高等学園2-8
洞窟の奥では特にあまりやることもないし、早めの就寝。順番に見張りを立てるも、こはるのおかげで近づくものはなし。
翌朝、日がさしてきたところで起きて、朝食。持ってきていたパンと野菜と朝にちょっとだけ釣った魚で。
「こはるはどこから出るの?」
と聞くと、
「上から出るぞ」
「出られるようになったんだ?」
「コツがいるがな。ドラゴン形態で近くまで勢いつけて行ってな、人型になって壁を蹴って登る。なんとかなるもんよ」
「そうか。じゃあ、四日後くらいに王都でね」
と、こはると別れる。こはるはもう少し里でのんびりするらしい。一緒に移動できるようになるといいな。
「僕らも帰ろうか」
と。ちょっと急いで今日中に麓の村まで戻る。一泊して馬車でグリュンデールまで。
グリュンデールの冒険者ギルドへ行こうと思ったけど、そう急ぐこともないので、行ったことのある王都の冒険者ギルドに行くことにした。馬車ならツノも運べるしね。
今日はグリュンデールのお屋敷に泊めてもらう。シャルロッテ様は母上たちと一緒に王都へ行ってしまったらしく、家令さんとメイドさんたちしかいなかった。
ご飯どき
「リリィ、冒険はどうだった?」
冒険したいと言っていたリリィに聞く。
「面白かった。森に入ったのも初めてだったし、洞窟も。当然だけど、街中と全く違っていろんな植物も動物も魔獣もいて。もっといろんなところにも行ってみたいなって思った」
そうか。僕は街とか綺麗なところならいいけど、森や自然が豊かすぎるところへはあまり行きたくないな。なので、僕の味方を探す。
「クララはああいった自然の中ってどうだった?」
「汚れるのも虫がいるのも嫌でしたが、ちょっとワクワクして楽しかったです」
えー。
「そうね。私もいっぱい緊張してドキドキしたけど、結果的には楽しかったな」
ケイトが同調する。
ジェシカとビビアンも頷いているので女性陣もそうかな。ベティは訓練よりまし、と呟いているが。
「魔獣も、結構対処することができたな」
とはアンディ。
「ただ、分をわきまえないと危ないってこともわかった。今回はアレクさん達が僕達のやりやすいように間引いてくれたからよかったけど、僕達だけで会っていたら危なかったかもしれないな」
「そうだな。まだまだ訓練して強くならないとな」
とはボールズ。
「本当にメイドさん達は強かったな。ホーンオーガ相手でも全然怯まないで瞬殺だもんな。役割分担もしっかりしていたのが大きいのかもだけど、かっこよかったわ」
と、アンディ。
まあ、かっこいいお姉さんに憧れるのは気持ち的にわかるけど、クララの前では程々にしとけ。それ、吊り橋効果だからな。
「王宮には女性騎士はいないのか?」
「いるぞ、王妃とか王女とかの護衛に必要だからな」
でも、と続ける。
「メイド服で強いのがいいんじゃないか」
わかるわー。意外と同志か。メイド服は最強だ。武器も隠せるしな。聞き耳を立てていたクララとケイトの目が光る。どっちの意味だ? まさかの公爵令嬢と伯爵令嬢がメイド服とかないよな? 萌えるかもしれんけど。
次期国王に褒められて気を良くしてしまったのか、アレクが発言してしまう。
「アンドリュー殿下の指揮も的確でかっこよかったですよ」
と。アレクの歳は知らないので、対象になるかどうかも、わからないが。
ついでにアレクがどういう意味で言ったのかもわからない。
しかし、アンディは頬を染めて俯き、小声で「ありがとうございます」と言っていた。
お前、王子なんだからな、偉いんだからな。と思っていると、殺気が。
クララはともかく、ケイトはなんでだよ。もしかしてアンディの第二王妃狙いか? 重婚いいらしいぞ。がんばれ。というか、婚約者いないのかよ。ボールズじゃないのかよ。
「まあ、確かにアンディの指揮はよかったよ。やりやすかった。誰が防いで誰がどう攻撃するかも分かりやすかったし。だから危なげなく魔獣を倒せたんだと思うよ。さすが、未来の国王様」
と、ちゃかしておく。みんなもうんうんと頷いていて、それをみたアンディはまた照れたが、誤魔化すように、「お前なー」なんて言ってくる。
無邪気な子供たちは可愛いなーと、久々に爺さんモード発動。ついつい揶揄ってしまいたくなるね。京子ちゃんは察してやれやれって顔をしているけど。
まあ、戦争なんて起きないに越したことはないけど、アンディなら前線を任せられるんじゃないだろうか。
夜、与えられた部屋に戻って京子ちゃん、かなで、ミカエルと話をしていると、ドアがノックされる。アンディたち四人、リリィ、マリンバ隊の三人が入ってきた。
あれ、全員集合?どうしたかな。
「どうしたの? 明日の相談? それとも高等学園に戻ってからのこと? あ、わかったよ。宿題やってないんだろう」
その一言に固まるもの数名。
「いや違う。お礼を言いたかったんだ」
「お礼?」
僕は首をかしげる。
「アンディが僕らを率いてくれるから楽しくやっていられるんだぞ? 僕らがお礼を言うべきだろう?」
「いや、違う。王立学園六年の時にグレイスたちが僕らを誘ってくれたからだ」
「いやいや、入学した時に、クーリエの嫌味から守ってくれたろ? そういうの言い出したらキリがないぞ?」
「そうなんだけどさ。僕はさ、その立場上色々期待されて、視線を気にしていたんだ。だけどさ、グレイス達に誘われたバンドもすごく楽しい。冒険者も楽しい。自分で好きなことをやっていいんだって思えた。今回のこともそうだ。僕は将来のために、こうありたい、ならなきゃっていう自分があったけど、いろんな訓練もできたし魔獣討伐の指揮を取るっていう経験もさせてもらった。かなり自分に自信が出てきたよ。正直、僕は国王になるかどうか、なれるかどうかわからないけど、なってしまった時に困らないように、これからも頑張るよ。こんな機会をくれたグレイス達にもう一度言うよ、ありがとう」
と頭を下げる。
「国王になるのなら、まず、頭を下げないところから始めろよ」
と照れながら返す。
「でも、僕もアンディ達が一緒に過ごしてくれて、ものすごく楽しいよ。僕もありがとう」
「私も」
今度はクララ。
「私も殿下の婚約者になり、相応しい自分にならないとと気負っていました。誰にみられても陛下に相応しい人と見られるようにと。ですが、アイドルというものを経験させていただき、自分を、ありのままの自分を見せるっていう喜びを覚えました。好きなことをしている自分を見せてもいいんだって思えました。殿下もそんな私が素敵だと……」
最後の方は小声で顔を真っ赤にしている。
「だから、私も自分を変えるきっかけを下さったみなさんに感謝しています」
次々続く。
「私は、グレイスがソフィとフランの二人と婚約しているって聞いて、元気が出たよ。頑張るからね」
と言うのはケイト。いや、勝手にやれよ。
「俺も、まだまだ強くなれるってわかったぜ」
とボールズ。相変わらずの脳筋。
「私はもう伝えてあるからね。それに、どこにでも連れてってくれるって約束もしているし。私もついていくからね」
と言うのはリリィ。
「私もすごく楽しいです」「私も」「私はあの訓練をなんとかしてほしい」
とはジェシカ、ビビアン、ベテイ。
そしてアンディがまた指揮をとる。
「せーの」
「「「ありがとう。これからもよろしく」」」
と。仕方ない。僕らも四人で目配せし、
「せーの」
「「「こちらこそありがとう」」」
「みんながいなかったら、ここまで楽しくいられなかったと思う。僕らこそ、ずっと仲良くさせてくれ」
と伝える。みんなでワーワーキャーキャーしているところに僕は釘を刺しておく。
「ただし、僕らは中立だからな」
と。アンディは
「わかっているよ」
と笑っている。
前世の子供の頃は、人が怖くて仕方なかった。ここには今を一緒に楽しめる仲間ができた。みんな僕より八十歳も若いけど。今の僕はたった十四歳の力しかないけど、みんなの手助けをしていこう。
皆が各自の部屋に戻っていたが、最後にマリンバ隊が残る。
ん? 珍しいな。
ジェシカとビビアンが真ん中のベティと手を繋いでいる。そのままジェシカとビビアンが一歩出る。ひきずられるように真ん中のベティも一歩出る形になる。ベティは俯いているが、他の二人は真剣な表情だ。僕の目を力強く見つめてくる。
僕は、どっちの目を見ていいかキョロキョロしていると、ジェシカがガバッと腰を折って頭を下げた。
「お願いがあります」
え、敬語? するとビビアンも
「私もです」
と同じように腰を折る。真ん中のベティは俯いたまま動かない。僕は、何事かと二人の次の発言を待っている。京子ちゃん達は、逆に一歩下がっている。
ジェシカが口を開く。
「私達を黒薔薇騎士団に入れてください。そのように騎士団長たるグレイス君のお母様にお願いしていただけませんか?」
「お願いします」
とビビアンも追従する。ベティは事前に聞いていたのか、俯いて固まったままだ。多分、辛いことを散々説いたのに、それでも二人の決意が変わらなかったのだろう。僕はどうしていいかわからない。
「えっと、どうした? どうして?」
と聞くと、
「本音を言わせていただければ、私達は領を守るとか主人を守るとかまだよく分かりません。守られる立場でもあります。なので、そんな気概はまだないです。ですが、私は、私達は、ベティと一緒にいたいんです」
とジェシカ。俯いていたベティからついに涙が流れ落ちる。
「私達は、ずっと三人でいました。何をするにも三人でした。もちろん、グレイス君に誘ってもらってみんなで演奏をするのはものすごく楽しかった。でも、同じように三人で自主練するのも楽しかった」
とビビアン。
「私達三人は、ずっと一緒だったんです。時には、同じ人を好きになっちゃって喧嘩もしたけど、それでもずっと仲良くしてきたんです」
ちょっと気になる発言もあったけど、ここは本題じゃないからスルーか。
「だから、これからも一緒にいられるよう、私達も黒薔薇騎士団に入れてほしいです。ベティは辛いって言っていますけど、これまでも辛いことを三人で乗り越え、笑い話に変えてきました。だから、だから、お願いします」
「お願いします」
「母上には伝えておくよ、どういった返事がもらえるかはわからないけどね」
と僕。
「だけど、僕からもお願いしていい?」
三人は腰を折ったまま微動だにしていない。
「僕達は仲間なんだから、敬語はやめよう。そうやって頭も下げる必要なんてない」
もちろん、黒薔薇に入っちゃったら仕事の時はそうしないとダメなこともあるけどね。
「これからもよろしく」
って言ったところで、三人が泣き出してしまった。僕にはどうすることもできなかったので、京子ちゃんにアイコンタクトを送ると、仕方ないなーという顔をして、三人を部屋に連れて行ってくれた。
実際には、あの子達も貴族だ。自分で道を選べるわけでもない。結婚相手も自分で選べない身なのだ。こういうのは難しいから、母上に丸投げだろうな。
結論としては、条件付きでOKが出た。条件とは、高等学園を卒業すること、それと、各々の家を説得すること、だった。母上は、
「忘れられた頃に、あの子を退団させても良かったんだけどな。せっかくの決意に水をさすのもな。まあ、その時はその時かな」
と笑っていた。
さて、二年生もあと半分。




