高等学園ー11
真夜中になる。
「グレイス、一人で行け。場所はわかっているんだろう?」
「わかりました。猫たちに先導してもらいます」
「うむ、周りを気にせず、まっすぐに行け」
僕は屋敷を出て歩いていく。五十メートルほど先に真っ黒なコマチがいて先導してくれている。闇夜で見えないけど。
探査魔法を使ってついて行く。おそらく、カゲツとシュウゲツもどこかにいるのだろう。
三十分ほど歩いて、王都の外壁近くにくる。
そこから細い路地に入ってさらに十分ほど歩いたところでコマチが足でカリカリと地面をかいて去っていく。
そこにはあまり綺麗とはいえない酒場があった。二階建ての建物だ。
さて、入るか、と気合を入れて入口の階段を一歩進んだところで、後ろから突風が吹く。
金髪の黒薔薇が僕を追い越す瞬間に、僕の顔に仮面をつける。
金髪はそのまま正面から店に突っ込んで行った。
また同時に、この建物のいろんなところからガラスの割れる音がした。中で悲鳴や罵声が聞こえたがすぐに聞こえなくなった。
「地下へ行く階段を見つけました」
とミレーヌの声が母上であろう黒薔薇に伝える。
「こいつらをまとめておけ。動いたら殺していい」
そう言って、母上は歩き出す。僕に「来い」と命じて。
僕は母上について行く。母上の前に四人の黒薔薇が先行する。
階段を降りたところに石でできた廊下と壁が現れ、左右にドアのない部屋があった。
もちろん、僕らの襲撃はばれているので、僕は慎重にと思っていると、黒薔薇は二名ずつ遠慮のかけらすら見せずに左右の部屋に飛び込んだ。
罵声と争いの音が少しだけした後、すぐに静かになった。
左に入った黒薔薇の一人が母上と僕を呼ぶ。右に入った黒薔薇二人も、気を失った男を二人連れてやってくる。
左の部屋にはテーブルが二つあり、その脇に男が二人倒れていた。
一人は服装から貴族っぽいちょっと小太りである。もう一人はしっかりした服を着ていたが、貴族っぽくはなかった。右の部屋の二人は盗賊風であった。
左の部屋の奥には檻があり、その中にベティが倒れていた。ベティを助けに行こうとした僕を母上が止める。「まだだ」と。
黒薔薇は盗賊風の二人を縛り上げた後、貴族風と商人風の男を二人で立たせる。その際、意識を戻すことも忘れない。気づいた男たちは騒ぎ出す。
「お前たちはなんなんだ」
と。
だが、母上はそんなことは気にしない。黒薔薇二人に押さえつけられて動けない貴族風の男に無言で拳を叩き込む。それを見て、商人風の男は黙り込む。
「さて、お前たち、知っていることを全て書け」
とテーブルに紙とペンを用意させる。
殴られた貴族風の男は叫ぶ。
「ふざけるな、お前たちが突然押し入った賊だろうが。こんなことしてただで済むと思っているのか?」
母上は相手の言うことを聞かない。
「お前の利き手はどっちだ?」
男は返事を躊躇う。なんの質問だと。
その瞬間、男の左手首から先が飛んだ。
「うぎゃー、手が」
と叫ぶが、すぐに黒薔薇がヒールをかける。
血がとまる程度だ。痛みは止まらないだろう。
「で、書くのか?」
と言う問いに、また間があったせいか、男の腕がさらに五センチ飛ぶ。
「うわー」
と叫ぶがすぐにヒールで止血される。
「書くのか?」
と商人風の男に目を向けると。商人風の男は全力で頷き、テーブルについた。
「今回の関係者を全員書け」
商人風の男はペンを走らせている。
「さて、お前はもうちょっと腕を短くするか?」
という脅しに、
「書く」
と答える。しかしながら、腕がさらに五センチ短くなる。
「ガァー」
と喚くが、またもやヒールで止血される。
「言葉使いがなってないのではないか? 本気で書く気があるのか?」
と言って、問答無用で今度は肘を切ってしまう。「ヒール」
「すべて書きます。書かせてください」
と言うので、テーブルにつかせて書かせる。
「人数が少ない方を少ない数分だけ腕を切るからな」
と母上。
書き終わった二枚の紙を見くらべ、片方にしか書かれていない名前について聞きとっていく。母上はこれで終わらない。もう一枚紙をだす。
「さて、一回戦は」
と言って商人風の男を剣で指し、
「お前の勝ちだ」
商人風の男があからさまにホッとする。貴族風の男は真っ青な顔をして震えている。もう血がなくなっているのもあるのだろう。
「ここで、お前の腕を七センチ切らないといけないところだが、挽回のチャンスをやろう。ワイバーンの子供を攫っている奴のことを知っているだけ書け」
と要求する。二人とも首を縦にふり、急いで書き始める。母上は同じように確認していく。
「まあ、いいだろう」
と言う言葉に二人ともホッとしている。
「では立て」
と言って二人を立たせる。もう黒薔薇が抑えなくても抵抗するつもりはなさそうだ。そこへ地上階にいた店主やら客やらがこの部屋に連れ込まれる。
「グレイス、あの子を連れてこい。なるべく起こすな」
僕は檻を開けて中に入り、ベティを抱き抱える。いわゆるお姫様抱っこだが、起きる気配はない。
母上と僕が部屋を出て、貴族風の男、商人風の男が黒薔薇に縛られて出てくる。逆に黒薔薇が数名入った。階段を上がっていくと、後ろから魔法を発動させた声が聞こえた。
「「「ファイヤーボール」」」
絶叫が響くと同時に、黒薔薇が退避してくる。僕らはそのままこの酒場を後にする。
酒場の前には馬車が二台待っていた。真っ黒な馬車だ。
一台に母上と僕とベティ、ミレーヌと思われる黒薔薇が乗る。貴族風と商人風の男は後ろの馬車に数名の黒薔薇と乗る。
馬車が動き出した瞬間、酒場が火に包まれる。あ、左右の建物も燃えるんじゃ? と思ったが、母上は気にした様子もない。
「母上、これからどこへいくのですか?」
と聞くと、
「お姫様を助け出したんだ、うちに送り届けるさ」
と言う。ま、その通りだが。
カールソン子爵邸に着く。が、母上は、門番の抑止も気にせず入っていく。その後から僕もベティを抱き抱えてついていく。さらに、後ろから黒薔薇と縛られた男二人がついてくる。
「カールソン子爵、開けろ」
と玄関をどんどんとする母上。これまでのことを考えるとこれでも大人しいと感じる。屋敷の中でドタドタ音がして、玄関のドアが開く。
「何事でございましょう」
と執事っぽい爺さんが聞いてくる。
「何事とはどういう言い草だ。御息女をお連れしたぞ」
と言って、僕の方を指さす。
「おおー、お嬢様」
と執事は奥へ走っていく。
「ご主人様、お嬢様がお戻りになられました」
と叫びながら。
母上は気にせず玄関ホールに入っていく。皆も続いて入っていく。すると、二階から走ってくる音。
「ベティ、ベティ!」
これはベティの母親かな。ベティの母親ばベティを見つけてまっすぐに僕の方へ駆けつける。そして、僕はベティを渡す。その後からカールソン子爵が歩いてやってくる。
「奥方、御息女を連れて部屋へ戻って下さるか?」
と母上が凄んだ声でいう。
「わかりました」
と子爵夫人は怯えた様子でベティを連れて二階へ戻っていく。
「こんな夜分になんだ?」
とカールソン子爵。
「何、御息女を見つけ助け出したので、早く顔が見たかろうと、夜中にも関わらず駆けつけたのみ。気に入らなかったか?」
「それにしては、なかなかに物騒ではないか? 仮面も取ったらどうだ」
母上は無視だ。
「お前は、ローゼンシュタインに牙を向いたな? その自覚はあるのだろう?」
「なんのことかわからんな、何を言っているのか説明してくれ、明日にでもな」
「そういうわけにもいかん、あいつが失血死するかもしれんのでな」
と貴族風の男を指す。
「あの男がなんだと言うのだ? 知らん男だぞ? 私には関係あるまい」
「そうかそうか。それなら話が早い」
と言った瞬間に、カールソンの膝に剣が刺さる。
「うがぁ、何をする」
「我ら、ローゼンシュタインに牙を向いたな?」
もう一度、母上は聞く。カールソン子爵は腰からナイフを取り出し、「貴様……」と言った瞬間、ナイフと手が手首から離れる。
「うわっっっl」
「ヒール」
後ろに回った黒薔薇が止血をする。
「もう一度だけ聞くぞ、ローゼンシュタインに牙を向いたな」
「貴様らが悪いのだ。何が中立だ。貴様らがアレックスの野郎に何かしたのだろう? そうでなければ、あいつが王位をつくことなどなかったのだ。いったい何をした!」
「何もしていないぞ? その前の国王にはお願い事をしたがな。それを聞いてもらうためにちょっとしたプレゼントをしただけだ?」
「願いだと? 貴様らが、アレックスを王位につけたのか?」
「いや、違うぞ、うちの子供が婚約したい相手がいてな、それを願っただけだ」
と言って笑う。
こんな時なのに、僕はちょっとだけ恥ずかしい。
「じゃあ、何を送ったんだ? そのせいでアレックスが王位についたのか?」
「まあ、教えてやろう」
と言って、母上はカールソン子爵の右膝を撃ち抜いた。ファイアバレットで。ファイアバレットは膝を貫通し、子爵邸の床に穴を開ける。しかも、絨毯が燃え始める。
「これをな、前々国王に願いを聞いてもらう代わりにプレゼントした。いたく喜んでくれたぞ」
カールソン子爵は目を見開いて固まっている。
「なんだそれは、なんなんだ?」
と、痛みを堪えながら、
「そんなものを、そんなものをローゼンシュタインは持っているのか? 作っているのか? やはり危険だ、そんなものを作る奴は、そんなものを持っている奴は消さねばならんのだ」
子爵は怒りで顔を真っ赤に染め、
「だから、貴様らの領が危険だと言うことを住民にわからせるため、ワイバーンをも使って襲わせたのだ。私たちは間違っていない!」
と叫び続ける。さらに
「我々の安寧のためにも、貴様らは滅びなければならないのだ!」
と言った瞬間、母上は、カールソン子爵の胸を撃ち抜いた。カールソン子爵は崩れ落ちた。
「悪いね、まだ今夜は忙しいんだ」
と母上はいい、執事に向かう。
「奥方や御息女、従業員たちを逃がせ」
と執事に言う。執事は急いで屋敷中を駆け回る。とはいえ、多くの従業員が騒ぎに起きてきていた。
「さて」
と言って、貴族風と商人風の男の胸を撃ち抜く母上。黒薔薇は、カールソン子爵の上に二人を重ね、ファイアボールで焼いていく。これだけ火がつけば、屋敷ももたないだろう。
「グレイス、帰るぞ。ミレーヌ、あとの処理は任せた」
僕は母上についていく。二人で馬車に乗り込むと馬車は動き出し、ローゼンシュタイン邸に向かう。




