販促の後始末
後日、
「グレイス様、ドワーフ王国から日本酒の注文が入っています」
「「え」」
とは、ガンツとタンツ。
「どれくらいの量なの」
と聞くと、
「「ありったけ」と書かれています」
「ありったけと言われても」
「ですが、こうも書いてあります。「売らなければ、グリュンデールでドワーフが舞う」と」
「うわっ、怖すぎ! 出せるだけ出して」
「そんな要求に乗るんじゃない」
はガンツ。
「全面戦争じゃい」
はタンツ。
いったい、なんのための戦争なんだ。
「戦争なんて嫌だから、交渉して。酒は可能な限りだす。そのうえで、来年に向けて、米をソフィ印の肥料で育ててくれ、その肥料を買ってくれと言って。その肥料で作った米をこっちが買い取る。その米を使ってつくった酒は、優先的にドワーフ王国に売るからと」
こうして、ドワーフ王国との交易がさらに広がった。
グリュンデールでは百パーセントドワーフ国産米利用の「ドワーフの舞」を作ることになった。来年の仕込みになるが。
大工の棟梁は相変わらず忙しい。トドマツが時々仲間を連れて手伝っているが。だが、どうしても、酒蔵の拡張が必要だ。
棟梁は、「この前作ったばっかりの気がするな」と言っていたが、聞かなかったことにした。
しばらくすると、
「グレイス君、肥料の元が足りなくなっちゃったんだけど、ケルベロスやホーンラビットの増産や肥料工場の増築をお願いできる?」
「棟梁、肥料工場の増築をよろしく。それから、ライラ、ケルベロスやシンベロスに繁殖許可を出して」
さらに、
「棟梁、シンベロスたちとホーンラビットの養育場増設もお願い」
「トドマツ、建築の手伝いをお願い」
と、一つ動くと、複数が忙しくなる。
ドラゴン族はもとより、日雇い労働者なども参加して建設ラッシュが始まる。
一方で、トラクターを使った農地開拓も進む。労働者の中には冬にも稼ぎがあるので出稼ぎに行かなくていい、と喜ぶものも多かった。もちろん、棟梁のように、泣いているものも多かったが。
さらに問題が起こる。
「グレイス様ちょっと」
とラナとルナがやってくる。
「なに?」
「まず、ドワーフ王国に売ったトラクターの値段ですが、生産に使った材料費、それと、人件費や研究開発費などなど、込々で考えて、大まけにまけてですが、一台金貨二百五十枚ほどに」
「え?」
「だけどそれ、うちの領では数百台が農家さんや工場で使われているよね?」
「はい。それらは試作品として問題抽出用に貸し出しておりますので、所有者はこちらになります。それを農家さんたちに買い取れというのは酷な話となります」
「じゃあ、工場は?」
「はい。これについては、もう計算もできません。ドワーフ王国の財政が傾くこと間違いなしです」
「やっちゃったか。ちょっとキザクラ商会には迷惑をかけるけどさ、とりあえず、それをありのままに伝えてもらって。代替案としては、その五台はただにしたうえで、日本酒の工場をそちらに建てる。ノウハウはこちらもち、立てる費用はドワーフもち。ということで交渉できないかな? 酒の工場なら喜ぶと思うけど。今後、トラクターが必要なら特別割引で販売することにしよう」
意外なことに、ドワーフ王国はこの提案をあっさり飲んだ。
そんなに日本酒を飲みたかったか。
これにより、ドワーフの舞は現地生産となった。
一方、米を作る肥料は売れるので、こちらとしては問題なし。京子ちゃんが忙しいのもそのまま変化なしでよかった。
棟梁や大工さんたち、ドワーフの皆さんが一時派遣されることになったが。仕方あるまい。
ちなみに、今年は、ビールだけではなく、グリュンデール百パーセントのウイスキーづくりにも挑戦した。麦を使ったタイプだ。
麦を発芽させた後に乾燥させ、粉砕し、お湯と混ぜて糖化させる。酵母を加えて発酵させ、それから蒸留する。それを樽に詰めてしばらく待つ。三年かな。十年かな。楽しみだ。
ちなみに、去年仕込んでできた白ワインを蒸留し、すでにブランデーも仕込んである。こっちも何年かかるかわからないけどね。二十歳になったことだし、飲んでいこう。
冬の間は、閉じこもって研究開発に取り組むことにする。
トライクもバイクも初めからカウルを大きめにして、風が当たらないような設計にする。
サスペンションもより高度に開発し、完成間近になっている。
最終的には空を飛ぶことが目標だが、トライクとバイクもスピードが上がり、都市間の移動が速く、そして楽になるかもしれない。
可能なら、都市間の道も整備したいけど、それは大変そうだな。サスペンション強化で悪路でも走れるようにしょう。
「ねえ、ラナ、トライクとバイクって、販売価格どのくらいになると思う?」
「はい、売ることは可能ですが、おそらく買ってもらえないと。買ってくれるのは王族とか一部の貴族くらいでしょう」
「どうしても欲しい場合は娘と交換とか言い出しかねません。それくらいの価値です」
「娘はプライスレスとはいえ、そんな交換いやだな。作るには作る。これは作りたいから。で、作った後にコスト削減を考えよう」
「トラクター一型でも金貨二百五十枚です。それを下げるというのは、かなり量産体制が整わないと難しいでしょう。後は、パーツの生産も手作りをやめて大量生産化するとか、機種間でパーツを共通化するとかの効率化でしょうか」
「そうだね。検討してくれる? せめて販売価格を五分の一にしたいな」
「ところで、最終目標の空を飛ぶところですが、ここまで考えると、販売価格がいくらになるか想像もつかないのですが」
「そっちはいいよ。売らなくても。キザクラ商会の輸送業で活用できれば。荷物も人も運べばいい。なにも個人で持つ必要はないよ」
「わかりました。そちらは運賃や送料で元をとるのですね」
「そゆこと。じゃあ、ここからが正念場だね。ガンツやステラ達にアイデアを出させてね。よろしく頼むよ」
「「はい」」