転生ー1
目を開ける。
今まで眠っていたみたいだ。
目に入るのは知らない天井。
またはっきり見える。メガネはかけていない。
それに、すっと僕の視界の端を遮るひとつの顔。メイドさんかな?
プリムをつけた黒髪のお姉さん。二十代そこそこかな。目があった。
僕は声をかけようとするも、「あー」と「うー」とか言えない。っていうか、メイドさんだよ。生メイド、っていうか、本物のメイドさん。ちょっと感動。
メイドさん、いてくれてありがとう。
メイドさんは視線を前方に向けて何かを言っている。
う、言葉がわからない。
そりゃそうか。
しばらくすると、もう一人女性がやってくる。
声が女性だ。
歩くたびに硬いものが当たる音がする。松葉杖とかかな? ってことはおばあちゃんかな?
僕を覗き込んだもう一人の女性。
四十歳くらいかな、金髪だけど、白髪がいっぱい混ざっている感じ。
目の下にクマもあるし、シワも出ている。でも、ものすごく優しい顔を向けてくる。
女性にそんなこと思うのは失礼かもだけど、ちょっとやつれた感じかな。
何か声をかけてくれているけど、言葉がわからないな。
メイドさんと女性が何やら会話をすると、女性は元の方へ戻っていく。
で、メイドさんは僕を抱え上げてついていく。
女性はベッドの端に座っていた。その横にはやっぱり松葉杖。足が悪いのだろうか。
メイドさんは女性に僕を預ける。
女性は優しい笑顔で僕に話しかける。
しばらく一方的に話しかけられ、僕も適当に「あー、うー」って言っていると、女性はさらに嬉しそう。
きっとこの人がおかあちゃんなのかな。
すると、おかあちゃん(仮)は徐に胸をはだけた。
メイドさんは濡れタオルで胸を拭いた後、母乳が出ることを確認。
おかあちゃん(仮)は僕の顔をおっぱいに近づける。っていうか、押し付ける。
えー、確かに僕は赤ちゃんになっちゃったかもだけど、八十歳のおじいちゃんだった。それが四十歳くらいの女性のおっぱいに吸い付くのかー。
と、考えながらしばらく抵抗していたけど、お腹が空くのはいやだし、成長しなくても困る。
この世界に粉ミルクはあるのか? と思っていたら、おかあちゃん(仮)がちょっと悲しそうな顔をしてきた。
ごめん、嫌なわけじゃないだ。好きかって言われると困るけど。
仕方ない。いただきます。
こんな味だったかな。なんて。前世の僕は母乳を飲まなかったらしいので、初めての味だ。
しばらく飲んでいるとお腹が膨れてきた。
口を離すと、おかあちゃん(仮)は嬉しそうに僕に話しかけ、僕をメイドさんに渡す。メイドさんは僕の頭を支えつつ縦抱っこをして背中をトントンと。
あ、「げふっ」っと。失礼いたしました。
メイドさんは満足したのか、僕を元のベッド、これはベビーベッドだな、に寝かせる。
そして、おかあちゃん(仮)のところへもどって濡れタオルで胸を拭き、一旦部屋を出ていく。
おかあちゃん(仮)は僕に声をかけて、ベッドに横になるようだ。
きっと、この人はおかあちゃんなのだろう。よし、(仮)はとろう。
僕は周りを見回す。
っていっても、首がまだ動かないから目だけで。
部屋は天井からしか想像できないけど、結構広いな。八畳が二つくらい、つまり十六畳くらいかな。
天井に蛍光灯はないか。壁は派手ではないけど白地にバラが描かれている壁紙。
紙? まあいいや。
てんてんとロウソク立てが壁についている。
メイドが出て行った方が廊下か。で、反対が窓。カーテンから漏れる光から今は夜ではない。
でも、おかあちゃんが窓際のベッドで寝ている。
体が弱いのか。それとも、僕を産んだせいで?
などと考えていると、やばい。きたわ。
忘れていたけど僕は赤ちゃんだ。お腹がもぞもぞする。
前も後ろも。これ、自分で我慢できないやつかな。
そうだ、魔力で制御できないか? ってそんなことしても体に悪いだけか。
っていうか、こんなタイミングでよく魔力のことを思い出した、僕。
だけど、出るものは出てしまうらしい。一旦魔力のことは置いておいて、泣いておこう。
「あんぎゃー」
おかあちゃんが起き出そうとすると同時に、ドアからメイドが入ってくる。
僕を見てちょっとだけ眉を顰めるけど、僕を脱がせていく。
この世界はまあ、布おむつだよなー。
二十代のメイドさんに下の世話をされて複雑な気分だけど、僕には何もすることができない。
あぁ、精神をクリーニングされなかったのはよかったのか? それとも、こんな恥ずかしい思いをするなら、クリーニングされた方がよかったのか。クリーニングにはそういった理由もあるのかもしれないな。
まあ、いろいろと考えることはあったけど、何もできない僕は、一日をこんな感じで過ごした。
おかあちゃんは食事もベッドでとっているらしい。やっぱり体が悪いのだろうか。
翌日。この日も同じように過ごす。
そういえば、京子ちゃんやかなで、ミカエルはどこへいったかな。無事に生まれ変われただろうか。
今は自分で動けないから探しにも行けないけど、近くにいるんだろうか。遠くかな。
記憶のクリーニングがされていないので、いつかは会うことができるだろう。なかなか会えなかったら探しに行こう。
あ、そうそう、とりあえず、三人のことは置いておく。
昨日のうんちのせいですっかり忘れていたことがある。
こっちの世界に来る前に聞けばよかったんだけど、この世界は魔法が使えるのかな?
魔法はイメージだって言っていたような。
でも、僕はまだ魔法を見たことがない。
おかあちゃんもメイドさんたちも使っていない。
よく読んだラノベの世界では、うんちなんてしても、クリーンウォッシュの魔法で一発なのに、それをしてないってことは、そんな魔法がないか、メイドが使えないか、魔法がそもそも使えないか、かな?
魔力は多かれ少なかれみんな持っているとしても、どうやって魔法を使ったらいいかわからないし。
とりあえずは、魔法を使うことを考えることをやめようかな。
使っているのを見てからか、教えてもらえるのを待ってからかな。
でもまあさてと。前世で毎晩やっていたことをやる。動けないし、暇だしね。
僕は目を瞑って集中する。眉毛と眉毛の間くらいのところに意識を集中する。で、魔力を感じる。というか、感じようとする。前世では魔力を感じることができなかったから、エア魔力操作だった。
子供の頃から八十歳まで、時々忘れることはあったけど、ずっとやっていた。
そこから魔力を体の中央に集めていき、身体中をぐるぐると回していく。しつこいようだけど、エアである。妄想である。そんな気がすると思い込んでいるだけである。
今考えると、前世の僕は、八十歳になっても中二病だったってことだ。かなり痛い。ま、自覚していたから問題なし。
で、今世だけど。
あれ、なんだろうこの感じ。
眉間の間に、それから体の中で温かい何かが集まってきているような気がする。そんな感じがする。
せっかくなので、それを意識しながら、体の中を動かしてみる。
腕、体また腕、足、体また足。うん。なんだこれ。これが魔力なのかな?
ちょっとイメージを変えてみる。温かいその何かを凝集させる。密度を高める感じに意識する。かなり小さくなった。今度は指の先まで動かしてみる。本当になんだろう。新感覚。これが魔力かどうかはちょっと後日確認。今はそう思っておこう。
次に、魔力って見えるのかな?
僕はちょっと目に魔力を意識してみる。
あれ、僕が光に包まれていることがわかる。
おかあちゃんも見てみる。おかあちゃんは五センチくらいの光の層で覆われている。しかも密度が濃いのか明るい。
僕とおかあちゃんの違いは何かなあ。と思って、僕を包む光に意識を向けてみる。
それを僕の方へ集める感じ。
僕を包んでいた光の層が薄くなるにつれて強く光っていく。おかあちゃんのように五センチくらいまでにすると、もう眩しくなった。
これ、なんとかならないかな。って思ったけど、まあ目に魔力を意識することをやめたら見えなくなった。簡単なことだった。
じゃあ、目を瞑った状態でも感じるかな? って思っていたら、意外にも感じることができた。
さて、もう一度目に魔力を意識して光を見てみる。
今度は広げてみる。また薄くする。これも自在か。
もしこれが魔力なら、広げてみたら他の人は触ったら気づくのかな? この世界では、人の魔力を感じるのかな? なんて考えていた。が、もっと大事なことを思い出した。
確か、一歳までは魔力で体を変えられる。
頭の回転を速くする? 身体能力アップ? 敏捷性? 持久力? 力? あ、大事なことを。かっこいい、現代っ子体型を忘れてはいけない。小顔で手足が長くてスマートな体型を。
このままでは、おかあちゃんもメイドさんもやってくれる気配はなし。
よし、一歳になるまでは自分で続けよう。魔力を感じてぐるぐるぐるぐる。理想の自分を想像してぐるぐるぐるぐる。
時々メイドさんがやってくるのでその時は中止。
メイドさんは僕をおかあちゃんまで連れて行っておっぱいを飲ませたり、下の世話をしてくれる。
おかあちゃんのご飯や体を拭いたりのお世話もしている。
僕もたらいにはったお湯で体を洗ってもらう。今日はもうおやすみなさいかな。
最後におかあちゃんからおっぱいをもらい、おでこにチュッってしてもらって、寝る。




