼の用意としてバーベキューをする準備を始める。ディーネ様も興味を持ったのか近づいて様子を見ている。


「食事をつくるのか?」


 と聞くので、


「肉を焼く」


 と答える。すると、


「魚も焼けるか?」


 と聞いてくるので、焼けると答えると、ディーネ様は湖に帰っていった。

 焼肉の準備が整ったころ、ディーネ様が両手に魚をもって帰ってきた。マスっぽい。味噌があったらちゃんちゃん焼きだったのに。でもおいしそうだからいいかと、半身に卸して塩をふって串にさし、火にかざした。

 肉も野菜も焼いていく。火の真ん中には鍋を設置し、スープを作る。ここにもディーネ様が持ってきてくれたマスを投入。

 魚の焼けるにおいを嗅ぎ取ってシロタエ達がさわぎだす。さっきまで眠そうにしていたのに。もどってきたケルベロスたちもよだれを垂らしている。


「ディーネ様、魚がもっと欲しい」


 とお願いすると、何匹も持ってきてくれた。魚は順番に焼いていくとして、焼きあがった魚、肉、そしてスープで昼食にした。

 シロタエ達は焼けたマスを取り合っている。たくさんあるぞー、と追加で焼いていく。ケルベロスたちは、自分の番が回ってくるのを順番に待っている。けどさ、君らがおなか一杯になるほどは焼けないかな。

 と、満足そうに魚をほおばるディーネ様を伺うと、やれやれ、と言ってまた湖に戻っていった。なかなかいい精霊様だ。

 一方のドライアはというと、熱いスープと格闘していた。キノコとかキノコとかキノコとか、持ってきてくれないかなーと念を送ってみる。無視された。伝わらないらしい。

 ディーネ様の奮闘と僕とミカエルが必死に焼いたこともあり、ケルベロスも含めてみなおなか一杯になった。シロタエ達も寝そべっている。まあ、おなか一杯になってすることと言ったら、昼寝だ。寒くなかったらな。とはいえ、猫たちやケルベロスたちは昼寝を決め込んだらしい。猫たちはケルベロスたちの毛皮の中にもぐりこんだ。


「ディーネ様、この辺って魔獣出ます?」


 と聞くと、


「出るぞ」


 と教えてもらったので、


「僕ら、ちょっと冒険者らしく、魔獣狩りか薬草の採取でもしてきますね」


 と僕。リリィとライラを誘う。結局、こはるとドライアを除く六人で行くことになった。


「それなら、西の方へ行くといっぱいいるぞ」


 と教えてもらった。

 こはるはケルビーにくっついて昼寝。ドライアはディーネ様とひさびさの話をするらしい。




「なあ、ドライア、さっき、旅に出るって言っていただろう?」

「ちょっと事情があってな、エルフに連れられてそこら辺の街に出たんだ。その時はまったく旅って感じじゃなくて、使命感をもって移動したって感じだった。だが、今は、その用事も片付いたから、森に戻るのもなんだと思って、あのグレイス達に同行させてもらうことにした。まだ旅を始めて一日もたってないけどね」

「そうなのか、私もここ何百年かここにいる。だが、わからんな。なんの目的で旅に出るのか。旅に出る必要性があるのか」

「私は旅に出たいと思ったよ。というか、グレイスについて行きたいと思った。グレイス達に関わったエルフたちがな、それはもう街で充実した生活を送っていた」

「エルフが街で? 森でなくて?」

「街だ。なんでもな、自分のために生きるのだと。里を、種族を捨ててな。エルフ達がまぶしく見えたよ。だから、私もグレイスについていけば同じような思いができるかもしれないとな。だから、奴らに同行している」

「なるほどな。あのエルフがそんな風に思うなんてな。もし面白かったら教えてくれ。いつか私も旅に出よう」

「今ではいけないのか?」

「今は、人を待っているのだ。もう数百年になる。千年以上か」

「人はそんなに生きんぞ? エルフか?」

「いや人だ。正しくは魔族か。ま、寿命的には同じだな。約束をした当人でなくても、もしかしたらその遠い子孫が迎えに来てくれるかもしれん。それを待つことにしている」

「もしかしたらもう来ないかもしれないのだろう?」

「そうかもしれないな、もしくは途中でなにか別の役割を担ってしまったかもしれない。まあ、それは仕方ないことだな。だが、誰かを待つというのもまんざらでもないぞ」

「何百年も、何千年もか?」

「私らの寿命からしたら、その程度一瞬だろう? 気にすることはない。いつか来る、その日を待っていればいい。その時のことを思いながらな」

「それで、その魔族を待って、一緒にどこへ行くつもりなんだ?」

「わからん。ただな、山脈をいくつも超えた東にとーげんきょーと呼ばれる地があるらしい。魔族がすんでいるらしいがな。その地自体もとても美しいところらしいが、湖も美しいらしい。さらに、その湖の水は甘いのだそうだ。ちょっと行ってみたくはならんか?」

「我々は精霊。行ったらいいのではないか?」

「お前も光に当たらないと具合が悪くなるのだろう? 私もきれいな水に入っていないと具合が悪いのだ。だから、連れていく手段をみつけて戻ってくると言っていた。それを待っているんだ。まあ悪いことばかりじゃない。どんなところか想像するだけでも楽しいというものだ」

「そうか。いつか行けるといいな」

「お前も、旅が楽しいといいな。また話に来いよ」

「もちろんだよ。まあ、そのころには行けているといいな、そのとーげんきょーとやらに」


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