高等学園2-3
さて、話を戻す。
ラミレス殿下滞在二日目、一行は屋敷中を彷徨う。
特に、工場の周りを。何度も工場に突入しようとして、門番に止められていた。
僕はせっかくの夏休みなので、みんなと遊ぶ。夏らしくビーチに行き、バレーボール大会と決め込む。
王都に行って八年か。ビーチには立派なコートが出来上がっていた。しかもいくつも。
また、シャワールーム付きの脱衣所も完備されていた。
僕らはせっかくだから水着に着替えてバレーを行うことにした。水着をデザインしたのは京子ちゃん。無難に、女子はパレオ付きビキニ。男性陣はトランクスタイプだ。それぞれ地味目な濃い色。
午前中はたっぷり楽しんで、昼はバーベキューにした。
午後に殿下たちが現れ、バレーに混ざる。
メイドに頼むと、速攻で水着を作ってきた。恐るべしメイド。
感想として、やっぱり二十歳前後ともなると、すっかり女性っぽいスタイルになっているようだ。とはいえ、うちの十四歳たちも負けてはいない。好みの問題もあるしね。むしろ、かなではないことを誇っている。
動くたびに躍動する大人チーム。微動だにしないちびっこチーム。その中間、いろいろだ。
僕ら男子三人は後で正座させられた。ミカエル? なぜか許されていたよ?
バレーを終えた後は、ラミレスたちはまた敷地内をうろうろしていた。特に、訓練場と工場まわり。工場では何度も追い返されていた。そりゃそうだ。
ラミリス殿下滞在最終日。事件が起こる。
この日、ラミレスたちは帰る予定だった。元々二泊三日の予定だった。そのラミレスが工場前に陣取って、「中に入れろ」と騒いでいる。
僕は、父上、母上、兄上と、それと仲間達とここにやってきた。メイド達もいるよ。
「ここはマイリスブルグ王国です。アリシア帝国の皇太子であっても、無理を聞くことはできません」
と兄上。
もっと言えー。
「私は知らねばならぬのだ。知って我が国に持って帰らねばな、貴様らの秘匿した技術を」
と言っている。いやいや、ダメだろうよ。教えられるわけがないじゃん。
「お前達の持っている技術は危険だ。だから、オープンにすべきなのだ。だから見せろ」
なんて言い草だ。技術開発には開発した人の苦労ってものがあるだろう。そんな簡単に見せられるわけがない。
ついにラミレスが切れる。
「こうなったら強行突破してやる。いでよケルベロス!」
は? 今なんて言った? いでよ? 魔法で呼べるのか? それって何? 転移魔法? それとも異空間召喚魔法? なんなんだそれは? そもそも、ケルベロスってなんだよ。
と興味を引くと、ラミレスの前に五メートルくらいの魔法陣が現れ、その上の空間が光ったと思ったら、体長三メートルくらいのケルベロスが顕現する。
僕は、思わず声を上げる。
「な、何ー」
と。
ラミレスは僕の驚きに満足したのか、ドヤ顔をしている。
僕は、京子ちゃん達に「魔法陣を覚えた?」と唇の動きだけで聞く。フルフルと首を振る京子ちゃんたち。しまった、見逃した。初めての魔法陣だったのに。僕は興奮気味に、
「殿下、もう一回、もう一回お願いします。これ、どこから現れたんですか?」
と、言いよる。
ちなみに、現れたケルベロスはラミレスが指示しない限り、大人しくしているようだ。
「貴様ー、ケルベロスが怖くないのか? もう一体召喚してやる! いでよケルベロス!」
と。魔法陣が地面に再び描かれる。あれ? さっきよりちょっと小さい? 現れたケルベロスは二メートル半くらい。
正直、ケルベロスなんてどうでもいい、魔法陣だ。み、見えなかった。ケルベロスが邪魔。
京子ちゃんたちもフルフルしている。
「もう一回、もう一回お願いしますー」
と、お願いして、もう一回やってもらう。
今度のケルベロスは二メートルくらい。だんだん小さくなっていく。
今回は角度を変えて見ていたものの、それでも覚えきれない。
もう二回やってもらったところで、僕もラミレスも崩れ落ちた。
「み、見られなかった」
「もう、魔力がない……」
とは、僕とラミレス皇子。
ケルベロスは結局、最後の一体は一メートルくらいにしかならなかった。ちょっとした大型犬だ。魔力量に比例するのかな。
ラミレスが命令しないから、ケルベロスは暇そうにしている。あくびをしたり、足で三つの頭を順番にかいたり。僕は、斃れているラミレスに聞いてみる。
「あの、このケルベロスはどこからくるのですか?」
「し、知らない。ある時に呼べるようになった」
「これ、毎回同じ子が来るのですか?」
「わからない。それに、五体も呼び出したのは初めてだ……」
ラミレスはつらそうに答える。
「これ、引っ込めることはできるのですか?」
「いや、やったことがない。初めて呼び出したケルベロスは退治されてしまった。それ以来やったことがなかったんだ。止められていたしな」
なんだ、二回目じゃんか。
「ところで、これくれるのですか?」
というと、ようやく目的を思い出したようだ。
「ケルベロス達、こいつらを倒して、工場の門を開けろ。開けて中に突撃しろ!」
すると、五体かける三つの頭、つまり、十五の頭が一斉に吠え、僕らに飛びかかってくる。
が、一瞬の出来事だった。
一番大きいケルベロスの頭が三つとも地に落ちた。
そこに立っているのはかなで。手には鎌を持っている。
かなでは不思議そうな顔でミカエルに視線を送り、「こんなに弱かったっけ?」と視線だけで聞き、ミカエルも「いや?」と答えている。
さて、一番大きなケルベロスが倒れただけだが、次の瞬間、どたんどたんどたんころんと、四体が一斉に腹をむけた。
かなでは四体の腹をわしゃわしゃ撫でていく。そして、うつ伏せになったケルベロスたちに言う。
「お前達の主人はこの瞬間から私だ。しかも私のご主人様はこのグレイス様である。逆らうことは絶対に許さん。それから、ご主人様のご友人に牙を向くことも許さん。そんなことをしたら、一本ずつ切るからな」
と、かなではケルベロスを手なづけていく。さすが元死神。似合っているわ。
唖然としているカトレアの前に母上が歩み寄る。魔力がなくなり結局は動けず斃れているラミレスを指差し、
「そろそろ帰る時間じゃないのか?」
と。
「はい、そうですね」
と言って、カトレアは仲間内の男性にラミレスを抱えさせ帰っていった。
そこに残ったのは、一体の死体と四体のケルベロス。死体の方は、メイドたちが片付けた。
ケルベロスは珍しいので研究材料にすると、工場内に持っていった。
残り四体だが、主人宣言をしたかなでに聞く。
「かなで、この四体どうする?」
「グレイス様の言うことを聞くと思うので、どうしてもいいですよ」
と。とはいえ、どこからきたのかもわからないのだ。
外来種は、「持ち込まない、増やさない、捨てない」の三原則がある。あいつらがとはいえ、持ち込んでしまったものを、捨てるわけにはいかない。
かといって、へっへっへといって舌を出してこっちを見ているこの子らを、子と言ってもでかいが、殺すわけにもいくまい。
増えないことを期待して、工場内のホーンラビット養育場に預ける。
「ホーンラビットを食うなよ」
と言いつけておいた。
ちなみに、ケルベロスは基本的に肉食だが、野菜も食べる雑食らしい。しかし、
「どうやって呼び出したのかも、どこから呼び出したのかもわからないままじゃないか」
と、僕。
とはいえ、とりあえず、嵐は去った。隣国ではこれから嵐が吹くけどな。




