高等学園3-15
後日、カルバリー侯爵邸へいく。
僕は、キザクラ商会会長の立場だ。なので、ラノを連れていく。
屋敷に着くと応接室に通される。お茶を飲みながら待っていると、カルバリー侯爵となぜかドレス姿のリリィがやってきた。
僕とラノは立ち上がって迎える。侯爵とリリィがソファに座ると僕らにも着席を促す。そして沈黙。
あれ、ここはどっちから話し出したらいいんだ? 商会からぜひに来てほしいという話ならこちらから、リリィの希望なら侯爵から。うーん。と、思っていると、リリィからの視線が
「早く」
と言っている。仕方ない。
「本日は突然のお願いにもかかわらず、お時間をいただきありがとうございます」
と。あーあ、こっちからか。
「今日はお嬢様の当商会への就職について、ご相談をさせていただきたく」
「グレイスくんと言ったか」
と、遮られる。
「はい。グレイス・ローゼンシュタインです」
「娘はな、亡くなられたクーリエ様の婚約者として恥ずかしくないよう、淑女としての教育を施してきた」
え? 淑女とはいったい? と僕は驚愕の顔を浮かべてみる。リリィが青筋を浮かべている。
「それが、クーリエ様に捨てられて、それ以来ふさぎ込んでしまい」
リリィが反対側にも青筋を浮かべる。
「王立学園六年の時にあるイベントに連れていってから人が変わってしまったように明るくなった、というか、いきいきして見えるようになった。君のおかげなんだろう?」
「いえ、私は何もしていません。その時リリアーナ様が見られた楽器を演奏されるグループによるのだと思います」
「それでも、家に帰っても楽器の練習をしたり、ステップを踏んだり。私としては社交の場で踊る方を練習してほしいのだが、それでも、楽しそうにしているのを見てきた。それにな、いつもグレイス君がグレイス君がと」
ばきっと侯爵の横腹にリリィの肘が入っている。
「ゲホ。とにかく、ここまで淑女から遠く離れてしまったのは君のおかげだ」
ん? いやみか?
「だからな、君に任せる。娘をよろしく頼む」
と侯爵が頭を下げた。僕は、
「わかりました。キザク……「グレイスくんありがとう」
速攻でリリィがかぶせてきた。えっと、キザクラ商会が。
「リリィよかったな、グレイスくんがお前のことを見てくれると」
「うん」
とリリィ。
「ちょっと待てー」
敬語もクソもない
「今は就職の話をしています」
「だから永久就職の話だろう?」
「キ、ザ、ク、ラ! リリィ、なんでラノを連れてきていると思っているんだ!」
「でも、私のことを任されてくれると」
「リリィはずっと僕についてくるって言っただろう。どこにだってついてくるって言ったよね。だったら僕も一緒にいてあげる。ただし」
と話を切った。
「侯爵。僕にはすでに二人も婚約者がいる。そのことをご存知で?」
「知っているよ。私は娘の幸せしか願っていない。あんなに辛い思いをさせてしまったんだ。それにもかかわらず、また人を好きになれるようになった。私は君に感謝している。私は言った、娘を君に託す、と」
「それと、僕はおそらく、ローゼンシュタインを出てグリュンデールに養子として行くことになります。それでも良いのですか?」
「もちろん。君が君であることには変わりはないだろう。だから、娘もそんなことを気にしたりはしないだろう」
僕は立ち上がって、頭を下げる。
「カルバリー侯爵。僕はまだ、自分が何をしたいのかもわかっていない若造です。当面はキザクラ商会を通じて人の役に立ちたいと思っています。こんな僕ではありますが、どうか、お嬢さんとの婚約を許していただきたく思います。よろしくお願いいたします」
すると侯爵は僕の肩に手をかけて
「よろしく頼む」
と言った。僕が頭をあげると、リリィは手を口に当てて泣いていた。僕はリリィの横に移動してリリィにいう。
「これからずっと、僕を支えてくれ。よろしく頼む」
というと、リリィは僕に抱きついて泣いた。返事は? と聞くのは無粋なんだろうな。代わりに
「ずっとずっと伸ばしてきて悪かった。もっと早く言えばよかったな、ごめん」
というと、さらに泣き出した。しばらく泣くに任せるかと、僕もリリィを抱きしめた。
リリィが泣き止んだところで、僕はリリィの涙を拭いてやり。
「さてと、リリィ、許可をもらいに行こうか」
と悪い笑顔を浮かべる。リリィは「えっ」と疑問の顔を浮かべる。
「ラノ、申し訳ないけど、屋敷にソフィに来てもらってくれ」
と、お願いをする。
僕とリリィはローゼンシュタイン邸に戻る。
父上と母上に婚約の件を伝えると、すんなり許可をくれた。それと、カルバリー侯爵家との手続きについてはやってくれるそうだ。
さて、僕の部屋にて、京子ちゃんとかなで、こはるにライラが集まっていた。猫達もいたが、知らん顔をしている。京子ちゃん達は、いつもと違うリリィの格好に一瞬目を見開いたが、どうやら察したようだ。
「よかったわね、リリィ」
というのは京子ちゃん。
「よろしくお願いしますね」
は、かなで。
「……」
はライラ。そして、
「ようやく五番目におさまったか」
と言うのがこはる。こはる?
リリィはとても綺麗なドレスを着ているにもかかわらず、足を肩幅ほどに開き、拳を腰に当てて言う。
「五番目? 五番目って何よ。しかもおさまったとは?」
「順位だ順位。こはる先輩と呼んでも良いのだぞ?」
とこはるは煽る。
「そもそも、あんたとライラはいつの間に?」
「妾については、妾の母上から直々に頼まれておるし? まさか断れまい?」
僕は苦笑いだ。
「ライラについては、アリシアからの人質だから、拒否権はなかろう。だから、お主は五番目だ」
と、こはるは説明口調で言う。
「ライラ、あなたは留学じゃないの? いつ帰るのよ!」
ライラは視線を逸らし、
「私は留学ではなくて、編入です。グレイス様に嫁ぐと初めから決めて……決められておりますので」
「あ、今、言い直したわね。本当に決められたことなの?」
とリリィ。
「キィー、グレイス、なんとか言ってやって! 私、出会ったのは三番目なのよ?」
「僕は、みんなが仲良くしてくれればそれでいいよ」
と視線を逸らして猫と戯れることにする。マイヒメを撫でてやる。マイヒメは可愛いなーなんて言っていると、どこからかコマチ、カゲツ、シュウゲツがやってきて参戦する。
「グ、レ、イ、スー」
とリリィが呼ぶが、僕はそっちに参戦できない。
「まあまあ、順位なんてないわよ。みんなでグレイス君を支えるんだから。仲良くしましょうね」
「一番目は流石の余裕じゃな」
と、こはる。
「てぃ」
と、かなでがこはるにチョップする。すると、誰からからか笑いが漏れる。そして、
「よろしくー」
「よろしくお願いします」
などと声が上がり、話がまとまったようだ。よかったよかった。
「ところでグレイス君」
と言うのは京子ちゃん。
「春から何をするつもりなの?」
「えっ? キザクラ商会の会長としてやることをやろうかな」
と言うと、京子ちゃんはジト目。
「で、何をするの?」
と真顔になった。危険を感じる。
「ちょっと旅に出ようかと思って」
「どこへ行くのですか?」
と、かなで。だが、言葉を間違ったと思ったのか、言い直す。
「私はどこでもついていきます」
と。
「えっとね、ちょっと気になることがあるから、アリシアに行ってみようかなって」
「えっ、お父様に婚約の報告を?」
と言い、赤くなった顔に手をあてイヤンイヤンするライラ。
「うん、皇帝陛下にもラミレス殿下にも話を聞いてみたいんだよね。だからちょっとね」
「旅ってことは、公式じゃないってこと?」
「うん。おつきがいても面白くなさそうだしさ。せっかく冒険者になったし、自分の力で行ってみるのもいいかなって」
かなでが
「おつきがいらないとは……」
と呟いている。
「はーい、私はついてくー」
と、手を上げて言うのは、リリィ。お前、どこにでもついてくるって言ったろ? あ、かなでとキャラがかぶっているな。リリィが膝をついて落ち込んでいる。「私のキャラが」と。
「行ける人で行こうか。歩いて行くと時間がかかるかな。馬車だと、こはるはどうする?」
「妾はケルビーに乗って行くぞ?」
お、おう。伝説の生き物に乗っていくか。周りの目をどうするか。というか、変な名前をつけたなー。まあ、いいか。じゃあ、馬車もケルベロスに引いてもらうか。アリシアの殿下がケルベロスを召喚できることは知られているだろうから、ケルベロスなら関係者と思ってもらえるだろう。
「よし、大きなキャンピングカーを作るよ。それからにしよう」
「えっと、私、私はー」
とライラ。
「なんじゃ、行かんのか? お主の婚約の報告であろう?」
「え、私四番目じゃ?」
リリィが目を輝かせる。
「決まったの最後だろう?」
「てぃ」
と、かなで。おでこを押さえるこはる。
「私、学園に通わないと……」
「学園なんか国の都合じゃろ? 初等の学園さえでておれば問題ないんじゃないか? 妾は学校なんぞ行ったことはないぞ」
それを聞いて、
「私も行きます」
とライラ。まあ、学園で教わるより、僕や京子ちゃんに学んだ方が実用的かな。
「それじゃ、一ヶ月後くらいに出かけようか。リコラシュタインも寄りたいから、南から行くよ。ライラ、そのうち行くからって、手紙を書いておいてくれると嬉しいな」
「はい」
さて、旅の準備だ。




