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日本酒販促

 僕はちょっと驚く。


「我々はこのスピードで十分なのだ。これ以上速くする必要はない。だから、安ければこれが手に入るのがよい。そちらでこれを作る気がないなら、生産ラインを売ってくれればよかろう」

「ですが、エンジンに組み込まれている魔法陣と、タイヤのラインを売ることはできません。なので、魔法陣もしくはエンジンそのものとタイヤだけは輸入してもらうことになります」

「まあ、それくらいならいい。生産ラインを売ってもらえるか?」

「えっと、ものすごい金額になると思いますが」

「払えるものは払うし、払えんものは払えん。では、炭鉱で採掘される鉱石や宝石の次席優先購入権ではどうだ? このトラクターを見る限り、金属は必要なのだろう? 我が国の鍛冶師たちに優先的に鉱石や宝石をおろしている。その次に優先的に購入してもらっていい。それでどうだろうか?」


 僕にはそれがどれだけすごいことなのかわからなかったので、ガンツをチラ見する。するとガンツは首を縦に振っている。


「わかりました。それでお願いします」


 これは、後日、他の国から怒られることになる。それはそうだ。ドワーフの国で採掘される金属と宝石を買い取ってしまうのだから。


「ただ、生産ラインを持ってくるのは時間がかかります。冬までに持ってきたいと思います。また、しばらく生産ラインの責任者もこちらに派遣しますが、基本的にはこっちで職員を雇ってください。ちなみに、奥様方でもできるようになっています」

「よし、それで頼む。ところで父上たちはこんな楽しそうなことをやっているのですか?」

「そうだぞ。いろんな開発を行っている。自分の手で新しいもの、これまでなかったものを生み出せることがどんなに楽しいか。また、使ってもらった時の感動は何にも代えがたくうれしいものだ。お前も実感できるといいな」


 というと、


「僕も国王なんてやめて開発を行いたい」


 と、訳の分からないことを言い出した。


「お前、国王じゃろう?」


 とガンツがたしなめる。


「だけど、こんなうらやましいこと」

「楽しいぞ、我らはとにかく早く帰って開発の続きをしたくてならん。交渉が終わったのなら、もう、帰るぞ?」


 とガンツ。ゴンツが悔しがっているのがわかる。


「こんな楽しいことを見せびらかされたら、またドワーフが流出してしまう。そんなうらやましい、ではなく、そんなことが許されると思っているのか?」

「いま、自分が国を出ようとしたよな」


 とガンツが確認する。


「こんなものの開発を出て行った者が行っていると知ったら、流出が止まらなくなるかもしれないだろう?」

「そこはお前の政治力の話だ。何とかしろ」

「……」


 ゴンツは黙り込む。


「まあ、引き抜いたりせんよ。安心しろ」


 ゴンツはため息をついて、またトラクターに向かった。


「宰相さん」


 近くにいた現宰相さんに声をかける。


「後はキザクラ商会とやってもらっていい?」


 というと、了承してくれる。


「じゃあ、僕らは、キザクラ商会にこのことを伝えて、帰ろうか」


 と言って、後は、任せる。

 一応、直接教えたとはいえ、トラクターの使い方説明書も残してあるから大丈夫だろう。

 そう言って、一応、ゴンツに挨拶して帰ろうとしたところ、宰相から待ったがかかる。何かな? と待っていると、


「何か、見知らぬ酒の香りがする」


 ギクッとしたのはガンツとタンツ。目をそらしている。決して馬車の方を見ようとしない。それに反応したゴンツ。


「父上、確かに、知らない酒の香りがします。これは何の香りですか?」

「は、花をつんでおるのだ」

「フ、フルーツもな。気温が高いから発酵したのかもな」


 ガンツとタンツ、下手すぎ。


「者どもであえー、父上とタンツを取り押さえろー」


 よかった、僕は入っていない。あっという間に、ドワーフのトーテムポールが出来上がる。

 一番下はガンツとタンツだ。


「よし、馬車の中を確認しろ」


 とゴンツが言うので、しかたなく、


「僕がもってくるから、待っていて」


 とゴンツに言う。ガンツとタンツに目配せをして。僕は、馬車に入って、一樽の日本酒をもって馬車から降りる。

 実は、ガンツとタンツは、旅行の間に飲む日本酒を積み込んでいた。


「はい、これ」


 と言って、ゴンツの前に樽を置く。


「こ、これは?」

「これは、今年初めて我が領で生産した日本酒という酒だ」

「に、日本酒? 初めて聞くが」

「米から作ったお酒だ」

「米? 米から酒を造るのか? どぶろくとは違うにおいがする気がする。確かに似てはいるが」

「あー、さすがはドワーフ。どぶろくを精製したものだよ」

「そ、それにしても、というか、飲んでいいのか?」


 というので、ガンツとタンツを見ると、やむなし、という顔をしていた。

 僕は、樽の栓を抜いて、小さな柄杓を差し込み、日本酒を少し取り出す。それをコップに入れてゴンツに渡す。

 その光景をかたずをのんで見守るドワーフたち。

 ゴンツは、コップを鼻に近づけその香りを嗅ぐと、顔を崩し、そして、一気に飲んだ。

 おい、一気飲み禁止だ。

 そして、ふぅ、とため息をつく。ゴンツは黙ってコップを差し出す。僕はそれを受け取らずに、


「ガンツとタンツが苦しそうだから、開放してくれない?」


 というと、素直に開放してくれる。というか、ガンツとタンツに乗っていたドワーフがこっちに興味を示して移動してきた。

 僕は、ガンツとタンツと目配せした後、近くにいたドワーフに柄杓を渡した。そして、柄杓を指さし、その指を樽に、そして、グラスに、と、順にうつし、柄杓を持つドワーフにうなずいた。

 そのドワーフも、にやっとして、意図を理解してくれる。

 柄杓ドワーフは、王であるゴンツからコップを受け取ると、そこに柄杓ですくった酒を入れ、そして、自ら飲み干した。


「キー、私は王だぞ? 私につげ!」

「酒の前で王もくそもないわ」

「なにを! だれかコップをもってこい! それに、そんなちっこい穴からちっこい柄杓をいれてすくうな! 蓋をわれ!」

「おおー」


 と、ドワーフがゴンツを中心に盛り上がっている。

 僕とガンツとタンツは、こっそりその場から離れて馬車に乗り込んだ。



 シンべロスに


「そっと出発して」


 とささやくと、シンべロスは動き出す。僕らはその場から逃げ出した。


「キザクラ商会に寄るのも危ないね。追い付かれるかもしれない」

「そうだな、このまま出国しよう」

「キザクラ商会に伝えることがいっぱいあったのに。今度手紙を書くよ」

「そうしてくれ、少なくとも金目の話がしっかりとつかない限りは、トラクターもラインも持ってこられないんだしな」

「よし、急いで帰ろう。追い付かれないうちに」


 と言って、帰りはトラクターも載せていなかったこともあり、スピードを上げ、五日間でグリュンデールまで帰って来た。




 

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