高等学園3-3
次はアイドルのパフォーマンスに移る。
クララとケイトがちょっと着替えてくるね、とオリビアに声をかけて部屋を出ていく。リリィとかなでもそれに続く。
アンディは、
「ちょっとそこで待っていて」
と、オリビアに伝え、他のメンバーと一緒に楽器の準備にかかる。
アンディはピアノ、ボールズはギター、ジェシカ、ビビアン、こはるの三人がマリンバだ。しばらくすると、ドアの向こうから、
「いいよー」
と声がかかる。
アンディが、
「いくよ!」
と声をかける。今日はいつもとちょっと違って、アンディのピアノソロから入る。
そして、全員が演奏に加わったところで、ドアから四人が走って入ってくる。
で、オリビアの前に並ぶと、
「「「「私たち、らいらい研です」」」」
ってやっぱり、変えないか? グループ名。
四人は満面の笑みをオリビアに送る。今日のお客さんはオリビアただ一人。アイドルたちは、オリビアだけの目を見て、微笑みかけ、語りかけるように歌っていく。
今日のダンスパフォーマンスも歌のハモリも完璧だった。
オリビアは、目が離せないのか、立って手を胸の前で組んだままそのパフォーマンスを見ていた。
そして三曲が終わり、四人がオリビアの前に並び、頭を下げる。
「ありがとうございました」
と。
すると、動きのなかったオリビアの目から涙が流れ落ちる。手はまだ組んだままだ。
あれ、どうしたのかな? って四人が顔を見合っていると、オリビアが話だす。
「かっこよかったです。すごくかっこよかったです。可愛さがこんなにかっこいいなんて知りませんでした。とても綺麗な歌声、乱れのないダンス、どれもとても長い間一生懸命に練習されたのではないでしょうか。アイドルという存在が、ここまで人に感動を与えるとは知りませんでした」
と言って泣き出してしまう。
クララとケイトは頷き合って、オリビアの両側へいく。
「アイドルはね、人に笑顔を与えるんだよ。だから、笑ってくれる方が嬉しいな」
と。声をかける。
ケイトがポケットからハンカチを出して涙を拭いている。
「うん。うん。ありがとう」
と言って涙を流したまま、オリビアは笑顔を作っていた。
よかったよかった。仲良くなれたようで。
オリビアが落ち着いてきたところで、オリビアは話し出した。
「クララさんケイトさん、ごめんなさい。結論から言うと、私は、父からアンドリュー殿下の元に嫁ぐきっかけを作るように言われたために留学に来ました」
クララもケイトも、アンディさえもびっくりしている。
「今、アリシア帝国は経済的な危機に直面しています。ここで何かあったら潰れてしまうかもしれません。弱りきっていることを知られたら、攻め込まれるかもしれません。そのため、このマイリスブルグ王国に支援をしてもらうため、婚姻関係を結ぶ必要がありました」
みな、黙って聞いている。
「我が帝国は、昨年夏より全土を巻き込んだ大きな内乱が起こりかけました。そのため、兵を大きく動かした多くの貴族たちは、疲弊してしまったのです。ちなみに、そのきっかけとなったのが、リコラシュタイン家の夫婦喧嘩。さらにその夫婦喧嘩の原因が貴国のローゼンシュタイン家と聞いています」
心当たりがあってだめだ。ジャンピング土下座で許してもらえるのだろうか。
京子ちゃん達は白い目で見てくるし。僕じゃないよ、母上だよ。
「ですが、もういいのです。今日、私は、大きな大きな感動をいただくことができました。クララさん、ケイトさん、これまでの私の態度について、謝ります。ごめんなさい。それと、ローゼンシュタインの皆様にも謝罪を。本当にごめんなさい」
と言って、深々と頭を下げるオリビア。
「そして、そして、もしよろしければ、私をみなさまのお仲間に入れてはいただけませんでしょうか。夏休みまでの短い時間ではありますが、お願いします」
と頭を下げたままいう。僕は、ほらってアンディに振る。アンディは仕方ないな。とは思えない笑顔でオリビアに近づき、
「こちらこそよろしくお願いします」
と手を出した。下げた目線の前に出された手を見て、オリビアは顔をあげる。そして、アンディの笑顔を見るなり、ガバッと抱きついた。
「コラー調子に乗るなー」
と言うのはケイト。
「オリビアさん、それはちょっと尚早では」
と言うのはクララ。他は皆笑っていたけどね。
「よし、じゃあさ、オリビアのお別れ会でパフォーマンスできるように、あと三か月ちょっと、五人編成を頑張ってやってみようか」
と僕が提案してみる。
「え、私がアイドルをやるのですか?」
「そうそう」
とクララとケイト。
「やってみましょう、ステップを教えますよ」
「振り付けもね」
「アレンジしなきゃね」
など話し合っている。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
とオリビアはまた泣き出してしまった。
「そしたらさ、今日はこれで解散。それで、クララとケイトはよかったらオリビアの衣装の注文してってよ。サイズとか測らないとだし。お金はキザクラ商会が出すって言っておくよ。なんだか僕の家がやらかしたみたいだし」
「そこはグレイスがもつって言わないの?」
「僕、お小遣いないんだよね。商会のお金しか」
と言って笑う。すると、調子に乗るのがリリィ。
「じゃあさ、五人分新調しちゃう?」
「いいねー」
って。おい。かなでも合わせて五人で出ていった。まあ仕方ないか。アリシア帝国をたった一つの冗談で窮地に追い込んだ母上に請求しよう。
翌日。皆が登校してきていつもの場所に座る。オリビアもきて、昨日と同じところに座った。そこで、驚くべきことにボールズがアンディに声をかける。
「殿下、こっちにきて俺の横に座りません?」
なんだと、そんな気がまわるやつだったとは。アンディは気がついたのか、
「そうだな」
と言って、一個下のボールズの横に座った。すると、クララが、
「オリビアさん、こちらに座りませんか?」
と声をかける。オリビアは嬉しそうに、クララとケイトの間に座った。
いいねー、子供達が仲良いってことは。と、しみじみした。
「なあリリィ、昨日どんな衣装を注文したんだ?」
と前に座るリリィに聞く。
「え、内緒よ内緒。フランに聞けばいいじゃない」
と言って顔を赤くして前を向いてしまう。あれ、何かおかしいな。と、かなでを見るとかなでも目を逸らす。
「リリィ、もしかして衣装以外も注文したのか?」
と聞くと、冷や汗をかいているかのように前を向いたまま固まっている。
「フラン?」
と聞くと、目を逸らしたまま、
「メイド服を」
と言った。
「おい、リリィ、まさかと思うけど、皇女様にメイド服を着せるつもりじゃないだろうな」
「だって、可愛いじゃん。憧れるってグレイスもアンディも言っていたじゃん」
「ちょっと待て、そんなこと大声で言うんじゃない」
と、ここで京子ちゃんが肘の辺りを掴んで引っ張る。
僕が周りを見渡すと、みんなこっちをみてくすくす笑っていた。
左を見ると、クララ、オリビア、ケイトも口を抑えて、目に涙を浮かべながら笑っていた。
そして、三人揃って、僕に向かってピースサインを突き出した。本当に楽しそうな嬉しそうな、綺麗な笑顔だった。
僕は仕方ないなー、いい笑顔をもらっちゃったしな。後でアンディに請求だ、と心に決めて席に着く。
「おーいグレイス君」
マーレ先生だ。
「先生にもメイド服を買ってくれると嬉しいな」
「先生今おいくつ……」
ビシッ、僕のおでこにチョークが突き刺さった。




