高等学園ー13
二学期が始まり、学園に通っていた。
仲間が一人減ったことにいつまでも落ち込んでいるわけにはいかなく、気を取り戻しつつあった。
ちみっこの穴を埋めたのはちみっこだった。こはるが高等学園について行きたがった。学校としては、生徒ではない者を学園に入れることに拒否感があったが、らいらい研で責任を持つことで許可が降りた。部室は自由に入れる。授業や実習は僕たちのそばでおとなしくしていること、と子供扱いだ。こはるは僕らよりよっぽどか年上だが、外見がそうなので仕方がない。
とはいえ、武術の実習では我慢できなかったのか、こはるは時々、ボールズと素手で試合をしていた。言うまでもなく、こはるの圧勝だが。
ドラゴン族は武器を使わないわけではなく、素手での戦闘が一番スピードが速く、直接的で、性に合っているらしい。武器を使うときは、槍やナイフを持って戦うことが多いとのこと。あの動きで、両手にナイフは恐ろしいな。先生はとりあえず放置している。ちゃんと授業に参加させてもらえるか、このまま放置されるかは、おいおいだろう。
何となく煮え切らないけど、それでも元に戻ろうとする皆の気持ちもあって、それなりに過ごしていた。それでも、何か思いがあったのか、リリィが部室で発言する。
「ねえ、今度、文化祭があるみたいなんだけど、またやらない?」
もちろん、バンドとアイドルパフォーマンスのことだろう。両手を広げてくるっと回っている。返事をするのはアンディ。
「そうだね。文化祭、このクラブで何かやろう。その一つ目としてパフォーマンスをするのはいいな。あとは何をしようか」
「どんなことをするのでしょうか、この学園の文化祭は」
「よし、聞きに行くか」
と、部室を出て、すぐ隣の部屋に入る。
「たのもー」
と、リリィ。生徒会の部屋はらいらい研の隣だ。
「……」
ガタガタガタ、っと、生徒会メンバーは、並んだ事務机の向こうがわに隠れる。そっと窓を開ける人もいる。一体何だと思っているんだ。
リリィがため息をついて要件を言う。
「来月、文化祭が開かれますよね。どんな催しを出せるのですか?」
と。
喧嘩を売られたわけではないことを察した生徒会メンバーはそろそろと出てきて、僕たちと向き合った。
「そんなことかね、警戒して損したじゃないか」
いや、質問に答えろ。
「大まかには、クラス単位、もしくはクラブ単位での研究発表や練習してきた成果発表とか、作った物を売る店、食事を出す店。そういったものを、教室を使ったり、テントを使ったりして行う。大きなイベントとしては、我々がグランドにステージを立てて、ステージを使うくらいの大きな見せ物、例えば演劇、そういったものをやることになっている。ちなみにだ」
メガネがキランとひかる。
「今年のゲストは、あのアイラちゃんだ!」
「何?」
とアンディ。
「よくやった、お前たち生徒会は見る目がある!」
とアンディが興奮してしまった。
「見てみろ、このブレスレットを。あの幻のイベントで買ったのだ!」
と、アンディは袖をまくる。それ、ずっとつけているのか?
「実は吾輩も」
と生徒会長も袖をめくり、見せ合っている。仲良いな。まあ、ロッテロッテを呼ぶのは無理だろうな。爽旋とか四妖精もダメだったかな?
「アイラちゃんは、ステージに立つのか?」
と聞くと、そうだとのこと。イベントの最後に出てもらうそうだ。それならばと。
「なあ、アイラちゃんの前座を二つやらせてくれないか?」
「ま、まさか、あのいかがわしい魔法を撃つのではないだろうな?」
撃たん。
「吾輩としては、あの横断幕を使った魔法についてデモンストレーションなどしてもらいたいのだが?」
それもしない。
「僕らは、アイラちゃんの前に、いわゆる、爽旋のようなバンドと、四妖精のようなパフォーマンスをしたいんだ」
「そうか、まあ、アイラちゃんの足を引っ張らないならいいぞ。絶対に観客を冷めさせるなよ」
と、出演についてOKをもらった。実際の学園祭の出し物に関して募集をかけるのは来週だと言っていたが、先に受け付けてもらった。
さて、一か月で形にするぞ。まあ、部室やキザクラ商会のスタジオで練習はしていたから、なんとかなるだろう。
こはるをベティの代わりにマリンバ隊に入れた。最初はジェシカもビビアンも戸惑っていたが、練習となると、こはるも真剣そのもので、頑張って曲を覚えていた。その甲斐があって、こはるもマリンバの楽しさがわかったようだ。
こはるとジェシカが一台のマリンバの高音と低音を担当し、ビビアンが一台を受け持つことになった。が、三人も考えていて、ポジションチェンジなどのパフォーマンスも挟むようだ。実際にやって見せてもらったが、なかなかにかっこよかった。本番に期待。
早くも文化祭。僕らは朝から出し物を見て回った。武器展や王国歴史展、アクセサリー販売に衣服販売などなど。僕らはステージの最後の方なので、のんびりしている。昼には屋台で串焼きなどを買って食べた。
「文化祭といえば何だろうね」
「焼きそばとかお好み焼きとか?」
「たこ焼きもイカ焼きもいいね」
「わたあめとかりんご飴は」
「夏ならかき氷もよかったな」
などと京子ちゃんと話している。
他のメンバーは気になったようで、「お好み焼き」ってなんだよ。っていうから、僕らは答えづらくて、
「まあ、好きなものを入れて焼くおかずの入ったぱんみたいなやつだよ」
と結構いい加減な説明をする。
「わかんないけど、来年はそれの屋台を出そうよ」
とか早くも来年に思いを馳せていく。
「とりあえず、今年を楽しんでからな」
とボールズがガッツポーズをするが、その手には串焼きが三本も握られている。
「妾ももっと食べたい」
とこはるが言うので、もう一度、串焼き屋に連れて行って
「何本食べる?」
と聞くと、
「ん」
といって、こはるは両手を開く。
「串焼き十本お願い」
と注文。串焼きは、袋に入れてもらって、こはるに渡した。
「僕はこはるちゃんとあそこに座って食べてから追いかけるよ」
といって、先を促す。
「わかったー」
といって歩き出すアンディたちとジェシカとビビアン。残りの四人は残った。
「色々まだ見るものはあるだろうに」
というと。京子ちゃんはこはるを挟んだ向こう側に、リリィは僕の横に座る。かなでとミカエルは立っている。気を遣わなくていいのに。
僕はさりげなくこはるの串焼きを一本取ると、一片の肉を外し、指で持って足元で振ってみる。すると、どこからか、マイヒメがやってきて咥えて持っていく。同じことをすると、コマチ、カゲツ、シュウゲツもやってきて肉を持って行った。
「ねえ、あの猫たち、どこからきたの?」
とリリィ。
「いつも一緒にいるよ?」
と返す。
「白いのはよく見るけど、他のは滅多に見ないよね」
「まあ、そうかもね」
僕は串焼きをもう二本買ってきて、リリィに渡す。
「何? 私、欲しそうに見えた?」
と串焼きにかじりつこうとするので、っていうか、一応、令嬢なんだからさ。食べ方ってものがあるでしょうに。
「後ろみて」
という。リリィが後ろを見ると、
「並んでる……」
と引き攣っていた。リリィは肉を小さくちぎりつつ、猫たちに配っていた。
「こはるちゃんも食べ終わったし、そろそろ行こうか。準備もあるしさ」
と、ステージのあるグランドに向かって歩いていく。ステージでは、魔法研が魔法のデモンストレーションを、武術研がいろんな武器を使った武術の型を披露していた。
さて、出番か。
キョロキョロとアイラちゃんを探すアンディを嗜め、皆で円陣を組む。初めは五人でのステージだが、全員で気合を入れるのが僕ら流。ここは、アンディに任せる。
「あのな、僕らはこの夏、ベティがいなくなってしまった。寂しかったし悲しかった。でもな、きっと会える、また会えるだろ。その時に、今とは違った自分を、成長した自分を自慢してやろう。今日楽しかったことも自慢しよう。で、また一緒にやるんだ。もしかしたら、ベティも頑張っていて、僕らが追いつけなくなっているかもしれない。そんなことがないように、僕らは僕らで頑張っていこう! ベティのために!」
「おー」
ジェシカとビビアンがうっすら涙を浮かべている。やっぱりアンディは上手いな。皆、前向きになった。
「こんにちわー、らいらい研ですー」
とリリィ。ミカエルの合図で演奏を始める。
「私達は去年の伝説ステージを見て憧れて、バンドをやってきました。まだまだ伝説にはかなわないけど、今日は、私達を知っている人も知らない人も楽しんでってねー」
王立学園の卒業イベントで僕らを見たであろう生徒は、今日はナプキンではなくタオルを持って振り回している。他にもタオルを振り回す生徒は多数。アイラちゃんの時に振るため、持ってきたのかもしれない。
手拍子を打っている生徒も手をつき上げている生徒もいる。みんなで一緒に一つのことをやることのなんて楽しいことか。そのうちまたベティも一緒にできるだろう。と、ステージを楽しんだ。
ついで、アイドルのパフォーマンスも楽しかった。かなでとリリィ、クララ、ケイトはちょっとでこぼこ感はあってもそれがまた個性になっていてとてもよかった。
ステップのきれはより良くなったようだった。
ああ、ペンライト。なんとか開発したい。暗いところでやりたい。
僕らのあとは、アイラちゃん。正直、圧巻だった。さすがはプロだ。バックバンドの演奏に迫力があったものの、それに負けない存在感を出すアイラちゃん。生徒たちが大勢集まってノリに乗っているところで、僕は見入っていた。まだまだ練習しなきゃな。って思っていたら、
「グレイス君はプロのギタリストになるわけじゃないでしょ。まだまだやることもやりたいこともあるんでしょ」
と京子ちゃん。わかっているな。
とはいえ、僕はこの前の母上との会話から、やりたいことをどこまでやっていいか、わからなくなっていた。京子ちゃんは話を続ける。
「みんなに使ってもらえる、喜んでもらえる、愛してもらえる、そんな技術を作るんでしょ?」
うん。そのとおりだ。だけど、僕はみんなのことを守りたい。守れるようにならないと。守れる技術も作らないと。と、思っていた。そのためになら、強くなってもいいのかもしれないな。妬まれても、恐れられても、それがローゼンシュタインの生き方なのだろうから。




