高等学園2-5
滞在できる日数が残りわずかになってきた時、僕は皆に聞いてみる。
「夏休として遊べるのも後ちょっとなんだけど、何かしてみたいことってある?」
片道一週間とかほんとにどんな辺境だよ。ごめんな、みんな。
「はいはい!」
と手をあげるのはリリィ。
「私達ね、冒険者になっているよね。でもさ、冒険したことなくない?」
なりたくて冒険者になったわけじゃない。
僕はどちらかと言えばインドア派。外に出るとしても、綺麗なところしか行きたくない。
「私、冒険がしたい」
「冒険ってなんだよ、野営とかなら移動中にもしたろ?」
「そうじゃなくって、森に入ったり、洞窟や見たこともない湖に行ったり、そこで魔獣とか巨大な魚と戦ったりさ」
ってリリィが目をキラキラさせていう。
「いいなーそれ、俺も戦ってみたいぜ」
とはボールズ。さすが脳筋二人組。
「あの、魔獣と戦うって、危ないと思うんだけど? それに僕らのランク、ブロンズじゃん? 何もしていないし。というか、これだけ何もしないと、冒険者資格を剥奪されるんじゃない?」
「えー、忘れてた。資格を取ったのが去年の夏休みの初めだから、今は、一年以上たっちゃっているじゃない。大丈夫なの?」
こういう時のアンドリュー先生だ。みんなで視線を送る。
「はあ、冒険者資格は一年間何もしないと取り消し扱い。執行猶予が半年付き。つまり、今、僕らは取り消し中だけど、半年以内に何らかの依頼を受ければ復活可能だ」
「完全に取り消されちゃうとどうなるの?」
「十年間の再発行停止になる」
「長いねー」
依頼を受ける必要があるのか。
「それは常設依頼の素材採集とかでもいいのか?」
「いいと思うぞ。魔獣の肉でも皮でもそのままでも、持っていけばいいだろう」
あれ、このローゼンシュタインで売っているホーンラビットのツノとか皮とか持って行けば達成なんじゃないの? とは思いつつも、そんな無粋なことは言わない。
僕ら四人とこはるはちょうどいい場所を知っていた。あそこは、ホーンラビットやホーンウルフくらいしかいなかった。だから、このメンバーでも大丈夫だろう。
「それなら、グリュンデールの近くにいいところがあるから、帰りにそこへ寄っていくってのはどう? 素材はグリュンデールの冒険者ギルドにおろして行けばいいよね?」
みんなが頷く。
「じゃあさ、私、買い物に行きたい!」
というのはジェシカ。ベティの手を握った手を上げているので、ベティも手を上げている形になる。
「他の街とあまり変わらないと思うけど、いいかもね。じゃあ、散歩に行こうか」
といって、街に繰り出した。とはいえ、目的が異なれば、行き先も異なるもの。女性陣は服やアクセサリー、お土産が見たいと。
男性陣は武器や防具、そして買い食いだ。昼に公園での待ち合わせとして、それぞれ見ていく。
アンディとボールズは武器屋に入って物色している。帰りに洞窟に寄るっていったから、真剣そのもの。というか、女性陣も武器は見た方がいいんじゃなかったかなと。
アンディは片手剣をボールズはナックルを見ている。あのな、魔獣をゲンコツで倒すってどうなの? まあ、ドラゴンと試合をして分かったけど、確かに手返しは速いよね。
「グレイスとミハエルは見なくていいのか?」
とアンディが聞くので、
「僕らは、うちの工場で打ってもらったものがあるからさ」
と今は持ち歩いていないけど、腰を指差す。
「というか、ボールズはともかく、アンディは超高級品を持っているんじゃないのか?」
「確かに持ってはいるが、いろんな種類の剣を見るだけでも、形やパーツが工夫されていて勉強になる。ものによっては買って試したいと思うよ」
とのこと。なるほどね。しばらく見ていたが、結局買わずに店を出た。
「買わなくてよかったのか?」
と聞くと、
「グレイスたちが武器屋で全く興味がなさそうにしていただろ? ということは、二人が持っている武器っていうのは、あの店のものよりきっといいんだろう。だから、そっちを見せてもらう方が有意義かなと思ってな」
うーん、そんなものか。
「どうする? 屋敷に戻る? それとも防具屋とか道具屋とか行く? 道具なんて買い揃える必要があるんじゃないの?」
「グリュンデールに寄るんだろう? 道具はそこで揃えた方が荷物にならない。だからいいんだ。二人の武器を見せてくれないか?」
「ボールズはいいのか?」
「俺は、手の甲に金属が付いていればそれでいいから、新しいものも必要ないしな。付き合うよ」
と、屋敷に戻ろうとしたものの、結局は公園集合にしてしまっている。見せるのは午後にして、公園へ向かうことにした。
公園にきて、ベンチに座っていると、ふとアンディがいう。
「広くてのんびりしていていい公園だな。領民もたくさんいるし、笑顔も絶えないいい街だな」
僕は、僕が作った街ではないが、嬉しくなる。
「でもさ、ここ、前にワイバーンがやってきたんだ」
ギョッとするアンディとボールズ。
「他の貴族のいたずららしかったんだけど、ちょうどその時居合わせちゃって、すごく怖い思いをしたよ」
子供達を失いそうになったという怖い思い出だ。
「その時はどうしたんだ?」
「僕達の散歩に付き合ってくれていたメイドさん達と街の衛士達が倒してくれたんだ。不幸中の幸いというか、怪我人なしで終わったよ。父上の話では、僕が知らなかっただけで、いろんな悪戯があったらしいよ。もうなくなったみたいだけどね」
アンディはベティの件がローゼンシュタインへのいたずらにも関わっていたことを知らないだろう。
「そっか、なくなったのならよかったな。しかし、メイド達がワイバーンを倒すとか、すごいな。確か、黒薔薇騎士団がメイドもやっているんだっけ?」
「そうなんだよね。母上が仕切っているけど、身近に護衛を置くのは安全性の話だし、メイドを兼ねれば一石二鳥だからって」
「それでベティは休みをもらって生き生きしているのか? ジェシカやビビアンに帰ってくれるな、と泣いて頼んでいたぞ? どこまで本気かわからないけどな」
まあ、おかげでベティも立派な騎士になってくれるだろう。魔導士だったけどな。と、遠い目をしておく。
「そうだ、今日の午後は、黒薔薇騎士団に稽古をつけてもらう、もしくは、訓練に参加させてもらうってこと、できるか?」
「そこは普通に騎士団じゃないのかよ」
「ベティがいるじゃん? 騎士団は行きづらくない? 一緒にやるなら黒薔薇騎士団にお願いした方がいいんじゃないかな」
「ベティ、せっかくの休みなのに、黒薔薇に戻りたくなんてないだろう?」
ベティの泣き顔が目に浮かぶ。そうかもな、とアンディがいうので、
「ま、母上に聞いてみるよ」
と、答えておく。
そう話をしているうちに女性陣が集まってきた。
「ねえ、何食べるー?」
とリリィ。
お腹空いているんだろうな。
「せっかくだから、ピクニックかな、と思っていたんだけど?」
「じゃあ、何か買ってこないとね。どうしよっか。みんなで手分けする?」
「いや、そろそろ……あ、きたきた」
メイドさんご一行がやってくる。メイドさんご一行は芝生の上にシートを敷き、サンドイッチが入ったかご、お茶、フルーツなどを置いていく。
「ありがとう」「ありがとうございます」
などとメイドさんにお礼を言って食事にする。メイドさんはお茶を淹れてくれたり、果物をむいてくれたりしてくれた。感謝だ。ひと通り食べて皆が満足していると、アンディが徐にメイドさんにお願いをする。
「僕ら、帰りに洞窟へ寄って冒険したいと思っているんです。そこには魔獣も出ると思うんです。そこで、黒薔薇騎士団の皆さんに少し稽古をつけていただきたいのですが」
と。反応は色々。ボールズはもとより、リリィも「いいねー、お願いします」なんて言っている。
クララとケイトは微妙なところだが、わからなくもないという感じかな。ベティに掴まれているジェシカとビビアンは困惑している。メイドが視線を逸らして応える。
「私どもは今、“メイド“として仕事を仰せつかっておりますので、く、訓練場にいくことはできません」
「そうだよ、私、休みなんだよ、みんなと遊びたいんだよ、訓練なんて、訓練なんてー」
ベティがアンディの提案を退けようとする。
「あなたは休みとはいえ、団長の優しいお心遣いによるもの。それもご友人と一緒に過ごすためのものです。ご友人が訓練がしたいというなら、お付き合いなさい」
ピシッと締める。ベティは泣き顔になっている。そんなに厳しいのか?
「私もちょっとベティの職場が気になるから、見に行きたいな。ベティがどんなに頑張ってきたのかも知りたいし。だめ?」
ってビビアンが聞く。ベティは仕方ないと割り切り、
「分かった」
と返事をしていた。
「じゃあ、屋敷に戻って母上に聞いてみようか」
と腹ごなしの散歩をしながら屋敷に戻った。




