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アリシア帝国-4

 この日の夜、闇に紛れて帝都を出る。帝都から離れたところで一泊してからシャスターに向かう。


 行きと同じく三日かかってシャスターの領都が見えるところまで来た。

 とりあえず、いつものように京子ちゃんとミカエルに街に入ってもらう。あ、紹介状を持たせるの忘れたわ。ごめん。ま、気づいたら帰ってくるだろう。

 と、思っていたら、予想より早く帰ってきた。大勢の騎士団を連れて。しかも騎士団は完全武装。京子ちゃん達は手をあげて降参ポーズ。先頭にいた女性騎士が馬から降りて叫ぶ。


「魔獣を使役する怪しいものたち、大人しく縄につけ!」


 と。えー。仕方ない。と僕は、紹介状を手にして、女性騎士に近づいていく。

 すると、京子ちゃんの傍にいた騎士が京子ちゃんに剣を向ける。

 僕はかなりイラッとしたが、ここは冷静にさらに近づく。いざとなったら、かなでが突入するだろう。

 女性騎士は剣に手をかけているが、僕が武器ではなく手紙を持っているのを見て、京子ちゃんに剣を向けている騎士に声をかけてやめさせる。

 僕は女性騎士に紹介状を渡す。女性騎士はその手紙を見て驚いている。そこへ、ライラが近づいてくる。


「ライラ様」


 なぜここに姫がいるのかと、女性騎士は手を口に当てて驚いている。


「その紹介状は本物です。書かれていると思いますが、従兄弟であるバイオレットを助けに来ました。その手紙の指示に従いなさい」


 と。女性騎士は慌てて、膝をつき、礼をする。後ろの騎士団達も同じように礼をした。


「ここでは目立ちます。もう行きなさい。夜に待っています」


 と、ライラが命じると、騎士団は街に帰っていった。




 夜になって、女性騎士が一人でやってきた。僕らをシャスターの屋敷へ案内してくれるようだ。

 領都の裏門から入り、目立たないように屋敷へ向かう。ケルベロスたちも皆一緒だ。

 屋敷に着くと、応接室に通された。そこにはシャスター公爵とその奥様がいた。


「ご無沙汰しております、おじさま、おばさま」


 と、ライラが挨拶する。


「久しぶりだね、元気そうで何よりだ」

「手紙は読ませていただきました。娘を助けていただけるのでしょうか」


 とは奥様。レイチェルというらしい。


「こちらはグレイス・ローゼンシュタイン様。私の旦那様です」


 お、棚上げしてきたところなのに言い切ったな。


「また、キザクラ商会の会長を務めておられます」


 とライラが説明すると、二人は顔を顰める。ライラは続ける。


「しかしながら、今回の薬売りとは関係がありません。誰かが、キザクラ商会を語っているものと思われます。そこで、グレイス様自ら解決に動かれた次第です」

「なんと、魔女の子供というからどんなやつと思っていましたが」


 母上、ひどい言われようですぞ。切ります?


「どうか、お願いいたします」


 と、公爵。


「今は一つだけお聞かせください。この街にもキザクラ商会はありますよね。なぜ、商会に問い合わせないのですか?」

「そのキザクラ商会の商人という男が言うには、この薬が市場に出回っていないものなので、外でも、商会の中でも、口に出してほしくないと言っていた。そうしないと、もう出回らなくなると言われていたのだ」


 なるほど。まあいい。明日、その商人が来たら聞いてみよう。

 今日のところは遅いので、泊まらせてもらう。




 翌日の朝、バイオレットに会わせてもらうことにする。何か気づくこともあるかと厚かましくも七人でバイオレットの部屋へと向かう。

 バイオレットの部屋に入ると、メイドがバイオレットの額の汗を拭いていた。そこにいたのは、艶のない金色の髪。窪みかけた目、痩せこけた頬。骨が見えそうな腕。そんな少女だった。

 ライラは口を手で押さえて驚愕していたが、枕元に駆け寄り、声をかけていた。


「バイオレット、私、ライラ。わかる?」

「ライラ、お姉様?」


 と弱々しい声。目をほっそりと開け、顔を何とかこちらへ傾ける。上半身を起こすこともできないようだ。

 ライラはバイオレットの手を握り、「あぁ」と嘆いている。

 だが、そんな光景を見てオロオロしているのはリリィだけだ。

 僕と京子ちゃんはバイオレットの上に浮いているそれ、魔法陣から目が離せない。こはるも見ている。かなでとミカエルは、見えているものの、僕より先に動こうとはしない。

 魔法陣は三十センチくらいで、バイオレットの胸の上、正しくは布団の上、三十センチくらいのところを浮いている。色は普段見ている魔法発動時の魔法陣よりドス黒い。僕は京子ちゃんとこそこそ話す。


「あれ何?」

「わかんないけど、何かの魔法陣だよね。なんて書いてあるの?」

「いや、わからないな。初めて見る文字列だよ」

「あれと具合の悪いの関係ある?」

「わからないけど、あるのかもしれないね。あれ、取り除けるのかな?」


 と言って、バイオレットに近づき、魔法陣に手を伸ばす。が、魔法陣に届きそうなところで、ライラに手首を掴まれる。

 ライラは目で、「何するんですか?」と聞いてくる。なので、黙ってさがり、京子ちゃんに手のひらを向けると、僕の手をパンって叩いて交代した。

 今度は京子ちゃんがバイオレットに近づいていって、魔法陣に手を伸ばす。

 ライラは、僕と同じことをする京子ちゃんに不思議がったが、同じことをすることになんらかの意味を見出したのか黙って見ていた。

 京子ちゃんが魔法陣を掴もうとすると、スカッとからぶる。もう一回やる。からぶる。

 まるで、京子ちゃんがバイオレットの上で招き猫の手のような動きを繰り返している。これには、ライラやメイド、それにバイオレットの両親まで訝しがった。

 京子ちゃんは諦めて戻ってくる。すると今度はこはるが動く。僕と京子ちゃんに、


「よく見ておけ」


 と言ってバイオレットに近づく。よく見ておけ、ということは、と、目を凝らす。

 こはるが自分を纏う魔力を凝縮させて、手を光らせる。手は高密度の魔力を纏わせている。その手で魔法陣に手を伸ばしてゆっくりと掴もうとした。

 すると。すっと魔法陣がスライドしたように見えた。掴まれないように。

 「何? 避けた?」と思っていると、魔法陣は元の位置に戻る。

 こはるは、片眉をあげ、今度は目視できないほどのスピードで手を突きだし、魔法陣を掴んだ。あ、あれ、掴めるんだね。

 こはるはバイオレットの上から魔法陣をずらす。すると、バイオレットが目を見開く。


「あれ? 辛くない?」


 と。

 そして、上半身を起こそうとする。でも体力的に難しいので、メイドが支えて上半身を起こした。


「なぜでしょう。急に具合の悪いのがなくなった気がします」


 と。

 やつれた体は同じだけどね。

 こはるは掴んだ魔法陣を見て、そして徐に僕に向ける。その瞬間、「ぐわっ」僕の具合がものすごく悪くなった。

 急にものすごく体力が奪われ、膝をついてしまう。また、呼吸も浅くなり、苦しくなった。

 それを見て、こはるは僕から魔法陣を逸らす。すると僕も具合の悪いのがなくなる。

 こはるは魔法陣を見つめた後、窓の方へ歩いて行き、窓を開けたと思ったら、フリスビーの要領で投げ飛ばしてしまった。しかもものすごいスピードで。

 フリスビーって、戻ってくるんだっけ?

 と眺めていると、こはるは手をぱんぱんと叩き、窓を閉め、満足そうにむふーと得意げな表情を浮かべた。

 僕ら五人以外は、僕らの行動を呆然と見ていた。それはそうだ。だって、エアでフリスビーをやっているようなものだ。

 しかもサイレントで。

 だが、その見た目怪しげなパントマイムでバイオレットの具合が良くなった。何が起こったのか全くわかっていないのだろう。

 任務完了、と宣言をしようとしたところで、メイドがやってきて、


「ご主人様、キザクラ商会の方がお見えになっています」


 と公爵に報告する。公爵は僕を見るので、


「いつも通り接してください」


 と、お願いする。公爵が部屋を出ていったと同時に、僕がシロタエたちに「頼む」というと、四匹の猫が服の中から出ていった。もちろん僕だけではなく、京子ちゃんとかなでミカエルと分けて隠していた。

 さてと、と、バイオレットに向き直ると、窓の外で何かが光った。かと思ったら、壁を突き抜けて魔法陣が戻ってきて、バイオレットの上の定位置に戻った。その瞬間、バイオレットが、


「うぁ」


 と言ってまた寝込んでしまった。くそ。僕はちょっと試したいことがあり、刀を抜く。すると、


「殿、御乱心を」


 と京子ちゃん。

 何を言っているの? とジト目を送ると、てへって言った。

 可愛いけどさ、空気読もうよ。ライラもメイドもレイチェルさんも不安な顔をしている。


「絶対に当てないって誓うから、ちょっと振り回していい? で、みんなはちょっと離れて」


 と言って、バイオレットを残して離れてもらう。

 僕は、両手で刀を構えて、ふっと魔法陣を切る。バイオレットの胸には当てない。ところが、魔法陣は全く切れない。

 まあ、壁を突き抜けたから、当然と言えば当然か。

 じゃあ、と言って、刀に魔力を濃く纏わせてから切ってみることにする。

 ふっと言って切る。また切れなかった。だけど、今度は魔法陣が避けたのだ。

 えっと、振り向くと、京子ちゃんもこはるも驚いている。

 僕は、何度も魔力を纏った刀で斬りまくる。全て避けられるが、その間は具合が良さそうだ。

 だが、ここまで避けられると僕も黙っていられない。仕方ない。かなり練習した技を使う。居合だ。僕はさやに刀を戻して構える。居合なら、横切りだから、バイオレットには当たらないだろう。

 僕は、「はぁっっ」と刀を振り出す。

 今日最高のスピードだ。

 ところが、魔法陣は折れ曲がって僕の刀を受け止めた。白羽どりだ。僕は、驚愕のあまり目を見開き、崩れ落ちた。

 ま、負けた。

 そして、魔法陣は定位置に戻ってバイオレットをまた苦しめ始めた。

 こはるは、やれやれと言って、魔法陣に近づくと。高速で手を突き出し、魔法陣をとらえた。負けたよ、こはるには。こはるは、


「ほれ、外に行くぞ。リリィはライラの手伝いをしてやれ。今なら、バイオレットは具合が良いだろう。食事でもなんでもさせたらよかろう」


 と言って出ていく。


「ほら、グレイス達も来い」


 と言うので、こはるについていく、リリィとライラを残して。

 廊下を歩いていくと、公爵とすれ違う。


「すみません。僕達、ちょっと外に行ってきます。今なら調子がいいと思うので、食事でもさせてくださいね」


 と言っておく。


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