アリシア帝国-2
二日ほどして昼過ぎにハミルトにつく。
ここでも食料を調達するのみ。
騒ぎが大きくなるのは避けたいので、ケルベロス達は、街から離れたところに馬車とともに止める。僕とこはるがケルベロスたちの面倒を見ることにして、他のメンバーに買い物をお願いをする。
買い出し部隊は紹介状があるので街に入ることができたが、情報収集をするわけではないので、最低限の用事だけでスルーしようとする。
リリィ、かなで、ライラが買い出しをしている間に、一応のマナーとして、京子ちゃんとミカエルが冒険者ギルドに顔を出した。
特にいい依頼もなく、ソフィ達はギルドを出たが、出たところで、十歳くらいの女の子がしゃがんでいたのを見つけた。それで、ソフィはギルドの受付の方を見て、視線で女の子がいるけど? って聞くと、受付嬢は首をふるだけだった。
「こんにちわ。こんなところでどうしたのかな?」
と聞く。女の子は声をかけてもらえるのを待っていたのか、急に涙を浮かべて、
「あのね、私、髪留め落としちゃったの。三日前なんだけど」
と、泣きながら説明をする。
「大事な髪留めなの。それでどうしても見つからなくて、探してもらおうと思って、ここにきたけど、髪留め探してもらえなかったの。お金がかかるからって」
聞いてもらえて少し期待を持ったのか、たどたどしくも話し続ける。
「でも、諦められないの。あれ、お母さんからもらった大事な髪留めだから」
と言ってまた泣き出してしまった。
「おうちはどこ? 送って行こうか?」
と、ソフィがいうと、
「私、孤児院なの」
と。そうかー、じゃあ、お母さんの形見なのか。それじゃ探したいよね。うーんと悩むソフィ。
「ミハエル君、ちょっとグレイス君よんできてくれないかな」
というと、ミカエルは街を出てグレイスのところまで戻る。
ミカエルが呼びにきて、事情を話してくれたので、僕は、ギルドに向かう。ケルベロス達は、こはると戻ってきた買い出し部隊たちに見ていてもらう。
「どうしたの?」
「この子がね、髪留め落としちゃったみたいなの。それで探して欲しいらしいんだけどね、ギルドではお金がかかるし、困っていたんだって」
と京子ちゃんが女の子に代わって説明をしてくれる。
「それは大変だね、大事な髪留めだったんだね」
というと、女の子はうん。と頷く。
「ミハエル、ちょっとフラン呼んできてくれる?」
と、申し訳ないけど、もう一度お使いに行ってもらう。ごめんね。
しばらくすると、かなでがやってくる。代わりにミカエルが留守番をしてくれたようだ。僕は、コートの中からシロタエを出す。
「ほら猫ちゃんだよ」
と、女の子に渡すと、女の子はシロタエをなでなでし出す。猫は万人に愛される動物である。女の子にもちょっとだけ笑顔が戻った。さてと。
「フラン、ケル……の小さいの、何体呼べる? っていうか、あいつら、鼻きくかな?」
「大きいのは、街で騒ぎになる、ってことですよね? 小さくてもなると思いますけど。四体ほどでいいですか? 去年生まれたのが一番小さいかと」
「それで頼むよ。ちょっと裏に行こうか」
「ねえ、夜の方がいいんじゃないの?」
と、京子ちゃんが提案してくる。それはそうか。
「じゃあ、この街の外に一泊しようか。だけど、ケルベロスか」
僕が悩むと、京子ちゃんは女の子に声をかける。
「ねえお嬢ちゃん、お名前は?」
「ベラ」
「ベラちゃんか」
「ちょっとお姉ちゃん達ね、夜にしか探してあげられないんだけど、よかったらベラちゃんのハンカチとか貸してくれない?」
女の子は、京子ちゃんを見て、逆に提案する。
「お姉ちゃん達、探してくれるの? 私も一緒に探したい」
だが、京子ちゃんは悩む。
「だけど。夜に子供を連れ回すのは、それにあの子達」
「ちょっと孤児院に行って、話を聞いてみようか」
と僕が提案。
「じゃあベラちゃん、ちょっと孤児院に行きましょう」
と、京子ちゃんはベラの手を繋いで歩き出した。そして、説得力を増させるためにライラにもきてもらって連れていく。
孤児院は教会に併設されていた。
「ベラ、どこに行っていたの?」
と、シスターが走ってくる。
「あのね、髪留めをこのお姉ちゃん達が探してくれるっていうから」
「でも、そんなの簡単に見つかるかわからないし、依頼のお金も出すこともできないのに」
と、オロオロするシスター。すると、ライラが一歩出て、
「私は、この国の第四皇女です」
と告げる。当然のように、シスターが固まる。
「これは失礼いたしました」
と言って、シスターは膝をついて頭を下げる。
「私たちに、この子の髪留めをさがすチャンスをいただけませんか? もちろん、お代はいただきません」
と、ライラからお願いする形になる。
「そんな、皇女様にそんなことをさせるなんて、でも」
シスターは髪留めがこの子にとってどれだけ大事なものであることを知っているのだろう。
「いえ、気になさらずに、私達が探したいだけですので。ただ、ちょっと犬を走り回らせるので、夜中に探したく」
探す方法をシスターが理解する。が、なぜ夜中? という顔をしている。犬なら昼でも……。
「それで、今晩、ベラちゃんを私達に預けていただけませんか?」
「それは……」
まあ僕でも偽物を疑うけどな。
「では、シスターさんもご一緒してはいかがでしょうか?」
「ちょっとグレイス君」
と、京子ちゃんが止める。だけどシスターさん、納得しないだろうしな。
「ちょっと驚かれるかもしれませんが、身の安全は保証します」
と、ライラがフォローしてくれる。
「さて、まだちょっと夜まで時間があるな」
「ソフィにライラ、僕とかなでは、ちょっと馬車まで戻ってみんなに事情を話してくるよ。戻るのももうちょっとかかる。それで、帰りにキザクラ商会でボール買ってくる」
と言って僕はその場を離れた。
馬車に戻った僕は、簡単にリリィ達に説明する。
「ごめん、ちょっと待っていて、孤児院でやることあるから」
流石に遊んでくるとはいえない。
「それで、後でシスターさんと子供が一人くるから。で、夜にケルベロスを使って、女の子の髪留めを探したいんだ。だから」
と説明する。特にリリィが不服そうだったが、待っていてくれることになった。かなでも一緒に待っていてもらう。
僕は戻りぎわにキザクラ商会によってボールを買った。孤児院に着くと、京子ちゃんとライラが絵本の読み聞かせをしていた。僕はボールを持って、
「男の子、バレーをやるよ」
と子供達を誘い、ボールを落とさないようにトスやレシーブでパス回しをして遊んだ。
ボールは三個買ってきたので、女の子たちもライラと始めた。京子ちゃんは小さい子と本を読んでいる。
しばらくして夕方になる。
「それじゃ、シスターさん、えっと、」
「ヘーゼルです」
「ヘーゼルさん。ベラと一緒に行きましょう」
と言って、孤児院を後にする。子供達はもうちょっと遊びたかったようだが、夕飯の時間が迫っていた。
街を出てしばらく歩くと、丘の影になったところで、
「えっと、お願いなのですが、おどろいても叫んだり逃げたりしないでくださいね」
とライラ。
そこまで言ったら余計に身構えそうだ。
「はい」と、ヘーゼルは返事をするが、それ、五メートルのケルベロスが目に入った瞬間。ベラを守るように抱き抱えた。
ヘーゼルの体は震えている。ベラは、
「シスター、なにがあったの?」
と聞く。ヘーゼルは震えているだけだった。ライラが、
「ヘーゼルさん。大丈夫です。あれは、私たちの仲間です。あの一番大きいのは、私が召喚したんですよ」
と説明する。ヘーゼルは恐る恐る振り返ると、ケルベロスの上に女の子が乗っているのを見つける。
「本当に大丈夫なんですか?」
と、聞くので、大丈夫です。と頷く。
ヘーゼルは腰を引きながら僕たちについてくる。ベラは京子ちゃんに手を引かれて馬車に向かう。
「晩御飯にしましょう」
と、事前に二人来ることを伝えておいたので、かなでをはじめとして、みんなでご飯を作ってくれていた。食事をして、暗くなり、夜もふけたころ、
「フラン、お願い」
というと、一メートルくらいのケルベロスを四体召喚してくれた。
「じゃあ、ベラちゃん、ごめんね、この小さい、といっても一メートルくらいあるケルベロスがベラちゃんの匂いを覚えて、町中を走り回って髪留めを探してくるからね、匂いを嗅がせてね」
とお願いすると、ベラは「うん」とおとなしくケルベロスに匂いを嗅がれる。
「ケルベロスが髪留めを咥えたら壊れちゃわない?」
と、京子ちゃんが心配するので、
「シロタエたち、それぞれケルベロスに乗っていって、見つけたら咥えてきて」
と、シロタエ達にお願いすると、猫がそれぞれケルベロスとともに行動する。
「じゃあ、よろしく」
街に向かって四体のケルベロスと四匹の猫が走っていった。
ベラはケルベロスになれたのか、こはると一緒にケルベロスを撫で、そうしている間に眠くなってしまい、寝てしまった。
それを見て、ヘーゼルがベラを抱える。
「馬車の中にベッドが一つ余っているので、寝かしていいですよ。よかったらヘーゼルさんも一緒にどうぞ」
と言って、京子ちゃんはベッドに案内する。ベッドはちょっと広めに作ってあるので、二人で一つを使ってもらった。
そうして空が白くなる前に、ケルベロス達が帰ってきた。髪留めを加えていたのはリッカだった。
僕は、リッカから髪留めを受け取り、リッカをわしゃわしゃしてやる。
同様に、ケルベロスもわしゃわしゃする。
他の帰ってきた猫やケルベロスも撫でておく。よくやった。と。
さあ、僕もちょっとだけ寝るかな。僕は、ケルビーに寄りかかって寝ると、そこへ頑張ってくれたチビ達が集まってきた。なので、みんなで寝ることにした。猫達も一緒だった。
明るくなってくると、京子ちゃんが起きてきた。
「あったの?」
と聞くので、
「渡しといて」
と言って髪留めを渡し、僕自身はもうちょっと寝ることにする。
僕は寝ていたが、ベラはものすごく喜んだらしい。
ケルベロスと猫達が見つけたことを聞くと、恐ろしげなケルベロス達に抱きついてお礼を言っていたとのこと。
いい匂いがしてきてケルベロス達が反応しているので、僕も起きる。
ベラは髪留めをしていた。
ベラに近づいて「よかったね」と言っておく。頭を撫でるのはセクハラと言われても困るので、やめておいた。
ヘーゼルは、僕にもお礼を言ってくれた。怖がりながらもケルベロス達にお礼を言っていたらしい。まあ、めでたしめでたし。
朝ごはんをみんなで食べる。そして、ヘーゼルとベラは街に帰っていった。
何か必要なものはないか? とヘーゼルに聞いたが、遠慮していたのか、なにもないと返事が返ってきた。
またキザクラ商会に定期的に孤児院の様子を見に行かせよう、と思った。
「さあ次にこうか」
と言って、馬車を動かす。あ、紹介状をもらうの忘れた。というか、領主にすら会っていない。
ま、いいか。ライラがいるし。
孤児院にヘーゼルとベラが帰ってくる。
「ヘーゼル、大丈夫でしたか?」
「はい、皇女様や皆様によくしてもらいました。生きた心地はしませんでしたが」
「あのね、頭が三つもあるワンちゃんがね、猫ちゃんと一緒に髪留めを探してきてくれたの。ワンちゃんも猫ちゃんも、もはもはで可愛かった」
「頭が三つ?」
「うん。すっごーく大きかったんだよ」
ヘーゼルはため息をつきつつベラに声をかけた。
「ベラ、皇女様たち、優しかったね」
「うん。私も皇女様みたいにテイマーになって、冒険者になって、困っている人を助ける人になるー」
「皇女様がテイマー? 冒険者?」
首を傾げるシスター達だった。




