高等学園3-10
夕方近くになって、ようやくかすみが薄くなってきた。僕もこはるももう魔法もブレスも撃っていない。そんな魔力はもう残っていない。ひたすら手足で潰していく。
後ろでは、腰を落として休んでいる兵士も神官もいる。もう、ここまで減らせば、被害が出てもそれほどにまではならないだろう。
京子ちゃん達はどうなっただろう。アンディ達は。と考えながらも、まだやってくるバッタを潰していた。
すると、僕の前に立つ一人の男。見たことがある。
「おや、お久しぶり」
とは、銀髪で短髪の男。僕は思い出した。僕たちをここへ連れてきた天使だ。
「あなたは」
「思い出してくれた? 君達をここへ連れてきた天使だよ。結構頑張ったね。僕の予想ではこの大地の半分以上の食料がなくなるはずだったんだけどね」
僕の予想?
「ドラゴン達まで味方につけちゃうし、ケルベロス? どこから連れてきたのさ。さらにあの猫達、やるね」
「これはあなたがやったのですか?」
「そーだよ。被害を大きくしようと、せっかく十五年バッタの羽化を一年遅らせて、大きくしたのにさ、こんなにやられちゃうなんてびっくりだよ」
僕はふと気がつく。周りではこはるも兵士達も猫達も戦っているのに、僕とこの天使には誰も気づいていない。
「なんでこんなことしたんだ」
もう敬語もいいだろう。
「そりゃね、神様、あ、僕の上司ね、ちょっと暇だっていうからさ、人類を困らせてやろうとね。思ったよりうまくいかなかったな。喜んでもらえないかな?」
なんて言って笑う。
「まあいいや、他の国では逆に羽化が早まっちゃって小さいけど、そっちでも楽しめていると思うしね。まあ、あんまり大きなことをしてさ、人間がいなくなっちゃってもさ、また増えるまで退屈でしょ? だからさ、適度に苦しんでくれるのがいいんだよね。そうゆうのを僕の上司は望んでいるんだ。そうすればさ、何度もずっと楽しめるじゃん?」
それにさ、と続ける
「君達、なかなか人間を滅ぼそうとしないじゃん?」
「僕らが? なんで僕らが自ら滅びないといけないんだ」
「君らじゃないよ? 人間だよ? 滅びるのは人間。滅ぼすのは君ら魔族じゃないか」
「何を言っている。僕は人間だ。僕が人を滅ぼすだって? そんなことするわけないじゃないか」
「あれ、聞いてないのかな? 知らないのかな? 忘れちゃったのかな? 君らシュタインは魔族の家系なのに」
僕は固まる。なんて言った?
「まあ、だいぶ人間と交配が進んじゃって血が薄まっているみたいだけどね、その素質だけはちゃんと受け継がれていると思うよ」
まあいいやと、銀髪天使。
「君らの一族はさ、しばらくひっそりと暮らしていた。その後、ローゼンシュタインのあの土地を守るために活動を開始した。そう習ってない?」
母上から聞いた話と同じだ。
「じゃあ、なんで君らの一族はひっそり暮らすまでに小さな集団になっちゃったかな。それはね、人間に滅ぼされかけたからだよ。まあ、逆に人間を滅ぼしかけたけどね」
はっはっは。と笑う。
「魔族はね、元々お人好しの一族だったんだ。でね、魔法も魔法陣を使った技術開発にも長けていてね。人間を導いていたんだよ」
話はどこへいくんだ?
「大昔にね、魔族は人間に対して、魔法陣の使い方を教えたんだ。そのおかげで人間の生活が向上し、どんどん人は増えていった。魔法陣を使って火をうみ、水をうみ、雷をうみ、生活も、農業も、狩猟もみんな魔法陣でできたんだ。魔族は便利な魔法陣を開発しては人間に教えていった。人間達は生活が向上すると同時に、次々に魔法陣を教えてくれる魔族に少しずつ恐怖を覚えていったんだ。どっかで聞いたことがあるかな」
クックック、と笑う。
「そりゃね、人間は魔法陣を使って動物や魔獣を倒していった、ってことはさ、魔法陣は人を殺せるってことに気づいちゃったんだ。実際にね、魔法陣を使った戦争なんかも起こってさ。神様はそれはそれで喜んだけどね。次に人間達はね、魔族はいつでも人間を滅ぼせるんじゃないかって考えたんだね。それにさ、魔法陣って何で書くか知っているよね。魔獣の血だよね。だけどね、人間の誰かが言い始めちゃったんだ。まあ、あっているんだけどさ、魔族の血の方が魔法陣が強力になるってね」
僕はゾッとする。
「するとどうなると思う? 人間は魔族を捕まえては血を抜き取ったんだ。もちろん生かしながらね。魔法陣をたくさん作るために、何人も何人も魔族を捕まえてね。そうして作った魔法陣を持って、魔族に戦争を仕掛けたんだ」
銀髪天使は、やれやれという感じで首をふり、話を続ける。
「人間はね、魔族がもっと強い魔法陣を持っているんじゃないかと、魔族を捕まえては拷問して聞き出そうとし、血を抜いては魔法陣を作り、また連れてきて、って繰り返し。ひどいよね、人間って。それでね、魔族もついに全面対決を決意して人間を滅ぼしちゃったんだ。まあ、全部じゃなかったけどね。とはいえ、魔族も大きく数を減らしちゃった」
銀髪天使はふぅ、と息を吐く。
「結局、数を減らした人間は魔法陣の技術も知識も失ってしまった。そして魔族は魔族で山に引き篭ったんだ。それから何千年も経ってさ、そんな戦いがあったことを双方忘れかけた頃、また人間と魔族が関係を持ち始めた。まあ、魔族もお人好しだよね。でもね、魔法陣を教えることはしなかった。あれは単純だけど強力だからね。代わりに教えたのが魔法だ。魔法ならさ、魔族が狙われることもないと思ったんだろうね」
銀髪天使は続ける。
「魔族はね、人間に魔力の増やし方とか、魔力の操作の仕方とか、いろんな魔法について教えていったんだ。人間はそれはそれは便利な魔法に喜んでね。自ら開発するまでに至ったよ。だってね、魔法はイメージ力だからさ。魔法を作ることもできるようになったんだね。そうしたらさ、魔法は魔法で便利すぎちゃって。強力だけど単純なことしかできなかった魔法陣と違って、イメージで魔法が発動するから、複雑なこともできちゃってさ。最後の方なんて、座ったまま農業をしたり、座ったまま狩りをしたり、座ったまま調理をしたりって、どんどん怠惰になっていっちゃった。移動の必要があったとしても魔法のじゅうたんだよ。すごいよね。でさ、人間も退屈になっちゃったんだね。魔法の力を競うようになっちゃって。どっちが強いか、誰が強いかってさ。ついに、人間同士で戦争まで始めちゃったんだ。座ったままね。世界中を巻き込んだ戦争を憂いた魔族はね、止めに入ったんだよ、優しいね。だけどさ、考えてみなよ。魔法を教えた本人たちが出てきちゃった。どう思う? 人間たちはね、自分たちが使っている魔法より強力な魔法で攻撃されるんじゃないかって考えたんだ。そしたらまたおんなじだよ。人間と魔族が戦争しちゃった。これまたどっちも壊滅状態だよ。人間も魔族も離れて、それぞれひっそり暮らすことになったんだ。人間はね、あんな便利だった魔法もね、時間の経過とともに、簡単で単純な魔法しか使えなくなっちゃったけどね」
僕は、動くこともできず、ただただ、話を聞く。
「散り散りになった魔族の一部はね、自分達の聖地であるローゼンシュタインの近くに住み着いたんだ。そうしてひっそり暮らしていた。一方の人間は逞しいね。どんどん人が増えていってね。各地でまた国を起こしていった。移住しながら生息域を広げてね。それで、ついにローゼンシュタインの近くまできちゃった。仕方なく、魔族は人間のふりをして人間に混ざり込み、ローゼンシュタインに近づけないようにしたんだ。その時にね、人間の街の下水、あれだけは耐えられなかったらしくってさ、誰にも使えないようにして下水処理に関する魔法陣を使った設備を提供したんだってさ。もう、それしかわからなかったみたいだけど。そりゃそうだよね。水と下水処理は大事だもんね。と言うわけでさ、今の人間たちの使う魔法がさ、ちょっとしょぼい理由がわかった? 魔力も少なければ操作も下手。それにイメージ力もない。魔法よりまだ剣の世界だよね。そんな時にさ、大きな魔力を持った人間が転生してきちゃった。この世界に。四人もね。まあ、二人は元天使と元死神だけどさ」
と言って天使は笑う。




