王立学園ー2
ところで、春になって僕たちの周りは学園以外でも慌ただしくなった。
コンロの販売に関して色々と動き出し、一年後の販売を目指しているからだ。
引退して兄上に爵位を渡してしまった父上。領都に戻って屋敷の敷地内にある工場群を増設している。まずは、コンロに使う火魔法の魔法陣を生産しなければならない。また、そのために、ホーンラビットの養育場も倍に拡大した。
さらに、電池を作る工場を新設。これはかなりの機密性が高く、とはいえ、魔石を電池の形に削って金属でコーティングしただけだが、これに魔力を貯める工程を隠す必要があり、地下に作った。
ちなみに、ホーンラビットの養育場の餌場に魔力を吸収する魔法陣を敷き、そこから地下の工場へ魔力を流している。これを電池に充填するのだ。と言うことで、魔力の元になっているのはホーンラビットである。
ちなみに、意外な発見があった。魔力を完全になくなってしまうと動けなくなるのは人も魔獣も一緒だが、その魔獣を小屋に戻している係りの者が気づいた。魔力を吸い尽くされた魔獣は、翌日には復帰するが、その魔獣のもつ最大魔力量がわずかながら増えていたのだ。
家畜化されたホーンラビットなので、多少魔力量が増えても問題ないと放置されたが、その事実を知ったのが母上。ホーンラビット養育場の隣に魔導士の宿舎を建て、そこに住む魔導士は寝る前に部屋に設置した魔法陣から魔力を全て乾電池工場へ流してから寝るように、と指示を出した。
聞いた時は、なんて無茶苦茶な、と思ったが、意外と熟睡できて好評らしい。こうして、魔導士たちも強化されていった。
次にグリュンデール元公爵様。こちらも引退した後に領都に戻り工場を建設。こちらはコンロ本体を作る工場である。ほぼほぼ金属でできているため、鍛冶師を集めていた。中にはドワーフまで。金属は、南にある山脈の鉱山から取ってくるらしい。そちらも産出量増大に向けて人を雇ったらしい。
最後に僕ら。
僕らは、魔道具の販売を行う商会を設立した。これまでの水回り製品も扱うよう、これまであった商会を取り込んだ形だ。二つもあっても管理がめんどくさいと、父上に任されてしまった。
王都に本店を置き、ローゼンシュタイン辺境伯家敷地内にある工場のさらに中にあるお祖父様の研究室を本部とした。後は、とりあえず、ローゼンシュタイン領都内とグリュンデール領都内に支店を作った。
この支店はどちらも置いただけで、一年後の販売までコンロ販売の動きはない。
本店で働いてくれる人として、三人の奴隷を購入した。三人ともエルフだ。僕の好みではない、とはいえないが、ルナとラナもそうだが、長い間勤めてもらいたいと考えてエルフとした。もちろん奴隷契約は解除してある。口も硬そうだし。
僕を会長、京子ちゃんたちの三人を副会長とする歪な構造だが僕らは基本的に何もしないのでいてもいなくても同じだ。
会長代理としてラナとルナ。それと、このエルフ三人が本店および支店長候補。当面は商業ギルドとのやり取りが主な仕事となっている。
一年後に開店するというハードなスケジュールの下、人が足りないと判断したエルフたち、ラノ、リノ、レノは、エルフの里に手紙を書き、仲間、なぜか全て女性、を五十人も呼び寄せた。
とりあえず、そんなには本店に入らないので、本部と支店に散ってもらうことになった。
支店では予定を前倒しにして工場との生産調整や販売に関して各都市の商業ギルドとの調整を行ってもらった。
そして、本部ではルナとラナの補助を。そんなに女性ばかりたくさん呼び寄せて大丈夫かと聞いたところ、エルフは長生きであるため繁殖にさほど興味がなく、パートナーを決めて長年連れそうことが煩わしくなることもあるそうだ。気が向いた時に、子種をもらえればいいと言っていた。誰からだよ。
あ、商会の名前はキザクラ商会とした。考えていた時にキザクラのことを思い出したしね。僕にネーミングセンスを求めてはいけない。
それと、商会は営業が仕事。制服を貸与することにした。
とはいえ、あれだ。かなでがはじめに着ていたあれ。黒のタイトスカートのスーツ。ブラウスは当然の白。スカート丈はそれぞれの好みに合わせており、膝上から膝下までそれぞれだ。
残念だったのは、この世界にストッキングがなかったこと。仕方がないので、ちょっと長くて薄い靴下、色は黒、を作らせ、ガーターで止めさせた。よって、あんまり短いスカートは却下だ。
ところが、ガーターを使わず短いスカートで絶対領域を主張させるエルフもいた。まあ、見ないことにした。
このスーツスタイルを提案した時には、京子ちゃんが白い目で見ていたが、スーツ姿で仕事をして欲しかったから仕方がない。
かなでも自分のアイデンティティを脅かされる、と呟いていた。エルフだけに胸の薄さも同じようなものだったし。
それから、キザクラ商会では、輸送業と護衛業も同時に行うことにした。ローゼンシュタインからグリュンデールに輸送する魔法陣や電池は盗まれるわけにはいかない。また、グリュンデールから各地に出荷するときも警備が必要だ。
これには父上と元公爵にお願いして、退役した騎士や兵士を再雇用させてもらった。これで襲われることもないだろうと。
ここまで、ものすごいお金がかかっている。このお金をどうしたかというと、元国王様と現国王様が魔法銃の代金として出してくれた。なんと、ローゼンシュタインの税金一年分免除という形で。これは膨大すぎる。
で、この免除された税金をキザクラ商会として受け取り、これを使って引退した父上と一緒に各工場の建設などを行った。
それでもお金はたんまり残っている。従業員の給料を払ってもね。
それでも一年後にはコンロの販売による利益が入ってくる。
その上で、僕はラナとルナにお願いしていることがある。
一つ目は、火魔法の魔法陣と電池を使ったランタンの開発。これは警備担当者や旅行をする人、冒険者等に需要があると考えた。何せ、暗い夜道を歩いたりするからね。それに、部屋の明かりにも使えるだろう。
それと、アイスバレットの魔法陣だが、あれは、水を顕現させて、凍らせて、飛ばしている。つまり、顕現、水、超低温、移動、となる。要は、動詞、目的語、状態、動きという四語文だ。
ということは、顕現、水、四十三度、ということもできる。
つまりは、水を出す魔法陣ではなく、お湯を出す魔法陣ができた。これを使ったお風呂の開発である。冬どきの洗い物に使ってもいい。お湯を出す魔法は絶対に必要だ。
ま、飛ばすことのない、ただ氷を出す魔法陣もすでに作り、商品化が急がれている。
このように、キザクラ商会はまだまだ売るものがいっぱいあるのだ。
もう一つ余談を。この春に引退した大物、元国王様と元宰相様だが、二人が何をしているのかは知らない。が、妙な噂を聞いた。
最近、冒険者ギルドに二人組の老人が冒険者登録した、とのこと。この二人組は登録したばかりでランクが低いというのも理由かもしれないが、常時依頼の魔獣討伐のみを行なっているらしい。しかも一日に大物一頭、小物で二頭くらい、要は持ち運べるくらいを解体もせずに持ち込むだけで、さほど稼ごうという気が見えない。
疑問に思われているのが、血抜きのために頸部を切ってあるのはわかるのだが、魔獣を倒した痕跡が、小さな穴しかないことだ。老人二人が腰に携えているのは剣である。にもかかわらず。
僕は、この噂を聞いた時には苦笑いしかできなかった。今度、レイピアを献上しよう。それなら小さな穴しか開かないから。
あ、魔法銃は量産しているよ、こっそりと。ローゼンシュタインのキザクラ商会本部でね。それをローゼンシュタインの騎士団に卸している。もちろんお金を取って。
ただ、これも重要な機密なので、対外的には隠すことにしている。いざという時に使うようにと。
で、これを持ち歩くのになかなか隠すことができないため、騎士団の服が変わった。ロングのコートタイプになった。特に黒薔薇は足首までありそうな白のコート。黒薔薇はこのコートの中に、魔法銃と三分割された槍が仕込まれている。中には、足にホルスターをつけて魔法銃を携帯している団員もいる。
コートとはいえ、夏場は袖が取れるように工夫されており、年中使われることになっている。
ちなみに、黒薔薇はメイドも兼ねているが、当然メイド服のスカートの中にも入っている。
メイド服は最強ということを再認識させられる。




