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プロローグー2

 僕は目を見開いて街明かりを眺める。

 〇〇市の百万ドルの夜景には負けるのだろうけど、それでも、街の中心と、そこから伸びる街道など、光があふれている。

 真夜中なのに、けっこうな数の人が活動しているのだろう。

 歳をとってから夜は起きていられなかったから、知らないけどね。

 だが、本音としては、心が躍っている。


「すごい! すごいよ! 飛んでいるよ!? 飛行機やヘリコプターやドローンじゃなく、何にも頼らず飛んでいる! あ、君に頼っているか。でも、ほらほら、見てみて! 遠くの街があんなに綺麗!」


 そして、僕はストレートな感想を告げる。


「まるで魔法みたいだ!」


 僕は大興奮で話し続ける。酔った時に僕はこんな風にハイになるって妻は言っていたけど、飲んではいない。


「僕はね、ずっとずっと魔法が使いたかったんだよ。使えないってわかっていたけどね。僕は年甲斐もなくラノベが好きで、憧れていたんだよ、魔法のある世界に」


 僕は地上をキョロキョロと見回しているので、死神(仮)の表情はわからない。っていうか、話しかける相手として認識しているけど、僕の一方的な会話だ。


「子供の頃から憧れていた。魔法が使えれば強くなれるんじゃないかって。魔法が使えれば便利じゃないかって、魔法が使えればラッキースケ……も自由自在って」


 一部言葉を濁しながら。


「流石に火や水は出せないだろうけど、飛んでいるんだ、飛べているんだ!」


 その後もギャーギャーと話し続ける僕。そんな僕に呆れたのか、


「長谷川様、落ち着いてください。魔法ではありません。長谷川様はお亡くなりになり、これから本当の意味でお亡くなりになるため、移動しているのです」

「本当の意味で?」


 ちょっと気になる言葉を聞いたけど、もうちょっと置いておく。


「だってさ。絶対に叶わないって思っていた夢が叶っているんだよ。興奮せずになんていられないよ」


 死んじゃってからだけどな。

 そうこうしているうちにだいぶ上空に来たみたいだ。

 ふと上を見上げると月が近づいていた。今日は満月に近かったのか、かなり大きく見える。月を眺めていたらふと思い出した。


「あ、ねえねえ、お願いがあるんだけど」

「なんでしょう。」


 と、怪訝な顔をする死神(仮)。

 僕が「やっぱり死にたくない」って言うんじゃないかって疑っているような、そんな顔。


「えっとね、八十のおじいちゃんがするようなお願いじゃないんだけど……」


 僕は言いよどむ。それでも、頑張って言う。こんな機会はないんだから。

 死神(仮)の横へ移動し、願いを口に出す。


「僕とダンスを踊ってくれないだろうか」


 ちょっと、いや、かなり恥ずかしかったけど、思い切って言った。

 だって、もう、本当に死んでしまうんだから、こんな機会は絶対にない。

 あっけに取られている死神(仮)に、


「えっとね、昔読んだラノベでね、黒の剣士と妖精が空でダンスをするシーンがあって、ものすごく憧れていたんだ。それでね……」


 僕はそう言って、死神(仮)の前に片膝をついて手を差し出す。あ、名前を知らないや。


「お嬢様、僕とダンスを踊っていただけませんでしょうか」


 リクルートスーツを着た少女にお嬢様って。僕の語彙力の少なさもたいがいだな。

 僕は自分のした告白が恥ずかしくて、死神(仮)の目を見ることができず、口のあたりを見つめる。

 しばらく動かなかった死神(仮)の可愛らしくピンクの唇が動いて、微笑んだのがわかった。


「お願いいたします」


 と、僕の手に手を乗せる死神(仮)。

 僕は嬉しくて仕方なくなり、年甲斐もなくガッツポーズ。手を繋いだまま。


「あ、ごめん」


 手を引っ張りあげてしまったことに謝罪して、追加でもう一つ謝罪する。


「僕、実は、ダンスよく知らないんだよね」


 目を見開く死神(仮)。「え、なんで誘ったの?」って顔をしている。


「君、踊れる?」


 って聞いても、ただ横に首を振る死神(仮)。


「えっと、確か僕の左手と君の右手を重ねて、逆の腕をお互いの背中に回して……」


 無言で付き合ってくれる死神(仮)。

 なんかごめん。やましい気持ちはないから。


「ワン、ツー、スリー、ってわかんないけど、適当なステップ踏もうか」


 と、無責任な提案をし、


「ワン、ツー、スリー、ワン、ツー、スリー……………………」


 最初はっていうか、しばらくは相手の足を踏んだり蹴ったり。全く持ってステップとは言えない動き。

 でもしばらくすると、合ってきた。っていうか、僕の単調な動きに死神(仮)が合わせてくれることで、なんとなく、それらしいと僕には思えるようになった。

 同じステップを何度も何度も繰り返すだけ。でも時にはくるって回れるようにもなった。

 面白くて面白くて面白くて、僕は時間を忘れていたんだと思う。いつまでも踊り続けた。

 月や星や街の明かりに目を奪われながら。世界が回る。空も月も星も、街も真っ暗な森も。こんな素晴らしい世界があったのか。死んでから気づいたよ。と感動に浸る。


 目の前を死神(仮)の髪がふっと通り過ぎ、少しだけ冷静さを取り戻した。

 僕は、ダンスは相手の目を見るものだったような、と思い出し、視線を下げる。

 頭一つ分だけ背が低い死神(仮)はずっと僕の方を見ていたのだろうか、視線を下げた瞬間に目が合った。

 と、同時に僕は驚いて、ステップを止めてしまうほどの衝撃を受けた。精神攻撃ともいう。

 死神(仮)は目を細めて僕に微笑んだ。僕はその目に視線を奪われ……また心臓が止まるかと思った。もう止まっているけど。

 その笑みはとても可愛く、とても綺麗で、とても素敵だった。意識を完全に奪われてしまった。妻への罪悪感すら生まれないほどに。ごめん、京子ちゃん。


「君、って呼んでごめん。えっと、名前を教えてくれないか?」


 すると、死神(仮)は一転して美しくも寂しそうな顔をすると、俯いてしまった。

 聞いてはいけないことだったのだろうかと、罪悪感を抱きながら固まっていると、死神(仮)は答えた。


「私は、私たちは、あなた方人間が言う、いわゆる死神です」


 はい、(仮)が取れました。


「そして、個別に名前はありません。」


 そう俯きながら小声で話す死神。

 えっと、どうしようか。僕はこの死神のことを、「君」って呼び続けないといけないのか。それはちょっと嫌だった。

 僕は夢を叶えてくれたこの少女を、人生最後に感動を与えてくれたこの少女を、そんなふうに呼びたくはない。

 思わず僕は言ってしまった。


「君は“かなで“。僕は君とダンスを踊っている時、聞こえないはずのワルツが聞こえた気がしたんだ。そのワルツを“かなで“てくれたのは君だ。だから、君は“かなで“!」


 死神の両肩を掴んで、目を見つめながら、そう告げる。

 勝手に名付けられた死神はというと、目を見開いて僕を見つめる。固まっているみたいだから、驚いてるのかな。

 そうすることしばらく。死神は目を細めつつ微笑み、そして俯き、


「はい」


 と、かわいらしく小さく返事をした。


「ねぇ、もう一回踊ろう。かなで、僕と踊ってもらえませんか?」


 と、右手を差し出す。

 かなでは僕の方を見て、ちょっとだけ微笑んで、


「はい」


 と、左手を差し出してきた。

 ちょっとだけ頬が染まっていたような気がしたのは気のせいかな。


「あ、そうだ。イメージで服を変えられるんだったね」


 と、僕はタキシードをイメージして服をチェンジしてみる。結局は黒だが、ラノベの挿絵でよく出てくる貴族のパーティーっぽいという自分のイメージでモディファイもしてみた。

 とはいえ、僕にはこういったセンスはない。


「では、私は」


 と言って、かなではくるって回って萌葱色のドレスに衣装チェンジした。

 スカートの広がった中世貴族っぽいドレスだ。そういえば、昔、京子ちゃんと行った観光地で、京子ちゃんはこんな服を着て写真を撮っていたっけ。

 そのドレスは、スーツを着ていた時より、かなでの体の線がよくわかる。腕もボディラインも細いけど、痩せ細っているわけじゃなく、女性っぽいライン。

 胸はちょっとアレだけど、僕は好きだ。

 僕の視線を感じたのか、かなでは両腕を自分の体を隠すように抱きしめ、横を向いてしまった。失敗。


「ごめん、踊ろう!」


 僕たちは再び踊り出す。

 今度は、お互い見つめながら。せっかくだから、会話も楽しもう。と言っても、何を話していいやら。

 死神に趣味はあるのかな?

 とりあえずは、気になることから聞くかな。


「死神って、人が死ぬ時にはこうやって迎えにくるものなの?」

「はい。人は死んでもそれを受け入れるのに時間がかかったり、その場に残ろうとしたりします。時には暴れたりします。ですので、私たちが迎えに行くことになっています。突発的な事故とかではない限りはですが。そうしないと、いつまでもこの世界に残ろうとしたり、人や物事に執着したりして、この世界に影響を与えてしまうことがあります」

「それって、幽霊とかお化けってこと?」

「そうです」

「それで、僕はこれからどうなるの? さっき、本当の死がどうのこうのと」


 と言う質問が何かに引っかかったのか、かなではちょっと悲しそうな顔をして、


「この後、天使様のカウンセリングを受けます。そして、納得された上で、精神部分をクリーニング、つまり記憶なくし、生まれる新たな体へと魂を移します。つまり生まれ変わりです。そのように輪廻は回っています」


 と、言った。


「納得しなかったら?」

「しばらく、天国と皆さまが言われるところへ連れて行き、満足してもらうまで過ごしてもらいます。それでも納得されない場合は強制的にクリーニングされます。魂の数は……ある程度有限ですから」


 ちょっと何か引っかかったけど、まあいいか。


「やっぱり、こんな非科学的な生まれ変わりのシステムがあったんだね。信じられない。って、僕が今実際にこんな状態なんだけど」


 って、苦笑い。


「僕は死神って、ボロ切れのようなマントを着て、大きな鎌を持っているってイメージだったんだけど、みんなリクルートスーツみたいな感じなの? 男の人もいるの?」

「この姿はイメージして作っているので、男性の姿にもなれますし、スタイルも自由自在です。私たちは、死んだ人が受け入れてくれやすいように、その人の好みのタイプの姿をしてお迎えに行くことにしているんです」


 僕は、聞いてはいけないようなことを聞いてしまった気がして、冷や汗を流す。

 あー、確かに好きだ。スーツ姿とか、どちらかといえばしっかりしたイメージの服。いわば制服。そして、手足も体の線も細いスタイル。ついでにちっぱい……。

 すまぬ、かえで……あの格好は、僕の好みに合わせたのか。


「じゃ、じゃあさ、し、し、しるくたんにもなれる?」


 って僕。何言ってんだ。


「はい」


 って踊りながら器用に姿を変える。

 一瞬光ったかと思ったら、しるくたんがいた。

 紫がかったメイド服、前下がりボブ。胸は……。でもそれでいい。しかし、あれだけでよくわかったな。

 とはいえ漫画を現実に持ってくるのは違和感が。でも僕は、調子に乗った。


「みるくたんにもなれる?」


 かなでは瞬間的にジト目で僕をみた後、


「はい」


 って、今度は、某ゲームに出てきたみるくたん。

 淡いブルーの衣装、ストレートのヘアスタイルも、目元のほくろも、素敵すぎる。でもやっぱり、違うと感じる。


「ありがとう。元のかなでに戻って欲しいな。一番素敵だと思う」


 かなではちょっとだけ微笑んで、萌葱色のパーティードレスの元のかなでに戻った。

 僕にとって、かなではこの顔、このスタイルだ。


「んん」


 ちょっと咳払いをして、


「かなで、かなでが迎えに来てくれてよかった。とても嬉しい。かなでのおかげで最後の最後までいい人生になったよ」


 かなでは頬を染めて俯いてしまった。

 僕は空気を読まずに質問を続ける。

 もうちょっとで記憶が消されてしまうことはわかっていたけど、この時間をもっと楽しみたかったし。


「かなでが迎えに来てくれた時さ、僕の頭から足まで視線を動かして見ていたよね。なんで?」

「陵様が……」


 あ、呼び方が変わった。可愛い。


「陵様が、人の姿を保っていたからです」

「ん? なんて?」

「えっと、人はっていうか、生物は死ぬと体から精神を伴った魂が分離します。今の陵様のように」


 ああ、確かに。


「その時、多くの場合は、光る球体なんです。ですけど、時々、その、魔力の強い人は元の体を形取っていることがあるんです」


 聞き捨てならない単語が。


「ごめん、今、魔力って言った?」

「はい。実際には、この世界では、魔力というエネルギーを観測することはできませんし、魔力が事象を引き起こすこともありませんから、認識されていません。つまり、言い換えれば、この世界に魔力はあるんですがありません。そのため、この世界でこのエネルギーに対する呼称はありません。魔力と私が呼んだのは、他の世界でこのエネルギーのことを魔力って呼んでいるからです。しつこいようですが、この世界でこんなことに気づいた人はいませんし、聞いてきた人もいません。そもそも、誰も知らないのです」


 なんてこった。


「じゃあ、なんで魔力なんてものを僕は持っているの?」

「魔力は、多かれ少なかれ全ての生物が持っています。役割としては、精神による肉体の制御、というのが簡単な説明でしょうか」

「えっと、僕の記憶では、脳とかいろんな器官が神経やらホルモンやらで繋がっていて、体を動かしたり維持したりしていると思っていたんだけど?」


 とっさのことなので、研究者らしからぬ雑な説明をする僕。


「はい。それは正しいです。魔力が制御しているのは基本的に一部です。陵様で言うと、陵様が陵様であろうとするところを制御しています。それは遺伝子を修飾することで行われ、発現に、そして表現型に直接関与することもあります」


 かなでは続ける。


「たとえば、ここ」


 と、右手の人差し指で左手首をさす。


「それとここ。」


 ほんのちょっと指をずらす。


「こことここは非常に近いですが、でも全く異なります。しわも毛の生え方も。で、ここらをまとめて擦りむいてしまったとしましょう。すると、元の位置に元の皮膚が再生します。本来は、自然の再生に任せていてはそんなにうまく再生しないところを、魔力が遺伝子に働きかけてしっかりとした陵様の手首の位置情報を持たせていることで、つまりは陵様のイメージを持って再生させています。陵様の知るところでは、人間ではないですが、制御に失敗した例として、ザリガニの眼柄を切除した時に触角が生える現象でしょうか」

「な、なるほど。確かに、そんな細かいこと、再生とかどうやっているんだろうとか、発生はどうやってちゃんと形作っているんだろうって思っていたけどさ、それを魔力がやっていると?」

「正しくは、精神のイメージが魔力を使って体づくりにかかわる遺伝子に働きかけています。つまり、形作るのも維持するのも根本にはその人がその人であらんとするイメージ力なんです。基本的には体の維持などは生体恒常性という機能が行っていますけど。簡単にいうと、精神が上司、魔力が中間管理職、体を動かしたり維持管理等を担う機能が他の職員ってところでしょうか」

「……うんと、じゃあ、我々人類は、形態形成も再生も体の維持もいっぱい研究して遺伝子発現とか調べていたけど、上っ面だけだったってこと?」

「その表現が正しいかは私にはわかりません。ですが、魔力を調べる術もないので、仕方ないことかと」


 僕はダンスを止めてしまうほどびっくりして話にのめり込んでいたから気づかなかった。


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