高等学園2ー1
こうしてまた日常に戻り、冬が来て、春が来て、二年生になった。そして夏休みがやってくる。
「今年の夏はどうする?」
とアンディ。
「私、ローゼンシュタインに行ってみたい」
というのはリリィだ。
「ローゼンシュタインって、海があるんでしょ?」
「いやこの王都の北の方にも海はあるだろう」
「えー、南の海に行ってみたい。海に入ったり出来そうじゃん」
「うーん」
確かに僕は全然ローゼンシュタインに帰っていない。たまには帰ってもいいかもしれない。
キザクラにもそれだけ会っていない。もうそれなりの歳になっているはずだ。
ラナとルナとも会っていないな。よし、帰るか。
とりあえず、父上と母上にも相談しよう。
「父上と母上にも聞いてみるわ」
すると、父上と母上も帰ると言っていた。領を兄上に全て任せっぱなしにしていて、時々嫌味の手紙が来ていたらしい。
仕方ないじゃん。今の領主は兄上なんだ。
「ちょっとお願いがあるんだけどさ、僕とこはるちゃんは先に行くよ。こはるちゃんは馬車に乗れないし。だから、みんなはうちの父上と母上、多分護衛がついているから、一緒に来て欲しいな」
と。すると、こはるが気を使ったのか、
「妾は、ちょっと里帰りしてからそっちの方へ行くから、ほっといてくれていいぞ。およそ、七日後くらいに行けばいいのだろう?」
と。まあ、こはるも里帰りしたいなら、いいか。
「一緒に行かなくていいかい?」
と聞くと、いいぞ。とのこと。
ということでこはると別行動になった。
出発当日、ローゼンシュタイン邸に皆が集まる。うちの馬車で移動する予定だ。
護衛は黒薔薇と第一騎士団がそれぞれ十名。それと、父上と母上、それにらいらい研十一名。結構な大所帯。
それに、こっちで生まれたマオマオ団を半分連れて行く。しばらく領都で猫を育てていないから、若いのがいない。そんなわけで、猫を連れてきているから、王都の猫達をマイヒメたちに任せてきた。
こはるは昨日の夜に飛んで行った。
旅は順調。相変わらず盗賊の一団も出てこない。護衛、必要か?
そんなわけで、まったくトラブルもなく、ローゼンシュタイン領都についた。途中、川上りと川下りは楽しんでもらえた。
領都では先ぶれが走っているから、僕らが到着することはわかっている。
屋敷に着くと、兄上が待っていてくれた。ちょっと苦い顔をしているが。
その後ろにはメイドさんが並んでいる。
「ご無沙汰しております、父上、母上。それにグレイス。大きくなったね」
「兄上も元気そうで何よりです」
「いや、父上と母上が王都に閉じこもってしまったから、あれこれ大変だぞ。それにな……」
兄上は父上に向く。
「父上、少しお話があります。母上とグレイスも」
と、兄上が言うので、僕らは移動。アンが前に出てくる。おー、アン、久しぶり。
「ようこそお越しくださいました、アンドリュー殿下、それにソフィリア様、皆様、お部屋までご案内いたします」
と、メイドたちに合図を送る。僕も目線をメイドたちに向けると、あれ? あんなちみっこいメイドいたか? と疑問を持つ。
らいらい研のメンバーは気づいていたらしい。が、固まって動きが取れないでいる。
飛び出したくて仕方ないが、礼儀上それができないので、動けないでいるのだ。
アンはそのちみっこいメイドに指示を出す。
「ベティ、グレイス様のご学友の皆様を客室に案内しなさい。その後、今日は非番にしていいです」
「はい、かしこまりました」
と、ベティが一歩こちらに歩き出すが早いか、ジェシカとビビアンが飛び出した。そしてベティにダイブする。
ベティは小柄な体でそれをガッチリと受け止め、受け止めた?
それでも涙を我慢して言う。ジェシカとビビアンはギャン泣きだが。
「お客様、お部屋までご案内します」
優しく二人を引き剥がしながら。
あら、すっかりメイドさんがいたについている。
「そうゆうのは部屋についてからお願いします」
と、ベティは小声で言っているが、本人も再会を喜び合いたいのだろう。ジェシカとビビアンはそれに小さく頷き、皆と移動を開始した。
僕は兄上に呼ばれたので、別行動だ。一旦自分の部屋に戻って荷物を置く。部屋にはいつもと変わらず猫たちがいる。キザクラは自分の場所と言わんがばかりに僕のベッドの真ん中でいわゆるスフィンクス座りをしている。
「よーしよしよし、キザクラ、元気だったか?」
「にゃん」
キザクラの頭から喉から撫でていく。ちょっと強目にわしゃわしゃやるのがキザクラの好みだ。背中まで一通り撫でて、部屋を出ていく。
「父上、母上、どうしてこのタイミングなのですか。来ることを決める前に連絡をいただいてもよかったと思いますが」
「いや、グレイスたちが夏休みで、ここに帰ってきたいというから。で、何かまずいことでも?」
「はい、隣国アリシア帝国の第一皇子が明日から三日間の滞在をされます」
「それこそ、王都に連絡を入れるべきことだろう」
「それが、連絡が来たのが七日前で、おそらく伝令が父上たちと入れ違いになったものと思われます。私も引き伸ばしたかったのですが、向こうにも事情があるとのことで、ほぼ無理やりです」
「そんなものは断ればよかろう? たかがアリシアだろう?」
たかが、って言っちゃうところがすごいな、父上。
「それなのですが、これにはカトレアが関わっており……」
カトレアは川を挟んだ西側にある、アリシア帝国、リコラシュタイン辺境伯家のご令嬢で、実は、母上の姪っ子である。
「どうも、帝国での学園で、第一皇子のラミリス殿下はご学友だったとのこと。ご学友で同窓会をリコラシュタインで行っていたところ、水周り、特に温水設備が完備されていたこと、コンロやランタン等の灯りにかかる設備が整っていたのを見られ、我が領に興味を持たれたとのことです。それで、ご学友ともどもこちらを視察したいと」
兄上はため息をついて続ける。
「カトレアは止めたそうですが、ご学友も殿下に同意されてしまい、仕方なく相談が来まして、とはいえ、もう止められない状況だったようです」
「カインズは何をやっているんだ」
カインズはカトレアの父、母上の弟にあたる。
「「姉上に任せておけ、姉上に勝てるものはいない」と言っていたそうです」
母上は、弟の無責任さに苛立ちつつも、自分のことを理解していることを知って満足そうだ。そこ、怒るところだからな。
「はあ。で、明日、川を渡られてくると。殿下とご学友だけではあるまい。目にみえる護衛はいいとして、その他有象無象はどうする?」
「街には、二つの騎士団を一般人として紛れ込ませておきます。屋敷の中は、黒薔薇をメイドを兼ねさせて警備します。特に工場には近寄らせません」
「まあ、それしかないわな。では、明日、迎え入れるか」
夜になり、夕食は外でバーベキューをやらせてもらった。僕らとベティで。メイドさん達には下がってもらった。その方がベティは気を使わずに話をすることができるだろうと。
ジェシカとビビアンはこれまでのこと、特に文化祭のことなど話をしていた。
ベティはあの後、母親ともどもここに連れてこられたそうだ。母親の方は、それなりに顔が知られているので、工場内にあるキザクラ商会本部で働いてもらっているらしい。僕も後から「よろしく」と言われた。
ベティは、魔法の才能もあったことから、黒薔薇に入れられたらしい。しかしながら、黒薔薇は肉体派だ。どちらかというと。かなり訓練が辛いらしい。「私を連れて逃げて」とジェシカたちに懇願していた。
そうこうしていると、暗闇の中、訓練場に地響きが起こった。わかっている。こはるが着いたのだ。こはるは匂いを頼りにしてバーベキュー会場に辿り着いた。
「よくわかったな」
「この街で一番大きい建物を目指してきたら、いい匂いがしてきたからな。きっと妾に気づかせるためだったのだろう?」
「ああ、そうだ」
と言って、遠い目をしつつ、こはるに肉をすすめた。




