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アリシア帝国-9

 朝食をとった後、公爵からバイオレットの変化について聞かれた。僕は、


「神様に愛されたのではないでしょうか」


 といい加減な答えをする。ドライアが精霊だとは話していない。呪術師か何かだと思っているだろう。なので、精霊の加護という話にもならない。

 それと、謝礼の話にもなったが、今回の件は皇帝からの依頼なので、そっちからもらう、と言って断った。それでもあれこれ言ってくるので、


「キザクラ商会と相談して社会貢献に使ってください。そうすれば、僕にもお金が回ってきますから」


 とにやりとしておいた。




 バイオレットは体調が良くなったとはいえ、一応様子を見るため、まだ部屋から出てこない。

 僕らは帝都へ向かうことの挨拶をしにバイオレットに会いに行った。まあ、バイオレットの部屋でエアフリスビーをしたり刀を振り回したりした変な人達という印象しか与えていない気がするけどね。あの後、リリィとライラがどんな話をしていたのかだが。


 部屋に入ると、バイオレットはベッドの上で上半身を起こしていた。


「元気になったみたいだね」

「はい、昨日、グレイス様たちが部屋を出られてから、ずっと体調がいいのです」


 僕とドライアが前に出てバイオレットに頭を下げる。


「僕たちの商会のトラブルのせいで、辛い思いをさせてしまいました、申し訳ありませんでした」

「申し訳なかった。あなたを呪って体調を悪くさせていたのは私だ。言ってくれれば、罰でもなんでも受けよう」

「いえ、確かに体調が悪い時は病気を恨んだりしましたが、事情は聞いております。すでに解決していただきましたし、謝っていただく必要はありません」


 と笑みを添えて言ってくれた。しかし、それではこちらとしてもドライアとしても気が済まない。

 バイオレットは話を続ける。


「昨晩、夢を見たのですよ。私の体が暖かい光に包まれる、そんな夢を。そしたら、朝にはこの姿です。何か関連があるのかな、と思っているのですが」

「それはバイオレット様が神様に愛されているからだと思います」


 と僕。相変わらず適当だ。


「そうですか! 神様が私を愛してくださっているのですね」


 ぱぁっと表情を明るくして頬を染める。


「それが本当ならとても嬉しいです」


 と。胸の前で手を組んで祈りを捧げる仕草をする。


「ということはです、今回のこの苦しみは、神様に愛されるための試練だったに違いありません。その試練を与えてくださったドライア様、乗り越える手助けをしてくださったグレイス様、本当にありがとうございます」


 ちょっと勘違いしちゃっているみたいだけど、なんと言っていいかわからず、黙っていると、


「そういうことですから、お二方にはやっぱり謝っていただく必要はないと思います。むしろ感謝を」


 と。うーん、ちょっと納得いかないけど。


「皆様は、これから出発されてしまうのですよね」


 と寂しい表情を作って聞いてくる。僕たちは頷く。


「あまりお引き止めすることもできません。もしよかったらお約束をしていただけませんか? 次にこの街を訪れた時には、会いに来てお話を聞かせてください。そして、その時に私が走れるようになっていたら、外で遊んでください」


 なんとも十二歳っぽいお願いだな。


「わかった。約束する」


 と言って別れを告げる。部屋を順番に出ていく。僕は最後だった。僕が部屋を出てドアを閉める瞬間、バイオレットのつぶやきが聞こえた。


「いってらっしゃいませ、神様」


 僕は黙って扉を閉めた。違うから。




 帝都に戻るため、馬車の準備をしていると、やってきたオスカーから礼を言われた。


「今回の件は本当に助けられたよ。バイオレット様に対して何もできなかったからな。ありがとう。それとな、こんなに私のことをこきつかったのはグレイスが初めてだ。貸しにしておくからいずれ返しに来い。っていうところだけど、バイオレット様の件と合わせてチャラにしておく。だからな、普通に遊びに来い」


 と。なんとも気さくな騎士団長だ。僕は、


「また帰りに寄れたら顔を出すよ。バイオレット様の様子も気になるしね」


 と言っておいた。オスカーが帰った後、ドライアがやってきた。


「なあグレイス」


 と、間を開けて、


「私は、自分の罪を償うため、ここで消滅することも考えていた。それでもいいと思っていたんだがな、その償う機会をお前に奪われてしまった。まあ、私ではああも簡単にはできなかったかもしれない。何日かかったかもわからない。だから感謝している。ありがとう。でだ。この後、私はどうしたらいい?」


 と聞いてくるので、


「いや、帰れよ」


 と突き放す。ドライアが年上なのはもちろん知っている。


「森には祀ってくれるエルフもいるんだろ? 頼ってくれている人たちもいるんだろ? やることがあってやれることがあるなら、帰ったらいいんじゃない?」


 と。すると、ドライアは真っ赤な顔をして怒り出す。


「私はだな、ここで死ぬ覚悟をしたんだ。それをグレイス、お前に助けられた。それにな、昨日の夜に布団に潜り込んだのを知っておったのだろ? 私の腹がすっかり治っている。あの娘を治すのにほとんど魔力を使ったんじゃなかったのか? 私まで治すとはどういうことだ?」


「おかげでぐっすり寝られたわ」


 と僕は笑って言う。確かに魔力を消費して寝るとよく寝られる。というか、倒れるともいう。


「グレイス! あのエルフの娘達は言っておったな。自分達のために生きると。それと私もあの娘達にいった。自分の意思で幸せに生きろと。私はそれを実践せねばならない。私はこれから自分の幸せのために自分の意思で動く。それでいいな」


 と言うので、頷いておく。ドライアは怒りを収めたのか、柔らかな少女の顔に戻り、


「じゃあ、これからもよろしくな。私はお前についていく。自分の意思で、自分の幸せのためにな」


 と。


「いやいや、違うんじゃない? 森に待っていてくれる人いるよ?」

「知らん。自由に生きろ。それにな、お前と一緒にいることで、社会貢献も経験できるのだろう? 働くことの充実感を得てみたいぞ」

「それならキザクラ商会に勤めればいいじゃん」

「いやだ。さっきも言ったろ? 私は自分の意思でお前についていくとな」


 僕は何もいえなくなる。


「それと、今朝、あのリリィとかいう娘に色々言われたが、そのなかで「そんな格好で」とういのがあったが、あれは何か? この体がダメなのか? あの娘のようになればいいのか?」


 と言って、突然成長しだす。


「いやいや、そういうことじゃないぞ」


 というと、ちょうどかなでと同じくらいで止まった。


「じゃ、これくらいでいいか」

「だからそういうことじゃなくてな」


 と言って、そこで言うのはやめた。後でワンピースでも買ってやることにしよう。緑色がいいかな。僕が葉っぱのワンピースを見ているのを察したのか、


「私にもその服をくれ。みなお揃いで来ているではないか」


 という。


「自分で作れないの? その服、自分で作っているんだよね?」

「そうだが、自分で作るのともらうのとでは違うのだ」

「それにこの服、黒じゃん? 光を遮っちゃうから光合成の邪魔になるよ」


 というと、


「問題ない」


 と頭に葉っぱと花を生やした。おー、後で京子ちゃんにセーラー服でも作ってもらおうかな、どこかの学園都市の少女みたいだ。そんなこと言ったら怒られるかなとも思ったが、後日、全員分作った。しかしながら、このセーラー服は後に封印される。


「まあ、この制服は、ここでは作れないから後日ね。どうせ、ドライアにいっぱい傷つけられちゃったから、新調するし」


 というと、ドライアがむくれる。


「それじゃ、よろしくね」


 と言ってドライアの頭を撫でる。


「私は、お前よりずっとずっと年上だからな」


 俯いて、それでも嬉しそうな顔をして、呟いていた。




 全員の準備が揃ったところで出発する。来た時と同じく裏門から出ていく。そうすれば、朝にもかかわらず、ケルベロス達はあんまり目立たないだろう。

 門ではオスカーをはじめとして騎士達が見送りに来てくれた。また、意外だったのは、リライアが見送りに来ていたことだった。キザクラ商会の会長じゃなくて、副会長を見送りに来ていたんだろうな。ミカエルは、呼ばれると手をちょっと上げていたから、リライアの気持ちに気づいていたってことで、よかった。




 僕たちは八人になってしまったので、ベッドはちょうど人数分だったけど、ドライアの座るところがなかった。御者台は三人ずつ座っているし。

 だけど、ドライアもケルベロスが気に入ったのか、ちびに乗っていた。ドライアはほとんど体重を感じさせないこともできるから、ちびでも問題なかったようだ。馬車の速度では十分だけど、こはるのケルビーには流石にスピードでは敵わないようだ。

 ちなみにドライアは精霊の中でも高位に当たるらしい。食事は取らないのか? と聞いたら、僕たちと同じようにすると言っていた。一人だけ違うのは寂しいからと。もちろん水と光だけで大丈夫らしい。

 僕はちょっと疑問に思ったことを聞いた。精霊って実体がないから光合成すら必要ないんじゃないかと。すると、たぶん大元は木だったから、光合成をしているつもりにならないと気分的に悪くなるらしい。たぶん、と言うのは、覚えていないらしい。じゃあ、この前の会話は? と聞いたら、光合成と光に当たると言うことは同義だと言った。光に当たることで元気になるのであれば確かに一緒か。水も気分らしい。だからか、嫌いな場所は光がないダンジョンだと言っていた。やっぱり光の魔法陣、必要かな。


 今日は、人目を気にしての夜中の出発じゃなくてよかった。太陽の下、ケルベロスに乗って風に吹かれているドライアは気持ちよさそうだった。


 僕たちは帝都に向かう。


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