アリシア帝国-3
僕らは次の街に向かう。
と言っても、次の街のその次が帝都なので、素通りしてもいいと思っている。ハミルトで領主にも会っていないし、紹介状もない。めんどくさくなるなら、素通りでOKかなと。
次の街は、シャスター。そこまで三日。途中でサテライト的な村や街は驚かせないように遠巻きに通過していく。
ハミルトの街で呼び出してしまったちびとはいえ一メートルのケルベロス四体はトコトコと付いてきている。夜中は大型と一緒に寝ている。なかなかに可愛い。
さて、シャスターの街が見えてきた。僕らは横を素通りでもいい。なので、京子ちゃんとミカエルだけは街に入って冒険者ギルドへ挨拶。そして、依頼を受けずに出る。
で、キザクラ商会でちび達の餌を買い足して反対側の門から出る。僕らは、街を遠巻きに通り過ぎて、門の向こうで合流。という予定にした。
「じゃあ、よろしくー」
と、二人を送り出して、僕らは向こう側へ回り込むべく馬車を進める。
「行ってくるね」
と、京子ちゃんは街へ向かう。
ソフィは冒険者カードを提示して街中へ入る。大通りをまっすぐいけば冒険者ギルドもキザクラ商会もあって、さらにそのずっと向こうに反対側の門がある。
冒険者ギルドへ入って、一応挨拶。で、依頼を受けずに退出。で、キザクラ商会へ行ってリュックいっぱいに肉を買う。これをミハエルが背負う。そうして、二人は反対側の門から出た。
僕らは、すでに進むべく帝都の方へ馬車を向けている。
京子ちゃんが馬車に近づいたところで、シェスターから馬がかけてくるのを見た。
馬には女性らしき騎士が乗っている。僕らは、追い越されるのかな、と出発の準備をする。
すると、
「冒険者様ー」
と声を張り上げる女性騎士。
だんだんと近づいてくる。もしかして京子ちゃんに用事かな、と思っていたところで、ケルベロスちびが四体飛び出した。女性騎士の方へ。
当然、馬も女性騎士も驚く。
馬は完全に遁走し、女性騎士はつかまるのみだ。結局、馬と女性騎士は街に帰っていった。
「なんだったの?」
と聞くと。
「わからない」
と。そりゃね。
僕達は、馬車を先に進める。小さな村や街を通り過ぎて、三日後に帝都オルトリアが見えてきた。
帝都から少し離れたところで馬車を止め、京子ちゃん、ミカエル、ライラで帝都に入ってもらう。そして、夜になったら、帝城まで連れていってもらうことをお願いしてもらう。ケルベロスがいるからね。
夜になると、帝国騎士たちと一緒に京子ちゃん達が戻ってきた。そして帝城まで案内してもらう。ケルベロスと馬車を帝城の訓練場に止めさせてもらった。僕らはと言うと、この日はもう遅いということで、客室に泊めてもらった。
翌日、皇帝リチャード・オルティーズと第一皇子のラミレスに謁見した。
帝城に招き入れてくれたこと、歓迎してくれたことについて、定番の挨拶をして謁見が終わる。で、会議室に通される。
会議室で待っていると、皇帝とラミレス、ライラが部屋に入ってきた。僕達は、立っていると、皇帝が座るようにいうので、席に着く。
だが、何から話していいかわからない。僕の目的を優先させていいものか。と思っていると、ライラが視線を送ってくる。まあ、確認から入ろう。
「皇帝陛下、お伺いしたいことがあります。第四皇女ライラ様の編入の件ですが、その目的は?」
その質問に、ライラが眉を顰めた。京子ちゃんもため息をついている。皇帝は僕をキッと睨み、口を開く。あ、ラミレスも睨んでいるな。
「編入ではない。留学だ」
あれ、なんか違う。
「我が帝国はだな、誰かの、誰かの母親の策略により、経済が立ち行かなくなりかけた。そこで、経済的な支援を得るために、オリビアを留学させ、王国の第一王子に嫁がせることとした。ところがだ、戻ってきたオリビアの話を聞いて、ライラも留学すると言い出した。私は止めたんだが」
と言ったところで、ラミレスが口を挟む。
「父上は、ライラに甘いから、ライラが留学したいと言ったら二つ返事でOKって言っていたじゃないか」
「それは本心ではない。ライラは誰にも嫁にやらんのだ」
と言う。
それを聞いたリリィが「あれ、一つ順位が上がった?」なんて馬鹿なことを言っている。
ライラは、
「お父様? 私、グレイス様のところへお嫁に行きます」
と、断言する。
「……」
無言の皇帝。
「いいでしょ?」
と、ライラが皇帝の腕を取ると、
「ライラが望むなら」
と言い切った。
いいのかよ。ただし、「あの魔女の息子になんて」とぶつぶつ言っている。リリィも「順番変わらなかった」とぶつぶつ言っている。
「だが、条件がある」
と、皇帝陛下。
「断る。むしろ、こっちの条件を聞いてもらいたい」
と僕。
えー、と京子ちゃん達。ライラも皇帝もラミレスも目と口を見開いて固まっている。あれ? おかしかったかな? 交渉事は強気で勝負。だが、皇帝相手に敬語を使わないのはダメだ、我ながら。
「ちょっと待て、なんでお前が条件を出す?」
「ですが、ライラが僕との婚約を望む。それに陛下が許可を出す。それを僕が受け入れる。この流れなら、僕が条件を出してもおかしくないですよね?」
いやおかしい、と言う声が多数。
「あのな、ライラは第四皇女だぞ、そうそう出会えることすらできないんだぞ? こんな美しい、金髪縦巻きツインテールだぞ?」
「ぜひ、私に娘さんを。条件とはなんでしょうか?」
と深々と頭を下げる。京子ちゃん達プラス、ライラも含めてジト目だ。
「私の価値は縦巻きツインテールなのかしら」
とライラは呟く。
「まあいい。お互いに条件ではなく、願いを聞き合おうではないか。婚約とは関係なしにな」
と皇帝が提案してくれる。
「はい。ライラは必ず幸せにいたします」
と僕。
「うむ」
と皇帝陛下。とりあえず、一点目はOK。リリィがツインテールを作りだす。
「お前の願いとはなんだ?」
と聞いてくれるので、
「召喚魔法について教えてください」
と、ストレートに希望を述べる。すると、皇帝陛下もラミレスも黙ってしまう。
沈黙が続く。
だめかな。ケルベロスを召喚できるのは皇族のみだと思うが、それに関して色々聞きたい。
「私の頼みを聞いてくれたら、その時は、召喚魔法に関する書物を見せよう」
そっちの頼みを聞くのが先か。仕方ないかな。もしかしたら、皇族の秘密の話かもしれないしな。
「わかりました。ご期待に応えましょう」
「シャスターの領都は通ったか?」
と聞いてくるので、「避けた」と答える。
「そうか、シャスター公爵家にな、私の妹が嫁いでいる。子供が三人いて皆可愛いのだ。男の子が二人と女の子が一人だ。特に姪は目に入れても痛くないくらい可愛いのだ」
と。それで?
「その姪が病気になった。効くと聞いた薬も一瞬良くなるだけで、結局具合が悪くなってしまう。神官たちにヒールをかけせても良くなるのは一瞬だ。そこで、今は、その薬を飲ませ続けて、なんとか様子を見ているところなのだ」
「その薬っていうのは?」
「実はよくわからないのだ。具合が悪いという噂を聞きつけて、ある商会が持ってきたらしい。一瞬でも効くので、高くても購入し続けているそうだ。ただ、帝国は全体的に経済状況が悪くなっている。そんな時に、高い薬を買い続けていては、いずれは破綻してしまうだろう」
なるほど、母上が撒いた種とはいえ、ちょっと見捨てることはできないか。でもヒールもろくに効かないとは。
「ある商会というのが気になりますね。なんという商会なのですか?」
と、聞くと、皇帝陛下は僕を睨んでいう。
「キザクラ商会だ」
え?
「だからな、本当に本当に私は、ライラをお前のところに嫁がせるのは反対なのだ。だが、我が国の経済状況を考えると、それでもマイリスブルグとローゼンシュタインに頼らざるを得ない。実際、この状況で最も支援してくれているのはローゼンシュタインだ。それについては感謝している。だが、キザクラ商会については、よくわからないのだ。薬を売ってくれることには感謝している。一瞬でも楽になるのであれば、効く薬なのだろう。だが」
と言って拳を握る。が、話は終わっていなかった。
「その商人は、より良く効く薬がハミルトの伝手で入りそうだと言うのだ」
「お前たちはハミルトに会ったか?」
と聞くので「会っていない」と答える。
「その上で、その薬で良くなった暁には、姪をハミルトの嫁によこせと言っている。そんなことをいう商人もだが、ハミルトも許せん。だが、実際、ハミルトが姪の命を握っているようなものなのだ」
と握った拳をテーブルに叩きつける。
「皇帝陛下。私は確かにキザクラ商会の会長です。が、そのような薬を売っていることを私は知りません。私とライラの婚約に疑問を持つ皇帝陛下の気持ちもよくわかります。そこでお願いがあります。ライラとの婚約については、本件を解決したのち、改めてお願いに参りたいと思いますが、いかがでしょうか」
と誠意を見せておく。ライラが苦い顔をしたけど。
「おそらく、シャスターに出入りしているキザクラ商会はキザクラ商会ではないのだろう。これは、お前たちにしか頼めないことなのかもしれない。だからお願いする。姪を助けてくれ」
僕はちょっと怒っている。ローゼンシュタインの血が出そうなくらい。ローゼンシュタインを敵に回したな? いや、キザクラ商会にか? どっちでもいい。
「皇帝陛下、シャスターの街に、シャスター公爵の屋敷に夜に入れるよう、紹介状を書いていただけませんか? なるべく、静かに入りたいので」
とお願いすると、すぐに紹介状を書いてくれた。




