王立学園ー4
「帰ろうか」
と門に向かって四人で学園の庭を歩く。すると、昨日と同じベンチに座る女の子が一人。リリィだ。
「誰かと待ち合わせ?」
って京子ちゃん。
「ええ、皆さんを、正しくは、皆さんと猫ちゃん達を」
と微笑んでいる。
「マイヒメ、みんなを呼んで」
「にゃーん」
とマイヒメが鳴くと四匹が集まる。
リリィはマイヒメを抱っこし、撫でる。ひとしきり撫でるとコマチを。ついでカゲツとシュウゲツも撫でていく。
「ああ、可愛いかっこいいですわ。うちにもこんな子が欲しいです」
「カルバリー家では猫は飼われないのですか?」
「ええ、どこでもらったりどこで拾ったりしていいかわからなくて、お父様にも相談すらできていません」
うちの子たちはあげられないからな。
「そうですね、いつかピッタリ合う子が見つかりますよ」
と、言っておく。リリィはシュウゲツを撫でながら、ふふふ、と笑っている。
「皆さんは明日はどうなされるのですか?」
明日は休みだ。曜日の都合で。
「僕らか。特に決めてないけどね、リリィは?」
「私はクーリエ様にお誘いを頂いておりまして。お伺いする予定です」
「そうなんだね、婚約者がいると大変だね。自分の時間を作れるのかな」
「ふふふ、婚約者が二名もいらっしゃるグレイス様のお言葉とは」
と笑われる。京子ちゃんとかなでは頬を染めている。
「そうだね。婚約者とはいつも一緒にいたいよね」
と言うと、リリィはちょっと苦い顔をした。そう見ているとと、笑顔を作って、
「そうですわね。それでは行きます。ご機嫌よう」
と言って帰ってリリィは行った。
休みだ。
何をするでもなく、キザクラ商会の件はまあ、ラノたちに任せておけばいいし。
僕ら四人は春の王都を散策する。とはいえ、だだっ広い。よって一人でというのも、どうかと散歩と京子ちゃん達を誘っていた。
王都は真ん中に王宮、その周りに行政府、ついて、貴族街がある。で、学園等の施設がある公共エリア、商業エリアがあって、最外層には市民の住居エリアと市民向けの商業エリア、あと、外によくいく冒険者や商人たちが利用するギルドや宿などがあるエリアがある。
これらがドーナツ状に配置されている。各層の間には塀があるが、きちんと区切られているわけではない。道は放射状に何本も走っている。道には塀はない。門もない。門番というか衛兵はいるけど。
それに、円状にも道が走っていて、各交差点は直角になって街は切り分けたバームクーヘンのようなブロック状だ。特に南北に走る道は幅が百メートルもあり、その左右には大型店舗が並んでいる。学園もこの通り沿いにある。
この通りを貴族街から外に向かってウィンドウショッピングをしながら下っていく。後ろからついてくるのは四人のメイドとマイヒメ。
もうだいぶこの世界の服装にも慣れたが、ああしたものが欲しいとか、こうしたデザインがいいとか、京子ちゃんとかなでは話をしている。そのうち前世風の服を作ったりするかも。
意外と騎士団が着ている騎士服も前世の軍隊風にしたほうがいいのかもしれないな。今世の世界の方が中二病の僕としては好みだけど。
好みにこだわって商会のスーツは作ったけど、どの世界もメイド服はこうなんだな、とついてくるメイドをチラ見した。
だいぶ外周部に近づいたところで露店が増えてくる。この通りは広いせいか、見通しがよく外周部にきてもかなり治安がいい。こんなところでスリやひったくりをしても目立って仕方ない。露店ではいい匂いが漂っているが、我慢しておく。ご飯が食べられなくなると困るしね。
メイドさんは気を遣ってフルーツを買ってくれる。それを齧りながらウィンドウショッピングを続ける。
冒険者ギルドが近くなってきたところで大きな武器商店が目に入る。昨日、武器をつかった授業をしたので、ちょっと気になって入ってみることにする。まあ、僕らは領都の鍛治工場でいいものを作ってくれるので、買うことはない。
しかしながら、武器屋を気にしているのが二人、意外にも京子ちゃんとかなで。二人は、槍が陳列された一角を見て、ため息をついている。まあ、わかっている。薙刀と鎌がないのだ。残念がっている二人に声をかける。
「二人とも、鎌はこの世界にもあるけどかなりレアなんでしょ? 薙刀はないよ。僕らはまだ六歳、もうすぐ七歳だし、メイドさんたちやマイヒメたちが守ってくれるから、武器は必要ないだろう。それに、体が出来上がってからでもいいんじゃない?」
「そりゃそうだけどさ。グレイス君だって刀が欲しいでしょ?」
「うん。そうなんだけど、その時にはうちの工場で作ってもらおうかな、と」
話をしていると、
「ききづてならないな」
と奥からドワーフの店主が出てくる。
「確かに鎌は使う奴がいないから置いていないし、ナギナタとかカタナが何かわからないが、うちの店で作れないとでも?」
「あ、そういう意味じゃなく、それに、僕らまだ子供だからいらないしね」
と、何を子供相手にムキになってる? という意味を込める。
「だが、学校で武器の扱いも習うんだろう? 自習はしないのか? ちゃんと習ったことは復習しないとダメじゃないか」
と、説教口調かな? 度がすぎるとメイドが出てくるぞ?
「とにかく、うちの店は王都で一番なんだ、お前がどこの貴族か知らないが、お前の故郷でここの品質以上のものを作れるのか?」
と、お前はどこの貴族なんだ、とまで聞いてくる。
「ローゼンシュタインです……」
と答えると、ドワーフの店主は固まる。
「まさか、ガンツの兄貴か?」
と。確かうちの工場長がそんな名前だった。しかも、いつになるかはわからないが、キザクラ商会へ移籍し、王都にきてもらおうと思っていた。木材加工工場の工場長と一緒に。二人には、僕の商品開発に付き合ってもらう予定だ。僕は学園のせいでこっちにいることの方が多くなるのだから仕方がない。
僕は首を傾げていると、
「わしはレンツ、ガンツの弟弟子だ。そりゃ兄貴なら、いい武器を作るだろうな」
と。もちろん騎士団の武器を担当しているが、魔道具も作っている。
「で、だな、本題に戻すが、ナギナタとかカタナがどんな武器かわからないが、教えてくれたら、作ってあげてもいいんだからな」
と。あれ、うちの工場長が兄弟子だと分かったからか、それとも、単にツンデレ? ドワーフのツンデレなんて誰得だよ。仕方ない、注文するか、かなでも鎌が欲しそうだし、それに自習が大事なのは確かだ。
「じゃあ、お願いしてもいいかな」
六歳時の言葉遣いじゃないな、今更だけど。
「素材は持ち込みでもいい?」
武器を作る鋼などはこちらでなるべきいいものを用意したい。ドワーフを信用していないわけではないが、魔法陣で作れば純粋なものが作れる。
「まあいい、今は素材不足なんだ。金属の鉱石をどこぞの貴族が集めていてな」
あ、コンロのせいかな? ごめんね。ということで、僕と京子ちゃん、かなでは理想の形を指定していく。で、長さや大きさはタンツと相談して振りやすいサイズにする。
「ミハエルは?」
とミカエルに聞くと、
「私は、こだわりがありませんので、普通の片手剣と盾があればいいです。盾は防具商店でしょうか」
「どうせなら剣と盾はセットにしたほうがいいから、うちでも作るぞ。じゃあ、片手剣と盾な」
とこちらもサイズを決めていく。
「じゃあ、今度素材を届けさせるよ。納品先と請求先はキザクラ商店でお願い」
あとでラノに言っておこう。
「キザクラ?」
と聞いてくるので、
「ついこの間、商業ギルドに登録したばかりだから、そっちで聞いてみてね」
と言っておく。僕もどこに店を構えたかよくわかっていない。
「わかった。じゃあ、素材が届き次第作るぞ。素材もその商会から届くんだな?」
僕は頷いておく。手付が欲しかったら商会に言ってと言っておく。メイドにもそう商会に伝えておくようお願いする。注文を終えて店を出る。
いつ頃できるかな、なんて考えながら歩いていると、だいぶ王都の周縁までやってきた。
ここまでくると、かなり庶民的だ。僕らの方が場違いだ。今度こっちにくるときは変装が必要だな。と思っていると、
「待てー、ドロボー」
という声が聞こえてきた。思わず身構えるが、周りの人たちはそう気にしたような雰囲気はない。街を守る衛士たちも、身構えるが、確認した後は緊張を解いている。僕は声のする方を見ていると、犯人が出てきた。
速い。あれは、魚を咥えた猫だ。
うーん。僕はその光景を微笑ましく思う。が、盗みは盗みだ。とはいえ、猫のすることだし、衛士も眺めるだけ。マイヒメや、隠れているであろうコマチたちも動く様子はない。なので放置だ。前世の日曜日の夕方に歌われるようなそのやりとりを眺めている。結局猫が逃げ切ったようだ。広い通りを横切っていく。
そういえば、キザクラを領都に置いてきた。ということは、今年の夏は魔力ぐるぐるを子ねこにすることはないのかな。マイヒメもコマチも妊娠する気配はないし。
ちょっと寂しいけど、そんなこともあるよね。それに、これ以上増えたらもう名前をつけられないし覚えられない。あ、こういうのをフラグというんだっけ。
なんにしろ、猫が魚を盗むくらいしか騒ぎがない、安心して暮らせる街だと思った。しかし、実際には、城門の外には冒険者等御用達の安い露店とかスラム街とかがあるらしい。大きな門から近いところからは見えないようにしてあるように離れたところにあるみたいだけど。
今日はここまでにして帰った。




