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王立学園ー13

 翌日はキザクラ商会のスタジオ前に全員で集合した。

 練習スタジオに入る。

 そこにはドラムやピアノ、ウッドベースのほか、三本のギターが立てかけてある。リリィとボールズは自分のギターを待ち遠しく思っていたのか飛びついた。が、その裏面を見て固まった。

 「リゼ」のサインを見つけたのだろう。

 よかったねーと、僕は微笑ましく、自分のギターの準備をしながら見ていると、解凍された二人が僕のところへ飛んできた。ギターを持って。

 ギターを持って走るのはやめよう。と注意をすると、ギターを置きに戻って、また戻ってきた。


「グレイス! あのギターにリゼさんのサインが入っているんだけど?」


 リリィが言うと、ボールズはうんうん、と顔を動かすだけだ。


「昨日、メンテという言い訳をして預かって、リゼさんにサインを貰っといた」


 と言った瞬間に、リリィに抱きつかれた。

 うわっ、ギター持っているんだって。危ないじゃん。

 と意外と冷静な僕に対して、目を点にする京子ちゃんとかなで。僕はリリィの背中をタップして引き剥がす。


「ギターを持っている人に抱きついてはいけません」


 と注意する。

 また「ごめん」とリリィ。


「だってさ、だって、リゼさんのサインだよ、一生ものだよ、これ。ギターってさ、裏側がお腹すれるじゃん。あのサイン消えちゃわない?」

「うんうん」


 とボールズ。ボールズ、お前もなんか言え。

 でもまあそうか。でも表側っていうのも完全に飾り物になっちゃうし。と、思ったんだけどな。

 どうしようかな。透明なシールとかあったかな、と思っていると、二人は頷きあってスタジオを飛び出した。

 意外と気が合うんじゃない? あの二人。

 帰ってきた二人は、違うギターを抱えていた。流石に同じ色にはしなかったようだが、その手にでたか。さすがセレブだ。サイン入りのギターは永久に保存するつもりだろう。まあ、言っておく。


「毎度あり」


 と。

 リリィとボールズは感謝していいのか怒っていいのか複雑な表情をしていたが、無視しておく。


 練習は基本的にアイドルの方を中心に行った。そもそも僕ら四人はバンドの方はなんとかなる。そっちはリリィ次第。

 となると、誰も経験のないアイドルのダンスやフォーメーション、アンディとボールズの楽器。そっちが重要だ。バンドの練習だと、四人が暇をするしね。


 数日間、練習を続ける。まずは楽器に慣れてもらうこと、教則本を持ってきて勉強する。

 ところが、嬉しい誤算が。

 爽旋のメンバーが時々教えてくれたのだ。彼女らは元々僕らが教えたのだが、それを職業にしてしまったせいか、立場が逆になってしまった。

 うーん、悔しい。とはいえ、僕も上手くなりたいので、一緒に教わる。

 そうこうしていると、アイラちゃんや四妖精もダンスやフォーメーション、歌の掛け合いとかハモリ、また、観客への見せ方なんかも教えてくれた。

 うちのメンバーは初めは大興奮だったが、教えてもらえることが嬉しかったのだろうか、とにかくうまくなろうと頑張った。

 途中で、ちょっとアイドル音楽をするのに音が寂しいな、ということになり、リリィが三人の女の子を連れてきた。マリンバ隊の結成である。

 この子達もはじめは爽旋に興奮をしていたが、やっぱり熱心に練習をした。ちなみに、ジェシカ、ベティ、ビビアンである。

 彼女らもマリンバをお買い上げくださり、家に持って帰った。もちろん、爽旋のサイン入りである。


 こうして学園生活とその後のバンド練習に勤しんで数か月が経ち、冬になった。後三か月で卒業である。


「なあ、グレイス」


 アンディだ。


「学園卒業後は高等学園に進学するんだろ?」


 と。高等学園はさらに三年間通うことになる。ちなみに、十五歳になるとこの世界では大人扱い。早いな。

 高等学園は専門科制になっており、武術、魔術、政治と別れている。僕としては、どれも興味ないな。と思っていた。

 それなら、研究室にこもって魔法陣の研究をしていた方がいい。前国王など見ていると、冒険者も面白そうだなとも思うしね。


「考えていなかったな」


 と答えると、「え」という顔。ちなみに京子ちゃんたちを見ると、


「私たちもどっちでもいいと思っているけどね。高等学園に行って何かを学ぶ目的でもあればね」


 と言う。

 そうなんだよね。僕と京子ちゃんとかなでは婚約者同志だし、ミカエルは京子ちゃんの従者希望だしね。

 それに、すでに十二分に稼いでしまっている。旅行にいったりして暮らしてもいい。


「でも、なんで?」


 と聞くと、


「来月入学試験じゃないか」


 と。

 アンディは続けて、


「じゃあ、行かないとして何をするんだ?」


 と聞いてくるので


「それこそ、何にも決めてないよ。ソフィとフランと婚約するために頑張って、で、アイドルを作りたくて頑張って、もうだいぶ頑張ったな。でも、何かしないと人生つまらないだろうから、その何かを探すかな」

「それだったら、高等学園に通ういながらでも見つけられるんじゃないのか?」

「そ、そうよ」


 とリリィが参戦する。


「何かやりたいことを一緒に探してあげてもいいわよ」


 ツンデレキャラだっけ?


「ねえ、一緒に高等学園へ行きましょうよ」


 と、リリィが押してくる。


「とりあえず、試験だけ受けておけ。願書は来週までだ、まだ間に合う」


 と。ふと、シクシク泣く声が聞こえてくる。ジェシカたち三人だ。あ、クララとケイトもつられちゃったじゃん。

 なんで? って聞くと、


「学園生活はそれなりに過ごしてきたつもりだったんです。でも、この三か月はものすごく充実していて、こんなに楽しい人生を送れていることがとても幸せだったんです。でも、それが後三か月しか続かないなんて」


 京子ちゃんもかなでも目元を拭いている。


「ソフィやフランは僕に付き合う必要はないんだよ」


 というと。


「私はどこまでもグレイス様についていきます」


 とブレないかなで。

 京子ちゃんも


「私もグレイス君と一緒にいるよ」


 だって。まあ、ミカエルは相変わらず、


「私はソフィ様と共に」


 と。


 ぶっちゃけ言わせていただくと、ここまで悩んだ姿を見せてしまった以上、「行きたい」って言いづらくなってしまった。

 高等学園に行ってやりたいことを探すのもありだろう。でも行かなくても何も見つからないかもしれない。行っても見つからないかもしれないし、わかんないよ。

 なんてポツリと言ってしまった。すると。リリィが僕に抱きついた。


「私は、私はあのクーリエの婚約者にされて、身も心もあれに捧げようと頑張ってきた。でもいつまで経っても距離が空くばっかり、そんな虚しい月日がずっと続いてきた。あの四人でいても面白いことなんて何もなかった。頑張っても何も報われなかった。私はね、この五年以上、何にもなかったの、何も得られなかったの、そして、何もかも失ったの。でもね。最後の最後に見つけたんだよ、私、こんなに一緒にいて嬉しい一緒にいて楽しい一緒にいたいって思える、そんな友達を見つけたの。ねえ、グレイスは見つけられなかったの? この六年間、学園で何も見つけられなかったの?」


 って、泣き出しちゃった。もう、声にならない。けど、リリィは声を振り絞ってつづける。


「だから、だから、たとえ、この学園で、何も、見つけられなくても、見つけられなかったとしてもいい。私が、私が一緒に探してあげるから、お願い、一緒に高等学園に行こう! ね、じゃなきゃ、私も高等学園には行かない。お願い、私もグレイスが行くところに連れてって」


 って、ついに泣き崩れてしまった。

 僕に抱きついたまま泣いているリリィを京子ちゃんもかなでも咎めたりしない。むしろ顔を逸らして涙を拭いている。女性陣はみんな泣いているようだ。

 僕は男性陣に視線を向けると、やれやれってしている。ミカエルは我関せずだし。


「リリィありがとう。僕もリリィとこうやって放課後に練習頑張ったりするのもたわいのない話をするのも楽しかった。この楽しい時間は、みんなが、リリィがくれたものだったんだね。気づいたよ。気づかせてくれてありがとう。僕もいっぱい見つけていたんだね」


 と。

 リリィは黙って聞いている。なので僕は続ける。


「入学試験、受けてみるよ。だからさ、リリィお願い。僕に入学試験の勉強を教えてくれないか?」


 そう言って肩をぽんぽんと叩く。

 すると、リリィはちょっと震えた後、顔をまだ僕の胸に埋めたまま、


「グレイスが私に勉強教えて、私の成績が結構やばいの知っているでしょ」


 だんだん声に力が戻ってくる。


「グレイス、あなた、私のおかげで見つけたって言ったわね。お返しに私の勉強を教えなさい! いいわね!」

「えー」


 これが、デレツンか。逆じゃないか。誰が萌えるんだこれ。

 というか、リリィってできる子キャラだと思っていたわ。


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