高等学園3-13
僕は、膝の上に座っているマイヒメを持ち上げ、抱き抱える。
「ありがとう、マイヒメ。助かったよ。怪我はないかい?」
「にゃーん」
「そうか、よかった。他のみんなも大丈夫か?」
と聞くと、突然僕の頭、肩の上に猫が降ってきた。コマチにカゲツ、そしてシュウゲツ。
「他の一般猫たちも怪我してないか?」
「にゃーん」
と。大丈夫そうだった。僕はもう一度、
「ありがとう」
と言って抱きしめた。その腕の中にコマチが無理やり入ろうとしたのが面白かった。なので、順番に抱きしめてやった。
しばらく猫とじゃれあっていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
と、返事をすると、らいらい研が入ってくる。入ってくると同時にかけ出す足跡が複数。だけど、一つになる。かなでがリリィの肘を掴んだらしい。
その結果。僕にダイブしてきたのは京子ちゃんだった。京子ちゃんは、僕のお腹に抱きつきながら、上目使いで聞いてくる。
「大丈夫だった?」
と。
というか、京子ちゃんが可愛すぎて殺されそうだが。なんて思ったが。
「心配かけたね。大丈夫だよ。なんか、僕だけ倒れちゃって、むしろごめんね。きっと、みんなの方が大変だったんじゃない?」
って聞くと、京子ちゃんは、むふーと得意顔になる。
「ふっふー、私たち三人は広域爆発魔法を覚えたよ、グレイス君みたいなやつ。しかもね、臭くないやつ」
と言って笑う。失礼な。僕もにおいのしない魔法を撃っていた。においでバッタが分散しちゃうと困るから。
「それでね、フランちゃんにアンディくんの方へ行ってもらって、代わりにジェシカとビビアン、ベティに来てもらったの。それにね、兵士の皆さんも冒険者の皆さんもいっぱいいたし。途中から街の人がいっぱい来てくれたからね。なんて言ってもね、ドラゴンとワイバーン達がすごかったんだ。もうね、空のバッタたちをね、北側に広がらないよう、北からブレスを吐いてさ、まあ、そのおかげで、中央にバッタが寄っちゃったかもしれないけど、それでもどんどん減らしてくれてね。ある程度減ったところで、ワイバーンたちは地上に降りて、プチプチを手伝ってくれたんだ」
と。これにアンディが付け加える。
「南側もそんな感じだ。上空は同じようにドラゴン達がやってくれていた。地上はフランが来てくれて楽になった。あとは、兵に冒険者に街の人っていうのも同じだ。でな、だいぶ落ち着いたところでフランがソワソワし出したからな、もういいぞって言ったら、飛んでいったんだ」
と笑っている。
「フラン、ありがとう」
と言って手を伸ばすと、かなでがやってくる。それを察したのか、京子ちゃんが離れる。かなでが僕の手をとるのでそっと引き寄せてぎゅっとする。
「ここまで運んでくれたんだって? 母上に聞いたよ。ありがとう。フランは大丈夫だった? フランだって疲れていたでしょ?」
と言うと、かなでは僕の胸に顔を押し付けて額をぐりぐりとしてくる。
「これからも僕のこと、よろしくね」
というと、無言でうんと頷いた。
「こはるは?」
と、こはるに聞くと、
「妾は最大戦力だからな。最後までプチってやったわ」
と得意気。
「オリビアとライラは大丈夫だった? ケルベロスを最大限まで呼んじゃって、魔力なくなっちゃったんじゃない?」
と聞くと、
「私たちは、お恥ずかしながら、ケルベロスの上に乗っていただけです」
「いや、あっちだ、こっちだと高い位置から指示してくれて助かった」
とアンディ。頬を染めるオリビア。
そろそろオチをつけないとしんみりしたままだ。
「リリィは……」
と言って首を傾げてみる。リリィは真っ赤になって
「私だって頑張ったんだからね。それに私だって、私だって、心配したんだから」
と最後は小声になって俯く。だからおいでおいでをして呼び寄せ、頭を撫でてあげる。すると、それでは満足しなかったのか、首に手を回して抱きついてきた。かなでごと。
「リリィもありがとう。心配してくれて。僕も心配だった。怪我もなくて元気でいてくれて嬉しい」
と、背中をぽんぽんとしてあげた。
うーん、落とすのは難しかった。
僕はドア付近に立っているメイドに目線で合図を送る。なんとかしてって。すると。
「皆様、そろそろお昼の時間です。昼食を用意させますので、いかがですか?」
と、ナイスだ。
「もう昼なんだね。僕もお腹が空いてきたよ。行こうか」
と言って立ち上がる。あ、僕だけパジャマだ。
「着替えるから遅れて行くね、すぐ行くから待っていて」
と言って、皆を送りだした。あれ、誰が僕を着替えさせたんだ?
僕はあいつがいうように、技術開発や商品開発をあまりやってこなかった。指摘されたように、急な発展が怖かったから。他にもやりたかったことがあった、ってのもある。でも、何もかも使い方だし、対策だと母上から教わった。だから、これからも作っていこうかな。
僕も食堂に行って、みんなと同じテーブルにつく。正面はアンディだ。
「なあアンディ、国王様にさ、薪を用意するように進言しておいてよ。今年の冬が寒くなったら困るしさ。ならなかったらならなかっただし、その時は、ごめんって」
そう言って笑う。アンディも何だよそれ、と言いながら笑い、
「わかった。伝えとく」
と約束してくれた。
王都の外ではバッタの死体がまだ無数にある。乾燥させてから燃やすとのことだった。これにはしばらくかかりそうだった。
こういった作業にも街の人たちは積極的に協力していた。人々はバッタを集めて、畑の先に設置した集積場に集めていった。
バッタに襲撃されてしまった領には、食糧支援も行われた。ローゼンシュタインやグリュンデールなど南の街からも食料が送られてきた。これで、当面は大丈夫だろう。バッタは農作物を食べても家屋を壊すわけではなかったので、復興は早そうだ。
それと、王都中にある公園のそれぞれに猫の銅像がたった。街中の人が猫に好意的になった。中には、猫を抱えて跪く兵士の像なんてのも建って、モデルになった兵士は嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な表情だったらしい。猫たちも嬉しそうだった。
僕はいくつかキザクラ商会に指示を出した。電池の増産と、充填装置をキザクラ商会支店に設置すること。
それと、海産物の確保。
これから冬に向けて農産物を作るのは難しい。なので、海の魚を漁獲してもらった。幸いにもアジに似た小さい魚が大量に獲れたので、開いて海水につけたのち、干してもらった。
一緒に獲れたイカも干して、それは僕がいただく。前世ではよく食べていた。
大きめの魚も干した。いわゆるトバだ。
あとは、昆布。これも秋を過ぎると無くなってしまうので、急いで収穫した。ローゼンシュタインのビーチは魚や昆布だらけになった。
保存食の定番は缶詰かレトルトかー。いつか作ろう。
あと、柿の木も探そう。あれは干せば長いことおいておける。
ちなみに、母上の助言で、リコラシュタインでも乾物作りを開始。食料確保に動いた。結果として、乾物が両領の特産品になった。
そうそう、あのバッタを佃煮にしようとしたけどダメだった。そもそもトビバッタは美味しくない。諦めて燃やした。
前世の僕は好きだったが、今はまだ飲んだことがないもの、ウイスキーを作ってもらった。王都にあった工場に頼んで蒸留器を作った。
元々この世界にはエールもワインもあったので、蒸留器を酒造りをしている人に託して、それぞれ蒸留してもらった。
確か、雪山救助隊のセントバーナードは首にウイスキーをぶら下げているんじゃなかったけ。寒い時に飲んでもらってもいいのかもしれない、と思って。
簡単に始めてもらったのだが、寝かすことを忘れていた。この冬には間に合いそうもない。出来上がりの頃には、僕も飲めるようになっているだろうか。
実は、僕らは十五歳になってこの世界では大人扱い。飲んでもいいのだろうが、今のところ学生のうちは酒類を自粛している。
でも、そのうち、自分でお酒を造ってみたいな。麦やトウモロコシも自分たちで育てたものを使って。米もあれば日本酒も作れるかもしれないのにな。この辺りは京子ちゃんに手伝ってもらわないとな。




